<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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96話 愛ある質問 3

■【難問命題 スフィンクス】について

 

 TYPE:テリトリー・ガーディアンであるこのエンブリオは、しかしガーディアンとしての要素はほとんど無い。

 触れはする。

 攻撃は出来る。

 攻撃から身を防ぐことは出来る。

 ガーディアンらしく、実体のあるエンブリオだ。

 

 だが、その性格上……というか性能上、スフィンクスは主であるパリドーネの味方であるとは限らない。

 彼は主の敵を攻撃しない。

 彼は主の身を護らない。

 

 彼はただそこにいるだけだ。

 そこにいて、スキルを発動するだけ。

 

 そのスキルはテリトリーらしく、主を含めた範囲内の人物に効力を及ぼす。

 そこに主の意思は介さない。

 ただ、問いがあったときにスキルをの効果を発動するだけだ。

 

 スフィンクスのスキルは必殺スキルを含めて2つのみ。

 1つ目は《難考不楽》。

 スフィンクスの支配する領域内において、問われた対象の答えが不正解であった場合に、そのステータスを1割下げるというものだ。

 ステータス異常であるが、制限系のどの状態異常にも当てはまらず、専用に防ぐアイテムは無い。

 そのため、【健常のカメオ】といった全ての状態異常に効果のあるアイテムしかこのステータス低下という状態異常を治す術はない。

 

 一回の不正解で1割、2回で2割……と、10回の不正解で全ステータスが0になるという仕様であるが、パリドーネは2回以上ステータスが減少した相手を見たことが無かった。

 

 その理由は主に2つ。

 まず、言葉が通じなければこのスキルは通じない。

 質問の意図が伝わっていない時点で問いかけはただの音になる。

 そのため、相互に認識した言語を使わなければならないのだ。

 モンスターのほとんどが言語が通じないため、パリドーネのモンスター相手の戦勝歴が低いのはこのためだ。

 次に、質問を繰り返すうちに、相手は無視すれば良いという解決策を見つける。

 質問に対する制限時間はスフィンクスが決める。

 短くて5秒、長くて1分程度だろうか。

 その間にパリドーネ本体へ攻撃され、低ステータスのパリドーネは倒されてしまう。

 一見、【問王】の《問答有用》と組み合わせれば自身のステータスを上げつつ、相手のステータスを下げられるというコンボを決められるシナジーを作れそうであるが、この制限時間がある限り、パリドーネの質問は未回答のまま戦闘が終了してしまうのだ。

 

 この問題の大きな点としては、スフィンクスのテリトリー要素が強いという点だ。

 スフィンクスがガーディアンとして、主であるパリドーネを護衛できるのであれば、その制限時間をパリドーネが生き延びることも出来るだろう。

 不正解を狙うのではなく、時間制限を狙う。

 それによって、パリドーネと相手のステータス差を埋めつつ、どころか追い越していく戦い方も期待出来よう。

 

 知りたい。

 質問をしたい。

 

 その願望によって生み出されたスフィンクスだが、その願いは叶うことなく、無視され攻撃されてしまうということが多くなる。

 

 だからだろう。

 2つ目のスキル――必殺スキルがガーディアンとしての力を強大にさせたのは。

 

 必殺スキル《問おう、生きるとは何か(スフィンクス)》。

 まず、大幅に引き上げられたのはガーディアンとしての力。

 このスキルの発動中、質問に答えずに攻撃しようとした解答者はスフィンクスにより攻撃される。

 その際のスフィンクスのステータス基準はおおよそで、解答者の2倍。

 確実に質問者を守り、解答者を鎮圧するために劇的に引き上げられる。

 ガーディアンといいつつ、テリトリーが含まれている所以であろう。

 

 そして、解答者へのペナルティも必殺スキル発動中は重くなる。

 ステータスの1割どころではない。

 モチーフとなった逸話のように、不正解に対しては死に等しい罰が与えられる。

 その効果はレジスト困難な上で3つの中からランダムで与えられる。

 

 10秒後に確定の【死呪宣告】。

 【凍結】及び【麻痺】及び【石化】及び【飢餓】及び【盲目】。

 【猛毒】及び【恐怖】及び【脱力】及び【出血】及び全状態異常の中から1つ。

 

 この3つの中からランダムで1つである。

 1つ目であれば確実に死ぬ。

 2つ目であれば身動きが取れなくなり、目も見えず空腹で苦しむ。

 3つ目であれば動きづらくなったうえでHPが減少し、更に何かしらの状態異常で苦しむ。

 

 強力な必殺スキルだ。

 それだけに、欠点も多い。

 まず、この必殺スキルは100人に問いかけることで1回分のストックが溜まっていく。

 

 発動前にスフィンクスは5回と言った。

 つまり、500人に質問をすることでようやくその回数に至ったのだ。

 

 ここでその5回を使い切るかどうか。

 それはパリドーネの質問の内容次第だろう。

 5回もあれば十分とは、5回の質問のうち不正解を一度でも出させれば、まず勝てるだろう状況に持っていけること。

 特に、【死呪宣告】を見事に引き当てられれば。

 スフィンクスの逸話通り、不正解者に死を与えられるだろう。

 

 

 

 

■【問王】パリドーネ

 

「(……そのように旨い話があれば、ですが)」

 

 ストックという欠点によって発動自体が困難な必殺スキルであるが、パリドーネはそれ以上の大きな欠点を危惧していた。

 

「(……恐らくは気づかれていない、と思いたい。いえ、出来るなら質問したいところですが)」

 

 気づいていますか、などという質問がいかに馬鹿げているかは誰にでも分かる。

 だが、勝敗よりも知りたいという好奇心の勝るパリドーネにとっては葛藤するレベルで気になることだ。

 

「出来れば貴方には質問に答えてもらうことを願います。……まあ、攻撃しようとしたところで、スフィに抑えられることは明白ですが」

「そうなの?」

『ああ、俺がばっちり見守っているぜ?』

「《問おう、生きるとは何か(スフィンクス)》……1回目」

 

 スフィンクスはパリドーネの味方ではない。

 平等で、公平だ。

 スキルの発動権はパリドーネにあるが、その後は誰にでも分かるようにスキルを発動してしまう。

 

 すでに5回のストックという話はクャントルスカの前でしてしまっている。

 

『俺の記憶が正しければ、聞いてきたのはお前さんだったはずだが?』

「……」

 

 そういえばスフィンクスに問うてしまっていた。

 まともに答えの返ってくる質問をしたかったからだろう。

 

 5回もある、とはいえ5回きり。

 

 パリドーネは知識と記憶から出来るだけ難解な質問を捻りだす。

 互いにとって共通知識に成り得る、そして答えに困惑するような質問を。

 

「【魔法☆少女】クャントルスカ。質問があります。――という国の首都は何でしょう」

 

 それは世界で5番目に面積が小さく、3番目に人口の少ない国。

 1番目なら知っているだろう。

 2番目でも聞いたことがあるだろう。

 

 だが、パリドーネが出した質問にある国はメディアにもあまり出ない国。

 それこそ教科書の隅にでも載っているかどうかの国の……それも首都。

 

『質問を認めます。制限時間は1分』

『随分と理解不能な質問が来たなぁ。可哀そうだし、俺も1分だな』

 

 《問答有用》とスフィンクス、その両者が最長の1分であると認めた。

 つまりは、最も難易度が高い問題であると認められたようなものだ。

 

「――だよね?」

 

 だが、1分どころか、10秒もかからずにクャントルスカはその名を答えた。

 

「……は?」

 

 正解だ。

 一言一句、発音さえ完璧にクャントルスカはその都市の名を答えた。

 

「あら。知っていたのね、クャントルスカ」

「うん。そこに住んでいる子と文通しているんだ」

「……運のいい」

 

 なるほど、運良く答えられてしまったようだ。

 答えを知っている問題を出してしまった。

 それはパリドーネの完全な落ち度だろう。

 

「では次の質問……今年世界で最も売れなかった曲名は?」

『質問を認めます。制限時間は1分』

『随分と理解不能な質問が来たなぁ。可哀そうだし、俺も1分だな』

 

 ならば、と全く違う方向からの問題を出す。

 

「――だよ!」

 

 だが、それもすぐに返される。

 

「恋愛ソングだからね! ばっちり!」

 

 そうだ、とパリドーネは後悔する。

 愛に関しては、目の前の狂人はパリドーネの上にいる。

 出来るだけ、愛に関係の無いものを質問にしなければ……

 

「1005×2874は?」

「2888370」

「……非常食の乾パンに氷砂糖が一緒にいれられているのは、糖分補給以外にどのような理由があるか」

「唾液が出やすいように、だっけ」

「――ッ」

 

 計算問題も、雑学もクャントルスカは答えてみせた。

 愛の入る余地など一切ないはずなのに。

 

「すごいわね、クャントルスカ」

「えへへ。授業で習ったとこで助かったよ」

 

 ……なるほど、そうか。

 パリドーネは理解する。

 相手は狂人かつ、自身と同じように記憶力に長けているのだろう。

 効率的に学ぶことが出来る人種なのだろう。

 

「で、では……――の定理式から得られる――の解は?」

 

 パリドーネですら答えるのに5分はかかるであろう問題。

 クャントルスカが見た目通りの年齢であるならば、まだ習っていないものであろう。

 

 これであれば――

 

『質問は認められません。制限時間に収まる問題を出してください』

『これは流石に意地悪が過ぎるんじゃねえのか?』

 

 だが、あろうことか《問答有用》とスフィンクスに問題を跳ね除けられた。

 

「……しまった」

 

 そうだ。

 制限時間は最長で1分。

 つまりは、パリドーネでも1分で答えられる問題で無ければならない。

 解が長すぎて1分を超える問題を、1分以内に答えることなど出来ない。

 

 そうして、パリドーネは焦りを見せ始めていた。

 相手は自身の土俵に乗っかっている。

 その上で、押されている。

 

「(……これで、5つ目の質問も正解であれば! スフィの護衛が無くなりクャントルスカが再び攻撃可能になる……!?)」

「……?」

 

 悩むパリドーネを見て、クャントルスカは何を思ったのか、にっこりと笑う。

 白く、一切の穢れの無い歯を見て、パリドーネは思わず最後の質問をしてしまった。

 

「……質問があります。人間の切歯は何本でしょう」

「8本だね」

 

 5つ目のストックを使い、《問おう、生きるとは何か(スフィンクス)》の効果が消えていく。

 

『あーあ、勿体無い』

「……」

 

 だが、あそこで焦って質問をしたのは、ある意味で正解であったとパリドーネは思う。

 何故なら、パリドーネからの質問を途切れさせてしまえば、次に起こることは明白だ。

 

「パリドーネちゃんとのお話、楽しいね。色んなことを聞いてくれて私も嬉しいよ!」

「……私は楽しくありませんが」

「そうかなぁ? なら、今度はパリドーネちゃんのことを聞かせてもらおうかな」

 

 何を聞かれたところで、パリドーネにとって有益なことは無い。

 

「(いえ、待ってください……! クャントルスカは私のことを聞くと言った。やはり……気づいて!?)」

「質問があるよ、パリドーネちゃんに」

 

 それは、パリドーネの常套句。

 それをそっくり真似されて、

 

「パリドーネちゃんにとって、愛って何かな?」

『ひっひひ。やられたなぁ? 制限時間は10秒だぜ』

 

 その瞬間、スフィンクスの《難考不楽》が発動する。

 質問者はクャントルスカ。

 解答者は……勿論パリドーネである。

 




Q:パリドーネはステータスが弱いのに何故全ての戦いで必殺スキルを発動して速攻で倒さないのか
A:ストックが必要になるから

ストックもしくはデメリット用意しないと、必殺スキルの打ち合いで終わっちゃうから考えておかないといけないぜ
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