<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
フォール君が死んだあたりが100話。どのみち主人公出てないのか……
■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ
「(モンスターを操作する力……軍団指揮系統のジョブ。生物系のモンスターしかいないところを見ると、【飼育王】や【畜産王】、あるいは……【動物王】といったところかな)」
モンスターを育てることに特化しているという【飼育王】や、育てて食料に変える【畜産王】よりも、動物を従えるということに重きを置いた【動物王】。
フィリップはレシーブの戦い方からある程度のあたりをつけていた。
「(それに……どう見ても育てたモンスターには見えない。そこらのモンスターを適当にかき集めた感が否めないね)」
数が多く、各々の持つスキルも数多あるのだろうが、そのどれもが周囲に生息するモンスターばかり。
更に、ジュエルからではなく、森や地面の下から出てきたところを見るに、やはり【動物王】で間違いないだろうとフィリップは確信していく。
「(極め付きはレシーブのモンスターに対する反応。モンスターが殺されても特に感情の揺らぎが無い。口では可哀そうだとか悲しいだとか言っているが、笑ったままだ)」
【動物王】は動物好きであっても個に対して愛情の無いものが就きやすいと聞いたことがある。
レシーブのモンスターを見る目はそういった動物全体に対する愛情、もしくは……
「(憐憫……かな? 卑下にも近い。要は従えるべき存在……下に見ているのだろうね)」
だが……と、【動物王】と仮定するならば、フィリップには一つの疑問が浮かぶ。
「(従えるモンスターは自身のステータス以下、という話は聞いたことがある)」
【動物王】に関する文献は多く残されている。
その理由は、その扱いづらさ。
【飼育王】や【畜産王】と違い、愛の少なさ故に、モンスターを戦闘に用いるために就く者が多い超級職であるが、伸びづらいステータスであるくせに、それ以下のモンスターしか従えることが出来ない。
長所とすれば、数に限りが無いという点だろう。
「(だが……いくら何でも数が多すぎる! 何故彼女は指揮を取れるんだ)」
【動物王】の従えるモンスターに制限があることに加えてもう一つ、最大の欠点。
それは、従えるモンスターが多くなるほど統率が取れなくなるということ。
ただ動物を周りに侍らすだけの、従魔ではなく放牧に近い状態になってしまうため、【動物王】は戦闘に向かないジョブであると言われていた。
「……いや、彼女自身が指揮をしなくてもいいのか。エンブリオがそれに長けたものであればいいだけなのだから」
LUKが低値であること、砲弾の回避、そして動物を従える……それに当てはまるエンブリオのモチーフ。
そこまで思考が至れば、後は候補は絞られてくる。
「(動物モチーフのガーディアン、かな。幸運悪運を象徴とする動物や幻獣がモチーフになったエンブリオなのだろうね)
そこから導き出される弱点は……
「(特に思いつかないのが困ったところだ。幸いなことに、そういう力を備えているガーディアンは直接的な戦闘力は無い傾向にある)」
純粋なガーディアンではなく、他のTYPEも持ち合わせているのだろうか。
「(……まあ、ここまでは私の予想なのだから外れている可能性もあるのだけど。そもそも【動物王】が確定しているわけではないし)」
と、レシーブの力を8割ほど憶測で正解しているフィリップは自嘲し苦笑する。
陸にいる時の彼女の自己肯定感は低い。
ノーチラスの力もほとんど使えず、長い間連れ添ってきた【深潜水士】もスキルの大半が意味を成さない。
残されているのは敵の力を推察する頭脳程度だろうが、それもフィリップは特別視していなかった。
「(……敵の力を暴けたところで倒せるかどうかは別だからね)」
だが、ここまでは推理出来た。
【動物王】とその欠点をカバーしているであろう幸運を象徴する類の指揮型エンブリオ。
だからどうした。
倒し方は思い浮かばない。
「(……だけど軍団指揮系のジョブに変わりはない。本体は弱いはずだ)」
あのモンスターの群れを突破し、レシーブを直接倒すしかない。
それしかフィリップにレシーブを倒す術はない。
「うん。やることが決まればスッキリだ」
さて、とまずは彼我の戦力の確認を行う。
レシーブ・キープ。
従えるモンスターは数こそ多いが1体1体が弱い。
だが、重なれば、フィリップを超えるステータスになることが厄介。
対するフィリップの持つものといえばノーチラスの砲台と【魔法少女ψ】のそこそこのステータスと固有能力。
「(……あれ? 本体が弱いと言っても私のステータスより高くないかい?)」
流石に超級職。
レベル上限が無いため、レベルさえ上げればステータスも伸びていく。
故に、たとえ伸びづらかろうが、上げ続けていれば上級職や下級職程度は超えられる。
「……これならレシーブはクャントルスカに相手をしてもらった方が良かったかもしれないね」
【魔法☆少女】になって日が浅いとはいえ、戦闘特化型超級職であるためステータスは高い。
すでに一万を超えるステータスである彼女であればモンスターを蹴散らしながらレシーブ本体も叩けただろう。
「……ああ、そうか」
ステータスですら下回っているフィリップでも、たった一度当てれば勝てる方法を見つける。
「クリアントなら真っ先に思いつく案なのだろうね。まったく、私はいつも躊躇してしまう。陸に上がった魚のように、何も出来ないことを実感させられてばかりだ」
■【動物王】レシーブ・キープ
「ん? ようやく走りだしましたかー」
砲撃を中断し、己の下へ駆け出すフィリップを見てレシーブはモンスターの配置を考える。
「まずは【マントルプギー】と【コココッカ】を前に出して」
分厚い脂肪に包まれた豚型モンスターと、嘴の鋭いニワトリ型モンスターをフィリップに向かわせる。
「あの子達なら時間稼ぎ出来ますからね」
それだけで勝てるとは思っていない。
あの砲弾の威力であれば、恐らくその2種のモンスターであっても殺されるはずだ。
「まあ、別にいくらでも代わりはいるんですけどね」
だが、その2種のモンスターが10匹ずついればどうだろう。
10匹の【マントルプギー】が砲弾を防いでいるうちに【コココッカ】の嘴で全身を貫く。
「うん。良いビジョンです。笑いが止まりません」
レシーブは笑みを浮かべる。
漫画で見た、美味しそうな料理を前にした時の少女の笑みだ。
「あ、やられちゃった。悲しいですね」
だが、【マントルプギー】は水で押し流され、無防備になった【コココッカ】の身体を砲弾が吹き飛ばしていく。
レシーブは即座に表情を切り替える。
父母や両親が死んだときの悲しい顔に。
フィリップが砲撃で無く、レシーブへ向かい走る。
つまりは、遠距離からの砲撃に意味は無いことをようやく理解したのだろう。
「だから私を直接、ですかー。あはは、そんなに感情任せな作戦、上手くいきっこないのに。……これだから動物風情は」
レシーブにとって脅威であるのは砲弾が当たることくらいだろう。
あの威力は死ぬ。
間違いなく、直撃すればHP全損は免れない。
「……まあ、当たった時の為に対応策くらいは考えていますけどねぇ」
感情を抜きにして。
理論だけで組み立てた策だ。
「……へぇ。そんな形をしていたんですかぁ」
と、レシーブは感心してみせたような表情を作る。
泣けると評判の親子の愛情を表したドラマの中で父親役の俳優が子役に向けていた表情だ。
「まあ、やってみたらいいんじゃないですかねぇ」
巨大な潜水艦を目にしても尚、レシーブの表情は崩れない。
感情から切断された表情は余裕の表情を浮かべる。
「《
ゆっくりと潜水艦が動き出す。
地上においてスクリューは無駄に空を切り、推進力がほぼ皆無な状態で、無理やりにレシーブを目掛けて進む。
「どうせ私の力を理解していないのでしょうから。破れかぶれだなんて、やはり獣ですねぇ」