<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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106話 汝、自身がどちらか見抜けるか 5

■【動物王】レシーブ・キープ

 

「……ダメージが無い?」

 

 雷が落ち、それでも自分の身体に何の変化が無いことに戸惑う。

 これならばまだいくらかのダメージがあった方が良かっただろう。

 ダメージを受けるという分かりやすい攻撃の方が良かった。

 

「(明らかに必殺スキルを使った現象。ならば何だ……何が起こる……!?)」

 

 恐らくは配下全てのモンスターに雷が落ちた。

 ダメージを与えるでもなく。

 状態異常を与えるでもなく。

 何の変化も起こらない。

 だからこそ、不気味である。

 

「(雷からモチーフを……いえ、多すぎます。特定材料にはならない!)」

 

 雷を司る神も、怪物も、妖怪も、偉人も、現象も。

 心当たりは多すぎる。

 雷という現象は、あまりにも有名で有り触れすぎている。

 

「(既に必殺スキルは使用されている……。なら、観察を。見て対策を練らないと)」

 

 変化が劇的で、見て分かりやすいものであった。

 

 最初は分裂したのかと錯覚した。

 アメーバが分裂したかのように。

 鏡映しのように全く同じ生物がそこにいた。

 

「……雷が落とされたモンスターが! 増えている!?」

 

 単眼四腕の巨鬼も、岩の竜も、それぞれが隣に同じ生物を侍らせていた。

 いや、侍らせているのではない。

 彼らも、突如隣に出現した同個体に戸惑っている。

 ……出現した方も含めて、だ。

 

「……同じモンスターを出して敵味方を惑わす力、ですかぁ?」

 

 だが、レシーブには《動物王国》を通じて支配下にあるモンスターがどの個体か知ることが出来る。

 敵味方が入り乱れようと、支配下にあるモンスターに命令を出せばいいだけのことだ。

 

「いえ……敵味方入り乱れているのではなく、味方だらけにしてしまえばいいのでは?」

 

 数に限りは無いのだ。

 同じモンスターであるならば、既に支配下にあるモンスターと似たようなステータスであるならば、レシーブに操れない道理はない。

 それが生物であり、レシーブよりも弱い存在であるならば、【動物王】の支配下に置くことが出来る。

 

「……出来る、はずなのに! 何故出来ないのですか!?」

 

 しかし、新たに出現したモンスター達に《動物王国》は通じない。

 モンスターであるはずなのに。

 ステータスはレシーブより劣るはずなのに。

 

 条件を満たしているはずなのに、支配下に置くことが出来ない。

 

「……ッ!? 【泥化】……? 何ですか、これは!」

 

 知らない状態異常……特殊状態異常に分類されるものだろう。

 それが《動物王国》のスキルを邪魔している。

 

「だ、だったら……倒してください!」

 

 不確定要素は早めに排除したい。

 レシーブは、支配下のモンスターに指示を出す。

 ……が、その前に【泥化】しているモンスター達が動き出す。

 

「2体目の【ギガ・トロース】ちゃんが……?」

 

 新たに出現していた単眼四腕の巨鬼――【ギガ・トロース】がレシーブ支配下の【ギガ・トロース】へと4本の腕を振るう。

 それぞれに炎、雷、氷、金属化させた【ギガ・トロース】最大級の攻撃である。

 

「そんなもの当たったら、ただでさえさっきの風でダメージを受けていた【ギガ・トロース】ちゃんが……!」

 

 反撃しようとする【ギガ・トロース】であったが、間に合わず、【泥化】状態の【ギガ・トロース】の攻撃に倒れ、塵となる。

 それを確認してかは分からないが、勝者となった【ギガ・トロース】もまるで泥のように溶け消えていった。

 

 その光景は、レシーブ支配下のモンスター全てで起こっていた。

 【泥化】しているモンスターが、レシーブ支配下にある同個体のモンスター相手に最大級の攻撃をする。

 

 レシーブに【泥化】しているモンスターを操ることは出来ず、HPの差で彼女のモンスターはほとんど倒れていく。

 

「……死んでないモンスターもいる?」

 

 理由はまだ分からない。

 分からないが、他に考えなければいけないことがある。

 

「アテナ! こっちです。状況を!」

『ハイ。彼です。彼が来ました』

『危険です。危険です』

「……ッ!」

 

 ようやく、レシーブの下へとアテナが帰ってくる……他のモンスターと同様に【泥化】しているもう一匹のアテナを連れて。

 

 エンブリオすら対象。

 どころか……

 

「……」

「わ、私!?」

 

 いつの間にか、隣にはレシーブが立っていた。

 レシーブの隣にレシーブが立っている。

 文字にすれば……いや、しなくても不可思議な現象が起きていた。

 

「……まさか。 同じモンスターを召喚していた……のではなく! 全く同じ同一個体を作り出していたんですか!?」

 

 何が起きているのかは理解出来たが。

 何をしたいのか理解できない。

 

「同士討ちの能力……? 余りにも馬鹿げている……」

 

 しかしながら、レシーブの戦力はほとんど削られている。

 そして、もう一人のレシーブが現れたということは……

 

「この私も最大級の攻撃を仕掛けて……!」

 

 先んじて攻撃を……ではなく、レシーブは防御態勢に入る。

 他のモンスター達は何故か攻撃する前に【泥化】しているモンスターに先手を取られていた。

 先に攻撃を仕掛けられる仕組みもあるのだろう。

 ならば、やるべきことは耐えること。

 レシーブは風の攻撃こそ免れたが、フィリップの爆弾でかなりHPを削られている。

 アテナの必殺スキルでHPの底上げをしているが、その効力が切れるのもそう長くない。

 

 出来るだけ避けて――

 

「《戦に勝ちたい()のならば、()幸運をくれてやろう()》」

「……あれ?」

 

 ――耐えようと構えていたレシーブから気の抜けたような声が漏れ出た。

 

 

 

 

■【深潜水士】クリアント

 

「そう。身構えるだろうな。他のモンスターの死に様を見たのならば」

 

 傍から見れば、【泥化】レシーブのバフスキル発動に合わせて全力で防御を取ろうとしているという道化じみたレシーブの姿があった。

 

 だが、無理も無いだろう。

 HPが少なく、頼りになるモンスターも数を減らし、そして頼みの綱である【動物王】のスキルも効果が無い。

 焦りもする。

 危惧もする。

 不安にもなる。

 

 故に、間違う。

 選択肢を、思考を、結論を、違えてしまう。

 

「《汝、自身がどちらか見抜けるか(スワンプマン)》で生み出された同一の生物は、最も強い攻撃をするわけじゃない。その日に使用したスキルのうちで奥義や必殺に値するスキルを使用するんだ」

 

 スワンプマンの逸話に攻撃的なものはない。

 唯一、致命傷に値するものは登場人物を殺した雷くらいだ。

 生み出されたスワンプマンは、死体に何もせず、家に帰っていつも通りに過ごした。

 

 故に、《汝、自身がどちらか見抜けるか(スワンプマン)》によって生み出された生物――【泥化】を与えられた生物はその日の生活を送るが如く、スキルを使用する。

 それが奥義や必殺スキル、あるいは最も威力の高いアクティブスキルであるのは、これが必殺スキル所以なのだろうが。

 

 クリアントは知らないところでの話であるが、《動物王国》が効かなかったのは、ただの偶然だ。

 雷が落ちて生み出された同一個体には【泥化】が付与されるが、これは特別意味のあるものではない。

 だが、《動物王国》は【泥化】が付与された生物は、泥であって生物でないとみなした。

 あるいは、スキルを一つだけ使用してすぐに消え去る存在など、生物と認めたくなかったのかもしれない。

 

「……やっぱり生き残っているか」

 

 クリアントは顔を顰める。

 レシーブを始めとして、未だ生き残っているモンスターがいる。

 それは、レシーブのように必殺スキルや奥義に威力がない者、そして攻撃の威力が防御力に劣る者だ。

 

 これが《汝、自身がどちらか見抜けるか(スワンプマン)》の弱点。

 威力は、対象の攻撃に依存する。

 運良く防御スキルや、バフスキル、あるいは大して強くない攻撃スキルしか持っていなかった場合は倒されないのだ。

 

 《戦に勝ちたい()のならば、()幸運をくれてやろう()》を使用した【泥化】レシーブは消えていく。

 レシーブ本人へのダメージは一切ない。

 スキルなど使用せずにその肉体でいくらか攻撃を加えていた方がまだ良かっただろう。

 

「……そう、勝ち誇ったような顔をするなよ。悪いが……お前を倒すのは俺じゃないんだ」

 

 クリアントの必殺スキルに耐え、生き残ったレシーブはクリアントの姿を捉え表情を変える。

 生き残ったモンスターを確認し、まるで勝利者のような顔をしている。

 

 だが、もう一人いるだろう。

 クリアントの必殺スキルを受けても即死を免れている者はまだいる。

 

「クー。後は任せたぞ」

 

 

 

 

■【動物王】レシーブ・キープ

 

「任されたよ!」

「ッ!?」

 

 心臓を一突き。

 それが明らかに致命傷であることが分かった。

 

「……貴方は」

「……ようやく、会えたね。ごめんね、もうこれ以上愛してあげることは出来ないんだけど……」

 

 彼女は口から白い靄がかった何かを吐き出しながらレシーブの心臓を手刀で貫いていた。

 【魔法☆少女】クャントルスカ。

 彼女の必殺スキルである《貴方を愛してもいいのかしら(モー・ショボー)》は時間経過で殺すタイプである。

 回復不可の猛毒を喰らっているような状況だろうか。

 

 故に、動くことは可能だ。

 

 ドラゲイルが最後まで抗っていたように。

 しかしクリアントやパリドーネがほぼ即死に近い状況になったように。

 ステータスが高ければ死ぬまでにある程度の時間がかかる。

 

「……死にかけだったはず……なのに」

「うん。でも倒れても倒れても、立ち上がれるんだ。だって、私は魔法少女だから!」

 

 クャントルスカがレシーブの胸部から手を抜く前に、クャントルスカのHPが先にゼロになり消える。

 ぽっかりと胸に穴が空いたまま、レシーブもまたHPが急速に減っていくのを眺める。

 

「あれ、結局私って何と戦っていたんだっけ……」

 

 目的も倒されて。

 仲間も失って。

 やけくそになって。

 

 何がしたかったのだろう。

 

 自分以外は動物であると見下して、でも自身もこうして全力を出したうえで死を迎える。

 

「……私は、何に負けたんでしょうねぇ」

 

 レシーブの心臓を貫いたフラミンゴに負けたとは思えない。

 あの時、レシーブは確実に彼女に勝っていた。

 その前の猫にも勝っていた。

 

 だから、負けたとするならば、その後。

 風と雷。

 この2つに彼女は負けたのだ。

 

 ふと負けた原因の1人――クリアントの姿を見た時に、彼がどのような動物に見えていたかを思い出そうとする。

 でも、出来なかった。

 死んでも生き返るなんて、動物ではない。

 勿論、人間でもない。

 

「……化物が」

 

 最後にクリアントをそう評すると、レシーブもHPゼロの強制ログアウトとなった。

 




自分でも書いててなんだこの必殺スキルはとなったので。
また章が終わった時の登場人物まとめにでも必殺スキルを書いていこうと思います。

流れとしては
視界内の生物全てに雷が落ちる

その生物と同じ見た目をした生物(【泥化】)が現れる

生物(【泥化】)が基となった生物がその日に使用した必殺スキル、奥義、攻撃スキルなどを使用する

一度スキルを使った生物(【泥化】)は消滅する

このような感じです。
バフ、デバフ、状態異常系など直接的なダメージを伴わないスキルが使用されれば、わりかし生き残ることが可能です。
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