<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
でも頑張って書きました(知能低下)
■【深潜水士】クリアント
時間はクレハドールの討伐直後へと戻る。
フィリップが死に、クャントルスカがレシーブと会敵した頃合いだろうか。
必殺スキル獲得のため、自身にマッドラップスの剣を突き立て、死んだ直後――新たな肉体を創造し終えた時のことだ。
ワンプの予告通り、その死により、クリアントは見事必殺スキルを獲得した。
メイデンの性質上、各上や強敵に通じるジャイアントキリングの力。
本来であれば、クレハドールを倒すためにワンプが試行錯誤を重ね、微調整に微調整を繰り返した果てに辿り着いた力。
「……のはずだったんですが? 先輩が余計なことをしたせいで変なことになっちゃったじゃないですか」
「余計なことって……」
「強敵に殺されることで最終調整をしようと思っていた必殺スキルだったんですよー! それが先輩の自殺とかいう、訳の分からない死に方で方向性がねじくれちゃったじゃないですか」
ゴール直前で目隠しされてその場でぐるぐると回転させられたようなものだと、ワンプは言う。
目隠しも回転もクリアントのせいらしい。
「……まあ、必殺スキルに変わりはないんだろ?」
「ええ、そうですよ! 癪なことに、これが私達の必殺スキルなんです!」
まだ機嫌は直っていなさそうであるが、クリアントは必殺スキルの確認を行う。
「ええと……まず対象は……おお、広域型じゃないか」
視界内に移る生物全てに雷を降らせるらしい。
これまで持っていなかった広域型の攻撃だ。
クリアントとしても心躍るものがある。
「ちなみに、クレハドールに殺されていたら個人型になっていましたよー」
「分かった分かった。今度何か美味いもの混ぜてやるから……ええと、雷を落としたら……ん?」
その先の概要を見て、首を傾げる。
いや、スワンプマンの逸話からすれば、らしいといえばらしい力なのだが。
「これ……殲滅と制圧どっちになるんだろうな」
「良くも悪くも、こちらでコントロール出来ませんし。殲滅に近いんじゃないんですかね」
果たして、殲滅出来るかどうかも怪しいが。
面白そうだといえば面白そうだ。
ランダム性というか、強敵を相手にしても十分に通じそうな点ではメイデンらしい必殺スキルである。
だが、相手次第では倒せない。
下手をしなくても、倒しきれない力である。
「クャントルスカさん同様に、味方も巻き込んでしまうので。特にフィリップさんが近くにいたら危ないですよね」
「……あいつなら、一度目はむしろ自分から巻き込まれにいきそうだけどな」
「あー、確かに。クャントルスカが巻き込まれたら、即死はしないんでしょうけれど。でも、結局死にますね」
敵は倒せない可能性はあるが、味方は十分に殺してしまいそうだ。
なんとも頼もしい味方ともいえるが。
「しかし……なんでこんなにセーフティ機能ないんだ? 色んなところで俺のコントロール効かないだろこれ。発動したらそのまま待機するしかないじゃないか」
「それはやっぱり先輩の戦闘スタイルのせいでは? 基本的に自爆とか特攻ばっかりだったので。まあ、セーフティをかけていないからこそ、ここまでの力になったのかもしれませんが」
「コントロールできるような力だったら、もう少し規模か……雷の落ちた後に起きるだろうアレが弱かったかもしれないってことか」
「ですです。味方が傍にいる協力プレイ出来ない先輩のために作られているかもしれませんけど」
「作ったのお前じゃないの?」
「はい! 先輩には私がいれば十分なので!」
自身の戦闘は終えているクリアントだが、この後どう使うべきか考えていると、ふと思い出す。
この必殺スキルを見て、彼らを思い出さずにはいられなかった。
「ランダムというか、無差別な雷って……ドラゲイルの影響あるのかな」
「あるかもしれませんねー。先輩史上でそこそこの数死んだ原因ですから。まあ、自分から雷に当たりに行っていましたけど」
当たれば一撃で死んだ雷。
あの威力を知っていれば、必殺スキルという強力なスキルに組み込みたくもなる。
「……まあ、この必殺スキルの雷の威力って皆無なんだよな」
「ですねー。なので、類似している力というのなら、彼女の力の方が近いのかもしれませんね」
スワンプマンに似て非なる逸話のモチーフのエンブリオを使っていた彼女の力を思い出しながら。
「……あの力の方が俺の必殺スキルよりも威力高そうなのってどうなんだろうな」
苦笑し、まだ終わっていない戦い――先ほど大きな爆発が起きた地へと向かうのであった。
「ほら、結果的に俺の自殺がいいように働いただろ?」
視界に広がる数十のモンスターを見て、クリアントは得意げな顔をする。
都合の良さそうなことにどれもが強そうだ。
クリアントが一撃で死にそうな……というかクャントルスカが倒れているところを見ると、彼女ですら敵わないような強さを持つモンスターばかりらしい。
「何言っているんですか。さっきの大風が無ければ数が多すぎて必殺スキルの発動どころじゃなかったんですからね!」
「ええ……でも俺の視界に映る生物全てなんだろ?」
「ですから、先輩の視界内に映る生物全てを私が一つ一つ確認しなきゃいけないんですよ。私が見定めるのに1秒でしょうか」
「短いな」
「生物1つにつき1秒、です。さっきまで何体いたか数えてました? 一万秒なんて悠長に待っていられませんからね」
2時間46分と少しくらいらしい。
……そのまえにクリアントの姿を補足したモンスター達に取り囲まれていただろう。
「でも、さっきの大風のおかげで1分ほどで済みました! 倒れた直後に動けなかったのと、動いてからもゆっくりなモンスターがクャントルスカさんを狙おうしているのが良かったです!」
「なら、さっさと使ってしまおうか。クーが死んでしまう」
「いや、どっちみち私達の必殺スキルに巻き込まれて死ぬんですけどね?」
まあ、このまま死ぬか、クリアントの攻撃で死ぬかの違いだ。
少ない差異だろう。
誤差もいいところだ。
「では、発動の準備は完了しているので。先輩、叫んでください! 私達の必殺スキルを!」
「おお…叫ぶのか。少し恥ずかしいな」
咳ばらいを一つ。
喉の調子を整えてクリアントは叫ぶ。
「うわ、先輩! なんかフクロウがモンスター引き連れてやってきてます。早くしてください!」
「……ひ、必殺スキル。《
ワンプに急かされ、少しばかりタイミングを外しつつも。
何とか必殺スキルの名を叫ぶ。
「あ、ちなみに叫ばなくても普通に使えますので」
「……おい」
てへ、とワンプのわざとらしい声が聞こえる。
「だけどほら、結構壮観な眺めじゃないですか?」
「……まあ、これが俺の引き起こした現象なんだとすれば気持ちいいな」
雷が降る。
クャントルスカを囲んでいたモンスターも。
フクロウが引きつれていたモンスターも。
フクロウも。
クャントルスカも。
そして、モンスターの奥に立つ女性〈マスター〉――ノクトル村を強襲した者達の1人であることは確認済みだ――にも平等に雷は降り注ぐ。
だが、雷に致命傷を与えるような威力は無い。
HPは1たりとも減っていないだろう。
「……?」
女性〈マスター〉――レシーブは首を傾げている。
彼女からしてみれば、ただ光に包まれただけなのだろう。
だが、ここからが真骨頂。
スワンプマンたる必殺スキルの必殺らしさはここからだ。
「総じて71ですか。このくらいなら……少し大変でしたけど、先輩のためなんですからね!」
「いや、ツンデレとかいいから。というか、少し変だろそれ」
71という数字。
それが表すのは、クリアントの視界内にいる生物……だけではない。
視界内にいる生物に限れば、今、142の数の生物がいるだろう。
それは、ワンプが生み出した生物の数。
たった今、雷が落とされた生物の真横に生み出された、彼らと全く同じ姿のモンスター、人間の姿。
「これこそがスワンプマン! 雷を落とされ、生み出されたのは貴方達と全く同じ生物です。さあ、皆さん……どこか違いはありますか?」
「反撃だ。とはいっても、見ているだけになるけどな」
雷が落ちた。
スワンプマンが生み出された。
逸話はまだ終わらぬ。
まだスワンプマンにはやることがある。
書き終わってみると、まったく話は進んでおりません。
でも、主人公とヒロインの漫才をやりたかったので。
特に後悔はありません。
なので必殺スキルの詳細は次話になっちゃいます。