「――――正直、実感なんてないんだ」
歩きながら言葉を紡ぐ。
目的地までどのぐらいか。
分からないまま歩き続けている。
急ぐ必要はない。
時間は有限ではなくなった。
いまはただ、成るようになるだけの命。
「私はおまえじゃない。アイツじゃない。記憶も記録もひとり分だ。だから、その映像を見たところで変わるワケでもないんだ」
〝そりゃあそうだろうなぁ〟
くつくつと笑う声。
それは周囲には響かない、彼女の中にだけ宿るモノ。
「でも、ちょっとだけ分かることはあった」
〝へぇ、そいつは?〟
「おまえと初めて会ったときだったかな。……なにか、致命的な、自分にとって見逃せないモノに指をかけた感覚があった」
まだ妃和が流崎悠というすべてを知らなかったとき。
そのときに感じたモノの正体。
……きっと、全部忘れてもそれだけは残っていたのだろう。
ただひとつと信じたもの。
ただひとつと願ったもの。
正しく生まれ落ちた命の片隅に、想いの残滓が付着していた。
「……ああ、そうとも。実感はない。実感はないが――まぁ、なんだ。言っておかなければいけないような気も、するからな。私個人の意見とは、別として」
〝? なんだよ〟
「ちょっとしたものだ。一度しか言わない。それこそ、ぜんぜん、関係ないからな。アレとは。本当に関係ないから、心して聞けよ」
〝だからなんだよ〟
そうして彼女は、いつも以上に穏やかな声音で。
「――――強くなったな、遙」
〝――――――――〟
どこかの誰かへ向けた、最大級の賛辞を放った。
〝……俺はオレじゃねえけどな〟
「分かってるよ。だから関係ないと言った。個人的な問題だ。……悔しいのは、理解できてしまうコトかな。ならばこそなのだろう。近いんだろうな、感覚は」
〝妃和と結仁が?〟
「壊れる予感があるのなら。自分自身が要らない何かを抱えていると確信しているなら。きっと己の心を封じてでも、誰かの幸せを願って当然だろう」
〝…………そういうもんかね〟
そういうものだ、と少女は独りごちる。
純潔で封じていた獣性。
長年押さえつけていたそれは、最早別のなにかで代用できるものでもなかったろう。
それこそ破られれば二度と元には戻らない。
溢れてきたモノは瞬く間に身体を蝕んで人格を歪ませた。
理性を殺して意識を消して、新しいカタチとして確立した。
それは間違いなく己であって、己でないなにかと同じ。
「――だからまあ、その分まで甘受しよう。私にその心配はない。所詮、一度精神が壊れたぐらいの、どこにでもいる普通の女子だ」
〝精神が壊れたヤツがどこにでもいたらやばい世界だろ〟
「やばい世界だぞ?」
〝そういやそうだった〟
「……まあ、そういうコトだ。私はきっと、感謝すべきなのだよ。この状況を。そうだ。そこだけはあの女に頭を下げてやってもいい。それ以外は最悪も最悪だが」
〝言えてるな〟
ふたりして笑い合う。
時間は無限だ。
どこまでも往こう。
その旅路に果てはない。
それだけは心から喜ばしい事実だ。
こんな時代、まともに生きてはいけないのだから。
「悠」
〝なんだよ、今度は〟
「好きだ、おまえが」
〝……知ってるよ〟
「ふふ、そうか」
〝妃和〟
「なんだ?」
〝愛してるぜ、馬鹿野郎〟
「――ははっ。照れているのか。可愛いところもあるじゃないか」
〝うるせーボケ〟
首に巻かれた赤い襤褸切れ。
落ち着いた色の服装と、荒々しさを際立たせたような刀。
本部襲撃を退けた功績を投げ捨てて、流浪の民となった変わり者。
――――五人目の聖剣使い、巴妃和。
司る概念は叛逆。
それは人々の想いを背負いながら裏切る、最新の権能――――
◇◆◇
西暦二一六一年。
異常なほどの寒さに包まれた二月――東京の冬。
本日の極東地域における出生数はイチ。
これにて連続の記録を途絶。
対する死亡数は確認できただけでも十を越えている。
昨日より数人増加、といったところ。
それもこれも寿命ではなく、戦闘による被害であるのだから笑えない。
――かつて七十億を越えていた世界人口は、いまやたったの四千人程度まで落ち着いた。
増えるばかりだった命はやがて消耗のスピードに追いつかれ、人類はいつかの未来だと思い描いていた衰退と減少の一途を辿った。
それもこれも、たったふたつの外的要因によるものだ。
ひとつは宇宙ソラから飛来した災害の如き異形の怪物たち。
瞬く間に文明を蹂躙したそれらは、かつての人間の大半を殺した絶滅の切欠だ。
決定打となったのはもうひとつ。
突如として地上の大気を汚染し、地球環境を変貌させた未知の粒子。
曰く、〝純潔の乙女以外に害を与える神秘のエネルギー〟。
これによって男性人口は急激に低下、さらには出生率まで低下し、種の継続は困難と判断される。
クローン技術や人工授精による研究も進められたが、どれも失敗のまま文明は半壊。
かくして人類はいつ終わるか分からない時代にありながら、風前の灯火みたいに辛うじて生き残っていた。
……要は、これはそういう時代の話。
もはや終わるしかないと信じて疑われなかった、終末のテクスチャに縛られた未来の物語。
――そして、向かい風の環境に真っ向から刃向かった、ひとりの馬鹿の叛逆劇。
さあ、これより祝福を繋いでいこう。
その名は――――――
ということで長らくお付き合いありがとうございました。ようやく一区切りでございます。くぅ疲以下略
はい。完走した感想ですがマジでこれ長いのなんなの(真顔)って感じでゴリゴリ精神力削れていく作品でした。書きたいコトが……書きたいコトが多すぎる……!
まあ結局好きなように書けばいいだろ! の精神で筆を走らせたワケですが。なんだかんだ書いてるときは楽しいからネ……! 仕方ないネ……! ウン。中毒だこれ。
そんなこんなでとりわけ好き勝手やりました拙作です。折角産み落としたものなので手入れはしてあげたいなーって感じでいつかは二部やると思います。肝心のプロット? HAHAHA! 武器がなきゃ戦えないんだ……すまない……
ともかく今作は一旦完結にて、また別の作品か続き書いたときにお時間いただけますと幸いです。この度は誠にありがとうございました。
いや本当もう毎日投稿とかしない。絶対(鋼の意思)