<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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118話 フィリップの冒険 7

■【大冒険家】フィリップ・ノッツ

 

「……うん?」

「我々の目的を開示しましょう。ほら、もしかしたら協力できることがあるかもしれませんので」

 

 フィリップが聞こえていなかったかのように、リーンは再度繰り返す。

 無論、聞こえてはいた。

 ただ、あっけにとられただけだ。

 暗黙の了解というか、そこは互いに探りこそすれ直接的に聞きはしないだろうと思っていたから。

 

「ちなみに僕はこの街に滞在している〈マスター〉の調査です。誰かは明かせませんが、今も僕の奴隷が調べています」

 

 フィリップの《真偽判定》に反応は無い。

 嘘では無いようだ。

 

「何故調べているのか聞いても?」

「申し訳ありません。それは依頼主である彼女に迷惑がかかるので」

 

 彼女、という性別だけ明かしたのはせめてもの慰めか。

 とはいえ、開示しようと言い出したわりにリーンの目的はほとんど分からないままだ。

 

「……探偵みたいなことをしているのは分かったよ。だけどそれで私が――」

「私はUBMを追いかけてここまで来たのヨ」

 

 情報の少なさを理由にフィリップは口を閉ざそうとしたが、その前に続けてドロップが口を開いてしまった。

 

「名前はええと……【煮仏病毒 ピジョンスター】だったかな。多分だけど、病気を撒き散らすモンスターなのヨ」

 

 UBMの名前と能力。

 値千金にも匹敵する情報をあっさりとドロップは開示する。

 

「病気を撒き散らすですか……ほう」

「……いいのかい? そんなことを私達に教えてしまっても」

 

 能力さえ分かれば対策をうてる。

 UBMであれば他にも隠した能力があるかもしれないが、それでも〈マスター〉であれば逃げるよりも倒す算段を付けようとする。

 フィリップであれば相手の能力の有効範囲外から砲弾を放つかなと考える程度には、UBMの魅力は大きい。

 

「構わないの。だって、あんなのお兄ちゃんか、私くらいしか倒せないんだから」

「随分と自信がおありのようで」

「だって私も病気を操作する超級なんだもん。病術師系超級職の【疾病姫】なら、あんなのちょちょいのちょいなのヨ!」

「ほう。貴方がかの……」

 

 どうもドロップの持つジョブは有名なものらしく、リーンは感心してみせた。

 名前からして病気に類するジョブであるのは分かる。

 加えて超級職であるならば、その力は病気を操るUBMとも相性は良いだろう。

 

「いやー。ドロップさんは凄い目的があったみたいですね。UBMを倒すだなんて、そんな誰にでも言えるものでもないのにあっさりと。素晴らしい素晴らしい」

「えっへん、なのヨ」

 

 リーンはしきりにドロップを褒め称える。

 彼女を持ち上げている……わけではなく、これはドロップがここまで情報を提示したのだからフィリップも多少は明かせと暗に言っているのだ。

 最低限でもリーンと同じくらいには。

 それくらいは言わなければリーンは納得しない……どころか、ドロップをけしかけてくるかもしれない。

 

「(うん。それが一番予想出来るね……『何も教えてくれないなんて、フィーちゃんなんて友達じゃないのヨ』とか言って私を瞬殺する未来が見える)」

 

 まあ、いいかと諦める。

 どうせ明かしたところで2人にはどうしようもないことで、どうでもいいことだろう。

 

 もし心変わりをしてフィリップの持つ3つの宝欲しさにフィリップを殺したところで無駄だ。

 3つの宝の所有権はフィリップにある。

 盗もうが、奪おうが、持ち主から離れることは無い。

 フィリップが自分の意思で誰かに託さなければ所有権は移らないのだ。

 

「(……ともあれ、1月以内に私が【探検王】にならなければまた所有権は移ってしまうのだけどね)」

 

 完全なロストジョブ化を避けてか、所有権は時間と共に変わっていく。

 その前に就職クエストをクリアする必要がある。

 

「……そうだね。まあ、ここまで来たら別にいいか」

 

 そう、前置きをして

 

「私はここに就職クエストを受けにに来た。とある超級職……別に名前もいいか。【探検王】を目指してこの街の就職クリスタルを求めてきたのさ」

「おお! フィーちゃんも超級職に! 応援するのヨ!」

「……超級職、ですか。……なるほど」

 

 2人の反応は正反対のものであった。

 ドロップは自身のことのように嬉し気で、リーンは何故か苦々しい顔をしていた。

 

「【探検王】とは初めて耳にする超級職ですが、詳細をお聞きしても?」

「言うわけないだろ。……というか、私も詳しくは知らない。とりあえず就職条件を満たしたからここに来ただけだ」

 

 3つの宝を集めるという難度の高さからロストジョブ化しかけていた超級職だ。

 フィリップも転職条件は知っていたが、どのような力があるかまでは未知である。

 

「だったら早く就職するといいのヨ! クリスタルはどこにあるかもう知っているの?」

「えーと、それは……今から探すところで」

「リーン! 教えるのヨ!」

 

 この中で最もこの街に詳しいであろうリーンに迫るドロップ。

 

「えー、あー、はいはい。就職クリスタルですね……確かこの先の冒険者ギルドにあったような……というか、アナウンス出てません?」

「アナウンス?」

「はい。超級職って就職条件が満たされるとクリスタルの位置まで案内してくれるアナウンスが流れるはずなのですが……」

「あ、確か私の時にもあった気がするのヨ」

 

 探してみると、確かにウィンドウに表示されていた。

 アナウンスをオンにすると、クリスタルの位置がマップに表示される。

 

「これか……見逃していた」

「いえ。確かに分かりにくいですよね」

「……君も超級職に就いているんだね」

「……」

 

 雰囲気から何となく察していたが、やはり隠し持っているものがあったようだ。

 奴隷を泥に変えた力もその一端かもしれない。

 

「……ありがとう。ドロップ、リーン」

 

 立ち上がり、フィリップはアナウンスに従い歩き出す。

 

「少しだけど……決意が出来たよ。君たちが待っていてくれるなら、クリアも確実さ」

「フィーちゃん……」

「待っていてくれたまえ。さくっとクリアして君たちと合流してみせるさ」

「フィリップさん……」

 

 リーンがこの狂犬をここに置いたままに?と縋るような目をしていたが無視する。

 ドロップのことはどうにかして欲しい。

 仮に暴れても、リーンが抑えていて欲しい。

 

 

 

 

『……ふうん? これが就職クエストというものか』

 

 他の超級職が同じとは言えないが、誰もが似たような体験をしてきたのだろう。

 つくづくクャントルスカに詳細を聞いておけば良かったかもしれないと思う。

 

『……いや、こういうのは自分で初めて体験する方が楽しいのかもね』

 

 知っていたら楽しさが半減する。

 未知の体験と言うものは自身で初めて体験してみたいものだ。

 

【転職の試練に挑みますか?】

『勿論だとも』

 

 アナウンスの声に応えると、フィリップの前にとあるものが出現する。

 

『それで、これがクエストクリアに関わるものなのかな?』

 

 フィリップの前にはあるものとは天秤。

 片方には心臓を模した模型。

 人工物であり、心臓は動いていない。

 だが、そこには『フィリップ・ノッツ』と文字が記されていた。

 

 そしてもう片方。

 心臓と吊りあっている先には、開かれた宝箱が置かれていた。

 中に何があるのかは分からない。

 見えはするのだ。

 中身も視認出来る。

 だが、それは絶えず形を変えており、宝石であったり金貨であったり、剣であったりと、正体は不明だ。

 

【相応しい選択をせよ】

【成功すれば、次代の【探検王】の座を与える】

【失敗すれば、相応しい末路が待っている】

 

 選択。

 それが【探検王】に課せられた就職クエスト。

 

『……なるほどね』

 

 恐らく心臓はフィリップの命。

 そして、宝箱は、宝そのものを表しているのだろうとフィリップは推測する。

 

『命か宝か。【探検王】になるならそれくらいの覚悟をしておけということか』

 

 相応しい末路、とは何だろう。

 恐らく宝箱を選び心臓を捨てた時、それがもし不正解であれば死ぬのではないだろうか。

 逆もまた然り。

 【探検王】に相応しくないと判断されれば死が待ち受けているのだろう。

 

『……アドベンチャー系の映画ではよく見るよね。こういう、命を賭けた冒険ってやつがさ!』

 

 フィリップは宝を選択する。

 映像ではなく質量を伴った物質であったようで、宝箱は手に取ることが出来た。

 

 そして――

 

【貴様は【探検王】に相応しくない】

【死ぬが良い】

 

 選択されなかった方、フィリップの名が記された心臓が砕けると、フィリップのHPもゼロになった。

 

『(……あれ? 選択ミス……?)』

 

 【探検王】であればこう答えるだろうと。

 そう予測した返答は間違いであり、フィリップは死亡時のペナルティである1日ログイン禁止となった。

 

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