<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【疾病姫】ドロップ・カーネイジ
それはまるで子供の癇癪であった。
手当たり次第に玩具を投げつけるように。
感情を周囲にぶちまけるように。
ドロップは災厄を、害悪を、病魔をプロポーズにいる生物全てにぶつけるのであった。
「……ああ、もう! 何なのヨ!」
裏切られた。
ドロップにとってはそのような気持ちであった。
せっかくUBMを倒したのに。
せっかく特典武具を手に入れたのに。
せっかく友達が出来たのに。
せっかくたくさんの〈ティアン〉を殺して経験値が入ったのに。
せっかく楽しい気分だったのに。
台無しだ。
台無しになったのなら――全てを壊すまでだ。
「気分転換にもならないのヨ!」
ぴじょんすたーを装備したドロップに死角はない。
近接はペイルライダー、中・遠距離はぴじょんすたーで戦うことが出来る。
そのどちらも【疾病姫】とのシナジーがあり、そしてペイルライダーとぴじょんすたーもまたシナジーを作れているのだ。
二重どころか三重の効果。
それが今のプロポーズを壊滅させた力の要因だ。
「《弊害散布》」
ドロップは翼を動かす。
翼に集まっていた病魔はその動きに合わせて街中に広がっていく。
これが【はいぱーきぐるみしりーず ぴじょんすたー】の第一スキル《弊害散布》である。
ピジョンスターはスキルでなく、ただ翼を広げていただけで散布していたが、特典武具となった際にスキル化した。
ただし、通常行動でなくスキル化したのだ。
UBMであった頃よりも強力なものとなっている。
より広範囲に、より体内に。
害悪全てを撒き散らすスキル、それが《弊害散布》である。
その範囲はこの街をカバーする程度には広い。
元が鳥類であるだけにだろう、翼を広げたぴじょんすたーを阻む鎖は存在しない。
街中に病魔が撒き散らされれば下地は十分だ。
「こっちだ!」
「こいつが下手人だぞ!」
「1人のようだ……囲んでやっちまえ!」
「俺は魔法で援護する」
多少なりとも病毒系状態異常に耐性があった〈マスター〉達がドロップを見つけ、駆け付ける。
生き残っているということは、高レベル、上級職や上級エンブリオの持ち主だろう。
そして、ドロップの力に対抗できる者達。
ドロップの力をすり抜けた者が複数名、近遠距離から攻撃すれば、もしかすれば倒せるかもしれない。
……これまでのドロップであったならば。
「《明け暮れの院内》」
【疾病姫】のスキルの1つ、病毒系状態異常の耐性を下げる効果を持つ《明け暮れの院内》は本来であれば時間をかけて効果を発揮するものだ。
何故ならば、このスキルは対象の病毒系の原因となる生物や物質の潜伏期間に比例して効果が強くなるからだ。
つまりは、病毒系スキルと《明け暮れの院内》を同時に使ったところで即時的な効果は期待できない。
5分、10分と時間がかかることでようやく対象の耐性を下げるのである。
ならば、今のドロップであればどうだろうか。
潜伏期間を長くするにはどうすればいいか。
それは、出会う前から既に相手の体内に病魔を仕込んでおけば良い。
《弊害散布》は《明け暮れの院内》の弱点を強みへと変えた。
ドロップの前に立つ者全てが潜伏期間という課題をクリアしており、《明け暮れの院内》を発動するだけで、体内に入り込んだ病魔が体を蝕んでいく。
「即死。瞬殺、なのヨ!」
会敵時間僅か10秒にも満たない〈マスター〉達にドロップは辟易してきた。
どうせ敵わないのならば、逃げてくれた方がマシかもしれない。
経験値稼ぎもすぐに飽きてしまった。
「何でなの? この間まで雑魚を蹴散らすのも楽しかったのに」
楽しさが上書きされてしまったかのような。
原始的な遊びしか知らなかった子供が、高文明の遊戯を覚えてしまった子供のように、ドロップは退屈を感じ始めていた。
「……セット」
先ほどまでぴじょんすたーはフィリップの砲撃により煤汚れていた。
だが、ドロップの言葉と共に翼は純白を取り戻す。
「ペイルライダーちゃん」
割れた試験管から黒い靄が出る。
残り少ないペイルライダーの残滓全てをぴじょんすたーの羽に乗せる。
「そういえば屋台は無事だったのヨ?」
屋台で買った料理はどれも美味であった。
あれらが失われるのは少しだけ惜しい。
……尤も、店主らが死んでいるためそれも再現は難しいのだが。
しばらく屋台を歩き回り、屋台の料理を回収していく。
それも終わると、
「もうこの街を終わりにするのヨ」
ぴじょんすたーの羽からペイルライダーが出現する。
それは試験管の中に残っていたものよりも増えており、黒い馬を形成するだけになっていた。
【はいぱーきぐるみしりーず ぴじょんすたー】の第二スキルである《煮仏病毒》。
即ち、ピジョンスターがピジョンスターであるが所以の能力、蟲毒を再現したものだ。
ぴじょんすたーの羽を蟲毒の壺とし、羽に潜んだ病魔や細菌を強化するというもの。
ペイルライダーの場合は、質量増大や毒性強化されるため、必殺スキルで失われた体積も取り戻せるようになる。
そして、【疾病姫】の病毒系スキルだけでなく、ペイルライダーすらも《弊害散布》の対象だ。
遠方にペイルライダーを撒き散らすこと。
それだけであれば、先ほど行った病毒系スキルを撒き散らしたのと大差無い。
だが、その必殺スキルすらも可能であれば。
どのような生物とて殺せる病魔を広範囲に散布できる災厄と化す。
「《
羽の一つ一つが黒騎士の形を作る。
それらは小さな騎士であるが、彼らに大きさは関係ない。
それぞれが凶悪な病魔。
それらが一斉に街中に飛び立とうとした時であった。
「まだ冒険は終わっていない。私が生きているのだからね」
ドロップの前に1人の〈マスター〉が立つ。
彼女は魔法少女の衣装を捨て、冒険家らしい装備へと戻っていた。
だが、彼女は【大冒険家】などではない。
ドロップの《看破》で捉えた相手のメインジョブは上級職を超えた超級職。
冒険家系統派生超級職。
【探検王】フィリップ・ノッツが立ちはだかる。
「フィーちゃん」
「やあ。先ほどは失礼したね。君の相手をするには力不足だったみたいだ。だから、無理やり土俵に上がることにしたよ」
フィリップの横に巨大な潜水艦が出現する。
船体には砲台が取り付けられており、いずれもドロップへと向けられている。
「これがフィーちゃんのエンブリオの真の力なのヨ? 隠していたなんて……やっぱり友達じゃなかったのね」
ピジョンスターとの戦いは全員が全力を出したうえでもぎ取った勝利であると思っていた。
力を惜しみなく発揮し、ドロップのために協力してくれたのだと。
リーンの思惑は分からないが、少なくともフィリップは打算ではなく友情からドロップに助力しているのだと思っていたのに。
それなのに、フィリップは手を抜いていた。
巨大な潜水艦という切り札を残して戦っていた。
「それはこちらの台詞だ。私とまだ友達と思っているのなら、私を理解しようとしてくれたのなら、この街から手を引くべきだったのに」
「……だから! フィーちゃんも経験値を稼ぎたかったなら残すって言ったのヨ!」
「……根本から違うのだ。私は、無暗に人間を殺すなと言っているのだ」
「五月蠅いのヨ! 〈ティアン〉は人間じゃない! コンピュータにプログラムされた疑似人格! 殺してもそのうち復活する量産品なのヨ」
理解できない。
何故フィリップが前に立つのか。
何故そうまでしてドロップの邪魔をするのか。
「もういい! 死んじゃえ!」
既に何度も病魔は振り撒いている。
フィリップの身体にも潜伏しているだろう。
「《明け暮れの院内》!」
フィリップの病毒系状態異常に対する耐性はこれで下がる。
体内から一気に病魔がフィリップを蝕む……はずであった。
「ん……それはもう意味が無いさ」
だが、フィリップはそこに立ち続ける。
息を切らし、心臓を抑え、それでも死なない。
「……ッ! ちょっとだけ耐性があるからって! 調子に乗るんじゃないのヨ!」
既に準備は整っていた、ぴじょんすたーの羽に乗る黒騎士に視線を送る。
「ペイルライダーちゃん! フィーちゃんを殺して! 《
今度こそ発動された必殺スキル。
しかし、ピジョンスターを倒した時とは明確に大きさと数が違う。
ぴじょんすたーの羽で育成された幾つものペイルライダーの分身は合体せずにそれぞれが必殺スキルとして黒騎士へと昇華する。
「死ね! 死んじゃえ! フィーちゃんなんて大嫌い!」
潜水艦がフィリップを守るように動き出す。
黒騎士を遮るようにフィリップを隠す。
「馬鹿なのヨ! ペイルライダーちゃんは意思有る伝染病! 盾を作ろうとも、避けるまで!」
潜水艦を飛び越え、黒騎士たちはフィリップへと辿り着く。
そして、剣をフィリップへと振り下ろした。
FGOのオーロラ様がデンドロで遊ぶ二次創作書いてみたいけど、どんなエンブリオ発現するか悩んでる。
生存特化か、魅了系か……どうするかな。
まあいつ書くかも分からないけど。