一番はじめに出会った麻奈。
その次に天使との戦いで知り合った伽蓮。
彼女たちに共通している点といえば、純エーテルを一切使わないこと。
怪物をモノともしないほどの力量を持っていること。
そして――どのような方向性であれ、一癖も二癖もある人物であるということ。
「――――――、」
空から睥睨する黒い瞳。
ほう、と吐かれた息には一体どのような想いが込められていたのか。
腰に提げた刀の柄へ手を伸ばしながら、彼女は火の鳥と相対する。
現れたのは正しく一瞬。
その軌跡も抜刀の瞬間も視認することはできず、ただ蒼火だけが断ち切られた。
空の果てに手をかけた妃和も、
人間の天敵である怪物すらも上回った神速の一太刀。
それだけで、実力のほどを確信する。
「――――ひとり?」
「え? ……私のこと、ですか……?」
「それ以外に、誰がいるというのかしら」
「…………一人、ですが」
「…………そう」
と、彼女はまたもやため息をつきながら。
「可哀想ね」
「……………………………………、」
とんでもなかった。
もしかして煽っているのだろうか、なんて思うような一言。
いや、たしかに、下手に歯に衣着せるよりも良くはあるのだが。
それにしたってなんというか、こう、もうちょっと言い方とかなんとかならないだろうか。
「力を貸すわ」
「――――? え、あ、はい……?」
「……貴女、大丈夫? 具合でも悪い……?」
「い、いえ! 全然ッ、私は平気ですッ!」
「…………なら、良かったのだけれどね」
ぽつりと呟いて黒衣が翻る。
臨戦態勢に入っていく肢体。
黒瞳は真っ直ぐ燃える怪物を捉えていた。
その視線は揺らぎない。
「――――
はじける大気。
線を描くコトすらない。
姿は一瞬のうちに消失した。
――代わりに。
銀閃が、駆け抜けた跡をくっきりと浮かび上がらせる。
気付いた時にはもう遅い。
バラバラと斬られ落ちていく不定形の焔。
物質としての硬度、質量の有無、幻想と現実。
神秘も科学も等しくそこにあるモノとして切り裂いていく絶対斬撃。
『――――――――!!』
「……やっぱり、居合は
まるで恋人と語らうように、彼女は刃へ独りごちる。
今のはまだまだ未完成。
いつの日か見た腕前には到底及ばない、とでも言いたげな不満感。
火の鳥としても妃和としても信じがたい。
迎撃すらできなかったのに、その技の不出来を嘆かれるなど――
「まだ、遅い」
ただ剣を持っているだけの人間が特別視される理由はない。
彼女らが聖剣使いとして名を馳せているのは確かな特異性があるからだ。
人智を超えた力は怪物に引けを取らない。
どころか圧倒さえしてしまえる始末。
交戦理由が曖昧という点を除けば、その存在は間違いなくアレらへのカウンターと化す。
『――――――』
勝負になんてならなかった。
彼女がこの場に現れた時点で勝敗が決したようなものだ。
万全の状態で乗り込んできた聖剣使い――十藤緋波。
地上にはまだまだ粘りを見せている妃和の姿もある。
このふたりを同時に相手取れるなら、蒼火の鳥はこんなところに留まっていない。
――千切れた焔をつなぎ合わせて存在を再構築する。
小さな爆発と共に復活した怪物は、流星のように尾を引いて瞬時に加速を開始した。
すなわち、逃走を選んだ。
「……ええ、そうね。けれど、それ以上に――」
だが。
「アナタのほうが、遅いようだわ――」
その隙を見落とすような緋波ではない。
都合三度目になる漆黒の一閃。
一度目はともかく、二度目と同じで回避は不可能。
狙われたのはその翼。
蒼く燃える怪物の羽。
刹那のうちに走った刃は正確に。
容赦なく、その象徴を刈り取った。
「――――――――」
ぐらり、とバランスを崩して落ちる火の鳥。
さしものソレでも翼がなければ飛行は厳しいらしい。
ならばこそ、振り絞ったのはあるかも分からない怪物としての意地か矜持か。
傾いた体勢を無理やり立て直して、蒼火の翼をいま一度広げる。
兆角醒の影響で炎は有り余っている。
多少贅沢な使い方をしてもガス欠なんて起こらない。
起こるはずがない。
なにせ手にしたのは流崎悠の秘奥、彼だけが持つことを許された祝福の異能だ。
たとえ猿真似であろうとも、その力を持ってエネルギーが足りないなんてコトはありえない。
『――――――――――――!!!!』
蒼炎が吹き荒れる。
爆発と衝撃があたりへと撒き散らされた。
彼から心臓を抜いた時とは威力のほどが桁違いだ。
今度こそは目くらまし。
たったひとりの聖剣使いをその場に留めるためだけに、蓄えていたエネルギーの半分以上を一気に消費する。
躊躇う必要はなかった。
無くした分はすでに一秒もあれば取り戻せるぐらいなモノ。
「…………! ……賢しい……」
苛立ちを吐き出すように緋波は呟いた。
爆炎が晴れるまで五秒。
視界が完璧に確保できるまでは幾ら早くても七秒かかる。
そして、それほどの時間があれば――
「……………………、」
あっという間に背中が見えなくなる。
残っているのは火の鳥が噴かしたであろう蒼炎の残滓だけ。
肝心要の本体は綺麗さっぱりその姿を消していた。
「……情けないわ」
再三になるため息。
ほう、と彼女は気落ちしながら刀を鞘に収める。
……確実性を考えて二の足を踏んだのがいけなかった。
直感に頼って追撃の斬撃を加えていればまだこの場に縫い付けるコトができただろう。
思考回路にリソースを割きすぎた結果だ。
だからまだまだやっぱり
「あ、あの」
「…………、」
空から地面へ降りたところで、妃和から声をかける。
聖剣使いというだけでちょっとした苦手意識はあるが、それはそれ。
いまはこの窮地を救ってくれたコトに感謝するのが先決だ。
「……貴女」
「巴妃和です。その……ありがとう、ございました」
「別に、お礼なんていらないけれど」
「……そう、ですか」
「ええ」
そうして緋波は、まるで意味が分からない、といった表情をして。
「私たちは強いのだから、戦うのは当然でしょう……?」
「――――――は、あ……?」
「…………??」
「……………………????」
妃和の頭を、さらに混乱させにかかるのだった。
……いや、たぶん、おそらく向こうに悪気はない。
悪気はないのだろうが、それとやりにくさはちょっと別の問題だ。
思考がぶっ飛んでいるワケでも、会話が抜けているのでもない。
繋がる部分が下手にでもあるからだろう。
緋波の考えが、妃和にはまったく読めなかった。
◇◆◇
「――――総司令ッ! 大変です!!」
「どうした」
「十二時の方向からとんでもない熱源が本部に接近してます!」
「……なに?」
「接触まで、あと――――――、ぁ」
「――――――――――」