もとより、この時代に於いて男性の寿命は極端に短い。
生まれたときから純エーテルに塗れるしかない世界は有害だ。
削れるものは等しく削られていく。
適性の高さなんて精々が上手く力に変えられるかどうかでしかない。
すなわち有るべき負担を治癒の恩恵でカバーできる素質。
……それは同時に、どう足掻いても有害性を取り除くことは不可能だという事実。
「ははははははははははははッ!!!!」
一時の力、瞬間的な爆発力。
生命力は薪になって炉に焼べられた。
悠は獣じみた動きと純エーテルの暴力で蒼い火を殴打する。
千切れる意識を繋ぎ止めて、
ボロボロと崩れる身体を潰しては治して、
ただひたすらに、外敵へと拳を突き刺す。
「はははははははは――――――ッ!!!!」
彼の兆角醒は際限のない純エーテルの増幅。
分裂と増殖をくり返して行われる、永続的な出力の上昇だ。
止まりはしない。
嘘偽りなくその能力に限界も歯止めも効きはしない。
時間が経てば経つほど悠の力はいや増していく。
「ダメ押しィ、だァァァァアアアアアア――――!!!!」
それが、咆哮と共に一瞬でかき消えた。
――いや、違う。
光を閉ざして、別の形へと姿を変えたのだ。
天へかざした手のひらに純エーテルが集束する。
最早素手の勝負は飽きたと言わんばかりの笑み。
――そこに、握り掴めるほどの柄が創られる。
「 鉄 潔 角 装 !!!! 」
刃は重く。
分厚く鋭く。
切っ先は遙か雲の上。
樹木の天使がつくった枝葉の塔よりさらに高い。
否、長い。
まさしく天まで届く極大、極長、極限の一振り。
「――――――」
そんなもの、普通なら扱えるハズがない。
大きくなれば鈍重になる。
空気抵抗がある、重力の影響だって受ける。
質量があるのなら速度を出すのにだってそれ相応にエネルギーがいる。
――ならば、それを彼は補って余り有るのか。
振り下ろされる刃はなにもかもが変わらず。
さながらいつも通り剣を振るように、常識外れの一刀は放たれた。
「おらぁああぁああああッ!!!!」
衝撃と轟音。
大地を割るように亀裂が走る。
吹き荒れる砂塵と瓦礫の山。
蒼い火は潰れるようにその影を揺らした。
「――――――ッ、――――――!!」
同時に、一撃だけしか耐えきれなかったのだろう。
彼の才能すべてを注いでつくられた超硬度の鉄潔角装。
それがバラバラと手のうちから崩れて溢れ出す。
悠の方もいい加減無理を通しすぎだ。
どれだけの生きる力を戦うために注ぎ込んだのか。
真っ青になった顔、とめどない出血、震える肢体。
怪我と不具合を純エーテルの恩恵で全部打ち消す。
……その無茶は、いつまで続くか分からない博打をしているようなものなのに。
「まだ、まだァ」
正面を睨む悠。
その視線の先では蒼い火がゆらゆらと立ち上がろうとしている。
攻撃は効いているが決定打が入っていない。
アレを討ち滅ぼすための力は今の程度では全然駄目だ、と彼は直感した。
「大人しくッ、ぶん殴られるだけがッ、仕事かァ――!!」
故に押し切る。
休まず攻める。
出力の上昇、純エーテルの恩恵こそ彼のもの。
長期戦になれば悠が有利だ。
そのために、今はまず反撃を阻むぐらいに圧倒する。
「クソ野郎がァ――――――――!!!!」
向けられた拳の行方。
蒼い火の鳥は燃えながら佇む。
揺れ動く身体を殴られ、叩き切られ、ふらついて。
一方的な蹂躙が、そのすべてを打ち砕こうと――
『 』
「――――――」
ぱしん、と。
肌で拳を受け止める柔らかい音。
燃える翼の先から炎が消えている。
少女のように細い手首と指が見えた。
ぐっと悠の拳を握り締める白い手指。
『――――――――――――――――――――――――――!!!!』
声なき声が大気を震撼させる。
キィ、と耳鳴りのように響く超音波。
燃え盛る炎が勢いを増した。
蒼い火が再燃する。
決められた形のない身体は不気味に蠢きながら。
――――直後、爆発する。
「ッ――――――――――――!!??」
頭に回っていた熱が一気に冷めた。
皮膚を焦がす炎。
純エーテルをかき消す蒼色。
視界が爆発の衝撃に染まっていく。
飛び散る破片が容赦なく肉を抉った。
己の中にある熱量を一気にぶちまけたような自爆だ。
そんなものを、至近距離で受けていれば。
「がッ――――――ぁ、あぁあッ――――」
皮膚が燃える。
肉が溶ける。
骨がなくなる。
喉が終わって、肺が終わって、内臓という内臓が機能しなくなって。
脳も心臓も――生きていくのに必要な部分が、一瞬で蒸発していく。
例外はない。
所詮いくら戦闘能力が高かろうが人間は人間だ。
命を脅かす脅威の前には等しく死ぬのが生物というもの。
『く、そ――がァ――――』
それでもタダでは死ねない。
すべて吹き飛ばされたとしても炉心は残っている。
本能のままエンジンを点火する。
とにかくいまは純エーテルを回せ。
戦うために、治すために、殺すために、生きるために。
空色の粒子を、爆発させようとして――――
『――――――――ッ』
――――駄目だ、できない。
追いつかない。
炎の威力が強すぎて間に合わない。
死にながら歯を食い縛る。
……正直、これで終わるのなら別に死んでやってもいい。
この自爆でもう二度と火の鳥が現れないのなら万々歳だ。
だが、燃える世界の中で見えるものがある。
爆散した焔の身体をいま一度かき集める影。
自分自身を武器にした一撃ですらソレにとっては数ある攻撃手段のひとつでしかない。
このままではストレート負けの惨敗だ。
それだけは認められない。
だから――――
『あ?』
ひたり、と触れる白い指。
ゆっくりと撫でられる右の瞳。
優しく摘ままれた心の臓。
熱の中で人影が動く。
肩につくまでで揃えたオレンジの頭髪。
鋭い目付き、傷だらけの肌。
見た目だけでいえば十代の少女。
それが、
『 』
彼の一部を、抜き取るように奪い去った。
「――――あ、あぁぁあぁぁぁああああぁぁぁああああ!!??」
信じられないのはその祝福――呪いとでも言うべき恩恵だろう。
ボタボタと壊れた蛇口みたいに血を流しながら、悠はまだ意識を保って生きていた。
……炎はそうして和らいだ。
中心には芋虫のように悶える彼と、たしかな形を取り戻した蒼い火の鳥。
きっと、ならば、そう――
初めから狙いは、それだったのか。
「――――ッ、ぅ、あッ――――が、ぁあ……ッ」
のたうち回る悠。
純エーテルは増幅を再開した。
治癒の恩恵は彼の身に降り注いでいる。
けれども、信じられないコトにどうしても治らない部分がある。
視界の半分が消えた。
止めるコトなく純エーテルを介して操作しなければ血液が循環しない。
それは抜き取られたふたつのモノ。
自爆はそのためのカムフラージュだ。
――くすり、と。
どこかで少女の笑い声を聞いた気がした。
『 ――――
熱が唸りを上げる。
以前よりも強力な炎が撒き散らされていく。
――ああ、それは。
その兆候は。
誰よりも近くに倒れ臥した少年だけに許されていた――
『
悠の、兆角醒。