純潔の星   作:4kibou

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13『蒼火の雌鳥 後編②』

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふッ、ふふはははは、はははははははは!! あははははははははは――――!!」

 

 

 

 空の向こうで声が響く。

 

 神秘の首領は堪えきれずに笑っていた。

 

 胸に渦巻く感情は数え切れない。

 喜怒哀楽がないまぜになった可笑しな情緒。

 

 分かるのは、ただ、彼がまた暴れているという真実だけ。

 

「ハルカ! ハルカ!! 嗚呼ハルカッ!!」

 

 興奮気味に女は叫ぶ。

 

 それは愛おしい彼の名前。

 唯一認めた至上の輝き。

 

 これからの全てにおいて勝るものはないであろう至高の存在。

 

「やっぱりおまえは最高だ!! 良かったっ、良かった良かった! 良かったぁ……!!おまえを愛して良かった! おまえを選んで良かった! おまえを見つけられて良かった! おまえが生きていて良かった! おまえが格好良くて良かった!」

 

 溢れてくるモノをダラダラと吐き出していく。

 

 いまはそれで十分だった。

 

 言葉は途切れない。

 熱は冷めない。

 

 彼女は浮かれている。

 大好きな彼の姿を目にして歓喜にうち震える。

 

 その場面さえ見たのなら、醜いと蔑んだ彼でさえ本質は変わっていないのだと気付いたかもしれない。

 

 

 

「――――おまえが幼馴染みで、良かったァ……!!」

 

 

 

 その命に感謝を。

 その光に感謝を。

 その力に感謝を。

 その愛に感謝を。

 

 感謝を、感謝を、感謝を――――

 

 

 流崎悠という存在の近くにいられた世界に、感謝を!

 

 

「もういい! どうでもいい!! なんでもいい!! 来いだなんだと偉そうに言って悪かった! ああすまない! 勘違いをしていたよ! 思い上がっていた! 私は莫迦な女だ! こんな、世界を統べる程度の力を得たコトで調子に乗ったんだ! やはり駄目だな! ごめん! 許してくれ! 謝らせてくれ、ハルカッ! 私が悪かったんだ!!」

 

 すでに我慢の限界だった。

 もう待てない、と女神は重い腰をあげる。

 

 見えない位置から祝福を与えているが、それですらまどろっこしい。

 

 結局ふたりは離れたままなのだ。

 いくら彼女が愛を授けても、受け取る彼は地球(ホシ)の上。

 

「迎えに行く! 連れて行くよ! 一緒に過ごそう! ずっとずっとこの世界で! この場所で! 共に神秘の行く末を見守ろう!! 永い時は退屈だろうが、おまえと一緒なら何も問題ない!! むしろ永遠を望みたいぐらいだ!! いやそうでしかない!!」

 

 どうすればこの声は届くのか。

 どうすればこの想いは伝わるのか。

 

 嘆かわしいコトだ。

 こんなにも気持ちは昂ぶっているのに奇跡のひとつも起きやしない。

 

 所詮世界なんてその程度。

 宇宙の法則は泣きたくなるぐらい無慈悲で役たたずだ。

 

 ――だからこそ、彼女はこの座を求めた。

 

「さぁ、手を取らせてくれ! 繋がせてくれ! 握らせてくれ! 今だけは私におまえをエスコートさせてほしい!! 本心なら幾らでもいう!! もうなんだっていいんだ!! ただ私はおまえと居たい!! おまえと共に過ごしたい!! おまえと一緒に笑いたいんだ!! それだけでいい!! だからッ!!」

 

 彼らの住む世界よりひとつ上の次元。

 空の果てを越えたさらに先。

 

 全ての神秘が生まれる発生源で彼女は必死に訴える。

 

 醜悪な一角の獣として過ごした時間。

 無知な一人の女として過ごした時間。

 全能な一柱の神として過ごした時間。

 

 揃えてすべての時間のなかで、なおも輝きを失わない鮮やかなモノこそが彼だった。

 この胸を高鳴らせたのも、この心に温度を与えてくれたのも、この命に大切なものを気付かせてくれたのも全部が彼。

 

 我慢なんて一杯してきた。

 

 もう嫌だ。

 抑えたくない。

 堪えきれない。

 

 見えるところに、すぐそこに彼がいる。

 

 ハルカがいる。

 大好きな幼馴染みがいる。

 

 ――――だったらなんで、わざわざ我慢なんてしなくちゃならない!

 

「神秘の高みに行こう! 空の向こうに!! 世界の最奥に!! 大丈夫だ! 私がついてる!! 祝福だってある!! 条件は揃った!! もう、既におまえはッ!!」

 

 そう、彼は。

 

 

 

 ――――この領域に、手をかけている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 蒼い炎がかき散らされる。

 我が物顔で吹き荒れる空色の閃光。

 

 純エーテルの塊であるはずのそれは、けれど全くもって火炎を寄せ付けなかった。

 

 妃和のように能力の特性で相殺しているのではない。

 彼の兆角醒は際限ない出力の上昇だ。

 エネルギー自体になんらかの特異性を与えるようなものとは違う。

 

 ――――だというのに実際、力のぶつけ合いは全然話にならない。

 

「ッハハハハハハ!! なんだそれぇ!? なんなんだよオイ!! すげえなハル!!」

「うっせえボケェ!! 黙って戦えねえのかおまえはよォ!!」

「できねえなァ!? 楽しいからよォ!! ハルもそうじゃねえのかアァ!!??」

「全ッ然!? まったく!? これっぽっちも楽しくねえよ!! クソ女ァ!!」

「ギャハハハハハハハハ!!!! 照れ隠しか!! ツンデレか!! 可愛いなァ!!」

「死ねェーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 炎を裂く鉄潔角装。

 刀身は削れない。

 爆発的に上昇した純エーテルが簡単に熱波を押し返していく。

 

 ――――ありえない。

 

 悠と火の鳥にあるのは絶対的な相性の差だ。

 怪物が正面から戦って妃和に勝てないように、彼もまた力押しでは敵わない。

 純エーテルそのものに頼りきった戦闘力だからこそ、それは顕著に表れる。

 

 ……ならば一体、目の前の光景はなんなのか。

 

「面白い手品だなァ!! ハル!! どうやってる!? なにをしてやがる!? てめえは私の炎に手も足も出ねえハズだが!?」

「バカかよてめえ!! 目ん玉かっぽじってよぉく見ろォ!! 実際にどうにかできてるだろうが!! それが現実だァ!!」

「ハハハハハハ!! そうだなァ!! ああそうだ!! 野暮なコト聞いちまった!! 悪いな!! けど気になるぜ教えろよォ!! てめえなんだその力はッ!!」

「聞かれて答えると思うかボケェ――――!!!!」

「たしかになァ――――――――――――!!!!」

 

 火花を散らしながら剣戟はくり返される。

 

 陽向葵の肉体を使った高速連撃も悠にとっては脅威たり得なかった。

 

 誰しもが無理だろうと手放す不利。

 どう見ても不可能だという状況。

 それらを当たり前のように覆して突破していく理不尽さ。

 

 女神の語る通り。

 空へと届かせた魂魄の指先が、輝かしい光となって彼に宿る。

 

「だがッ!!」

「!!」

 

 それでも付け入る隙はわずかに存在した。

 たった一瞬とはいえ見逃すような彼女ではない。

 

 剣を振り抜いた刹那に意識外からの蒼炎を飛ばす。

 

 反応は遅れた。

 迎撃は間に合うハズもないだろう。

 なにせ人体の構造上、防御も回避も不可能なタイミング。

 

 もし防ぐコトができたなら、そんなのは奇跡でもなんでもない。

 

 

 

 

 

「猪口才なァ!!」

 

 

 

 

 ――――のに。

 

 

 

「――――やっばァ……!!!!」

 

 

 彼はいとも簡単に、その火炎を切り払ってみせた。

 

 目に映ったのは明らかな異常だ。

 手足の稼働、生物としての動き、細かい部分でいうのなら呼吸や脈拍、脳から伝わる電気信号。

 すべてが攻撃を視認したと同時、ありえないぐらいに加速した。

 

 彼女に認識できる変化でそれだけ。

 分からないところではもっと多い。

 

「てめえ!! やべえなッ!! ハハハハ!! なんだそりゃあ!! ハル!! 超スピードとか超直感とか超強化とかそんなレベルじゃねえぞ!! おまえそいつは世界の法則をぶち破ってやがるぜ!!」

「だったらどうしたァ!!!!」

「最高だッてことだろ!!!!」

 

 すなわちそれは、極限に位置する女神の落とし物。

 空の果てを遙かに超えた、空の向こうから引き出す神秘の結晶。

 

 はじめのひとつはすべてを集めて束にした。

/第一聖剣【集束】和泉壱真(いずみいっしん)

 ふたつめは目に映ったもの悉くを切り裂いた。

/第二聖剣【切断】雪棟海那(ゆきむねかいな)

 みっつめはあらゆるものを追い越していった。

/第三聖剣【凌駕】折原篝(おりわらかがり)

 よっつめはただひとつのために時を戻した。

/第四聖剣【回帰】木瞳静耶(きどうしずや)

 そして、待ちかねた最新(いつつめ)は。

 

 

「――ああそうかい!! その返答は気(・)に(・)喰(・)わ(・)ね(・)え(・)な(・)、てめえッ!!」

 

 

 ありえないと断言されたものを。

 誰もがそうだと信じ込んでいた絶対を。

 

 

 ――多くの人の願いを裏切り、世界の法則に逆らった。

 

 

 

【叛逆】流崎悠(りゅうざきはるか)

 

 

 

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