<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【神子】カゲツについて
【神子】はいずれも、何らかの形で自身の神……UBMに関心を抱いている。
ミオギであれば、グラスコードに対し母のような慈しみを以て、子に捧げる愛情に等しい感情を向けていた。
ドラゲイルに近づいた老婆は、純粋に崇拝していた。UBMは強大で、故に人間が勝てる存在ではない。賛美と畏怖を抱いて接するべきであると考え、そしてドラゲイルに殺された。
他の【神子】達も、それぞれがそれぞれの感情を神に向けている。
その感情こそが【神子】の力。
UBMを神へと昇華させる力なのである。
では、カゲツはUBMにどのような感情を抱いていたのだろう。
彼女は神を崇拝しない。
彼女は神を愛さない。
彼女は神を恐れない。
彼女は神を知らない。
カゲツという女は神に成りたかった。
カゲツという女にとって、【神子】というジョブは自身が神に至る手段であった。
高位たる存在に至りたい。
神の如く力を得たい。
自身を崇拝し、自身を愛し、自身に絶対の自信を抱き、自身のみしか知らない。
要するに、カゲツという女は自己を陶酔する自己愛者に過ぎなかった。
故に彼女はトロ・ポストックという人物も、【永遠偶人 クレハドール】というUBMも、大して知らない。
無論、クレハドールの記録を覗けば知れるだろう。
だが、彼女はそこに価値があるとは思わない。
所詮、自身では無いのだ。
トロもクレハドールも、自身を隠すために都合よく使っていた存在。
今はもう自身が表に出ており、トロの記憶も感情も、クレハドールの記録も無駄にすぎない。
カゲツを構成する何かのストレージを圧迫しているのであれば、消し去ってもいいくらいだと思っている。
「あ、あああああああああああああああ!?!?」
カゲツの全身が金属化していく。
柔軟に動いていた筋肉も、関節も、軋み、錆び付いたかのように動きが鈍る。
まるで壊れかけたブリキの玩具のように、動けなくなる。
「か、神に! お俺の力が神に近づいている証拠か!?」
カゲツはこれを人間離れしている……つまりは神へと昇華している最中なのではないかと錯覚する。
試練なのだと。
進化の途中なのだと。
自分本位に解釈する。
だから、思い至らない。
トロとクレハ。この夫婦がどれだけ愛し合っていたのかも。
クレハドールに成ってすら、彼らがどれだけ互いを思い合っていたのかも。
死ぬ寸前ですら……いや、死んですらも彼らの愛は生きている。
それを奇跡と呼ばないのであれば、愛が残した結果と言えよう。
カゲツにとっては致命的な欠陥に過ぎないのだが。
■【永遠火月 クレハドール】について
クリアントの使うマッドラップスの毒はクレハドールの肉体にも作用していた。
全身にこそ回らなかったが、その毒の浸食はクレハドールにも通用していた。
結果的に腕にしか回らなかったが。
その腕もすでに取り外されているが。
だが、それ以前に毒はクレハドールの全身を侵していたのだ。
クリアントの毒とは全く違う毒。
クレハドールの根幹に関わるものを蝕む毒が。
その毒は、欠陥。
クレハドールが、カゲツが自ら取り込んでしまった欠陥である。
カゲツが《神化論》という、リソースを取り込むことで急速に力を得るスキルは確かに発動していた。
所有物をリソースとして取り込む力は、まず『赤砂の剣』に発動した。
これ自体は良かった。
剣は剣だ。純粋な戦闘能力を引き上げるのに十分であった。
だが、欲張りすぎたのだ。
『赤砂の剣』だけであれば、伝説級に進化していたカゲツだが、更に古代伝説級にまで至ろうと、2つ目のリソースに手を出した。
剣の他にカゲツが所有していたリソース。
カゲツが……カゲツと同化しているに近い存在であるトロが所有していたリソースが地面の下にあった。
人形を作り出し、人形を使役する《人形牧場》というスキル。
この力で、地下に潜んでいたリソースと繋がった。
それは、トロが作り出した人形。
そして、クレハが【魔我代陶 ハヌワ】という特典武具を使い、創造モンスター扱いとなった人形である。
クレハは死ぬ前に、地下に残した人形に指令を与えていた。
どうか、トロを守って欲しいと。
クレハドールの力を振るわせないようにして欲しい、と。
地下に残した人形20体にそう言い残した。
それを使えば、クレハは生き残れていたかもしれない。
だが、クレハは使わなかった。
生き残ったところで、別の場所でトロが襲われていれば何の意味も無いから。
トロのために生きているのに、人生を捧げてきたのに、自身だけが生き残る意味は無いのだから。
故に、クレハは死んだ。
そして、トロの精神はクレハの死を悟り死んだ。
クレハは理解していなかった。
クレハドールの中に生きるトロの心がそれほどまでにクレハを必要としていたことに。
まさしく一心同体と言うべきだろう。
どちらかが死ねばもう片方も死ぬ。
それを体現し、クレハとトロの夫婦は共に死んだ。
だが、それでも残されたものはあった。
地下にある、トロの肉体を守るために待機していた20体の人形が。
トロからクレハドールへ、そしてカゲツへと変化したが、人形は彼女を守る理由は無い。
それでも、《人形牧場》のせいで繋がりがあった。
トロの為に残された人形は、カゲツの進化の為に使われた。
それこそがカゲツにとっての猛毒。
リソースとして取り込まれた人形は、トロを守るため……トロの心を守るために、トロの全てをカゲツから分断した。
分断、と言うよりも保護だろうか。
カゲツの中にソレは確かに残されている。
だが、カゲツには手出し出来なくなった。
トロ及び、クレハドールの力がカゲツには使えなくなった。
カゲツには理解できない。
何故、地下に人形が……それも進化に足りえるリソースを蓄えた人形があったのかを。
何故、自身が人形と繋がっていたのかを。
理解できないまま、毒を自ら取り込んだカゲツはUBMの力の大半を失い、ステータスの高い煌玉兵となった。
尤も、ステータスが多少高いところでまともに動けなければ強さなど無いに等しいのだが。
■【深潜水士】クリアント
「……何が起こっているのか分からないけど」
「チャンスみたいですね」
炎が消え、動けなくなっているカゲツを見て、クリアントは勝機を見出す。
「では先輩、さっそく自さ――」
「今ならマッドラップスの毒も効果あるんじゃ?」
と、毒に侵された自らの身体をカゲツへと押し当てた。
「……うー」
「そう怒るなよ」
せっかくの必殺スキル習得のチャンスの前に別の手段を講じようとしたクリアントに、ワンプは不機嫌そうな唸り声を出す。
「ほら、毒は効かないみたいだからさ。ワンプの必殺スキルを使おうぜ?」
不思議なことに……では無いのだろう。
人間らしさが消えたことで、毒も効かなくなったらしい。
カゲツの表面が金属化したということは、生物特化の毒も効果が薄くなったということ。
「ちなみに剣の方は……折れた」
防御力はかなり上昇しているようだ。
剣を振り下ろすと、カゲツに微塵の傷も付けずに折れてしまった。
「え、ちょっと先輩! 剣を壊しちゃ自殺出来ないじゃないですか!」
「……あ」
うっかり、といった顔でクリアントはワンプに謝る。
「ごめんごめん……というか、まだ武器はあるぞ。短剣も、斧も。どれがいい?」
「水没死とかいいんじゃないでしょうか」
ふん、という声がワンプから聞こえてくる。
どうもクリアントはふざけすぎたらしいと反省する。
「水の中で死ぬのはもうたくさん味わったけどなぁ……」
思い出しながら、新たな武器を装備しようとアイテムボックスの中を確認する。
「……?」
と、ふと気づいた。
すでにクリアントの手の中に一つの武器が握られていたことに。
「細剣……?」
それは針のように先の鋭い剣であった。
横からの衝撃であっさりと折れてしまいかねないような、細く鋭い剣。
刺突にしか向かないような剣が、いつの間にかクリアントの手に握られていたのだ。
「……ワンプ」
「……はい。……何でしょう、これ」
いや、と装備欄を見てクリアントは気づく。
防具が無くなっているのだ。
これまでの戦いで頼もしい活躍をして見せた【孤毒鎧 マッドラップス】という鎧が。
「……マッドラップス?」
その呟きに呼応するかのように、細剣に光が反射した。
黒い刀身が陽の光を鈍く反射する。
「これは……先輩、マッドラップスのスキルの確認を!」
「だな」
手にした細剣を装備欄から見れば、やはり【孤毒鎧 マッドラップス】と記されていた。
鎧……という名だが、細剣だ。
「これか……! 新しいスキルが出ているな。《処死貫鉄》……」
「鉄をも貫いて、死を与えるって意味でしょうか」
そのスキルの内容は、貫通。
鎧が形態変化したこの細剣は貫くことに特化した力を持っているようだ。
「……地味?」
ワンプの声に抗議するように、細剣がギラギラと光り、クリアントの目を潰す。
「うおっ!? 眩しっ」
「私の目も!? うわぁっ!?」
「地味じゃない、地味じゃない! 良い能力だと俺は思うぞ!」
クリアントの言葉に、細剣が反射する光も他の方向へ向く。
「……あー、そういやマッドラップスの針って鎧とか貫くって話あったよな」
「それがそのまま2つ目のスキルになったんですね。伏線にしては昔過ぎません?」
本当に忘れた頃にというやつだ。
だが、毒の方といい、相手の防御力を無視してダメージを与えられることはクリアントにとってありがたい。
「俺のステータスの低さを補ってくれるもんな」
「……んん? 待ってください! 先輩、もしかして……!?」
クリアントは細剣を手にカゲツへと近づく。
「かかかか神にぃぃぃぃ!」
変わらず、動けないまま神と叫ぶカゲツの胸に細剣の先を押し当てる。
そのまま力を入れると、何の抵抗も無く細剣はカゲツの胸へと吸い込まれていく。
「ああああああああああああああああああ!?!? や、やめろ! 俺の神の力がぁぁぁぁぁ」
「止めてください先輩ぃぃぃぃ! 私の必殺スキルがぁぁぁぁぁ」
2人の叫び声を聞きながら、クリアントはカゲツの胸から細剣を抜き、次に喉、頭部などを貫いていく。
いくら負傷部が小さいからと言って、急所を貫かれていくためダメージは大きい。
そして、どこかのタイミングでコアか何かを貫いたのだろう。
急速にカゲツのHPは減っていき……ゼロになった。
「あああああああああああああ」
「先輩ぃぃぃぃぃぃぃ」
叫んだまま消滅していくカゲツと、クリアントの脳内で叫んだままのワンプ。
「……というか、誰だったんだろう。本当に」
クリアントはカゲツに対し、そんなことを思ったまま――
【<UBM>【永遠火月 クレハドール】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【クリアント】がMVPに選出されました】
【【クリアント】にMVP特典【永遠欠界 クレハドール】を贈与します】
特典武具の取得に喜んでいるのであった。
細剣も心なしか良くやったとクリアントを褒めているように感じる。
「ちょぉぉぉっと? 先輩?」
「あ、そうだった。必殺スキルだったな」
悪いと一言謝りつつ、クリアントは細剣で自身の胸を一突きする。
「……え?」
「ほら、これで死んだ、だろ?」
心臓という急所を貫かれ、クリアントのHPはゼロになる。
「ちょ、そんな雑な必殺スキルの習得が……出来ました」
細剣からは困惑したような感情が伝わった気がしてくる。
「万事解決」
「……うーん。結果オーライ……なんでしょうか」
「まあ、必殺スキルの方もどこかでお披露目は出来るだろ」
残りストックは3回。
それだけ残して、UBMを倒すことが出来た。
その場にいた意思を持つ者の中で唯一クリアントだけが満足な感情を持ち、仲間を探すべく走り出した。
必殺スキルを試すべく。
祝! 必殺スキル習得!
でも倒したのは特典武具スキルだよ
何だったら倒した後に無理やり習得したよ