<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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では本編に戻ります


130話 新たな出会い

【深潜水士】クリアント

 

「フィリップは戻ってくるのだろうか……」

 

 フィリップの背を見送り、ふとクリアントは呟いた。

 1人で超級職への就職クエストを受けたいという本人の要望のため、見送ることとなったのだが、クリアントの心中には一抹の不安が残っていた。

 

「何ですかその不吉な予言は」

「いや……フィリップが俺達と一緒に居た理由ってあいつの欲しい宝の蒐集を協力するからだったじゃないか。でもそれはもう叶っていて……」

 

 残りは自身で成し遂げるとフィリップは言い残した。

 つまり、もうこれ以上クリアントが彼女に対して出来ることは無い。

 

「なーにをメンヘラ気質なことを言っているんです。そのうち誰も自分を見てくれないって手首を切る気ですか?」

「切らないって」

「でも残念でした。ワンプちゃんがいる限り先輩は手首を切ったところで復活しますし? そもそもワンプちゃんがいる限りは先輩は1人ボッチになれないんですよ」

「そもそも俺がメンヘラ前提で話を進めるな」

 

 しかしながら、クリアントの心配は杞憂であると斬り捨てることは出来ない。

 フィリップは冒険家気質の人間だ。

 彼女が他の地を旅したい、新たな門出を見送って欲しいと言い出す可能性が無いとも言い切れない。

 

「せっかく友人になれたからな。ここでお別れというのは寂しい話だろ?」

「あー、まあ……先輩って友達少なそうですもんねー」

「……言い返せないのが悔しいな」

 

 現実世界もさることながら。

 このデンドロの世界においてクリアントはどれだけの友人関係を結べただろう。

 

 フィリップ、クャントルスカを除いて、まともに会話をした人間を思い出そうとして……

 

「ええと、マッドラップスの情報を教えてくれた人に、神殿のところでグラスコードにあっさり殺された奴だろ。後は……魔法少女連中とフォールくらいか?」

「名前も知らないモブばっかりじゃないですかー。後、魔法少女の人達のほとんどは先輩のこと恨んでると思いますよー」

「そうか? ……そうかもな」

 

 普通に戦って勝っていればまだしも、不意打ちまがいの自爆でしか倒してこなかった魔法少女戦である。

 

「ああ。そうだそうだ。デメンタリーがいるじゃないか。フィリップの兄貴の」

「それ、友達のお兄さんも友達って言ってるようなものじゃないですか?」

「いや、一回戦っているし、セーフだろ」

「ノーカン以前ですよ。というか、戦ったら友達の感覚がおかしいですって」

 

 これ以上は思い出そうにも思い出せない。

 どれだけ他の〈マスター〉と関わってこなかったのか。

 それはログイン開始後の1カ月のプレイスタイルが大きく響いていたに違いない。

 

「ええと……なんだっけ。フィリップがこのままいなくなるんじゃないかって話だ」

「少なくともこのままお別れは無いと思いますよ? 超級職になれたにしろ失敗したにしろ、報告せずに去る人とは思えませんし」

「それもそうだな」

「もう! クリアント君! 一緒に居たい。その気持ちがあるなら理由なんて後でいいんだよ!」

 

 と、クャントルスカが話に入ってきた。

 ちなみに今までは自身のエンブリオであるモーと周囲の偵察をしていた。

 万が一生き残りがいないか、盗賊のような者が現れないかを警戒していたのだ。

 

「フィリップちゃんが欲しいお宝だけを優先していたならクリアント君じゃなくて他の人と一緒に集めていたかもしれない。それでもクリアント君を選んだんだよ!」

「……何となしに俺は貶されていないか?」

「……貶されているんですよ。気づいて正解です」

 

 ヒソヒソとクリアントとワンプが耳打ちしあう。

 それにクャントルスカは気づかずに続ける。

 

「素敵だよね! フィリップちゃんはクリアント君という友情を選んだんだ! 自分のお宝に対する欲望よりも先に友情を!」

「……フィリップって必殺スキルの囮に俺が最適とかいつか言っていたんだよな」

「……殺してもいい囮って最高ですよね。しかも先輩相手なら心が痛まない」

 

 他にも強い〈マスター〉が数多くいるだろうが、蘇生に近い能力を持った者は少ない。

 ましてや、特典武具を有している〈マスター〉など、クリアント以外には指の数ほどであろう。

 

「だからフィリップちゃんは帰ってくるよ! クリアント君という友情に、私という愛情が待っているんだから!」

「……自分は愛情って言ってるな」

「……まあクャントルスカですからね」

「それにフィリップちゃんが1人で向かった理由は分かるよ。きっと強くなりたいんだよ」

「強く?」

「それ先輩が一番求められているものじゃないですか?」

 

 クャントルスカは声のトーンを落とす。

 興奮気味であった先ほどまでとは違い、その目には理性が宿っていた。

 

「うん。フィリップちゃん……別れ際は浮かない顔をしていたんだよね。たぶん、自分に力が足りないって思っているんじゃないかな」

「そんなことは――」

「だって、クリアント君から『赤砂の剣』を受け取った時、嬉しそうな顔をしていなかったよ」

 

 最後の1つだというのに、嬉しさよりも悔しさがフィリップの顔にはあった。

 欲しかったはずなのに。

 目的であったはずなのに。

 

「なんだかんだで一番欲望に素直なんだと思うよ、フィリップちゃん」

「……おまいうってやつですよね」

「……今良いこと言っているんだから黙っててやれ」

「自分で欲しいものなのに自分で手に入れることが出来なかった。それが悔しくて悔しくて、せめて自分の力で強くなろう。そう思っているんじゃないかな」

「それで……1人で転職クエストに向かったのか」

「うん。……転職クエストって複数人で受けられるものじゃないんだけどね」

 

 素質を問われるクエストだ。

 故に数人で受けることは出来ない。

 

 ……ともあれ、1人で成し遂げたい。

 その気持ちはクリアントには分かった。

 

「なら俺達は待つだけか」

「もし気になるなら、次の目的を考えるのも良いかもね。フィリップちゃんが飛びつきそうなやつ!」

「王国のお宝とかですかー」

「それは指名手配になるだろ。……またどこかへ何かを探しに行く、か」

「そういえばクャントルスカは何か無いんですかー? 私達と一緒に居るのは友情愛情故にでしょうけど、他にやりたいこと」

 

 そういえば、とクリアントは思う。

 クャントルスカは【魔法☆少女】になったが、それ以降の目的が不明だ。

 フィリップの宝集めにも協力してくれているが、彼女が何かをしたいとはあれ以降口にしていない。

 

「うーん……私はクリアント君達と出会えただけで目的は達成しているみたいなものだしなぁ……」

「あら、クャントルスカ。貴方にはあの目的があるでしょう?」

「それはクリアント君達とは無関係だよ」

「あの目的?」

 

 モーの言葉に対し、クャントルスカはクリアント達の存在を否定した。

 どちらかといえば巻き込みたくないといった表情に近かった。

 

「リアルの友達とね、会おうって約束しているんだ」

「へぇ……時間と場所は決めてあるのか?」

「ううん。全然決めていないの。でもね、運命だから。私とあの子は運命の糸で繋がっているんだ。だからきっと、運命的に、必然的に出会えるって信じているんだよ」

 

 どこか確信的な表情でクャントルスカは言う。

 その顔はまさに恋する乙女であった。

 

「だからごめんね……? 私、クリアント君のことは好きなんだけど、本命は別にいるんだ」

「振られちゃいましたね」

「近寄ってもいないけどな」

「だったら私が近づこうかしら?」

「あっ、こら! 先輩の腰にくっつかないでくださいよ!」

 

 モーがクリアントに抱き着こうとし、ワンプが阻止する。

 いつもの光景だ。

 見慣れた景色である。

 

「……俺達の力が必要になったら言ってくれよ。協力が必要ならするさ」

「フィリップさんもきっと力を貸してくれますよ」

「うん。ありがとう!」

 

 ちなみにであるが。

 クリアント達はフィリップといつでも合流が可能である。

 その理由はフィリップのエンブリオであるノーチラスに備えられたセーブポイント機能。

 これがあるため、いつでもフィリップの下へとログイン可能なのである。

 

 だから、クリアント達もまた歩き出す。

 目的地は未定。

 ただ、フィリップへの土産話を作るために歩き出しただけだ。

 

「レジェンダリアは色んな部族の人たちもいるんだ。彼らに会うのも楽しいよ!」

「それ、結構指名手配になった〈マスター〉が多いって話が無かったっけ?」

 

 一つだけ言えるのは、その場で待ち続けなくて正解だったことだろう。

 待てば必ず彼らは訪れていた。

 

 【霊魂姫】に【禁忌姫】、それに【隷属王】と【剪定王】らが。

 いずれも厄介な性格と能力を持ち合わせた曲者である。

 特に、【禁忌姫】と出会っていれば、まずフィリップとの合流はこの時点で不可能となっていただろうから。

 

 

 

 

 そして翌日。

 レジェンダリアの森を歩くクリアント達の耳に笛の音が届く。

 

「……ん?」

「笛……太鼓の音も聞こえるね」

 

 祭囃子のような音と共に彼らは出会うのだ。

 

 キャタピラのような駆動輪が設置された移動式の屋形船。

 それに乗るのは1人の〈マスター〉と7人の小人たち。

 

「やぁ。君たちは幸福かい?」

 

 丸い顔をした童顔の男はそう尋ねてくるのであった。

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