<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
彼について私は何も知らんのです
■【閃光術師】フォール
準〈超級〉と持ち上げられていようと、フォールは己の実力をそれほど高く見ていない。
あくまで自分の領土は空の上。
こうして地面の上に立っているうちは、ただの【閃光術師】だ。
エンブリオの力は全くといっていいほど使い物にならないだろう。
「時間稼ぎのつもりか? 自己犠牲のつもりなら諦めろ。貴様程度、遊戯にもならん」
眼前にいるローガンは強敵だ。
彼我の実力差を考えるならば、あの軍勢を自身に差し向けられた瞬間に何の抵抗も出来ずにフォールは死ぬだろうと理解している。
「そうでしょうね。残念ながら私では貴方に勝てません」
「それが分かっているなら。貴様は何故そこに立つ」
心底理解できないといった顔をするローガン。
「この村に思い入れでもあったか? ああ、さては寂れた村に宝でも隠していたか? それは悪いことをした。俺達が全て壊してしまったからな」
「……さて。宝と言えるほど私と彼らの間に絆があったわけではありませんが」
だが、とフォールは思い出す。
ゴブリンの群れを退けたと知った時の彼らの嬉しそうな顔を。
単なる商売相手であった。
クランオーナーであるケイデンスが過去に仕入れていた果実の生産地であっただけだ。
それなのに……何故こうも腹が立っているのだろう。
何故、彼らの顔を思い出してしまうのだろう。
「正直、絆というなら私よりも彼らの方が結んでいたのでしょうけどね」
「……? 何を言っている」
それでも。
それでも、フォールは確信している。
滞在時間が短く、会話も少なく、あの戦いにおける自分の貢献度なんていくらでも無いだろうが。
「彼らの命が奪われていいわけじゃないんだ」
村人のために怒る権利はあるのだ。
「来なさい、ローガン・ゴッドハルト」
「……フン。格の違いを見せてやろう」
フォールの顔つきが変わったのを、ローガンは鼻で笑う。
いくら決意を固めようと、力の差は埋まらない。
〈超級〉と上級エンブリオ。
超級職と上級職。
いくらでも隔たりはある。
幾枚も壁はある。
「格の違い。いいでしょう。人の格というのであれば、私の方が上というのを見せましょう。……なぜなら、すぐに貴方は地に伏せるからです」
「……よくぞ吼えた! ならばその減らず口に相応しい死を見せてやろう!」
ローガンの手勢である悪魔は500体。
これは、見える範囲でというだけの数だ。
更に上空に400体の悪魔がいる。
地上、空中の2つから900体の悪魔が強襲してくる。
「……助かりました」
ああ、本当に助かったとフォールは心の底から思う。
上空に悪魔がいるのは知っていた。
これでも対空中のエキスパートだ。
真っ先に上空の戦力を確認している。
故に、フォールの脅威は地上にいる悪魔のみ。
こちらに襲われたらひとたまりもない。
そう思っていた。
「貴方の召喚スキル。どうやら噂に違わず同時に1000体を召喚するようですね」
「今更命乞いか! 遅い!」
強化された同個体の悪魔を同時に1000体召喚する。
それは【魔将軍】ローガンの強みであり、同時にフォールからしてみれば弱点であった。
「《誘幻灯》」
悪魔はいずれも亜竜級モンスターに匹敵するステータスを持つ。
口からは火の礫を放つ。
ローガンの指揮の下、1000体が同時に動き出す。
そして、空を飛ぶ力を持っている。
故に、フォールでも対抗策が打てる。
上空数十mほどの高さに光が浮かび上がる。
その光は決して眩い光を放たない。
静かに、ただそこに光として有るだけだ。
【閃光術師】という名に反して、閃光も爆音も無いこのスキル。
その効果は光を見た者に疑似的な【魅了】状態を付与するというもの。
光に吸い寄せられる羽虫のように、見た対象は光へと吸い寄せられる。
上空に出現した光を目指し、レジストに失敗した悪魔達は飛び立ち始める。
「……なっ!?」
ローガンは驚くが、対するフォールの顔は渋いものだ。
「(……ローガンは巻き込めませんでしたか)」
流石に、そこまでの成果は期待していなかった。
だが、あわよくばという期待が無かったわけではない。
「ですが、これで終わりです! 《
悪魔達は気づかない。
《誘幻灯》により生み出された光のすぐ後ろに、もう一つの光源があることに。
否、近づくにつれ眩しくなっているのは、光が手の届く範囲に来ているのだと錯覚しているのだ。
そして、もうすぐ光に触れようとした時――
「――『ジャッジ』」
悪魔達に【飛行禁止】の状態異常が課され、一斉に墜落し始める。
フォールのエンブリオである【天空審判 イカロス】の必殺スキル、《
彼の前で飛行は許されない。
ぼとぼとと、900体余りの悪魔達が地面へと落下していく。
「……これで。後は貴方だけです!」
悪魔達が地面へ転がる中、フォールはローガンへと【閃光術師】奥義である《グリント・パイル》を放つ。
必殺スキルの発動と《誘幻灯》を使い、MPもそう残されていない。
残り全てをこの一撃にかけ、放つ。
一度も顔を合わせたことが無かった。
だが、フォールは村の皆に名を知られており、歓迎された。
神とまではいかないが、命の恩人とばかりに拝まれた。
彼らは死んでいい者達では無かった。
彼らは懸命に生きていた。
彼らは――
「彼らは、〈ティアン〉は、人なんだ!」
フォールの放つ《グリント・パイル》はステータスがそう高くも無い【魔将軍】にまともに当たれば倒し切れる一撃であっただろう。
倒せずとも、ブローチは破壊出来る程の威力だ。
「人? ああ、そうだな。NPCだって立派な人だ。俺の強さを引合いに出すのにこれ以上ない立派な人柱だ」
転がっていた悪魔達が一斉に起き出し、ローガンと《グリント・パイル》の間に割り込む。
十数体の悪魔が消滅していくが、900の数からすれば端数のうちだ。
たったそれだけの被害を出して、フォールの奥義はあっさりと止められた。
「どれほどのものかと期待したが、結局は児戯に等しいお遊びのような必殺スキルであったな」
高さが足りなかった。
たかが上空数十mから落ちた程度で悪魔は死なない。
無論、ダメージは大きいだろう。
だが、ダメージがいくらあろうと、死ぬまで悪魔達はローガンに従うし、動きを止めることは無い。
「……そん、な」
MPも無い。
必殺スキルもたとえ再度使えたとしても、先ほど以上の効果は認めない。
「ああ、良いぞ。その顔だ」
ローガンは笑う。
いつも、いつもそうだ。
最初は工夫すれば実力差を埋められる、同じ人間なのだから勝つ可能性だってゼロじゃないと立ち向かってきた愚かな者達を思い出す。
だから勝てないのだと、ローガンは思う。
勝ちたいのならば、勝てる強さになればいいだけだ。
ステータスを強くする、強力なスキルを覚える。
超級職に就く、エンブリオを進化させる。
いくらだって強くなれる手段はある。
だが、気持ちだとか、策だとか、そんな曖昧なもので勝利を見出そうとする愚かな連中は一定数存在する。
馬鹿馬鹿しい。
ローガンは親切にも教えてやっているのだ。
勝ちたいのなら強くなればいい。
この俺のように、と。
「俺の強さの前にひれ伏す。絶望の顔こそ、悪役に相応しい。勇敢なる俺は広めよう。幻覚を使い悪魔を惑わした卑劣な敵を、俺はこの剣で貫いた、と」
悪魔達に身体を抑えつけられたフォールは動けない。
倒せた悪魔は20体にも満たず。
ローガンの身に着けるブローチも壊せず。
しかし自身はMPの全てを使い切ってしまった。
これが〈超級〉。これが超級職。
ただ、何もできなかった無力感のままにローガンの剣に貫かれ、消滅していった。
勝手な想像で原作キャラを動かすのは気が重いので
早めに退場願いました