純潔の星   作:4kibou

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9/『急接近④』

 

 

 

 

「悠ッ!」

「寄んな美沙ァ!! さっさと行けよォ!!」

「だから言っただろう! 無茶にもほどがあるぞ!」

「うるせえッ!! 無茶だろうがなんだろうがやるんだよそう決めたァ! だったらそう簡単に退いてられっかよォ!!」

 

 身を焦がしながら悠が叫ぶ。

 蒼い炎は依然として消えていなかった。

 

 その性質は尖っているというより偏執的だ。

 

 普通の火が酸素を送られて燃え上がるように。

 それらは純エーテルを燃焼の材料としながら、熱と光を発している。

 

「妃和を頼んだぜぇ! 怪我させたら承知しねえッ!!」

「ばッ、おい! 悠!!」

 

 ダン、と飛び跳ねて蒼い火炎と対峙する少年。

 

 意志と覚悟は一瞬のうちに。

 命の使い所すら躊躇せず、真正面から外敵を睨みつける。

 

 視線は鋭い。

 それこそ、未だなお痛みを耐えている怪我人とは到底思えない強さ。

 

「――――ッ、ええい、あいつは本当に……ッ」

 

 立ち上がって体勢を整える美沙。

 突然の出来事で万全なコトなどなにひとつないが、焦っても仕方ない。

 

 状況把握は冷静に。

 

 現在、収容所は壊滅している。

 建物は跡形もなく崩れて壁も水槽もない。

 あの蒼い火炎に吹き飛ばされた結果だろう。

 

 本来なら全滅していてもおかしくない被害だが、余程運が良かったのか、それとも造りの堅牢さが幸いしたのか。

 生き残っている人員の数はそこそこ多い。

 彼女の見立てでもおよそ半数はいる。

 

 大小様々な怪我をしつつも死なずに済んだのなら儲けものだ。

 女性職員はもちろん、男性でもある程度適性が高ければ傷の回復は純エーテルの恩恵がある。

 

「――巴嬢。……? おい、巴嬢、しっかりしろ!」

「――――え、あ……っ」

「大丈夫か! とにかくここに居てはまずい! 君はまだ走れるな! 逃げろ、今すぐに!」

「に、逃げる……って……」

 

 引き摺られるような錯覚。

 いつかの幻聴、幻覚が妃和の五感を塗り潰していく。

 

 逃げる。

 また、逃げる。

 

 目の前の惨状から、身近に降り注いだ惨劇から。

 なにも守れることはなく、なにもできるコトはなく。

 

 ただ、逃げる。

 

「私は生存者をひとりでも多く避難させる! その間は――とても嫌だが、悠に頼って任せるしかない……!」

「――――わ、私も手伝います! 傷は全然ありませんからッ」

「はッ!? 待て、その腕では――――ああどいつもこいつもッ!! どうしておまえらは人の話も聞かずに突っ込んでいくんだッ!!」

 

 咄嗟の判断は悩むよりも前に浮かんだものだ。

 

 選び取った行動とは違う。

 当たり前じみたものとしてその選択肢は胸にあった。

 

 胸中の思いなんて最早分からない。

 苦しみたいとか、幸せが辛いとか、そんなコトはどうでもよかった。

 

 ――なんだか、とても。

 とてもスッキリとした感覚で。

 

 大事なものが、一瞬だけ分かった気がする。

 

 そう、結局。

 結局、妃和(わたし)は――――

 

『……ああ、そうか』

 

 歪んだ思考。

 壊れたココロ。

 過去が生んだ消えない傷。

 

 人として形を保っておきながら在り方は酷く不自然だ。

 

 ――それでも、命が残っている。

 

 なら、それは自分自身のためにではなく。

 遺ってしまったものとして、使い潰すべきだと。

 

『私はきっと、自分のために生きたくなかったんだ』

 

 そんな答えに、やっと気付いた。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 蒼色に燃える世界。

 大気に満ちた神秘の粒子が炎を激しくさせる。

 

 どうにも引火した純エーテルはその性質をなくしているらしい。

 鉄潔角装の材料にするコトもできなければ、治癒もまったく働かなかった。

 

「なろォ、なめやがってぇ……!!」

 

 火に巻かれながら神経を研ぎ澄ます。

 

 生半可なレベルの行使では先ほどのように引火する。

 せっかくかき集めたエネルギーも燃えてしまえば意味がない。

 

 加えて、人体を介して操作する以上、一歩間違えれば自傷を伴う危険行為だ。

 火がついてしまえば今の悠と同じ状況の完成。

 

 適性の高い彼でさえ治癒速度が絶望的にまで落ちているのだから、他の人間だとどうなるかなんて想像に難くない。

 

「――だったらこっちも張り合ってやらァ!!」

 

 彼の導き出した解答は単純にして強引。

 無理やり突破口を開けたに等しい力業。

 

 すなわち、

 

 

 

「 兆 角 醒 ッ !! 」

 

 

 

 燃やされてダメになるのなら、それを上回るスピードで純エーテルを流せばいい。

 

 

「おぉおおぉおぉおぉおおおぉおぉお――――!!」

 

 

 超高速で分裂と増殖をくり返す体内の神秘。

 空色の閃光が燃えずに粒子となって溢れていく。

 

 それで治癒の性質がようやく炎を越えた。

 塞がらなかった傷口が、いつも通りほどではないとはいえ、そこそこの速さで治っていく。

 

「はははッ! やってみるもんだなァ、やっぱりよォ!!」

 

 創り出した鉄潔角装を手に握る。

 火を消すコトはできないが、少なくとも最低限戦うための力は整った。

 

 怪我の痛みも純エーテルの副作用もガンガンと効いてくるが、それはそれ。

 立って武器が構えられているのならそれ以上なんてない。

 

 ……眼前の蒼い火炎を睨みつける。

 

 ゆらゆらと蠢く脅威は依然として動かないままだ。

 鳥のような燃える翼は下ろされている。

 炎だって周囲に撒き散らされたものだけが猛威を振るっていた。

 

「――――来ねえなら、こっちから行くぜッ!!」

 

 瓦礫の上を翔る閃光。

 背中から噴出する純エーテルをバーナー代わりに悠が飛ぶ。

 

 接敵までそう時間はかからない。

 

 瞬きひとつの間に彼の鉄潔角装、その射程距離圏内に入る。

 

「――――――」

 

 その直前。

 くすり、と見えない顔が笑ったような気がした。

 

「ッ!?」

 

 逆巻く焔が天へ昇る。

 周囲一帯へ蒼い火を撒き散らしながら、それは竜巻のように空へ飛翔した。

 

 その火炎自体には然程威力がのっていない。

 せいぜい彼の純エーテルを一番外側だけ燃やしたぐらいだ。

 

 自身から無限に生成される悠相手にはまったく意味を成さないが。

 

「――――あ?」

 

 本命は、違う。

 

「なん――――」

 

 バサリ、と。

 緩慢な動作で翼が開かれる。

 

 手と一体化したような燃える両翼。

 そこから羽根が散るように、無数の火の玉が溢れ出た。

 

 まさしく見た者の顔色と同じような。

 

 真っ青な、火球。

 

「――――――!!」

 

 放たれる蒼い弾丸。

 降り注ぐ火球は槍のように地上へ迫る。

 

 速度、威力、ともに最大級。

 人体が受ければひとたまりもない一撃。

 

 それがざっと見ただけでも三百超。

 

 

 

 容赦なく、振り下ろされる。

 

 

 

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