「聖剣使いィ……?」
「そうそう! あーしたち、聖剣使い!」
このうるさいのがそうなのか、なんて悠は半眼で伽蓮を見つめる。
なにかに似ているかと言えばようやく思い至った。
ワケの分からない言動と、人の話を聞かない一方的な会話。
鉄潔角装ではない得物を持っている点といい、麻奈と同じような人種だ。
「……おっけえ。どうでもいいが、ああ分かったぜ」
「まじ!? 理解力パないね! 天才じゃん!」
「要するにてめえら強えんだろ。じゃあちょうどいい」
「うん、なにかなー。協力の申し出なら喜んで引き受け――」
「ちっとばかし退いてろ。
剣を握って真正面から少女を睨みつける。
脳髄の奥から響く声は賛同していた。
こんな状況に甘えて流されるなんてありえない。
そいつらよりもおまえの勇姿を見せつけてくれ。
珍しく、一分の隙もなく思考が固まった。
「――え、まじ? 本気で言ってる? 君わりとボコられてなかった!?」
「冗談でンなこと言うかよ。悪いが押し通らせてもらうぜ」
「いやいやいや!? にしてもこう! なんかあるよねワンクッション!」
「ねえ。退け。いいから
「――――――――」
いきなり現れて好き勝手暴れるような奴に取られるのは癪だ。
一度決めたのなら最後まで。
体が千切れるぐらいの痛みで止まれるのならここまで来ていない。
倒すと決めた、殺すと誓った。
ならば途中で他人に任せるのも無理だと諦めるのも違うだろう。
「うーん、想像以上! ……やめた方がいいよ? 取り返しがつかないことになる前に」
「傷のコトを言ってんなら心配要らねえぜ」
「違うってば。純エーテルなんてモノ使ってるから言ってるのー。きみ、手遅れになったら終わりって分かってるっぽいのにー」
「それでビビって止まるってェ?」
明らかな挑発の意図を含んだ口調。
くつくつと喉を鳴らして悠が笑う。
ああ、おかしい。
まったくどうしてこうなのか。
人を心配するにしても、分かってなさ過ぎる。
「構うかよ。どうでもいい。死ぬのも消えるのも。この命が尽きるのは最初から勘定に入れてんだ。なんてこたァねえんだよ」
「…………きみ」
「だから大事なのはどう生きるかだ。なにを誇るかだ。なにを掴むかだ。なにを掛け替えのないものとするかだ。でもってそいつは!
聖剣使いがありえないものを見る目を向けてくる。
人外の化け物が奇妙な顔でクスクス笑った。
「曲げらんねェ! ああ曲げらんねえよなァ! そうだろ、枯木ッ!! てめえが呼んだんだ! てめえが起こしたんだ! その始末ぐらいつけろよなァ!!」
〝ああ、ハルカくん――――〟
「お望み通りやってやるよォ!! だから退いてろ聖剣使いィ!! コイツは
「あっはっは! まじかー! うーんやばすぎじゃん! ねえねえカガリっち! あの子すごい! やばい! ちょっと本気でなんかもうフレッシュ!
予想外にも褒めだした伽蓮を尻目に加速する。
大体、余計に難しいコトが多すぎた。
空の果てとか空の向こうとか、誰が誰で声がなんだとか。
脳裡を支配していた思考はバラバラに。
いまはすべて後回し。
彼は天使へ駆けながら、自信の奥底に眠るモノへと手を伸ばす。
「そりゃお気に入りになるはずだ! めちゃくちゃだもんあの子! こんなご時世にあんなこと言える男の子が何人いるって話! ふふふ! すごーいなぁもーう!!」
遮られた超抜の感覚を取り戻す。
扱い方は一切知らない。
彼にとって知識とは鍵のかかった箱の中身だ。
ヒントさえ与えたならばいずれ解き明かして開けられる。
それを間近に見た以上、できない道理は存在しない。
「――うん、そうだねっ! しょーがない! どうせあーしらは時間に取り残されたはぐれ者だし! ここは大人しくお膳立てをしてあげよっか! 奔星ちゃんの!」
伽蓮が下へ飛ぶ。
悠は前へ駆け抜ける。
最早彼の頭には
――神秘の光が渦を巻く。
体内から溢れていく空色の輝き。
あまりの変化に爆発する純エーテル。
それらすべてを、悠は手中におさめて――――
「 兆 角 醒 ッ !! 」
一気に、解放する。
「おぉおおぉおぉおおぉおおぉおおおお――――!!」
光を越えた光の束。
美しさの微塵もない爆光があたりを照らした。
空が青色に塗られていく。
それは彼自身が世界を換えたから――のとはまるで違う。
原因は純エーテルの出力。
架空の光、熱量、神秘のエネルギー。
それらが黄昏色の膜さえ変貌させる勢いで放たれた。
「見ろよ! 見てみろ!! ああそうだッ! しかと目に焼き付けやがれェ!!」
シンプルにして強力。
単純にして明快。
桁違いの純エーテルをまとった彼の変化はただそれだけ。
だが同時に、人の器を越えているかと言えば間違いなく。
「これがッ!! 俺の〝光〟だァアアァァアアァァアア――――!!!!」
噴き出す神秘。
身体に漂う空の光。
そのリミッターは存在しない。
量も質も爆発的に上がっていく。
――通常、人が純エーテルを扱う場合は周囲に漂うモノを利用する。
百年前に地上へ降り注いだ神秘の粒子は未だ減少傾向を見せない。
いくら使おうが尽きることはないだろう。
だが、出力として考えるのなら別だ。
限界だって存在する。
どれだけ大きな弾を込めたとしても、それを放つ銃の規格にあっていなければ。
もしくは銃自体がボロければ自壊してしまうからだ。
取り込んで、己のものとし、出力する。
この三工程が大原則。
どれだけ才能があろうと誰しもそのルールからは逃れられない。
――普通ならば。
「枯木ィ――――――!!」
際限なく上昇していく空色の光。
悠の身体から溢れる輝きは殊更大きくなる。
普通ではない。
だからこその根本から覆す常識破りの変化だ。
彼は肉体そのものを炉心としている。
周囲の純エーテルをかき集めているのではない。
内部でつくりだしたエネルギーを循環させるコトで神秘を纏ったのだ。
「いくぜェ!! てめえ――――!!」
流崎悠の兆角醒。
その本質は出力の無限上昇。
彼は体内の純エーテルを連鎖反応させ、超高速でエネルギーを創出している。
仕組みで言えば擬似的な核分裂反応に近い。
打ち止めのない粒子の増殖。
走りだしたら止められない。
そんな彼を象徴するかのような、勢い任せの馬鹿げた力。
故にこそ、それが悠の切り札だ。
「おぉおおぉらああぁぁぁああああああ――――!!!!」
天使の枝葉と鍔迫り合う。
拮抗は一瞬。
止められたと思った悠の攻撃はあっという間に樹木を突破した。
――まだ上がる。
「ははッ!! はははははははは!! ははははははァ――――!!」
翼の弾丸は避けるまでもない。
全身を撃ち抜かれる。
傷が即座に塞がっていく。
治癒の効果だって何倍にも膨れ上がった。
致命傷が掠り傷にもなりはしない。
――まだ上がる。
「ははははははははははははははははは!!!!」
突然暗くなった。
あたり一体を覆う黒い影。
二度目の巨星が頭上につくられる。
意味がない。
振り上げた剣は空色の輝きをまとって。
その刃を受けた全長二十キロ以上の樹木の塊が、エネルギーの増幅に耐えられず木っ端微塵と散っていく。
――まだ、上がる。
「はははははははははは――――!!!!」
ゆらりと蠢くひとつの影。
一体どちらが化け物なのか。
言わずもがな、彼だってその突出した才能は正しく人外の化生。
純潔の怪物。
純エーテルを扱うという行為において、彼に勝るものは一人として存在しない。
――そう、絶対に。
人類の天敵だろうと、関係なく。