<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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113話 フィリップの冒険 2

■【大冒険家】フィリップ・ノッツ

 

「これでよし、と」

 

 クリアント達と別れ、フィリップはメインジョブを【魔法少女ψ】から【大冒険家】へと変更する。

 ステータス画面を見て確認したフィリップは久しぶりに【大冒険家】のジョブに就いたなとゲームを始めたばかりの頃を思い出し笑う。

 最初に就いたジョブは【冒険家】だった。

 どのような環境下でも耐性があり行動出来るのならフィリップのプレイスタイルと合うだろうと就いたのだ。

 すぐにレベルもカンストし、その上級職である【大冒険家】に転職したのだが、その後すぐに海に潜るようになったため、より水中行動に適した【潜水士】に転職し直したのだ。

 そのためせっかくならば、と【大冒険家】のレベルを上げつつ【探検王】を目指す。

 汎用性の高いスキルも多い。【探検王】になるからと、【大冒険家】のレベルを上げておいて損は無いだろう。

 

「いずれジョブ構成も考えないとね」

 

 使用できるスキル欄を見て【大冒険家】では【魔法少女ψ】のスキルが使えないことを知り、このジョブはいずれリセットするだろうと予想する。

 陸上でも水を扱える数少ないジョブであるため重宝していたのだが、他のジョブをメインに据えると使えなくなるのでは仕方ない。

 

 まあ、それも【探検王】に就いてからだ。

 まだ見通しの立たない未来を憂いても意味が無い。

 

「様々な環境を乗り越えた先に転職クリスタルはどこの街でも良いだなんて面白いね」

 

 3つの宝を集めたフィリップにはアナウンスが届いていた。

 

【『海底珠』、『真実鏡』、『赤砂の剣』を入手しました】

【条件開放により、【探検王】への転職クエストが解放されました】

【詳細は冒険家系統への転職可能なクリスタルでご確認ください】

 

 転職クリスタルはどこの国、どこの街にでも置いてある。

 つまりは、街であればどこでも転職は可能なのだ。

 

「しかし、やはりというか何というか……転職クエストかぁ」

 

 就職条件もそうだが、転職クエストも容易にはいかないだろう。

 超級職になれば尚更だ。

 全力での攻撃や全力での防御、その他にも様々な転職クエストがあったと聞く。

 超級職のその系統職業の頂点。

 全力でやり遂げなければ認められない。

 

 ならば冒険家系統超級職である【探検王】の転職クエストとは何なのだろう。

 似たような【冒険王】の転職クエストが不明であるため予想もつかない。

 

「何かを探せ……とかならノーチラスがあるから大丈夫だとは思うけど」

 

 むしろその程度で済むのであれば良い。

 その程度で無かった時……その時こそがフィリップの真価を問われるのだろう。

 

「さて、今いる場所から一番近い街は……ここか」

 

 祝福の街、プロポーズ。

 それがフィリップのいる場所から一番近い街の名であった。

 

「これは何とも……クャントルスカが好きそうな街だね」

 

 実際に婚姻が多いのか定かでないが、名前だけでも彼女は気に入りそうだ。

 愛や恋の多い街であるのなら、浮かれた陽気な雰囲気なのだろうか。

 

「ここから歩いて約一日、ね。まあ気長に向かおう」

 

 いずれは騎乗用のテイムモンスターを手に入れなければな、と思う。

 移動に関しては水中特化であるノーチラスは陸ではあまり使えない。

 馬でも地竜でも、陸の移動が出来るモンスターが欲しいところだ。

 

「馬、か……。うん、冒険家らしいよね」

 

 馬や、現地生物を手懐けて騎乗する冒険家を小説で読んだことがある。

 憧れるなぁと、フィリップはにやけながらも足を緩めない。

 

「1人になろうと、何時になろうと、旅はいいものだね」

 

 

 

 

 歩いていれば当然ながらモンスターに出会う。

 リアルでだって街で無い場所を歩けば野生動物に出会うのだ。

 この世界ではそれがモンスターに置き換わっているだけ。

 

「ッシャァァァァァァ」

 

 3つの腕を持つゴリラのようなモンスター、【バンク・バウンク】に拳銃の弾丸を浴びせながら、フィリップは距離を取ろうとする。

 

 4匹のゴリラの群れに砲弾を浴びせたのだが、そのうち2匹が生き残った。

 賢いモンスターのようで、彼らはフィリップがその砲撃は離れた位置にしか撃てないと察するとすぐに距離を詰め、3つの拳を振るう。

 

「……動物型のモンスターなんて、思い出させてくれるじゃないか」

 

 つい先日の惜敗の相手である【動物王】を思い出しながら、フィリップは2匹のモンスターを相手する。

 

 速さ、攻撃、防御それぞれにバランスよく高いステータスのゴリラが2匹。

 中々に厄介だと思いながらフィリップは1匹に集中して弾丸を浴びせる。

 

「そろそろ倒せると思うんだけど、ね!」

 

 HPが低くなってきた1匹を庇いながら、ほぼ無傷のもう一匹が前に出る。

 弾丸は分厚い筋肉に阻まれて急所に届きづらい。

 倒すにはそれなりの数を撃ちこまなければならないのだが、2匹を相手するとなれば、その時間も倍以上だ。

 

「……それなりにレアな武器ではあるんだけど。威力は低いんだよね、これ」

 

 フィリップの持つ拳銃は自動装填の機能があるため、弾丸はアイテムボックスから自動的に補充されていく。

 そのためフィリップが一々装填する時間は必要ないのだが、フィリップの大して高くないSTRで装備する拳銃の威力は低い。

 同じ機能でこれ以上の威力の拳銃は反動でフィリップに微細ながらもダメージが発生してしまうため、この威力の拳銃を選んだのだ。

 

「前衛なんて久しぶりだよ。1人で満足に戦闘も行えないだなんて、やはり兄さんの言うとおり、私は鈍って弱くなっているのかな」

 

 ゴリラの拳がフィリップを掠める。 

 その風圧でフィリップの身体は吹き飛ばされていく。

 

「……ッ」

 

 勝機と捉えたのだろう、ゴリラたちは2匹とも防御を捨ててフィリップに殴りかかろうとする。

 まともに食らえば防御の薄いフィリップは死ぬだろう。

 一か八か、ノーチラスの本体を目の前に召喚してゴリラたちを押しつぶそうか悩む。

 下手をすればフィリップ自身も潰されてしまうかもしれないが、もしかすると持ち主であるフィリップへのダメージは少ないかもしれない。

 

「……そんなわけないか」

 

 まあ、可能性は薄いだろうなと思いながらフィリップがノーチラスを召喚しようとした時、

 

「お困りなのヨ?」

 

 ゴリラたちの身体が黒い何かが覆った。

 

「……ッ!? カ……ハッ……」

 

 ゴリラたちは血の混じった咳を吐き、そして倒れた。

 顔には死相が浮かんでおり、HPもゼロになると塵となり消えていった。

 

「……これは」

 

 それが人為的な現象であることは理解出来た。

 黒い何かがエンブリオなのか特典武具なのか分からないが、それがゴリラたちを倒した正体。

 

「助かったのヨ? なら私に礼を言うといいのヨ! この天使ちゃんにね!」

「ああ、助かったよ、ありがとう」

 

 振り返れば装飾品が過多に付いたドレスを着る少女がいた。

 手には青空のような色をした傘を持ち、腰には試験管のようなものを差していた。

 

「気にすることないのヨ! たまたま目に入ったからモンスターを倒しただけなのヨ!」

「それでも命の恩人さ。……君は強いんだね」

 

 あれだけ苦労して戦闘を成り立たせていたモンスターを一蹴するほどの実力。

 しかも、どこから現れたのか分からない。

 

「(……ん? 手にしている傘は特典武具か)」

 

 《探求心》に反応があった。

 少女の持つ傘は特典武具のようである。

 であれば、それが突如出現出来た仕掛けを持っているのだろうか。

 

「そうなのヨ! お兄ちゃんと遊ぶために強くなきゃいけないのヨ!」

「そうか。それは……凄いね」

 

 フィリップは既視感を覚えながら少女の言葉に相槌を打つ。

 

「(兄と一緒にいるために強くなる、か。どこかで聞いたような話だ)」

「お兄ちゃんは〈超級〉で超級職なのヨ! だからどれだけ私が強くなっても追いつけないんだけど……それでも努力は必要なのヨ!」

「偉い……のだね。先ほどので既に君は強いと確信していたけど、君の兄はそれ以上なのか」

「そうなのヨ! なんてったってお兄ちゃんの呼び名は“く……おっと、これは言っちゃいけなかったのヨ」

 

 どうやら兄の正体は明かせない人物らしいが、そんな人物は数多くいる。

 〈超級〉ともなれば数は絞られてくるが、正体不明だなんて触れ込みだけでも数人は思い浮かべるし、そもそもで正体が隠されている。

 

「それはそうと、こんなところでのんびりしていられなかったのヨ。早くプロポーズに行かないと」

「プロポーズ?」

 

 それは街の名なのか、文字通り婚姻を申し込みに行くのか……彼女の年齢を考えれば前者であろうが、尋ねる。

 

「うん。この先にある街なのヨ」

「へえ。偶然……ではないね。この近隣だとプロポーズくらいしか街はないのだから。私もそこに行く途中だったのさ」

「だったら一緒に行くのヨ」

 

 その申し出は嬉しいことだが、残念ながらとフィリップは断ろうとした。

 何故ならフィリップは1人で転職しようと決めていたから。

 すでに助けられているが、兄に言われた仲間に頼るなという言葉を素直に受け取り、このまま少女と別れるつもりであった。

 

「いや――」

「行くのヨ!」

 

 と、彼女の腰にある試験管の中から黒い何かが蠢き溢れかえろうとしていた。

 

「(あ、これ断ったら死ぬやつだ……)」

 

 フィリップの本能が告げていた。

 少女は年齢相応に、いやそれ以下に気に入らないことがあれば癇癪を起しかねないと。

 

「(……どちらかというと暴れかねない彼女の監督役、と捉えればいいかな)」

 

 彼女と共に行動すればきっと戦闘面では彼女に助けられるだろう。

 だが、それ以外では彼女は恐らく爆発物に近い存在になる。

 

「(……爆発物を持ち歩く冒険家、か。ふふ、それも悪くないかもね)」

 

 まあ、いいかとフィリップは諦める。

 これもまた冒険であるし、この少女は一歩間違えればフィリップを貫く刃となりかねない。

 そういった冒険も必要なのだろう。

 

「私はフィリップ・ノッツ。未知を探す冒険家さ」

「私はドロップ・カーネイジなのヨ! よろしく!」

 

 と、どこかで聞いたような名に首を捻りながらフィリップは少女――ドロップの差し出した手を握り返した。




なんだ、思ったよりも気のいいやつそうじゃないか
頼もしい少女が仲間になったな
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