<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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107話 三者三妙 1

■【深潜水士】クリアント

 

「いやぁ。酷い有様ですね。復興するにも村人は全員死んでしまったみたいですし……どうします?」

「どうすると言われてもなぁ。このままフィリップとクーの復活を待つにしても、3日後だろう?」

「あ、どうするっていうのは私達の今後のことなんですね」

「他に何かあるのか?」

「……別に無いですねぇ」

 

 焼け落ちたノクトル村の前に立ち、クリアントとワンプは被害状況を見る。

 村の壊滅。

 敵の殲滅。

 味方もクリアントを除いて死亡。

 

「また一つ強くなれた……」

 

 握りこぶしを作りながらクリアントは頷く。

 

「え、そういう雰囲気でしたっけ、今」

「俺達の今後ってそういうのじゃ?」

 

 特典武具の獲得に必殺スキルの習得。

 マッドラップスの鎧も新たに武器としてスキルを得た。

 クリアントとしてはこれまで以上に戦力を拡大出来ている。

 

「というか、村に関して俺達がこれ以上出来ることは無いだろ。この国の人間がどうにかしてくれるんじゃないのか?」

「確かに。えーと……ということは?」

「フィリップとクーが再ログインしてくるまで待機だな。フィリップがログインさえすればノーチラスのセーブポイントが復活するし、それまで適当に歩くか」

「お、ということはデートですね!」

 

 村も無く、砂漠が広がるカルディナか、森林や草原が広がるレジェンダリアを見てワンプが飛び上がり駆けだす。

 

「こんなところを歩くのがデートでいいのか……?」

 

 まあそれで嬉しいのなら良いか、とクリアントはワンプに続いて歩き出す。

 何はともあれ、勝利に喜びながら。

 己が強くなったことに実感を持ちながら――

 

「キシャァァァァァァ」

 

 地面から突如出現した【ドラグワーム】の生き残りに全身を呑み込まれて死亡した。

 

「……えぇー」

 

 テリトリーになっていなかったため、残りのストックも発揮されることなく、クリアントもまたデスペナルティによりログアウトとなる。

 クリアントの死亡を確認し、己も消えていくワンプの顔はさぞ複雑なものであった。

 

 

 

 

■???

 

 クリアント達がログアウトした数時間後。

 ノクトル村での戦闘が終わって半日程度の時間が経った頃であろうか。

 

「ひ、ひひひ。終わった終わった。みんな死んで、みんな死んだ」

 

 持ち手が髑髏を形作った杖を突きながら、1人の少女がひょこひょこと歩く。

 全身を黒いローブで覆い、その顔は長い前髪で表情を見せない。

 

 燃えおちたノクトル村を見て少女は嬉しそうな表情をみせる。

 

「……やったぁ。新鮮な魂がこんなにある」

 

 口元が歪に持ち上がる。

 それが笑みであることは、本人以外が見ても分からないだろう。

 

「【冥王】でも【死霊王】でもなく、私が一番乗り。ひ、ひひ……これは全部私のもの」

 

 彼女は黒ローブのフードを外し、前髪をかきあげるとヘアピンでとめる。

 伸びた前髪が垂れていた時は不気味であった印象も、髪さえなければ整った顔立ちが覗ける。

 同年代の少年たちが見れば、振り返る程度に可愛らしい少女である。

 

「213の魂……全部私の……」

 

 再び口元が吊り上がる。

 顔の全てが見えている今、今度こそ少女が笑っていると分かる。

 ……どちらにせよ、綺麗な笑みでは無かったが。

 

「ええと……《死者蒐集》」

 

 少女が杖を地面へ置くと、そこから鏡が出現する。

 少女の全身を映しても余るほどの巨大な鏡だが、それが何を意味するか少女以外には分からない。

 村の全てから魂を吸い上げる。

 その行為が分かるとすれば、死霊術師系統に就いている者だけであろう。

 

「これで集めた魂は745……えへへ、たくさん集まったなぁ」

 

 少女は笑う。

 鏡の中にはいくつもの魂が浮かび上がっている。

 

「そろそろ1000に届きそうだぁ……またどこか大きな戦いの起きそうな場所を探さないと」

 

 こつこつと、少しずつ溜めていた魂。

 もう少しだ。

 もう少しで彼女の念願は叶う。

 

「ベネトナシュ様……褒めてくれるかなぁ。こんなに魂集まったんだって早く見せたいなぁ」

 

 まるで自身のコレクションを見せびらかすかのように、少女は思い浮かべる。

 かの【冥王】が少女の集めた魂を見てどのように驚くか、楽しみで仕方がないとばかりに。

 

「ひ、ひひ……」

 

 少女――【霊魂姫】に就く彼女は魂が見える。

 〈ティアン〉もモンスターも、死んだ後に浮かび上がる魂を視認することが出来る。

 彼女は〈ティアン〉の魂のみを集める。

 モンスターはいらない。汚いから。

 〈ティアン〉の魂は良い。綺麗だから。

 

 きらきらと、自身には無い煌びやかな魂を集めて少女は嬉しそうに笑う。

 

「ひひひ」

 

 杖を地面から離すと、鏡も消えていく。

 後には何も残らない。

 少女も、魂も、いつの間にか消えていた。

 

 

 

 

■【嵐王】ケイデンス

 

「……」

 

 ノクトル村壊滅から一週間ほど経った。

 それだけの時間が経過してようやく、ケイデンスは村の前に立っていた。

 だが、その時間だけ心の整理の時間が欲しかったわけではなく、単純に来るまでの時間が無かっただけだ。

 

「ふうん? ここまで大きくなっていたんだ」

 

 焼け落ちた住居の数からどこまで村が復刻していたか知る。

 だが、それだけだ。

 感傷的にはならない。

 少しだけ勿体ないなと思うだけだ。

 

「そろそろ収穫の時期だったんだっけ? あれ、美味しかったからなぁ」

 

 この村の名産物にもなった赤い果実の味を思い出す。

 あれはそもそもどこで手に入れたのであったか。

 渡すはずであった友人は既にその果実のことを知っていたためサプライズにはならず、その後は自身で消費する程度の量しか村から買い取らなかった。

 

「そうか……みんな死んだのか」

 

 その肉体でも残っていれば友人に渡そうとも思ったが、それもモンスターに食われたか、あるいは燃えている。

 ケイデンスに出来ることは無い。

 村人の死を悼むことも、別の人物の役割だろう。

 

「オーナー。この度は力になれず……」

「ああ、いいよ。そもそも不利な状況下だったんだろう? それなら仕方ない」

 

 ケイデンスの横にはフォールが頭を下げていた。

 だが、ケイデンスは笑い手を振って頭を上げさせる。

 

「改めて、〈超級〉の力を知っただろう? 彼らは僕達と違ってどこでも強いんだ。〈超級〉を倒すには〈超級〉になるしかない……はずなんだ」

 

 最後だけ言葉を濁す。

 その前提を覆す者の存在を思い出したから。

 

「〈超級殺し〉ですね」

「まあ、どこの誰か知らないけど。彼が出来たのなら、他の誰かにも出来る……と淡い期待を抱かせてくれるんだよねぇ。実際は叶いっこないのに」

「……オーナーならあるいは?」

 

 ケイデンスから発せられる得体の知れなさ。

 底の知れなさであれば、あるいは〈超級〉にも勝てるのではとフォールは尋ねる。

 

「それこそ冗談みたいな話さ。僕の巻き起こす風程度で〈超級〉が倒れてくれるなら、とっくにやっているよ」

 

 そうだろうか、とフォールは思う。

 彼が相対したローガンという多数の戦力を扱うタイプであるならば、ケイデンスの力とかなり相性が良いはずだ。

 一掃し、ローガンごと倒すのも不可能では無いのだろうか。

 

「僕達の本業は空の輸送。僕達の敵は空のモンスターだよ? 別に〈超級〉が敵対しているわけじゃないのに戦うことなんて考えないさ」

「……ですか」

 

 結局、敵対した時に勝てるのかどうかケイデンスは話さない。

 風程度、と彼は卑下したように言うが、その風がどれほどの災害になるのかをフォールが知らないわけがない。

 

「ああ、そうだ。オーナー、これなのですが……」

 

 と、フォールは思い出したようにアイテムボックスから布製の袋を取り出す。

 中には独特な匂いのする赤い果実がいくつも入っていた。

 

「彼らからオーナーにと」

「……うん。君の真面目さには僕も驚くよ」

 

 ケイデンスは何とも言えない顔でそれを受け取る。

 嫌いなわけではない。

 どちらかといえば、ケイデンスにとって好物に入る味だ。

 

「……みんなで食べようか」

 

 だが、ある意味で彼らの遺品のようなその果実を受け取ってさあ食べようとはケイデンスは思えない。

 

「え、いいんですか?」

「うん。ほら、僕1人だとお腹いっぱいになっちゃうから」

 

 ましてや、ケイデンス1人でそれを食べるとなると、どれだけの時間がかかるのだろう。

 その期間、ずっと村人を思い出すのも癪だ。

 

 だから、一息に消費してしまったほうがいい。

 手向けになるように、クランの全員で。

 

「……はい!」

 

 それが村人への手向けであると。

 フォールはその部分だけ理解してケイデンスと共に彼らの待つ仲間の下へと戻るのであった。

 




後日談というか、次以降に繋がりそうな話をあと3つほど書いたので順次投稿していきますわ
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