<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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やったね、フィリップちゃん! 仲間が増えるよ!


114話 フィリップの冒険 3

■【大冒険家】フィリップ・ノッツ

 

「お待ちください。この街へ立ち入る許可証はお持ちでしょうか」

 

 プロポーズへと辿り着いたフィリップとドロップであったが、街へと続く門で剣を携えた衛兵に止められていた。

 

「許可証、あるいは紹介状。どちらかお持ちで無いのならば、ここを通すわけにはいきません」

「む……それは聞いていなかったな」

 

 街に入るだけで許可証が必要であるとは思わなかった。

 別にプロポーズの街に拘るわけではないが、他の街へ今から向かうのも手間だ。

 

「……それはどうやって手に入れればいいのだい?」

「入手法すら知らないのであれば、尚更通ることは出来ないでしょう」

「無知な者をこの街は歓迎致しません」

 

 頑として衛兵はフィリップ達を通そうとしない。

 その間にも他の行商人や旅人、冒険者たちは通過していく。

 

「通してくれないのヨ?」

「そう……みたいだね」

 

 随分と頑なだなと思いながら、フィリップは考える。

 ここで衛兵と争うのは得策ではない……どころか指名手配されるに違いない。

 セーブポイントを兼ね備えたノーチラスがあるとはいえ、指名手配犯になれば自由を阻害されてしまう。

 

「(ここは……他の通行者に尋ねるのが最良かな)」

 

 次々と許可証を所持している者達が通過していくが、まだ門の外で順番を待つ者もいる。

 フィリップらと同様に許可証の存在を知らずに衛兵に止められる者が少なからずいるため、通過は滞っているのだろう。

 

「(見るからに所持していると思われる人は……)」

 

 通過の順番待ちが遅いことに首を捻っている者はこの街に訪れるのは初めてなのだろうと推察する。

 何度か訪れたことがある者、あるいはこの街を知る者であれば、この光景にも見慣れているはずだ。

 

「(だから当たり前のように並んでいる人に絞っていけば……彼ら以外にしたいものだけどね)」

 

 怪しい集団というか、明らかに関わりたくない5人組が並んでいた。

 フィリップの好奇心をしても、彼らがどのような者達であるかは一目見れば分かるし、分かってしまえば尚更他の者達の方が話は通りそうなものだ。

 

「(となると、プロポーズに本拠地を構えていそうな彼女か、あるいは旅人らしからぬ服装の〈ティアン〉の彼か……)」

 

 少しばかり街の外に出ていた、もしくはこの街の者に呼ばれた。

 そのような人物であれば許可証を尋ねても何かしらの答えは得られるだろう。

 

「(うん。この線で行こう)」

 

 方針を決定したフィリップは衛兵の下から離れ、後方に並ぶ者達へと向かおうとし――

 

「ごちゃごちゃと面倒くさいのヨ。もしかして、この人たち殺せば解決するのヨ?」

 

 ――試験管を軽く叩き、臨戦態勢へと移ろうとするドロップの姿を確認すると、

 

「ちょ、待った――」

「落ち着いてください」

 

 彼女を止めようとする前に、別の人物が彼女に待ったをかけた。

 

「許可証ならばここにあります。衛兵の方々も仕事熱心なのは良いことですが……通して頂けますね?」

 

 男が数枚の紙を取り出す。

 

「む……これは確かにプロポーズへ入るための許可証です」

「しかし、6枚だけしか無いようですが? 2人超過しています」

 

 ドロップを止めたのは、5人の〈ティアン〉を伴う〈マスター〉の男であった。

 フィリップが避けようとしていた集団。

 首輪を付けた〈ティアン〉の奴隷5人と、その主らしき〈マスター〉という集団である。

 

「そうなの?」

 

 ドロップが男を見る。

 暴れ出しそうになったところを止められたためにフラストレーションが溜まったままなのだろう。

 恐らくだが、まだ揉めるようであれば再び試験管の中身を溢れさせるだろうとフィリップは身構える。

 

「おや、そうでしたそうでした。では、長い間ご苦労様でした……№48、№61。」

「い、いやだ……死にたくないっ――」

「何で!? たくさんお役に立てていたじゃ――」

 

 男は奴隷達を振り返ると2つの数字――奴隷に付けられた数字を呼ぶ。

 奴隷の2人は泣き叫び、その場に蹲って頭を下げて命を乞うようにしていたが……男が手を軽く振ると泥に変わるように崩れ去っていった。

 

「これで、人数は合っていますよね?」

「……は、はい」

「5人分の許可証に対して5人の通行人……認めます」

 

 衛兵たちも引いた顔で男へ許可証を返す。

 

「さて、行きましょうか」

 

 男はフィリップ達を促す。

 

「サンクス、なのヨ!」

 

 ドロップは今の光景に何も思わないように歩いていく。

 

「……ありがとう」

 

 フィリップは思うところはあったが、敵対行動をされたわけでもなく、今の〈ティアン〉の命を無駄にするのもどうかと思い付いていく。

 

「ああ、お気になさらず。彼らは所詮、作られた命ですので」

 

 フィリップの訝し気な表情を見て男は笑いながら語り掛けてくる。

 

「……作られた命?」

「……ええ、そうです。誰もがそうでしょう? 命なんて自然発生するものでもないですし」

 

 言い過ぎたとばかりに男は付け加え、それきり黙ってしまう。

 

「フィーちゃん、何しているのヨ! 早くするのヨ!」

 

 先に行ってしまったドロップはフィリップを急かす。

 彼女はいつからかフィリップのことをフィーちゃんと呼んでいた。

 それが友好の証なのだろうかと、まだ幼い少女のあだ名に微笑ましく思う。

 それだけで、先ほどの〈ティアン〉のことは頭から忘れかけ、フィリップはドロップの無邪気さに笑ってしまう。

 

「……ああ、すぐ行くよ」

 

 関わったところで碌なことにならないだろう、とフィリップは足を速めようとし、

 

「まあまあ。どうせだから共に街を見て回りませんか?」

 

 男に呼び止められた。

 

「……うん?」

「せっかく綺麗な女性に可愛らしい少女と出会えたのです。この出会いを無下にしてしまえば僕は自分を王とは呼べません」

「……」

 

 新手のナンパかと、最初は思った。

 王だから女を侍らせるべき、とか不遜な態度で声をかける輩の類かと。

 

 フィリップ――滴とて男に声をかけられた経験が無いことも無い。

 そういった時は大抵、兄が追っ払ってしまうため彼女自身が男に対応したことも無いのだが。

 

「フィーちゃーんー?」

「これも何かの縁です。それに、先ほど貴方方を通すために僕の大事な奴隷を斬り捨てたこと、お忘れでは無いでしょう?」

「……それもそうだけど」

「ご説明しますよ? この街のことも。見れば貴方方はこの街に不慣れなようだ。プロポーズという街に『婚姻届け』を持たずに来るとは、この街のことを触りすら知らないと僕は愚考しますが?」

「『婚姻届け』……? それがあの通行証の名かい?」

「ええ。察しの良いことで」

 

 馬鹿にするなと言いたかったが、堪えた。

 話の流れからそれくらいは察せる。

 

「……そうだね。君の目的は知らないけど、私如きを利用することも無いだろうから。君と一緒に街を回って、君の話を聞いて……私達にメリットしかないその提案に乗らせてもらおう」

「感謝します」

 

 何も感謝されることは無いし、男にメリットがあるとは欠片も思い当たらない。

 故に警戒は続けたまま、フィリップは男の提案を受け入れる。

 

「まあ、彼女が首を縦に振れば、の話だけどね」

 

 ドロップを見てフィリップは言う。

 

「彼女の気まぐれさは相当なものさ。理屈が通じない相手にどうするかな?」

「……はは。手厳しい。その時は応援願いたいものですが」

 

 男は苦笑する。

 だが、その目は全く笑っておらず、どこか余裕があった。

 

「リーンです。どうぞ末永く宜しく」

「フィリップ・ノッツ。この街に滞在する短い期間だけの付き合いさ」

 

 リーンの差し出す手を握り返すことなく、フィリップは名乗り返す。

 どこか胡散臭い。

 友好的な雰囲気を出そうとしているが、同時にフィリップに対する一定以上の距離を取ろうとしている態度も隠そうとしていない。

 

「……ちなみに、何故私達を助けてくれたんだ? 君の仲間を犠牲にして」

「僕の仲間ではありませんが……同じ〈マスター〉だからですよ」

 

 フィリップの問いはリーンも予想していたのだろう。

 特に考える素振りを見せることなく返答する。

 

「ほら、〈ティアン〉の方々の一部は我々〈マスター〉を一括りに考える者もいますので。まあ、それはこちらも同じなのですが。ともあれ、貴方方が問題を起こせば、それ以降僕も白い目で見られる可能性があります」

「……それは君の仲間……奴隷の価値よりも重いのかい?」

「ええ、それはとても。彼らはいくらでも替えの効く存在ですが、僕達に向けられる心象は取り返しの付かないものなのですよ」

 

 遊戯派、あるいは世界派。どちらとも取れる答え方だ。

 まだ遊戯派であって欲しいくらいだろうか。

 世界派……つまり〈ティアン〉を一つの命と捉えてその考えなのだとすれば随分と危うい思考の持ち主だ。

 

「(いや……彼らを奴隷と割り切っているのか)」

 

 奴隷をあっさりと殺してみせたリーンだが、奴隷であって人権を持つ〈ティアン〉では無いと考えているのだとすれば、分からないでもない。

 

「(……ん? 待て待て待て。考え方に引きずられてしまったけど、何だあの殺し方は。泥にする? かなり攻撃的なエンブリオなのか?)」

 

 人間を泥に変える。

 クリアントのスワンプマンにも似ているが、まるっきり別物だ。

 自身を泥にではなく、他者を泥に。

 

「(人間と泥の区別が付いていないとか……まさかね)」

 

 エンブリオの能力なんて数多ある。

 一々現象に推測を付けても、無駄に終わることが多い。

 

「さて、そろそろ急ぎませんと。お転婆なお姫様の機嫌を損ねてしまえば僕は除け者にされてしまいます」

「……」

 

 出来ればそうあって欲しいと思いつつ、フィリップは先に歩くリーンに付いていく。

 目指すは転職クリスタル。

 そこでの転職クエストが今のフィリップの第一優先だ。

 

 ……言うまでも無いことだが、ドロップはリーンの言葉に何も考えていない風に頷いていた。

 




リーン「トワコと別れてからフィリップの後を必死に追ってきました」
 内心ではフィリップが物騒な少女と一緒に行動していたためめちゃくちゃ焦っていた模様。
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