<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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101話 感情の使役者 4

■【動物王】レシーブ・キープ

 

「……?」

 

 その潜水艦は圧倒的な速度でレシーブを潰しに、あるいはこれまでとは比にならない数の砲撃でレシーブを吹き飛ばすのだと思っていた。

 それならば、レシーブを殺せただろう。

 巨大な質量で潰されれば、何で防ごうとも死ぬ。

 数発ならともかく、数百発の砲撃の中で生き延びることも出来ない。

 あるいは、潜水艦という名の通りに……いや名に反してだろうか。地中に潜り潜航からの体当たりでも仕掛けられるのだとすれば、それもまた質量による威力はすさまじいものであっただろう。

 

 だが、潜水艦はいずれの行動も起こさない。

 ただ、ゆっくりと進むだけだ。

 真っすぐに、愚直に進むのみ。

 

「止めてみますかぁ?」

 

 生き延びていた【マントルプギー】で潜水艦を押し留めさせようとする。

 STRは低いが、ENDはそれなり。

 加えて、彼らは重い。

 重ければそれだけ動かすのは容易では無くなる。

 

「この隙に【コココッカ】ちゃんたちで……ああ、そういえば死んでいましたね」

 

 【コココッカ】は既に砲弾により全滅している。

 内心で舌打ちをしながら、レシーブは他に潜水艦を破壊するのに相応しいモンスターを探していると、

 

「……はぁ? ……ああ、そういう必殺スキルでしたか」

 

 潜水艦を止めようと触れた【マントルプギー】がいなくなった。

 いや、よく目を凝らせば、触れた箇所から消滅しているようだ。

 

「ゆっくりだけど、進みは止められない、ですか」

 

 まだ距離はある。

 ふむふむ、とレシーブは潜水艦を観察する。

 教室でこの表情をしていれば何も言われない真面目な顔を作っている。

 

「ならば地面に埋めてしまいましょうか」

 

地面の下に潜む【メメント・アント】に命令を送る。

 潜水艦の直進方向に落とし穴を作れ、と。

 

「これなら……駄目ですか」

 

 だが、いくら地面が削れようとも、潜水艦は傾かない。

 よく見れば潜水艦の通った後は、ぽっかりと潜水艦分の幅だけ溝が空いている。

 

「……触れた地面も生物も何もかも削り取ってしまう能力というわけですか」

 

 いくらモンスターの数を用意しようと、強くとも、それらを無に帰す能力ということだろうか。

 これなら、レシーブを殺せるかもしれないだろう。

 

「……あはは。いえいえ、欠陥だらけの必殺スキルじゃないですか」

 

 それが必中であったのならば、の話であるが。

 

 レシーブは数m横に歩く。

 それだけで、この潜水艦を攻略し終わる。

 

「本当に、愚直な必殺スキルですねぇ。ノーチラス、でしたっけ? 少し歩いただけでもう当たらない愚技に終わりましたよ。モチーフ通り、虚偽幻想に囚われたような力でしたね。だって、蓋を開ければこの通り、あっけないのですから」

 

 ゆっくりと進むノーチラスが真横を通過していくのを眺める。

 この手のタイプの必殺スキルは何時までも発動できるようなものではない。

 いずれ時間制限が訪れ、持ち主が潜水艦の中から排出されるであろう。

 

 その時を狙う。

 周囲に展開したモンスターで一斉に殺す。

 

「もう飽きちゃいましたよ。子供が玩具をとっかえひっかえするように。ナンパ男が女を変えるように。金持ちがペットを次々に捨てるように。チャンネルをザッピングするように。貴方の力はもう見飽きました」

 

 船尾がレシーブを過ぎていく。

 レシーブの初期地点をこれで潜水艦は通り過ぎたということになる。

 ノーチラスの必殺スキルがレシーブを目標地点として放たれたものであるなら、すぐに解除されるだろう……不発として。

 

「そうかい? だけどこれから君にお見舞いする……プレゼントするものは是非とも受け取って欲しいのだけどね」

「――ッ!?」

 

 潜水艦を見ていた。

 必殺スキルが解除されればそこから出てくるであろう持ち主の姿を見逃さないとばかりに。

 

 だが……彼女は始めから乗っていなかった。

 傍から見れば間抜けな姿だったろう。

 ゆっくりと進む巨大な潜水艦の後ろを付いていくその姿は。

 

「この距離ですよ……自殺でもする気ですか!?」

「ははは。それも悪くないさ。何せ私の仲間の常套手段なのだからね」

 

 その手には細長い何かが抱かれていた。

 潜水艦、細長い物体。

 ……魚雷以外の何物でもない。

 

 その爆発の規模がどれほどか分からない。

 だが、抱かれているそれは放り投げるにはやや大きすぎるし、何より投げた瞬間にレシーブは逃げるだろう。

 

「……自殺は動物はせずに人間がする行動、ですか。良いでしょう、認めますよぉ。貴方は動物でなく人間であると」

「たまに好奇心旺盛な猫のようだと言われるよ」

「……尋ねたかすら忘れたので改めて聞きましょう。貴方の名は?」

「フィリップ。フィリップ・ノッツさ」

「そうですかぁ。覚えておきましょう」

 

 その瞬間、フィリップの持つ魚雷が爆発する。

 地上でも支障なく爆発するように、爆薬の量や成分も弄られていたのだろう。

 見た目以上の規模で爆発したそれは、フィリップやレシーブだけでなく、その周囲にいたモンスター達すら巻き込んでいく。

 

 爆風が晴れた時、その爆心地に残された影は一つだけであった。

 

 

 

 

■【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト

 

 時間は少し前、フォールがログアウトした直後に戻る。

 

「パリドーネとレシーブは……まだ戦闘中か」

 

 無理も無いだろう、とローガンは思う。

 彼女らの力は弱く、それでいて随分と婉曲なものだ。

 問い続けなければ勝てない。

 周囲からモンスターを呼び寄せなければ勝てない。

 

 問うて強くなったところで底が知れる。

 呼び寄せたモンスターはいずれも下級なものばかり。

 

 即時に召喚出来て、最低でも亜竜級に匹敵するモンスター1000体。

 それがローガンの戦力。

 彼女らとは天と地ほどに差がある力だ。

 

「手こずっているのはいずれも他〈マスター〉にか」

 

 これをラインハルトは危惧していたのだろう。

 特典武具は喉から手が出るほどに欲しい。

 ローガンとしてもより上位の悪魔を召喚するためのコストとしていくら持っていても損は無いのだから。

 

 だが、今のローガンは助力を頼まれている身。

 【問王】パリドーネ、あるいは【動物王】レシーブ・キープにUBMを倒させ特典武具を手に入れさせることがクエスト達成の必須条件だ。

 

「どちらから助けるか」

 

 ローガンから見て、パリドーネは大人だ。能力こそあれだが、しっかりしている印象がある。

 ノクトル村での戦いを見るに、まあ何とかなるだろうと思っていた。

 

 対するレシーブはかなり心配だ。

 彼女の力よりも、その性格こそが敗因足りえるとローガンは感じていた。

 あのころころと変わる浮き沈みの激しい性格。戦闘中にいきなりテンションが下がろうものなら、攻撃を避けきれずに死んでしまうかもしれない。

 

 単純な戦力でいえばパリドーネが不安。

 性格を考慮すればレシーブが不安。

 

「あ、そうだ。僕の能力なら別に不可能じゃないんだった」

 

 よく考えれば、どちらへも悪魔を援軍として向かわせればいいだけである。

 亜竜級ステータスの悪魔を500体ずつ、レシーブとパリドーネへと向かわせる。

 2人を味方と設定しておけば悪魔達も攻撃をしないし、2人も悪魔の存在を知っているからすぐに援軍だと理解するだろう。

 

「ふん。やっぱり僕の力が無いと駄目なんだからな」

 

 フォールトの戦闘は終わり、既に悪魔達の召喚時間は過ぎていた。

 だが、新たに亜竜級モンスター1体をコストに捧げ、1000体の悪魔を召喚する。

 

 そして命令を下す。

 

「パリドーネとレシーブの援護をしろ」

 

 東西それぞれに、悪魔達は向かいだす。

 

 すぐに彼女らは敵を倒し、特典武具を得て帰ってくるだろう。

 その時にローガンへどのような感謝の念を送るだろう。

 楽しみに待つ。

 

「……あれ?」

 

 待っている間に悪魔がいなくなった。

 1000体いたはずの悪魔達の反応が消えていく。

 

「おかしいな……まだ時間はあるはずなのに」

 

 再度召喚しなおし、向かわせる。

 

 だが、結果は同様であった。

 

「……何でだよ! 亜竜級だぞ! それが!」

 

 それも、2つの地点だ。

 

「……何者なのだ」

 

 一体、レシーブとパリドーネは何者と戦っているのだ。

 

「チッ……後で皇国に請求するとして……。俺を馬鹿にするのも今のうちだぞ」

 

 所詮は下級の悪魔だ。

 その程度で終わらせるつもりだったが、仕方ない。

 

「《コール・デヴィル・ギーガナイト》」

 

 伝説級に匹敵するステータスの悪魔――【ギーガナイト】を2体召喚する。

 

「行け! 敵をなぶり殺しにして来い!」

 

 忠実に、ローガンの召喚した悪魔は行動に移す。

 ローガンの命令通りに、敵を殺しに向かう。

 ……そのはずであった。

 

「……何でだよ! 何で、伝説級だぞ! 何で逆にお前達が殺されているんだ!」

 

 【ギーガナイト】の反応も消える。

 【魔将軍】のスキルからその消滅地点は先ほど悪魔500体が消えた2か所とおおよそ一致していると察知する。

 

「まさか……2人ともなのか!? 【ギーガナイト】を倒せる力を持つ奴が2人もいるのか!」

 

 ローガンは考える。

 いずれかの地に向かえばその答えは得られるだろう。

 伝説級悪魔を屠れる力を持つのがどのような人物なのか。

 

「……馬鹿馬鹿しい。大体、俺は最初から反対していたんだ! 特典武具くらい自分の力で手に入れるべきなんだってな!」

 

 飛行型悪魔を召喚し、ローガンは背に乗る。

 そのまま……レジェンダリアの地から皇国へ戻るために。

 

 

 

 

■???

 

 ローガンの去った地にて、その人物らは落ち合う。

 1人は柔和な笑顔を浮かべた優男。

 もう一人は眼光の鋭い、高圧的な男であった。

 

「おや。ここで貴方と会ったということは……まだ来ていないみたいですね」

「そのようであるな。我を待たせるとは良い身分だ」

「だけど、それくらいの方が好きなのでしょう?」

「ああ。やはり王とは、ある種の身勝手さが必要なのだからな」

 

 それぞれ亜竜級悪魔500体、そして伝説級悪魔を倒しても尚、無傷な体である。

 彼らは待つ。

 待ち人がここに来ると確信して。

 王のように振舞い、王のように立ち、王のように君臨する。

 

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