純潔の星   作:4kibou

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13『蒼火の雌鳥 後編④』

 

 

 

 

 を散らしながら想起する。

 摩耗した記憶はすでに色褪せかけていた。

 

 おそらくは長い時間、胸に抱え込んでしまったせい。

 

 それでもいまこの瞬間だけは色鮮やかだ。

 

『てめえか? 結仁に付きまとってるっつう野郎は』

『は?』

 

 初めて会話をしたのは放課後の渡り廊下。

 夕陽が差し込む中で自販機に立ち寄った彼と、偶然かち合った。

 

『……幼馴染みだけど、オレ。アイツの。そっちこそなに?』

『幼馴染みィ? 近寄るなって言われてるのが? なにやらかしたらそうなる?』

『……知るワケないだろ。オレに限らず、結仁は男嫌いなんだろうな。女の子と一緒にいるときは楽しそうだから。……あ、でも大人のお姉さんとかはそうでもないな……蛇蝎を見るが如くの視線だし……』

『あんたを見る目が一番キツいけどな』

『うるさい。分かってる。……なんでだろうなぁ……オレ、なにもしてないんだけど』

『しつこく付きまとうからだろ』

 

 むすっとしながらコーヒーを傾ける少年は、その頃から内心を隠すのが下手だった。

 なんともないように装ってはいるけれど、表情から彼女のコトをどう思っているかハッキリ分かる。

 

 ……本当はストーカーまがいの勘違いした痛い男子だと思っていたのだけど。

 

 他のクラスメートやふたりを知っている先輩に話を聞いていくかぎり、そういうのとはまた違ったコトらしい。

 

『よく嫌われてるって分かって顔出しにいけるよな。メンタル最強か?』

『考えなしに突っ込んでいってるワケじゃない。ちゃんと用事がある時しかいかない』

『それでも仲介頼んだりとかするだろ。私だったら耐えらんないな、あんな睨まれて』

『けど。なんだかんだで優しいし、良い奴なんだよ。結仁』

『…………めちゃめちゃ避けられてる奴にそれ言えるおまえはなんなんだ…………』

 

 たしかに彼の言い分は理解できないコトもなかった。

 いつもは塩対応だが、熱を出したり怪我をしたりといった時に真っ先にこの少年へ飛んでいくのは結仁である。

 幼馴染みだから仕方なく、という理由があったとしても随分な待遇だ。

 

 ……普段は本当に、一体なんの恨みがあるのか、といった憎み具合だが。

 

『いつかユニの笑ってる顔、間近で見たいよなぁ』

『無理だろ。それこそ物陰から覗くでもしないと』

『ストーカーじゃないか。ありえないだろう。犯罪は御免だけど』

『私は当初おまえのことをユニの周りで動き回るストーカーだと思ってたケドな!』

『ひっどい』

『今となっちゃ笑い話だぜ。ひひっ』

『なら良いか』

 

 同じ中学から進学して、高校でも一緒で。

 結仁とクラスは離れても、彼とは同じだったコトもあって時間はあった。

 

 そう、確かにあった。

 いくらでも、彼女より、ともすれば誰よりも近かった。

 だから。

 

『――て感じらしくて、なに。そういうコトみたいだ』

『……そういうコトって、なんだよ』

『だから、まあ、うん? オレ、実はやばいみたい。ほんと。お医者サマも目ん玉飛び出るぐらい? って奴で。なんで動けてるんだー、ってすごい訊かれた』

『…………冗談、だよな?』

『いやいや、これがこれが。オレもそうだと思ってたのに。たしかに最近調子は良くなかったんだけど、凄いなって。……あ、結仁には内緒でお願い。彼女のことだし、知っちゃうと色々あるだろうから』

 

 多分、結構、

 ショックだったんだろうな、と今になって思う。

 

 だってそうだ。

 これから先も、なんだかんだで連んでいくと思っていた。

 結仁を挟んでの関係だったけれど、顔を合わせて話す回数は向こうより断然多かった。

 

 いつの間にか、変わっていたのかもしれない。

 

 大事なのは。

 大切にしようと思ってたのは、どっちだったのか。

 

『オイ待て! バカ!! やめろ!! ハルッ!!』

『――――――』

『待てッ!! 待てって!! 無理すんな!! 平気な顔してたって中身はまずいんだろ!? そんな状態でなにする気だ!? 下手したらここで死んじまうって!!』

『泣いてるんだよ』

『ッ、』

『結仁が泣いてる。はじめて見た。ありえない。――どうして彼女が、あんな酷い目に遭って泣かなきゃいけない?』

『だったらおまえッ――――おまえが傍に居てやれよ!! 慰めてやれ!! 幼馴染みなんだろ!? 態々ボロボロの身体引き摺ってまで、そんなッ』

『男だぞ。襲われたんだ。居られるワケないだろう。いまの結仁の近くに。……我儘だけどさ、最期の。もうなにがなくなっても良いから、悪いコトだってしてあげられる』

『なにを!!』

 

『――――結仁を泣かせた奴を、殺してくる』

 

 

 本気でどうかしていると思った。

 その狂いようも、覚悟も、命の価値基準の考え方も、彼女への入れ込みようも。

 

 数時間後、本当にボロ雑巾みたいになった強姦魔(はんにん)を引き摺って警察へ来たと連絡が回ってきたときも。

 ……そのせいで、無理をかけ過ぎた身体に限界が来たのも。

 

 たぶん、最初からおかしいのはたったひとりだった。

 特別なのはひとりだった。

 

『夏鳥』

『……なん、だよ』

『結仁を頼む。オレのことなんか忘れてくれって、そう言ってほしい。あの様子だと、引き摺るだろうから』

『おまえ……そりゃあ……ッ』

『…………正直、このタイミングで好きとか言ってほしくなかったなぁ』

 

 からからと笑う表情は嬉しそうで、悲しそうで、苦しそうで。

 本気半分、冗談半分だったのだろう。

 

 けれどもそれは彼からの願い事であって、彼女に届くかはまた別の問題。

 

『――――忘れろ、だと……?』

『バカな遺言だろ? ……ほんと、おかしなコト言うよな、あいつ』

『…………ああ、本当におかしいな。夏鳥』

『…………結仁?』

『おまえ、いつからそこまで遙と近くなった? おまえは遙のなんだったんだ?』

 

 もうすでに、手遅れだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「――――大変だったなァ!」

「あァ!?」

 

 振るわれる鉄潔角装を受け止めながら、火の鳥が笑みを浮かべる。

 

「てめえが死んでからよォ! 結仁の奴、バカになっちまってさァ!! ハハハッ!! 死人を蘇らせる方法ばっか探してんだよ!! めちゃくちゃ引き摺ってんの!!」

「なんだそりゃあ!! 笑える話だな!! とんだ大馬鹿野郎じゃねえかァ!!」

「本当バカだよなァ!! そう思うよなァ!! ――――だってそいつが、いまの神秘の支配者になってんだぜェ!?」

「はッ!! そいつがどういうワケだって!?」

 

 刃はすべてが最終的に届いていた。

 

 陽向葵から奪った肉体。

 その全身から血の如くが溢れだす。

 

 傷は治らない。

 

 自分たちの攻撃が効かない、という大勢の意識から彼の刃に能力が付与された。

 当たり前を壊すのが流崎悠の到達点だ。

 いくら削れても直せばいい、と考えてしまった時点で彼女は詰んでいる。

 

「この時代が結仁のつくった時代ってコトだよォ!! なァ、なんのためだと思う!? なんのために純エーテルなんてモンが生まれて、なんのために私らが人類を襲って、なんのためにそれでも人が地上に残されてると思う!?」

「知るかよォ!!」

「ぜんぶてめえを取り戻すためだよッ!! ユニの馬鹿野郎がなァ!!」

「だからァ!?」

「そいつは気に入ってんのかァ!? てめえのいまの状況がッ!!」

「気に入らねえに決まってんだろォがァァアアア!!!!」

 

 咆哮と共に突き刺さる刃。

 怪物の腹部を貫いたそれは、勢いを失わないまま壁へと激突させた。

 

 超至近距離でふたりは睨み合う。

 

 縫い止められた火の鳥は逃げることもできないくせに、一切笑みを崩さない。

 

「ひひっ、ハハハ! アハハハハハハハハ――――!!」

「まだやるかァ、てめえッ!!」

「ああやるね! やるぜ!! まだだ! まだ終わっちゃいねえ!! ――――ハル! いいなァやっぱ!! おまえはいい!! ちゃんとユニのコトを嫌ってるのはいい!! そうだよなァ!! いまのおまえは嫌いになるよなァ!! あいつのコトをォ!!」

「てめえも嫌いだが!!」

「そりゃあ言われなくても分かってるよッ!!」

 

 腹を貫通した刃を握りながら、火の鳥はぽつりと呟いた。

 

「――――だって私らは、すでに死んだ怪物だもんなァ」

「ッ!!」

 

 握りしめて鉄潔角装を砕く。

 この肉体(カラダ)のスペックを最大限に生かした無茶だ。

 

 もう蒼炎には頼れない。

 相性を以てして優位に立てていたのは過去のコト。

 なら、最後は最後らしく。

 

「いくぜハル!! やれなかったコトをやろうや!!」

「てめえ!!」

「――――喧嘩のォ、時間だァ!!」

 

 

 

 

 

 

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