<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【動物王】レシーブ・キープ
感情は人間にだけに与えられた特別なものではない。
動物にだって感情はある。
それはよく観察していれば、分かることだ。
観察していれば、どのような感情があるか分かってしまうものだ。
だから、人間とは感情を隠せる高等な生物のことである。
感情を持ちながら、それを表に出さずに内面だけで完結できる生物。
祖父は言っていた。
我々は感情と表情が直結していない失敗作である、と。
失敗作。
であれば、完成された人間とはどのような人間なのだろう。
感情と表情が直結している人間を欠陥品とも祖父は言っていた。
レシーブは思う。
失敗作だとか、欠陥品だとか。
そんなものは無いのだ。
人間は人間。そこに差異も上下も無い。
あるのは、人間か、そうではないかだ。
感情を隠せるのが人間。
隠せないのが動物。
「あはは! 必死ですねぇ。苦しさが隠しきれていませんよぉ?」
ピンク色のフラミンゴがモンスターの中で舞う。
羽を拡げるように、スカートを翻し。
飛び立つように、モンスターにキックやパンチなどの打撃を繰り出す。
だが、数が多い。
強力な一撃でも倒せるのはせいぜいで上級モンスター。
亜竜級並みの防御力を持つモンスターが迫れば2撃、3撃を当てないと倒せない。
それ以上の強さのモンスターは反撃を許してしまう。
「――ッ」
単眼四腕の大鬼の振るった腕がフラミンゴの胴を捉える。
飛ばされ、地面を転がるもすぐさま立ち上がる。
「頑張りますねぇ。でも、限界では?」
【骨折】に【出血】、それに臓腑のどこかは潰れているだろう。
フラミンゴは何故かエンブリオの力を使ってこない。
ひたすらに肉弾戦のみでの戦いだ。
使えないのか、それとも既に使っていてこれなのか。
どちらにせよ、このまま死ぬだろう。
「まだ……まだぁ!」
フラミンゴの全身が光る。
発光する……ホタルだったのかとレシーブは感心しながら見る。
光が消えると、そこには傷一つ無いフラミンゴが立っていた。
「なるほど……回復に長けているんですかぁ。さっきの状態異常回復と合わせて、少し面倒な感じですかねぇ」
ともあれ、数の暴力には抗えないだろう。
超回復と状態異常回復、そしてそこそこのステータス。
近接戦闘に長けているようだが、継続戦闘に向いているようには見えない。
数体のモンスターはともかく、一万のモンスターを倒すことは出来ない。
そのはずだが……
「んー? もう500は倒されてしまいましたか」
随分と抗うものだ。
無差別にモンスターを攻撃しているとばかり思っていたが、いつからか一撃で倒せるモンスターに狙いを絞っていたらしい。
100回拳を振るえば、100匹のモンスターが塵となって消える。
100回脚を振り回せば、100匹以上のモンスターが死んでいく。
それを見ていると、スカッとしたような気分になる。
『警告。警告。新たに敵が来ます。ご注意を』
と、上空のアテナが知らせてくる。
「……もう、水を差さないでくださいよぉ。新しい敵? 誰だか知りませんけど、そちらは任せますから。余っているモンスターを引き連れて倒しておいてください」
『ですが――』
「……いいから。私はあのフラミンゴの死に様を見たいんですよぉ」
少しばかり不機嫌な顔を作ってみせる。
カンニングがばれた時の不良生徒の表情……だっただろうか。
この表情をすれば、街を歩いているときに話しかけられてもすぐに相手は退散してくれる。
『……。ハイ』
何か言いたげに黙っていたが、最後には返事をしてアテナは飛び去っていく。
同時に、数百匹のモンスターが減る。
「そういえばぁ……昔、犬に吼えられてから嫌いなんですよねぇ。動物ってやつが」
人間のように言葉が通じず。
己の感情だけで動き生きる動物なんて、卑下と蔑視の対象でしかない。
可愛いだろう。
無様に生きようと藻掻くその様子は。
可愛いだろう。
何もできないその不格好さが。
可愛いだろう。
醜い醜い動物が。
嫌いであるけれど、可愛い。
嫌いだからこそ、死する瞬間まで愛おしく思える。
「動物を愛らしく思えるのって人間の特権なんじゃないですかねぇ」
鬼が、竜が、魚人が、獣という獣……モンスターがフラミンゴを囲む。
次第に包囲網は狭まっていき、その内にいるであろうピンクが霞んでいく。
「最後にドーン、といきましょうかぁ」
体液全てが強力な酸性で構成されているスライム数十匹が一つに合体していく。
いくら状態異常を回復しようと、肉体そのものが溶けてしまえば別だろう。
「さあさあ、皆さん。巻き込まれないようにどいてくださいねぇ」
【動物王】は動物を殺してはいけない。
それが唯一の鉄則である。
【動物王】もしくは配下のモンスターが殺してしまったモンスターはそれ以降配下に加えることが出来ない。
非生物のモンスターを倒せば経験値を稼ぐには問題が無いため、特に欠点という欠点ではない。
だが、こうして範囲攻撃を仕掛ける際は気を付けなければならない。
使えるモンスターの数を自ら減らすのは得策ではないのだから。
「……随分と減りましたねぇ。半分くらいですか」
あれだけいたのにもう5000近い数にまでモンスターは減っていた。
だが、残っているのはいずれも亜竜級以上のモンスターばかり。
フラミンゴが下級、上級に狙いを定めて数を減らしていた故に、強いモンスターだけが残されることとなった。
「まあ、これだけいれば十分でしょう。貴方達、そこのフラミンゴが死んだら解散しますよぉ」
戦力としてこのまま引き連れる……なんてことは常識的にも能力的にも有り得ない。
場所も餌代も、様々な面で問題があるし、何より必殺スキルの効力が切れれば彼らはすぐに去っていくだろう。
……それどころか、レシーブに牙を剥くだろう。
「何時までも《
スライムが弾みをつけて跳ね始める。
モンスター達が退いた後には地面に転がるフラミンゴの姿があった。
羽も、肉体も治す力は失われたらしい。
「ではやっちゃって――」
スライムがフラミンゴ目掛け跳ぼうとした時。
事象としては2つの災害が起こった。
「ッ!?」
突風……いや、まるでハリケーンだ。
フラミンゴを中心として巻き起こった風が取り囲むモンスター全てを切り刻んでいく。
物理耐性があるはずのスライムですら、刻まれ千切れ、HPを減らす。
「なっ……何ですかこの風は!?」
見る間にモンスターの数が減っていく。
耐久力、HPの低いモンスターから準に塵となり消える。
数の暴力も、広範囲にわたる攻撃にて弱い。
「アテナ! アテナは何をしているんですか!」
反応は無い。
だが、感覚を通じてアテナがまだ生きていることは分かる。
「チッ……こんな時に……」
肝心な時に使えない。
動物はやはり使うのではなく、愛玩程度に見るべきなのだろうか。
「ひとまず! 私を守ってください!」
ハリケーンはモンスターだけでなく、レシーブをも狙う。
「ちょ、強すぎ……」
モンスター達は抵抗なく切り刻まれていき、消滅していく。
5000いたモンスターはすぐに4000に、3000に、1000に……それ以下に。
風が止んだ時、残っているモンスターの数は数十にまで減っていた。
いずれも負傷が大きい。
『人のモノにさ、手を出す時はそれなりに覚悟してよ? 僕だって少しは感情的になるんだから』
そよ風がレシーブの耳をくすぐる。
それに声が乗っているように、レシーブの耳元に男の声が聞こえた。
『今日はこのくらいにしてあげるけどさ。次は無いからね?』
それきり、声は聞こえなくなった。
「……何だったの」
分からない。
何が起こったのかも。
誰がやったのかも。
引き金も、事象も、何もかもが分からない。
「何なの! 何なの! 私が何をしたって言うんですか!」
と、感情的に叫んでいる振りをしながら。
レシーブは冷静に今起こった出来事の推測をしていた。
「(……誰かからの報復ですかぁ。村人を殺したのがもう察知された? まあ、今ので勘弁してくれるなら甘んじて受け入れますけども)」
この規模の風を引き起こす人物も心当たりならある。
ノクトル村との関係は思い浮かばないが、それでもこれ以上何もしてこないというのなら、続けるとしよう。
「ええと……残っているのは……ああ、【ギガ・トロース】ちゃんがいますね」
単眼四腕の巨鬼がまだ生き延びている。
硬い鱗を持つ岩の竜がまだ生き延びている。
他にも、強いモンスターであれば残っていた。
「では今度こそ――」
そして、2つ目の災害が起こった。
単眼四腕の巨鬼――【ギガ・トロース】に雷が落ちる。
続いて、竜に、蜘蛛に、狼に、雷が落ちていく。
『危険です。危険です』
今更ながらにアテナが警告を示す。
『来ます。来ます』
「ッ! 誰が!」
『クレハドールを倒した人物が来ます』
その声を最後に、アテナへも雷が落ちる。
「必殺スキル。《
そして、レシーブへも落雷は迫る。
視界は白く覆われた。
久しぶりに狂人書きたいなぁ