純潔の星   作:4kibou

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6/『樹木の天使 後半』④

 

「聖剣使いィ……?」

「そうそう! あーしたち、聖剣使い!」

 

 このうるさいのがそうなのか、なんて悠は半眼で伽蓮を見つめる。

 なにかに似ているかと言えばようやく思い至った。

 

 ワケの分からない言動と、人の話を聞かない一方的な会話。

 鉄潔角装ではない得物を持っている点といい、麻奈と同じような人種だ。

 

「……おっけえ。どうでもいいが、ああ分かったぜ」

「まじ!? 理解力パないね! 天才じゃん!」

「要するにてめえら強えんだろ。じゃあちょうどいい」

「うん、なにかなー。協力の申し出なら喜んで引き受け――」

「ちっとばかし退いてろ。(オレ)の喧嘩だ、邪魔すんな」

 

 剣を握って真正面から少女を睨みつける。

 脳髄の奥から響く声は賛同していた。

 

 こんな状況に甘えて流されるなんてありえない。

 そいつらよりもおまえの勇姿を見せつけてくれ。

 

 珍しく、一分の隙もなく思考が固まった。

 

「――え、まじ? 本気で言ってる? 君わりとボコられてなかった!?」

「冗談でンなこと言うかよ。悪いが押し通らせてもらうぜ」

「いやいやいや!? にしてもこう! なんかあるよねワンクッション!」

「ねえ。退け。いいから(オレ)にやらせろ。そいつを殺すのはてめえらじゃねえ」

「――――――――」

 

 いきなり現れて好き勝手暴れるような奴に取られるのは癪だ。

 

 一度決めたのなら最後まで。

 体が千切れるぐらいの痛みで止まれるのならここまで来ていない。

 

 倒すと決めた、殺すと誓った。

 ならば途中で他人に任せるのも無理だと諦めるのも違うだろう。

 

「うーん、想像以上! ……やめた方がいいよ? 取り返しがつかないことになる前に」

「傷のコトを言ってんなら心配要らねえぜ」

「違うってば。純エーテルなんてモノ使ってるから言ってるのー。きみ、手遅れになったら終わりって分かってるっぽいのにー」

「それでビビって止まるってェ?」

 

 明らかな挑発の意図を含んだ口調。

 くつくつと喉を鳴らして悠が笑う。

 

 ああ、おかしい。

 まったくどうしてこうなのか。

 

 人を心配するにしても、分かってなさ過ぎる。

 

「構うかよ。どうでもいい。死ぬのも消えるのも。この命が尽きるのは最初から勘定に入れてんだ。なんてこたァねえんだよ」

「…………きみ」

「だから大事なのはどう生きるかだ。なにを誇るかだ。なにを掴むかだ。なにを掛け替えのないものとするかだ。でもってそいつは! (オレ)の芯なんだよッ!」

 

 聖剣使いがありえないものを見る目を向けてくる。

 人外の化け物が奇妙な顔でクスクス笑った。

 

「曲げらんねェ! ああ曲げらんねえよなァ! そうだろ、枯木ッ!! てめえが呼んだんだ! てめえが起こしたんだ! その始末ぐらいつけろよなァ!!」

 

 〝ああ、ハルカくん――――〟

 

 

「お望み通りやってやるよォ!! だから退いてろ聖剣使いィ!! コイツは(オレ)の獲物だッ!!」

 

 

「あっはっは! まじかー! うーんやばすぎじゃん! ねえねえカガリっち! あの子すごい! やばい! ちょっと本気でなんかもうフレッシュ! ()()()!!」

 

 予想外にも褒めだした伽蓮を尻目に加速する。

 

 大体、余計に難しいコトが多すぎた。

 空の果てとか空の向こうとか、誰が誰で声がなんだとか。

 

 脳裡を支配していた思考はバラバラに。

 いまはすべて後回し。

 彼は天使へ駆けながら、自信の奥底に眠るモノへと手を伸ばす。

 

「そりゃお気に入りになるはずだ! めちゃくちゃだもんあの子! こんなご時世にあんなこと言える男の子が何人いるって話! ふふふ! すごーいなぁもーう!!」

 

 遮られた超抜の感覚を取り戻す。

 

 扱い方は一切知らない。

 彼にとって知識とは鍵のかかった箱の中身だ。

 ヒントさえ与えたならばいずれ解き明かして開けられる。

 

 それを間近に見た以上、できない道理は存在しない。

 

「――うん、そうだねっ! しょーがない! どうせあーしらは時間に取り残されたはぐれ者だし! ここは大人しくお膳立てをしてあげよっか! 奔星ちゃんの!」

 

 伽蓮が下へ飛ぶ。

 悠は前へ駆け抜ける。

 

 最早彼の頭には枯木(カノジョ)のこと以外浮かばない。

 

 ――神秘の光が渦を巻く。

 体内から溢れていく空色の輝き。

 あまりの変化に爆発する純エーテル。

 

 それらすべてを、悠は手中におさめて――――

 

 

 

 

 

 

 

「 兆 角 醒 ッ !! 」

 

 

 

 

 

 

 一気に、解放する。

 

 

 

「おぉおおぉおぉおおぉおおぉおおおお――――!!」

 

 

 光を越えた光の束。

 

 美しさの微塵もない爆光があたりを照らした。

 空が青色に塗られていく。

 

 それは彼自身が世界を換えたから――のとはまるで違う。

 

 原因は純エーテルの出力。

 架空の光、熱量、神秘のエネルギー。

 

 それらが黄昏色の膜さえ変貌させる勢いで放たれた。

 

「見ろよ! 見てみろ!! ああそうだッ! しかと目に焼き付けやがれェ!!」

 

 シンプルにして強力。

 単純にして明快。

 

 桁違いの純エーテルをまとった彼の変化はただそれだけ。

 だが同時に、人の器を越えているかと言えば間違いなく。

 

 

「これがッ!! 俺のだァアアァァアアァァアア――――!!!!」

 

 

 噴き出す神秘。

 身体に漂う空の光。

 

 そのリミッターは存在しない。

 量も質も爆発的に上がっていく。

 

 ――通常、人が純エーテルを扱う場合は周囲に漂うモノを利用する。

 

 百年前に地上へ降り注いだ神秘の粒子は未だ減少傾向を見せない。

 いくら使おうが尽きることはないだろう。

 

 だが、出力として考えるのなら別だ。

 限界だって存在する。

 

 どれだけ大きな弾を込めたとしても、それを放つ銃の規格にあっていなければ。

 もしくは銃自体がボロければ自壊してしまうからだ。

 

 取り込んで、己のものとし、出力する。

 この三工程が大原則。

 どれだけ才能があろうと誰しもそのルールからは逃れられない。

 

 ――普通ならば。

 

「枯木ィ――――――!!」

 

 際限なく上昇していく空色の光。

 悠の身体から溢れる輝きは殊更大きくなる。

 

 普通ではない。

 だからこその根本から覆す常識破りの変化だ。

 

 彼は肉体そのものを炉心としている。

 周囲の純エーテルをかき集めているのではない。

 内部でつくりだしたエネルギーを循環させるコトで神秘を纏ったのだ。

 

「いくぜェ!! てめえ――――!!」

 

 流崎悠の兆角醒。

 その本質は出力の無限上昇。

 

 彼は体内の純エーテルを連鎖反応させ、超高速でエネルギーを創出している。

 仕組みで言えば擬似的な核分裂反応に近い。

 

 打ち止めのない粒子の増殖。

 走りだしたら止められない。

 そんな彼を象徴するかのような、勢い任せの馬鹿げた力。

 

 故にこそ、それが悠の切り札だ。

 

「おぉおおぉらああぁぁぁああああああ――――!!!!」

 

 

 天使の枝葉と鍔迫り合う。

 

 拮抗は一瞬。

 

 止められたと思った悠の攻撃はあっという間に樹木を突破した。

 

 ――まだ上がる。

 

「ははッ!! はははははははは!! ははははははァ――――!!」

 

 翼の弾丸は避けるまでもない。

 

 全身を撃ち抜かれる。

 

 傷が即座に塞がっていく。

 

 治癒の効果だって何倍にも膨れ上がった。

 致命傷が掠り傷にもなりはしない。

 

 ――まだ上がる。

 

「ははははははははははははははははは!!!!」

 

 突然暗くなった。

 あたり一体を覆う黒い影。

 

 二度目の巨星が頭上につくられる。

 

 意味がない。

 

 振り上げた剣は空色の輝きをまとって。

 

 その刃を受けた全長二十キロ以上の樹木の塊が、エネルギーの増幅に耐えられず木っ端微塵と散っていく。

 

 ――まだ、上がる。

 

「はははははははははは――――!!!!」

 

 ゆらりと蠢くひとつの影。

 一体どちらが化け物なのか。

 

 言わずもがな、彼だってその突出した才能は正しく人外の化生。

 

 純潔の怪物。

 

 純エーテルを扱うという行為において、彼に勝るものは一人として存在しない。

 

 ――そう、絶対に。

 

 人類の天敵だろうと、関係なく。

 

 

 

 

 

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