<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【問王】パリドーネ
愛は全てを解決する。
『解決する』というのは、事態の解決。そして、問題に結論を付けること。
疑問を解決する、という言葉もある。
つまり、愛は本当に解決するのだ。
事態も、疑問も、何もかもは愛があれば解決という終わりを迎える。
愛は始まりであると同時に終わり。
始まりから終わりまで愛は全てを包み込む。
愛なくしては何も語れない。
始まりから終わりまで。
事態と疑問。
時間的にも、空間的にも、愛は全てにおいて作用する。
「だから、愛は無敵なんだよ!」
長い答えの後に、そうクャントルスカは締めくくった。
「……まったく質問の答えになっていませんが」
「そうかなあ?」
首を傾げるクャントルスカ。
「気にすることないわ、クャントルスカ。愛は理解してもらうものではないもの」
「そっか! 愛は共有するものだもんね!」
「……」
何を言っているんだろう。
そのような目でパリドーネはクャントルスカを見る。
「……再度、同じ質問をします」
『無駄だと思うけどなぁ?』
パリドーネの脳内に少年の声が響く。
彼は決してパリドーネの味方ではない。
ただ中立の立場として、パリドーネに声を届けているだけだ。
「【魔法☆少女】クャントルスカ。貴方は先ほどの私の質問――無人島に持っていくならという質問に対し、愛と答えた。ならば、無人島において愛はどれほど有用なのか。答えてください」
『質問を認めます。制限時間は5秒』
『同じ答えが返ってくるだけだと思うけどなあ? 俺も5秒でいいや』
その問いかけに対し、2つの声が追随する。
「有用とか、無用とかじゃないんだって! 愛があれば無敵! なんでもできるの!」
『正当と捉えます』
『ふーん? ま、いいんじゃねえの』
ステータスの変動は起こらない。
これもまた、正解であるとパリドーネ自身の奥深くが認めてしまっていた。
「さ、先ほどから答えが概念過ぎます! もっと、こう……実用性に富んだ返答を!」
「えぇー……欲張りだなぁパリドーネちゃんは」
パリドーネは自身から攻撃を仕掛けない。
ステータスはこの時点でクャントルスカの方が上。
切り札を使えばそれも覆せるだろうが、今は質問を重ねることでパリドーネ自身のステータスアップと、クャントルスカのステータスダウンを狙っている。
都合の良いことにクャントルスカもまた戦闘の中で会話を楽しむタイプであった。
彼女自身、戦う相手を知りたいという気持ちから戦闘を即座に終わらせることも無い。
「まあ、いっか。愛っていうのは欲張りだからね」
「……私が? 欲張り? 愛?」
「うん! だって、人はみんな愛を持っているんだよ! 誰かにあげたり、誰かから貰ったり! 愛を分け合って……共有しているんだから!」
分からない。
パリドーネにはクャントルスカが何を言っているのか分からない。
ただ、このままではクャントルスカのステータスを削れないだろうことは分かっていた。
「それよりも私は貴方のことが知りたいな。愛したいな。パリドーネちゃんはそんなにみんなに質問してどうするのかな?」
クャントルスカの問いかけに、パリドーネは『しまった』と動きを止める。
悠長に会話を続けてしまったせいか。
それとも、本当にクャントルスカ自身のことを知りたいと思ってしまったのか。
数瞬置いて、何も起こらないことを確認するとパリドーネは内心息を吐きながら答える。
「……世界には未知が溢れています。人の思考の数だけ未知があります。それを模索し、尋ね、知ることで、きっと私は人間として完成する」
恐らくはレシーブも、だろうとパリドーネはどこかで戦う仲間の少女を思い浮かべる。
彼女もきっと自分と同じく完成された人間を目指している。
目指し方は違えど、その思考は同じ欠陥だらけの人間として理解できる、と。
「人間? 完成? 良く分からないなぁ」
それはお前のことだ、とパリドーネは思うが口に出さない。
年下の少女を相手にし、そこまで感情をあらわにすることはない。
「ええと、実用性だっけ」
「……?」
何を言い始めたのだろう。
疑念の表情を浮かべたパリドーネであったが、すぐに先ほど自分が問いかけた質問の返答であることに気づく。
あれもまた、《問答有用》が発動されていない、パリドーネが答えを持ち合わせていない問いかけであった。
これは純粋なパリドーネの問いかけ。
本当に答えを知らない問いかけだ。
「そうだなぁ……好きになれば毎日が楽しいよ。幸せだよ。好きになった人を思い浮かべて、何をしているのかなって想像して。会えたらとっても嬉しくて。それでお互いに好きなことを知れた時は――」
クャントルスカの言葉を聞き、パリドーネは目の前の少女が自分とは全く違う道に生きる生物であると察する。
全てにおいて愛が優先されると信じて疑わないのだろう。
愛さえあればいいと。
好きになっていればいいと。
そう錯覚し、ここまで生きてきた。
他の何をも瞳に映さず生きてきた。
「……理解しました」
「ん? だから、愛っていうのは理解じゃなくて共有するものなんだって――」
「貴方という人間を理解しました」
これ以上、愛に関する質問は無用。
それは全てクャントルスカ独自の世界観に基づいた返答をされるだけだ。
そして、それをパリドーネも否定しきれず正当としてしまう。
パリドーネは欠陥だらけの人間。
愛を知らない人間なのだから。
そのあたりはレシーブの方がまだ愛に満ち溢れているのだろう。
そうでなければ、【動物王】で無いだろうし、あれだけの数のモンスターに囲まれて楽しそうに出来ない。
「よって、私はこれから貴方に対する質問を全て正当あるものだけに絞ります。概念ではなく、確固たる答えのあるものを質問として用意します」
地理、算術、歴史……質問というよりもクイズに近い。
だが、それらも《問答有用》の範囲内。
むしろ、答えが一つしか無いだけ制限時間も短いし、誤答を導きやすい。
「では――」
「あ、待って。その前に」
「……?」
クャントルスカがパリドーネの質問を止める。
いや、止めるべきなのだ。
それが正解だ。
律義に質問に付き合う意味など無い。
外れればデメリットが待ち受けているが、正当出来たところでメリットなんてものは無い。
質問の前に倒す。
それが本来、パリドーネと向かい合った者がすべき行動だ。
「パリドーネちゃん、もう1人いるでしょ? 紹介してよ」
「……」
もう一人。
心当たりは、勿論ある。
パリドーネの脳内に、そしてパリドーネに質問をされた者に聞こえる声。
《問答有用》とは別に、相手のステータスを下げていた者が、パリドーネのすぐそばにいた。
「……いいでしょう」
どのみち、知られたところで痛くない。
今はまだ中立である彼を知られたところで、敵に回るわけでは無いのだ。
「……スフィ。出てきてください」
『お? なんだ随分としおらしく従うじゃねえか』
パリドーネの背から小さい猫のような生物が肩へと昇る。
少年のような声をしたソレはパリドーネの肩からクャントルスカを見つけると、
『よっ! 元気してるか? パリドーネの奴、口下手だし友達いないから話し方分からないだしで、話す方も疲れるだろうけど。良くしてやってくれよ』
「……だから嫌だったのですが。貴方を表に出すのは」
猫……ではなく、獅子の体躯だ。翼の生えた小さな獅子。
その口からは少年のような声が出ている。
「……【難問命題 スフィンクス】。彼が私のエンブリオです」
TYPE:テリトリー・ガーディアン。
モチーフとなったスフィンクスの逸話のように、答えに窮した者を害する能力を持っている。
《問答有用》による自己バフと、スフィンクスによるデバフ。
この2つを組み合わせることこそが、パリドーネの戦い方の真骨頂。
「スフィンクス、かぁ」
クャントルスカは嬉しそうに目を細める。
そういえば、とパリドーネはクャントルスカのエンブリオらしき隣に浮かぶ少女を見る。
彼女もまた、背に翼を生やしている。
「……ちなみに。質問なのですが」
「なにかな?」
「貴方のエンブリオの名を聞いても?」
パリドーネが答えを知らないため、《問答有用》は発動しない。
スフィンクスもにやにやと笑っているだけだ。
「そうだね。まだ言ってなかったね」
笑顔でクャントルスカは隣の少女に抱き着く。
「モーちゃんだよ! 【未恋乙女 モー・ショボー】って言う名前なの!」
「よろしくね」
問いかけるという平和なやり取りも無く、ただ好きな相手を喰らう獰猛かつ悲壮な魔物。
「……スフィンクス」
『あいよ』
そんなエピソードを思い出すと、パリドーネはスフィンクスに合図を送る。
相手は性格も言葉もエンブリオも滅茶苦茶な人物だ。
会話をしている場合ではない。
質問で倒せないのならば、力で倒す。
そう、切り札を使わなければ倒せない相手だ。
パリドーネは30分くらい質問をしていました。
その答えのほとんどが「愛で解決できるね!」でした。
パリドーネは何も悪くない。
狂人と会話してはいけないだけだったのだ。