純潔の星   作:4kibou

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1/『その男、獰猛につき』③

 

 

 

「――――――」

 

 突飛と言えばあまりにも突飛すぎるその行為。

 吹き抜けになった車上からもれなく全員空を見上げる。

 

 おかしいのは言動だけでなく格好もなにもかもだ。

 事実、その人影はわりとデタラメな事に関して耐性のある彼女たちから見てもめちゃくちゃなものだった。

 

 なので、

 

「隊長ォ!」

「あ、ウン。どしたの竜乎」

「すげえ! コイツ馬鹿だ!!」

「あん?」

 

 シンプルな感想(コトバ)がストレートにぶっ飛んでくる。

 鮮やかな回答は本来悪口にある筈の嫌味を一切感じさせないほど。

 真正面から罵倒された人影だが、しかしその反応は僅かに首を傾けるに済んだ。

 

「ていうかあなたッ、乗せてくれって、それが人に物を頼む態度ですのぉ!?」

「……ん? ああ、わりぃ。是非とも乗せてもらえると助かる。歩くの疲れたんだよもう俺はァ」

「ああいやなんなんですかこの……なに……? なにぃ……?」

「――すまない。傷はないのか? 車(コレ)と衝突しておいて、無傷なハズは……」

「ああ、もう治った。ありがとよ心配してくれて。良い人だな、あんた」

「いやそんなコト――――…………は…………?」

 

 

 

「……? なんだよ。そんな、化け物でも見たような顔して」

 

 ぴたり、と妃和の声が唐突に途切れる。

 

 ようやくといった答え合わせ。

 違和感の在処はどこにあったのか。

 太陽を背にして立つ姿に、けれど誰もが「あれ?」と今更な思考を抱いた。

 

 聞けば聞くほど低い声、五人の誰と比べても高い身長、そして「あったから着た」とでも言いたげな部隊の制服類。

 当然そうだと思っていた常識が、根底から覆っていくような感覚。

 

 

 

「――――おと、こ…………?」

 

 

 

「おう。見りゃ分かんだろ。それがどうした」

「はァ!? いや、おかしいとは思ったけどまじか!? はぁあ!!??」

「とッ、殿方でいらっしゃいますの!? え!? それが!? こんなところで!?」

「うーわもう無理ウチもう無理これ以上は無理もう意味分かんないですハイ」

「だよねぇ……」

 

 はあ、と頭を抱える第三部隊隊長サマ。

 そこそこ長い経験を持つ彼女であってもこの事態は予想外らしい。

 というか、こんな事件がそうそう起きてたまるかというものである。

 任務中に車をぶつけたかと思えば、その相手がまさか男子などと――

 

「……ああ、そうだワ。キミ、いちおう訊くけどその制服どーしたの……?」

「――拾った」

「ひろった」

「オウ。……あんたらと同じような別嬪さんがそのままだったからよ。送ってきたついでに、ちょっと拝借したっつうか……帽子はちゃんと供えてきたぞ?」

 

 送ってきた、というのは葬送(そういう)コトなのだろう。

 彼女とて人知れず命を落とした仲間がどうなっているかは簡単に想像がつく。

 

 時間の経過はどれほどだったのか、惨状はどれぐらい酷かったのか。

 訊いても仕方のないコトではあるが、少し、ほんのわずか気になった部分を胸に仕舞う。

 

 ……なにはともあれ、そのままにされるよりかは大分マシだろうし。

 流石に死体からの追い剥ぎは思うところがあったのか、ふいっと目を逸らしている少年のコトを思っても、糾弾する気にはなれなかった。

 

「……そっか。お墓、つくってくれたワケね」

「……線香立てに行くなら案内するけどよ。それか花の一本でもありゃ良かったな」

「いやぁ、埋めてくれただけ十分だよ。放っておくのは可哀想だしね。それでいいよ。だから私からはこれ以上なにも言わない」

 

 ほんのわずかに柔らかい笑みを浮かべる運転席の隊長。

 そこに今まであった警戒の色が解けたのを見て、少年もそっと目を伏せる。

 

「……そうかい。じゃあ俺も勝手に背負った気でいるコトにすらぁ」

「……へぇ。なに、男(・)の(・)子(・)ってみんなそうなのかなー……?」

「どうかな。テメエの考えだけどよ。大事な部分だしな、きっと背中引かれるぐらいがちょうどいいぜ。俺が看取ったのに持ってかないなんて、淋しいじゃねえの」

「――――なるほど。とりあえずキミが変わり者だってのは分かった」

「じゃあそれでいいさ。――――よっと」

 

 すとん、と壊した屋根から車内に落ちてくる男子。

 襤褸布のマフラーに黒コート、編み上げの軍靴(ブーツ)と格好は一昔前の風来坊さながら。

 口調も相まってまさしくな出で立ちだが、いくらなんでも今の時代には異質すぎる。

 このご時世、身ひとつで外を練り歩く男というだけでなんならホラーだ。

 

「流崎悠だ。よろしく頼むぜ美少女ども」

「隊長?」

「――――うん。とりあえず確保で。丁重に縛って拘束ネ。私、本部に連絡するー」

「しゃあッ! オラ大人しくしとけよ男子ィ!?」

「ごめんあそばせ! しかしわたくし殿方とかはじめて見ましたわ! ちょっと失礼!」

「申し訳ない。流石にちょっと大胆すぎるからな、うん」

「えーっと、手錠とかどこに仕舞ってましたっけ……あ、ロープはありますね」

「はッ? いや待てオイ。俺はちょっと北(うえ)に行きたいだけ――ってなんだなんだ!? いきなりなにを……あッバカ離せ! 離せこらッ……だあああどさくさに紛れて匂いをかぐなよなんだテメエ!?」

「あ、繋がった。もしもし本部? こちら第三部隊隊長金宮美鶴ー、緊急通信ー、なんか逃げた男性ひとり確保ぉー」

《――――は?》

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 ともかく、そんなこんなで一時的に身柄を拘束された悠である。

 本部に報告はしたものの、処遇に関しては向こうからの連絡待ち。

 おそらくは美沙のほうにまで情報がいって、一件落着連れ戻しとなるのだろう。

 

 が、それまではいちおう部隊預かりだ。

 彼と出会って車を止めること三十分。

 ちょっとずつ緊張感を解いていった車内は、それなりにいつも通りの空気を取り戻していた。

 

「なあなあ、流崎サン」

「あん?」

「あんた、マジで男なんだよなぁ?」

「おうとも。見りゃ分かんだろ?」

「いやァ、見たことなくってさァ! ちょっと触ってもいいか?」

「好きにしろよぉ。どうせ動けねえし。こんな雁字搦めにしやがって」

「悪かったって! あ、あたし竜乎な、永槻(ながつき)竜乎!」

 

 言いながら、少女はぺたぺたと悠の顔をぐにぐに引っ張ってみる。

 どこかふて腐れたような表情が崩れるのは如何せんギャグテイストだ。

 そのまま「おォ……」とか「ほぉ……!」なんて声を上げつつ、満足いくまでひと通り撫で回してから一言。

 

「皮膚が硬ぇ!!」

「俺は新種の珍獣か何かかコンチクショウ」

 

 実際珍しい生き物かどうかでいえばきっちり珍しい分類に入るヒトのオスである。

 その喩えはあながち間違いでもないかもしれない。

 大昔に流行ったウーパールーパーとか、ジャイアントパンダとかそのあたりで。

 

「あのあの、悠さん!」

「ああん?」

「申し遅れました! わたくし豹希院(ひょうきいん)有理紗といいますの!! それで早速ですが、喉を触らせてもらっても構いませんコト!?」

「いいけど、絞めんなよ」

「当然ですわッ!」

 

 わきわきと手を踊らせて、今度は有理紗が首元に手を這わせる。

 もちろん鎖やらロープやら手錠やらでぎっちり捕らえられた悠に抵抗はできない。

 

 身の危険を感じるのは触れられる場所が場所だからか。

 ちょっとばかりくすぐったいが、きゅっと口を真一文字に結んで我慢する。

 

「…………おー!」

「なんだよ」

「凸凹(でこぼこ)してますわね! ボタンみたいですわ!」

「押すなよ」

「フリですのッ!?」

「ちげえよッ!!」

「そうですの……」

「どうしてそこで残念そうな顔をすんだよ」

 

 怖えよ、と若干距離を取ろうとする悠。

 しかしジャラジャラと巻き付いたモノが多すぎて身動きは取れない。

 

 悲しいかな、いまの彼は例えるなら島流しにでもされるのかといった罪人スタイル。

 拘束具だらけのファッションはとんでもなくロックだ。

 

 それこそ往年のロックスターでも「いやちょっと……」とやらなかったぐらいに。

 

「あ、ちょっと動かないでくださいヒモが解けますから」

「こんだけ鎖があったらヒモの一本ぐらい要らねえだろ?」

「え、なんか言いました?」

「オイさらっと首輪を出してくるな付けようとするなやめろ馬鹿!」

「なんですか着けてほしいんですか」

「ほしくねえよ耳になにかつまってんのか!? 警戒心高すぎんだよッ!!」

 

 ジリジリとにじり寄ってくる彼女の手にはベルトタイプの首輪がある。

 金具から伸びているリードは紛うことなきペット用のそれだ。

 犬猫のごとき扱いを受けるのは悠としてもご遠慮願いたい。

 

 もっとも、このご時世にペットなんて文化はほぼほぼ無いようなものなのだが。

 

「ウチ男とかあんまり見慣れてないんで……あと単純に車の屋根バキバキにする人は猛獣扱いも妥当かなと思いまして」

「そりゃあ……! ……俺が悪いなッ!! すまねえ!」

「お分かりいただけてなにより。あ、いちおう名乗っておくと天城(あまぎ)柚羽です」

「ご丁寧にどーも。よければちょっとぐらい緩めてもいいんだぜ」

「そうですね」

「いやキツくなってるキツくなってる! やめろなんか出るわッ!!」

 

 なにが出るのかは言うまでもなかった。

 人の中身なんて男だろうが女だろうが同じである。

 

「…………で、ソ(・)ッ(・)チ(・)はなにしてんだ?」

「ああ、いや、指に血がついてるからな。拭いておかないと汚いだろ?」

「そういやそうか。爪がバキバキに割れてた気がする。思い出した、痛かったなありゃ」

「本当か? どの指だ? 必要なら軽い治療を……」

「平気だ。どうも俺は怪我の治りが早いらしい。もうなんともねえだろ?」

「……たしかに、見当たらないが……」

 

 それは体質の問題だろうか、と首を傾げながら少女が血を拭っていく。

 

 いくらなんでも車の屋根を〝裂いて剥がす〟というデタラメな行為だ。

 出来ただけでも驚きなのに、それによって生まれた傷さえないというのは凄まじい。

 

 都度二回目のショック、ダブルパンチ、二度目のハンマー、二重の極み的なアレというかなんというか。

 

「んで、あんたの名前は?」

「巴(ともえ)妃和だ。よろしく頼む。そっちは……流崎、でよかったか?」

「おっけぇ。でもってサンキューだ。やっぱり良い人だな」

「そんなコトはないよ。気になったから勝手にやってるだけだ」

「そういうの、お人好しって言うんじゃねえの。あと、さっきから――――」

「ん?」

「……いや、なんでもない。人それぞれ、だもんな」

「??」

 

 ぼそっと吐き捨てるように呟きつつ、悠はどこか遠くを見た。

 近くにあるものは直視しづらい、とでも言いたげな投げやりな視線。

 

 初対面のイメージからはちょっとズレた静けさに、妃和のほうも僅かに目を引かれる。

 

 ……どうしてなのかは、正直、彼も彼女も分からないけれど。

 

 その瞬間、なにか、まったく別の理由で、

 けれどまったく同じようなトコロに、指を引っ掛けたような気がした。

 

「――ま、いいや。でもってそっちの如何にも偉い人が隊長サンか?」

「やっほぉ。金宮美鶴ね。どうぞよろしく、男の子」

「こちらこそだ。……ああ、施設に戻るとき、どこか途中で下ろしてもらえりゃそれで」

「いやいやそういうワケにはいかないからね? 引き渡しまでちゃんとするよ?」

「チッ」

「露骨だねぇ。うーんホントに逃げてきたってカンジで凄いわ」

 

 命知らずにもほどがある! とからから笑い出す美鶴嬢(タイチョウサマ)。

 その声を半ば聞き流しつつ、さてどうしたものかと悠は思案する。

 

 勘違い……とも言えない強引な方法で車を奪取(ゲッツ)したは良いものの、それはガッツリ施設とも関係のある公的機関。

 おまけに話が通れば即帰還という流れらしい。

 美沙にとってはこれ以上ないほど棚ぼただろうが、悠にとってはとんだ落とし穴である。

 

 まあ自分から踏みに行ったあたり自業自得にすぎるのだが。

 

「ごめんねタクシーじゃなくって。ていうかよく知ってたねタクシー。収容所だとそういうコトとか勉強できるの?」

「いや、そりゃあ知ってるだろ。タクシー。勉強もなにもあんなのあって――」

 

 と、そこで思考にまっさらな空白が生まれた。

 

 ぽかんと呆けながら悠は固まる。

 虚を衝かれた感覚とはこういうのを言うのだろう。

 どうにも思考が定まらない。

 

 ……頭痛がする。

 

 なんだろう、自分は、なにか――

 

 

 

 

 

「――なんでかな。いや、分かんねえけど、知ってたような気がしてよ。タクシー」

「へえ。博識だ。私だって聞いたコトあるぐらいで見たコトないのに」

「俺だって見たことはおろか聞いたことすら無かったよ」

「? なのにタクシーを知ってたの?」

「いや、知らねえけど」

「?」

「??」

 

 ううん? と二人して首を傾げてしまう。

 

 ずきん、と悠の頭にはひときわ大きな鈍痛。

 

 そう、なにかは分からないけど。

 おかしなコトに、彼はそれを知っていたような気がしたのだ。

 

 本当に、当たり前じみた一般常識として。

 

「――つうかよォ、流崎サンあんたさっきどうやって屋根をぶち開けたんだ? 素手じゃねえよな? でも武器はねえしよォ」

「……あぁ? んなもん決まってんだろ。気合いと根性だよ」

「なんだそりゃあ。でもいいな! あたし好みだ! 良いなあ流崎サン!」

「だろ、そうだろぉ。そう思うよなあ!」

「そうだよなあ! やっぱなあ!」

「「ぎゃはははははははは!!」」

「うっわなんかめちゃくちゃアブナイ匂いがする結託はじまってなーい?」

「言ってる場合ですか隊長。ウチこれ以上の厄介ごとは嫌ですよ」

 

 三人寄れば文殊の知恵、塵も積もればなんとやら。

 馬鹿ふたりが集まればどうなるかなど言うまでもない。

 シンプルに地獄の一丁目だ。

 主に騒がしさと方向性の危うさで。

 

「というより明らかに純エーテルの光でしたわよね、さっきのアレは」

「そうだな。私も見たぞ。空色の光だった」

「まっさかァ、そんなワケ――」

「使えるぜ、純エーテル」

「え?」

「――おォ!? まじかよ流崎サン男なのに純エーテル使えんのか!?」

「当然だろ、試しにホラ。見てろよ」

 

 ジャラジャラと拘束具を揺らしながら、悠がピンと人差し指を立てる。

 ちょうど上方、空と彼の間にはちょうどよく遮るものもない。

 

 ニヤリ、としめたように口の端が歪んだ。

 

 一瞬の静寂。

 

 図らずも五人全員の意識が集まったとき、変化は起きた。

 

 ほんのりと淡く灯る空色の光。

 神秘の輝きはわずかに少年の顔を照らしながら指先を包み込む。

 

 そして、

 

「ばぁん」

「「「「「!?」」」」」

 

 ばきゅーん、と。

 開けた天井のど真ん中を、天に向かって直線が走った。

 

「――――すっげぇぇえええええ!! ビームじゃねェかァ!!」

「ちょッ、いまのどうやりましたの!? というか使い方間違えてません!?」

「ば、馬鹿みたいですね。こう、色んな意味で……」

「いや、凄いな。それだけ純エーテルの適正値が高いのか」

「私でもできないヨSo You Know(そーゆーの)。きみホントに男の子かね? 実は男装の麗人だったりしない? ちん○んついてる?」

 

 ふふん、と不意打ちが成功したコトでドヤ顔なんか浮かべてみせる悠。

 脱走してからの道中、アレコレと試しながら掴んだ新しい特技だ。

 

 もっともやっているコト自体は施設を抜けだした時と大差ない。

 エネルギーをぶっ放す要領はそのままに、単純に集束させただけである。

 要は小手先の技術、テクニックにもならないちょっとした誤魔化し。

 

 ……まあ、そもそも純エーテルをそのまま扱うという時点でズレているのだが。

 

「はははははははッ!! 凄えだろ男でもこれぐらごばぁ」

「「「「「「!?」」」」」

 

 びちゃびちゃびちゃ、と口から唾液混じりの血がこぼれる。

 調子に乗った天罰はすぐさま下ったようだった。

 

 適性が高いといっても効果は裏切らない。

 彼だけの特権、二つとない素質があるとしても毒は毒。

 

 当然、使いすぎれば身体を蝕むのは自明の理だ。

 

「げぼッ、ごぼッ、おげえええええッ、おえぇぇええぇッ……ごぶッ、おぶッ……」

「うわーーー!? ちょッ、隊長ォ!? 流崎サンが血ィ吐いてるゥ!!」

「これ不味いんじゃありませんの!? というかどう見てもヤバいですわ!」

「えッ、なにがあったんですか! まさか鉄アレルギー!? 鎖とかダメですか!?」

「男の子なのに純エーテル使っちゃったからね! そうなるよね! ウン! なんとなくキミの性質(カラクリ)分かってきたよ!」

「だッ、大丈夫か流崎? とりあえず横になるか? ああ鎖が邪魔だな……! 誰だこんなにキツく締めたヤツは……!」

「でめぇらだよごんぢくじょう……!」

 

 なおも口から血を垂れ流しながら、介抱しようとした妃和の手を払って悠は居住まいを正す。

 

 出血は身体に負担を強いた一時的なものだ。

 どこかを切ったとか、内側のなにかがダメになったとかではなく、もっと別の問題。

 

 本来耐えられるように設計されていない肉体(カラダ)が悲鳴をあげている証拠だろう。

 

 傷付くのも純エーテルなら、それを癒すのもまた純エーテル。

 しばらく放っておけばこの蛇口の栓を開けたような吐血も収まってくれる。

 

 そうするコトで自分が保っている事実を、悠はどことなく理解していた。

 

「ふぅ――――いや、悪い。つい出ちまった。すまねえ、車汚しちまって」

「気にするとこそこじゃねえよォ!!」

「というか屋根をぶち壊してる時点で汚すもなにもないですわ!!」

「これやっぱり首輪つけてたほうがいいですよね。そうですよね。うん」

「流崎、とりあえず血は拭こう。ほら、服にまで垂れて」

「あっはっは。自分で分かってると思うケドあんまりそういうのは控えておいたほうが――――って、うん? ありゃりゃ通信? もしや返答が来たカナー?」

 

 微弱な音にくるりと振り向いた美鶴が無線機を弄りはじめる。

 

 正式な命令が下りるまで待機としていた彼女たちだ。

 行くにせよ退くにせよ報告があれば嬉しいコトこの上ない。

 

 早速とばかりにツマミをきゅっと回して回線を合わせていく。

 

 ちなみに、誰かさんとぶつかったせいで機械の調子はちょっと悪い。

 

《本――ら第……隊■! ……か――■部……! 緊――■! ……――! 羽虫の――が…………ちらに――て……■! 直ちに――……ださい! く■――ます! 本部――第■……へ、本部か■――――》

「あー待って待って、もうちょいもうちょい……うーーん? ここカー? どこダー? イマイチしっくり来な――――」

 

 そうして、ふと、彼女がなんとなしにフロントガラス越しから空を眺めたとき。

 

 

 

 

 

「――――――――――」

 

 

 

 

 

 瞳は、たしかにその姿を捉えた。

 

 シルエットは四角(カタ)い。

 

 彩(イロ)は泥のような木々の幹の色。

 

 遠い遠い黄ばんだ空の果てから、雲を裂いて羽ばたいてくる。

 

 

 ――――ソレは。

 

 

 ああ、その、正体は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――全員、即刻退避ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 間違いなく、彼女らにとって絶望の象徴だった。

 

 

 

 

 




???「おっと私の夫発見伝♡」
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