<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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124話 フィリップの冒険 13

■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ

 

 変身省略。

 煙が舞う中でささっと変身を終えようとしたフィリップであったが、タイミングをミスってしまったため、ピジョンスターとドロップが見守る中で魔法少女へ変身することとなってしまった。

 

 空気を読んだのか、それとも戦闘中に様相を変えつつあるフィリップの異様さに驚いたのか、不思議とピジョンスターは何もしてこない。

 

 青を基調とした魔法少女であるが、どちらかといえば格好いいという印象を思わせる衣装を見て、フィリップは溜息をつく。

 

「(……【大冒険家】になって忘れていたけど、こんなの着ていたのか)」

 

 魔法少女同士の戦いであれば、互いにそこは暗黙の了解で突っ込まなかったのだろうが、そういえば【動物王】はこの衣装を見て何を思ったのだろう。

 彼女は毛皮を羽織っていたが、そこは【動物王】らしい衣装であったと言えよう。それに似合っていた。

 年頃の女性が魔法少女のような衣装を着て真面目に戦っている……それを改めて思うと、思わなければ良かったと後悔せざるを得ない。

 

「うわぁ! フィーちゃんって魔法少女だったのヨ!」

「ああ、うん……まあね」

 

 ドロップの反応が良好だったのが救いだろう。

 これで引かれていたら、もう一度【大冒険家】にジョブを変更し直さなければならなかった。

 その時間をピジョンスターが待っていてくれるかは別として。

 

「どうだい? 格好いいだろう?」

 

 自分から好印象の言葉を述べるのは、恥じらいを隠すため。

 可愛いと思われるよりは格好いいと思われていた方がまだマシであろう。

 

「うん! 格好良くて、綺麗なのヨ」

「はっはっは。あまり褒めないでくれよ」

 

 これは本心だ。

 【大冒険家】の衣装ならまだしも、こちらで褒められると居心地が悪い。

 

「でもフィーちゃんは魔法少女っていうより魔女……? 綺麗な魔女だから美魔女なのヨ」

「分かった。二度とそれは言わないで欲しい」

 

 さて、フィリップが【大冒険家】から【魔法少女ψ】へとジョブを変更した理由だが、それは大きく分けて2つある。

 ピジョンスターの病毒に対して耐性を持てる【大冒険家】であるが、リーンが倒れたことから、耐性も万全でない限りはどこかで破綻することが分かった。

 ドロップのような完全な耐性があれば別だが、耐性が高い程度であれば、それを乗り越えられて倒されるのだろう。

 だからフィリップは別の角度からそれを防ぐことにした。

 懸念材料は体内に既に入り込んでしまった細菌やウイルスだが、それも先ほどドロップが取り除いてくれた。

 ならば魔法少女になる事に躊躇は無い……精神的な問題を除けば。

 

「固有魔法発動」

 

 フィリップとピジョンスターの範囲にだけ雨を降らせる。

 シャワーのような強い雨がフィリップとピジョンスターだけを濡らす。

 

「フィーちゃん……?」

「ドロップ。君は近づかない方が良い。君のエンブリオは水に弱いだろうから」

 

 雨はフィリップの身体を濡らす……体表にある全てを洗い流していく。

 それはピジョンスターから撒き散らされた細菌やウイルスも例外ではない。

 むしろ、微生物であるから、小さいからこそより流されていく。

 

「これでも観察眼はある方さ。君が自分の身体にエンブリオを纏わせてピジョンスターの攻撃を防いでいたことは気づいていた。私はそれを真似させてもらっただけ」

 

 絶えず雨はフィリップの身体を洗い流す。

 これで当分はピジョンスターからの病毒散布は広がらないし、フィリップを蝕むことも無い。

 通常の雨であれば微生物や細菌が潜んでおり、それもまたピジョンスターの蟲毒の強化に繋がってしまうかもしれない。

 だが、この雨はフィリップが固有魔法で降らせた雨。

 いわば、水属性の魔法だ。

 液体操作と液体の出現を同時に行っているようなもので、そこに細菌は介在しない。

 

 そして、その雨はピジョンスターをも濡らす……洗い流す。

 

『くるっぽー』

 

 その声が慌てたものなのかは分からない。

 だが、確実に弱体化を招いたとフィリップは確信している。

 

「翼を広げる行為と病毒を撒き散らされる結果。それを結びつけるのなら、ピジョンスターが体に細菌を飼いならしていることを推測するのは容易い」

 

 あるいは、直前の戦いが【動物王】であったことが功を奏したのかもしれない。

 使役する、飼う。この考えがすぐに浮かんだのは【動物王】を知っていたからだろう。

 

「ウイルスや病原菌、その他の生物を操る力は封じた。生物そのものも君の身体から失われたはずだ。これで君に打てる手は無い」

『くるっぽー』

 

 ピジョンスターの嘴がフィリップを貫こうとする。

 

「ちなみにこの雨。ある程度は私が操作できるのだけどね。こうして私の身体を覆うことだって出来る」

 

 水檻のように、フィリップの身体を水の膜が包み込む。

 無論、それの防御力はたかが知れている。

 しょせんは水。伝説級UBMであるピジョンスターの嘴や翼を防ぐことは出来ない。

 出来るのはせいぜい、爆風や熱くらいだろう。

 

「発射!」

 

 フィリップの背後に現れた砲台。

 それがフィリップごと、ピジョンスターを砲弾による爆発が包み込んだ。

 

「うわっぷ……凄い威力なのヨ」

 

 フィリップは海中の方が戦いやすいと常々ぼやいているが、地上における戦闘力も決して低いわけではない。

 展開された砲台から放たれる砲弾の威力は亜竜級程度までを屠るくらいにはある。

 単純な火力だけならば、アームズ系統の第四形態程度は持っているのだ。

 

「でもこの威力なら……」

 

 爆発が晴れた時、そこには純白の羽毛のあちこちが焼け焦げ、黒く煤に染まったピジョンスターがいた。

 

『く、くるっぽー……』

 

 声も弱弱しい。

 死に体であることは明らかだろう。

 

「けほっ……時間は稼げたかな……」

 

 同様に、全身を焦がしたフィリップがピジョンスターから離れ、ドロップの下へと這いながら近寄ってくる。

 

「体力はまだ残っているみたいだ。それに私の推測が正しければ、まだ何か奥の手を隠している。片付けるなら今だ」

「うん! 行くのヨ! 《漆黒の騎士、運ぶは病(ペイルライダー)》!」

 

 試験管が割れる。

 中から溢れ出るようにしてペイルライダーが這い出る。

 

 それが形作るは漆黒の馬、そして黒い甲冑の騎士。

 剣を抜き、その切っ先をピジョンスターへと向ける。

 

「ここまで弱っているのなら、吸収しきれないくらいに病を与え続けてやるのヨ」

 

 黒馬に跨った黒騎士は地を駆けピジョンスターへと走る。

 

 光を一切反射しない剣先。

 それに触れたらどうなるか、それはペイルライダーの能力をよく知っている者であれば、すぐに察せるだろう。

 

 ピジョンスターは避けようとするも、先ほどの負傷が効いたのか動けない。

 

『くるっぽー』

 

 代わりに、汚れた翼を広げ、細菌を振り撒く。

 しかし、病魔を振り撒く、病魔そのもののようなペイルライダーには効果が薄い。

 細菌もペイルライダーに触れたところですぐにペイルライダーの病魔が侵し勝つだろう。

 

『……くるっぽー!』

 

 ソレが病魔の塊であることを知ったピジョンスターは続けて吸収しようとする。

 病原すらもピジョンスターの翼の中で蟲毒の一つとして動かされる。

 

 いくら強力な存在であろうと、それが細菌やウイルス、病魔であるならば、ピジョンスターの支配下だ。

 

「……ッ!」

 

 だが、ペイルライダーは崩れない。

 形を変えることなく、依然としてピジョンスターを目指し剣を振りかぶる。

 

 《漆黒の騎士、運ぶは病(ペイルライダー)》。

 その必殺スキルの能力は固定化と爆発。

 ペイルライダーは通常であれば靄という不定形の存在。

 必要とあらば馬などの形を作ることも可能だが、その強度は低くすぐに崩れてしまう。

 必殺スキル発動時はその脆弱性を打ち消すかのように、馬と騎士という形を固定化させることが出来る。

 というか、他の形を作れなくなった。

 

 ピジョンスターの吸収程度ではペイルライダーは崩れない。

 騎士は一つの乱れを起こさずに、その剣でピジョンスターを貫いた。

 

 瞬間、その剣先からペイルライダー全てがピジョンスターへと流れ込んだ――まるで吸収されたかのように。

 




やったか!

ちなみに
遠距離から砲弾を撃ち込んでいたらどうなるか。
避けられます。

なら傷ついているピジョンスターにそのまま砲弾を至近距離から撃ち続ければどうなったか。
倒せる可能性は高いですが、MVPがフィリップになる可能性が高くなります。
あくまでドロップに華を持たせたかったためフィリップは下がりました。
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