<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【煮仏病毒 ピジョンスター】について
ピジョンスターの持つ1つ目の能力は既に知られている通り、自身の身体を蟲毒の壺と化すものである。
細菌らの強化を促す力はあるが、それ単体では強化を行えない能力。
互いに喰らい合い、互いに毒を強めるしか細菌らは強くなれない。
細菌、ウイルス、病、遺伝子汚染物質……その他様々な病気や毒の原因となるものを種差問わず己の身体に留める。
それらに形や大きさはあるが、ピジョンスターの体内では一切無視され、毒性の強さ、悪性度だけが蟲毒の中で生存が決まる。
ピジョンスター本体にパワーは無いが、その飼われている細菌達は長期間互いに毒性を高め合った災厄だ。
災厄をばら撒く。
それがピジョンスター唯一の攻撃手段であり、広範囲を諸共に殺せる必殺の一撃。
だが、それだけの能力であるならば。
ピジョンスターというモンスターは逸話級UBMに留まっただろう。
羽の一つ一つの細菌を留められるという力から始まったモンスターが逸話級UBMに昇華したことで、細菌以外の悪性生物や物質を操作出来るようになった。
しかしながら、ここでピジョンスターには問題が発生したのだ。
それは、ピジョンスター自身が強まる細菌らに対抗できる抵抗力が無かったこと。
蟲毒の中で毒性や悪性が強まるほど、それはピジョンスターの身体を蝕む。
いくら翼を広げ、周囲に撒き散らしたところでそれらが全てピジョンスターから離れるわけではない。
故に、誕生してからの短い年月の中でピジョンスターの身体は弱り、逆に攻撃性は高まり、死に近づいていた。
その際に更に進化を遂げたのは生存本能だろう。
同時に手に入れた新たな力が細菌らに抗う力であったのは。
『くるっぽー!』
ドロップの必殺スキル、黒い甲冑の騎士の剣がピジョンスターを貫く。
「ふっふっふー。必殺スキルにより強化されたペイルライダーちゃんは斬った相手を数十数百分の病で侵し続け……えぇ!?」
自信満々に《
傷口から剣を……その先にいる漆黒の騎士や馬もが吸い込まれていく。
相手の体内に入り込んだわけでは無さそうだ。
ドロップにそのつもりはなく、これはピジョンスターが細菌を取り込む力を最大限に発揮した結果であることが伺える。
「で、でも取り込んだならそれは逆効果なのヨ! すぐに数百の病で蝕んでやるの。心臓、肺、脳の重要臓器を痛めつけて殺すのヨ、ペイルライダーちゃん!」
ドロップの声に、しかしピジョンスターが苦しむ様子は無い。
吸収されきらなかったのか、ピジョンスターの体表や口からペイルライダーが漏れ、走っているが、特段病にかかった様子は無い。
「え……なんで……」
ペイルライダーの罹患能力は強力だ。
加えて、【疾病姫】による固有能力により罹患力の強化と、相手の免疫力低下によりその力は増している。
ピジョンスターとは似て非なる能力。
相性は決して悪くない。
悪くは無いのだが、ピジョンスターが古代伝説級へと至った際に得た2つ目の能力がドロップにとっては致命的であった。
『くるっぽー』
ピジョンスターは勝ち誇ったように鳴く。
己の身体に吸収したペイルライダーが自身に何も出来ないことを知り、その主であるドロップを見下げる。
やはり、相手にする必要は無かったと、再確認したのだ。
2つ目の能力こそは己の持つ力に対する完全耐性。
即ち、羽や体内で飼う細菌らに決して自身は侵されないというもの。
ペイルライダーは既に取り込んでおり、その力も解析済み。
耐性は一度目の戦いで獲得していたのだ。
必殺スキルになろうが、毒性や悪性が強くなろうが、それがペイルライダーという本質さえ変わっていないのなら完全に獲得した耐性は突破出来ない。
もし、ドロップが《
……いや、それすらも時すでに遅い。
珠の時点でペイルライダーを少しばかり吸収していた。
出会った時からピジョンスターはペイルライダーの力を無効化したに等しかったのだ。
『……くるっぽー』
だが、と翼を広げ地面から浮き上がりつつピジョンスターは考える。
ペイルライダーの主は、自身と似たような能力。
ピジョンスターもまた、ペイルライダーの主を殺す手段に乏しい。
細菌で食い殺そうとしてもペイルライダーが彼女を守っているならば、それを突破出来ない。
ピジョンスターが幾ら耐性を持っていたところで細菌は共有できないのだから。
そして、もう一人。
ピジョンスター諸共砲弾で自身を攻撃した女を睨む。
彼女の攻撃力は脅威だ。
元々、単純なステータスは高くないピジョンスターにとって当てられる物理攻撃は下手をしなくてもピジョンスターを殺し得る力となる。
『……くるっぽー』
このまま戦い続けるか。
それとも離脱するか。
考えた既に後者を取ることにした。
数百年前に逃した人間の子孫はその大半を殺した。
因縁があるわけでもない。
ただ、残しておいた食料が新たな果実を生み出したから摘んだような感覚だ。
採り過ぎればいずれは尽きてしまう。
頃合いだろう。
そう思い、ピジョンスターは飛び立とうと翼を広げ、上空へと上昇していく。
「……屈辱なのヨ」
地上ではペイルライダーの主は俯いている。
自身の能力を取り込まれ、何もできないまま戦いが終わることに悔しがっているのだろう。
無理もない。
この戦いにおいて、一番無力であったのは彼女自身である。
味方に耐性を付けたところで、それも突破される。
敵に攻撃を仕掛けたところで、それも吸収される。
唯一ピジョンスターにダメージを与えないまま。
唯一ピジョンスターに脅威であると認定されないまま。
彼女の戦いは終わろうとしていた。
「屈辱なのヨ! 疾患で殺せないなんて、【疾病姫】としてとっても屈辱!」
顔を上げた彼女の目には悔しさがあり……敗北したという感情は一切無かった。
「このまま逃げられるくらいなら……もういいのヨ! ペイルライダーちゃん! やっちゃうのヨ!」
ペイルライダーの主は人差し指をピジョンスターに向け突き立てる。
そして、次の瞬間、ピジョンスターの肉体は爆ぜた。
『……!?』
何が起きたか分からないまま。
ピジョンスターは四散し、意識は途絶えるのであった。
■【疾病姫】ドロップ・カーネイジ
「とっても悔しいのヨ」
飛翔していくピジョンスターを見上げ、ドロップは呟く。
ペイルライダーの力に文句があるわけではない。
【疾病姫】の能力にもドロップは満足している。
これは単純に能力の相性差であった。
誰が悪いわけではない。
ピジョンスターはUBMの範疇の中では決して強者の部類では無いし、ピジョンスターに負けたからといってドロップはピジョンスターよりも格上の存在に負けるとは限らない。
ただ、互いに病気や細菌を操る能力があり、それに関してピジョンスターの方が一枚上手であっただけだ。
「やっちゃうのヨ」
ドロップは命令を下す。
その相手はピジョンスターの身体に取り込まれたペイルライダー。
取り込まれて尚、その命令権は奪われずにドロップにある。
「ペイルライダーちゃん! やっちゃうのヨ!」
《
その能力は固定化と爆発。
固定化は既にピジョンスターの吸収を防ぐために発現していた。
2つ目の力。
爆発は、ペイルライダーが剣で斬りつけた後に発揮される。
剣で斬りつけた際、ペイルライダーは切っ先から少しだけペイルライダーの靄を相手の身体に残す。
病魔の塊であるソレは、相手に体内で爆発的に増し、同時に数十から数百に膨れ上がった病気で以て相手を殺す。
耐性が高かろうとも、膨れ上がった病魔のいずれかが相手に発症し、それが致命打となる……のが《
だが、ピジョンスターは違う。
その全てを無効化する。
故に、ドロップは別の殺し方をするしかない。
幸いというべきか、それともピジョンスターが優位性を増したかったのか。
剣先から靄を残すために固定化を一瞬だけ解いたペイルライダーを全て吸収したピジョンスターであったが、それが仇となった。
爆発的に増す。
それはペイルライダーの病魔の数だけではない。
同時にその質量すらも増える。
ピジョンスターが体内に取り込んだペイルライダーという物質。
馬になったり、ドロップに触れられたり。
実際にペイルライダーの剣はピジョンスターに傷口を作る程度には強度がある。
決して概念的な存在ではないペイルライダーが、液体なり個体なり気体なり、そこに在るペイルライダーがピジョンスターの体内で全て膨れ上がった。
ピジョンスターが幾ら疾患に対する耐性を獲得していようとも、体内を破裂させる勢いで膨れ上がるペイルライダーを抑えつけることは出来ない。
ましてや、ドロップの命令が出てからはそこに留まり続けようとしていたペイルライダーを外に追い出すことなんて出来やしないのだ。
吸収は出来たところで放出の能力なんて与えられてないのだから。
「……ああ、もう。本当に屈辱なのヨ」
自身の必殺スキルを破られ、しかし目的のUBMを倒したドロップの顔は晴れやかなものではなかった。
【<UBM>【煮仏病毒 ピジョンスター】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ドロップ・カーネイジ】がMVPに選出されました】
【【ドロップ・カーネイジ】にMVP特典【はいぱーきぐるみしりーず ぴじょんすたー】を贈与します】
「やったぁ! のヨ!」
……少なくとも、特典武具を手に入れるまでは。
満面の笑みでVピースを見せるドロップを見て、フィリップは苦笑するのであった。
数話で倒すだろうと思っていたけどこんなにかかっちまったぜ……
UBMを倒したら後はやることは一つだけだな