誰かが思う。
あの怪物を相手にするのは無茶だ。
誰かが考える。
アレに勝てるような人間はもういない。
誰かが決めつける。
どうしようと純エーテルは蒼炎の前に食い潰されてしまう。
誰かが判断する。
既に勝敗は分かりきったコト。
人間ひとりがどれだけ頑張ったところで、最早未来は変わりようもない。
戦闘部隊総司令、陽向葵は肉体を残して死んだ。
それだけで甚大な被害である。
戦力の消耗はとんでもない。
きっとこの先、人類はただ蹂躙されて滅んでいくだけだと想起させるほどに。
「ハハハッ!! ハハハハハハッ!! いいな、いいなァ!! もっとだッ!!」
「くそうるせぇええええ!! てめえッ!! 黙れッ!! 耳障りなんだよその声ぇ!!」
この
その場にいた心折れた隊員たちの思念が響いていく。
誰も彼もが等しく。
災厄じみた怪物をどうにかするなんて、はじめから間違っていたと。
「気に入らねえッ!! 気に喰わねえッ!! ああそうだ!! 俺はなァ!! てめえのなにもかもがッ、最初ッから腹立たしくてしょうがなかったんだよォ!!」
湧き上がる反骨精神。
存在そのものに根付いた星からの
それこそが〝流崎悠〟としての到達点。
誰かの望み、願い、当たり前と信じた価値観、常識、固定観念――――
そんなモノを悉く打ち砕く捻くれた
「よってぶっ潰す!! 叩き潰す!! 殺してやる夏鳥ッ!! 俺がッ、この手でだ!!」
「ハハハハハハハハッ!! いいぜ!! かかってこいよ全力でッ!! 私も私の持てる全てで返してやるからよォ!!」
敵わないと思われれば打倒する。
勝てないと判断されれば圧倒する。
不可能だと断じられれば可能になる。
なんだって構わない。
なにせ捻くれ者で無法者の反逆者だ。
微かにでも思われたコトがあるのなら、それに逆らって実現させる。
――神秘を喰らう蒼炎を前に純エーテルでは刃が立たない。
――怪物を相手に人間が立ち回れるわけがない。
――あんなのに勝てるハズがない。
「いるかてめえの全部なんざァ!! 大人しく死ねェ!! 昔の人間がでしゃばってきてんじゃねえッ!! 俺たちの時代を勝手に引っ掻き回しやがってェ!!」
「そりゃそうだ!! だが悪いなァ!! そういう文句はユニに言え!! でもってハル!! おまえだって半分ぐらいはその古い時代の人間だろうがよォ!! えぇ!?」
「なワケねえだろバーーーーーーーーーーーーッカ!!!!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
炎が出血の如く溢れていく。
否定される蒼い灼熱。
弾かれていく燃える刃。
一度だって悠の身体に傷はつかない。
血の一滴すら滲まない。
誰もが倒れ臥した今、本気でその化け物を倒せると思っているような人間は極わずかだ。
そんな大勢の無意識が彼の力となっていく。
「俺は俺だ!! 流崎悠だ!! とっくの前に死んじまった野郎なんざ知るかよォ!! てめえのコトも!! 空に昇ったクソバカ女のコトも!! ぜんッぶ知るかァ!!」
「分かってんじゃねえの!! 知ってんじゃねえのォ!! ハル!! ハルッ!! ハハハハハッ!! こんなになってまで、ああ! 笑えるな!!」
「なにがだァ!!」
「百年経っても飽きないってコトだよ!! おまえと話すのは俄然楽しいぜ!! もちろんこうやってぶつかり合うのもだ!! なんせ昔はハルのほうがボロボロで喧嘩もろくにできなくなっちまったからなァ!!」
「俺はッ!! まったくッ!! 楽しくもねえッ!!!!」
憤怒に燃える少年と、諧謔の笑みを浮かべる少女。
両者の力は拮抗しない。
本当に、笑えるぐらい一方的な戦闘だった。
一撃一撃を真正面から潰される。
奇襲や騙し討ちの搦め手は純エーテルの暴力で蹴散らされていく。
自慢の蒼炎だって何の役にも立ちはしない。
その火炎が神秘を喰らう絶対的なもの、という認識が残る以上彼には通じない。
空色の極光が悉くを薙ぎ払う。
――――強い、なんてものじゃなかった。
それは間違いなく、人の器を越えた力の行使。
触れてはいけない領域に指が触れている。
通常聞こえないはずの音が響くように脳髄へと流れ込んだ。
高らかに笑う女の声。
そっと見えない手で掴まれる。
もう少しだ、大丈夫、早く行こう。
共に生きて歩んでいこう、と。
空の向こうから、誰かが常に誘っている。
「ああうるせえ!! やかましい!! どいつもこいつも!! なんでこう俺の癇に障るコトをしやがる!? 少しでも好かれたいなら節度を持ってジッとしてろやァ!!」
「できるかよそんなコトォ!! 目の前におまえが居るんだぞ!? ハルがそこに立って生きてやがんだぞ!? ならジッとしてなんていられねえよ!! てめえ私らを誰だと思ってんだ!?」
「人殺しのクソ阿呆どもだろォがボケェ!!!!」
「てめえのコトが好きだった女子だろうがよォ!!!!」
「知るかァ!!!!」
「知ってるだろォ!!!!」
腕が千切れる。
足が吹き飛ぶ。
この世で最上に位置する強度の肉体が、なんでもないかのように断ち切られた。
切断面からあがる蒼炎もいまは鈍い。
散々多くの人間を甚振ってきた罰が回ってきたのか。
今度は彼女のほうが、蹂躙される番のよう。
「なんだよなんだよなんなんだよッ!! どうしてそこまでおまえは厄介なんだァ!? 待ち構えてただけあるじゃねえのォ!! ハハハハ!! ハハハハハハハ――!!」
「
「ダッハッハッハッハ!! 許すもなにもあるかァ!? 普通死ぬだろ心臓なくしたらッ!! それで生きてるってんだからよっぽど悔しかったんだろうなァユニは!! もちろん私もだ!! てめえが死んじまうコトがよォ!! 嫌で嫌で仕方ねえと見た!!」
「ふざけてやがるな!! 勝手にヒトの人生を土足で踏み荒らしやがって!! 気に入らねえッ!! 死ぬも生きるも俺の命は俺次第だろうよォ!! 他人のさじ加減で生かされるなんざ俺は御免だッ!!」
純エーテルが爆発する。
一度の揺らぎもなかった怪物の身体が初めてぐらついた。
――――迫る人影。
右の眼窩から噴出していく空色の光。
渦巻く神秘は人間ひとりから生み出されたとは思えないほど濃厚だ。
すべてが空の向こうに至った恩恵。
男であるはずの彼ですら、いまは純エーテルの負荷を受けもしない。
唯一残っていた欠点も消えてしまえば最早どうにもならなくなる。
――――完成された純潔の怪物。
目映いばかりの粒子を撒き散らしながら、悠はさらに出力を上げた。