<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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131話 ガチャ

【深潜水士】クリアント

 

 金銀や宝石、米俵が積まれた屋形船――いわゆる宝船はクリアント達の前で停止する。

 7人の小人たちは変わらず太鼓や笛を鳴らしている。

その中央に座る丸顔の男は船から降り、手を挙げると演奏を止めさせた。

 

「うんうん、良いね君たち。実に幸福に乏しい顔をしている」

「喧嘩売られていますよ、先輩」

「あら。クャントルスカ以上に幸せな人間なんて私は知らないわよ」

 

 それに対してエンブリオ達が前に出る。

 両者ともむっとした顔をし、敵意を露わにした。

 どちらも〈マスター〉の潜在意識であり、彼らのために存在する身としては丸顔の男の発言は許せなかったのだろう。

 

「待てって。今のは挨拶かもしれないだろ」

「モーちゃん。私は気にしていないよ。幸せは自分で感じるものなんだから」

 

 エンブリオを宥めながら、しかしその視線は鋭い。

 当然であろう。

 出会いがしらの中傷にも似た言葉で笑顔になる者は少ない。

 

「おっと。勘違いしないで欲しいなぁ」

 

 丸顔の男はニコニコと両手を広げてみせる。

 何も握られていない。

 降参を示しているのか、それとも怪しくないと言っているのか。

 

「僕は皆に幸福を分けるために旅をしているんだ。だから、不幸そうな人を見ると嬉しくなるんだよね」

「何故嬉しく?」

「だって、これから幸福になれるのだから。知っているかい? 幸福に上限はない。幸福に溺れると、更に上の快感を得ようとより大きな幸福を求めてしまう。それは僕の本意じゃないんだ」

「不幸な奴の方が幸福にしやすいってことか」

「そうそう。それに、その方が幸福のありがたみが分かるだろう?」

 

 いつの間にか、男の周りに7人の小人たちがいた。

 船の上にはおらず、降りてきたのだろう。

 

「LUK特化型超級職【福ノ神】。それが僕こと凡蔵非座衛門のメインジョブさ」

 

 丸顔の男――凡蔵はアイテムボックスから箱を取り出す。

 中身が見えないよう細工をされた、穴の開いた箱である。

 

「中には玉が入っているよ。金が当たりで黒が外れ。1対99の比率で入っているけど、君たちに当てることは出来るかな?」

「……」

「おっと。罠と警戒しないでおくれよ。別に騙して何かをさせようとしているわけじゃない。そもそも、金を選べたところでこのくじ引きに景品は用意していない。いくらでも黒を選んでいいのさ」

「クリアント君」

 

 クャントルスカがクリアントを見る。

 《真偽判定》に反応は無い。

 

「俺がやろう。こういうのは俺の役目だろ?」

「では私はルール型になっておきますね」

 

 ワンプの姿が消え、クリアントと同一化する。

 これでもし凡蔵の言葉が罠であったとしてもクリアントが一度死ぬだけで済むだろう。

 

「……良し。じゃあ引くぞ」

「うん。気軽にどうぞ」

 

 箱の中に手を入れる。

 凡蔵の言葉通り、小さな球体が100個近く入っているようだ。

 その中から1つを手に取って箱の外に出す。

 

「……黒か」

「1パーセントだからね。そう簡単には引けないよ」

 

 凡蔵は箱の蓋を取る。

 中は黒い球体だらけであり、凡蔵が箱の中にごそごそと手を入れると金色の球体を取り出す。

 

「ほら。ちゃんと入っているでしょ?」

「ああ、うん。そうだな」

「先輩。何をさせたいんでしょうか、この人」

 

 ワンプに問われるが分からない。

 

「さて。じゃあもう一度やってもらえるかな?」

 

 凡蔵はクリアントの取り出した黒の球体を箱に戻し、蓋を閉じると再びクリアントへ差し出した。

 

「もう一度?」

「公平性はすでに分かったでしょ。100個中99個が外れで1個が当たりって」

「まあ、な」

「だから今度こそ幸福をその手に、ってね。《オーバーラック》」

 

 凡蔵からバフスキルを与えられる。

 

「これで君は豪運に恵まれる。一時間限定だけどね」

 

 箱の中に手を入れ、再びてきとうに選び取った玉を取り出した。

 その色は金であった。

 

「おめでとう! これで君の幸運は証明されたね」

 

 パチパチと凡蔵は手を叩きクリアントの幸運を祝福する。

 だが、クリアントとしては今の行動に何の意味があったのか分からないため素直に喜べない。

 

「何をさせたかったんだ?」

「うん? 今の君が人生で一番運が良いってことを君に知って欲しかったんだ」

 

 2度、3度と箱に金を戻してもやはり当たりを引くことが出来る。

 

「じゃあ、ここからが本番だ。少し待っていてね」

 

 7人の小人が船から大きな箱を下ろしてくる。

それは、いくつもの丸い球体が入っている四角い機械。

 ここまでクリアントが引かされてきたものと似て非なる、ガチャと言われるものである。

 

「これはね、ガチャだよ」

 

 見て分かることを凡蔵は言う。

 

「100リルから最大10万リルまでだっけ? 金額に応じてではあるけど、100倍以上の価値のアイテムが出ることもあるって聞いたことがあるよ」

「詳しいな」

「クャントルスカも一度だけやってみたことがあるのよね。その時はジェムが出たのよね」

 

 だが、ガチャに書かれている説明によれば、外れることもあるらしい。

 外れの場合は勿論、投入金額に見合わない低価値のアイテムが出る。

 

「夢があるよねぇ。でも当たるのはいつだって現実さ。君、このガチャに挑戦してみないかい?」

「だが、外れることもあるんだろう?」

 

 クリアントの手持ちは20万リルと少し程。

 どうせなら上限額で挑みたい。

 払えなくは無いのだが、それでも所持金の半分というのは大きい。

 

「不安だよね。その気持ち分かるよ。だけどそこは僕がいる。【福ノ神】である僕の前で不幸な目に合わさないさ」

 

 そのための先ほどの実演。

 凡蔵であれば運勢操作など容易いということの証明であったらしい。

 

「さて、やるかい? ちなみに大当たりで特典武具が手に入ることもある。今の君の幸運なら有り得ない話では無いよ」

「……」

 

 クリアントはガチャに手を伸ばす。

 心は決まっていた。

 

「1回だけ……1回だけなら金はある」

「うわー。ギャンブル中毒の言葉ですよ、それ」

 

 ともあれ、ワンプも止めることは無い。

 どころか、キラキラした目でガチャを見ている。

 

 ガチャに10万リルを入れ、レバーに手をかける。

 

「あ、ちなみに《オーバーラック》は元々のLUK値に左右されるんだけど、特典武具までとなると一万くらいはLUK無いと厳しいかも」

 

 今更ながらに凡蔵は言うが、既に金は入れてしまっている。

 レバーを回す手を止め、クリアントは振り返った。

 

「それを先に言え!」

「だから、こっちのスキルを使うね。《オーバーラックドライブ》」

 

 先ほどとは別のスキルを凡蔵は発動する。

 名は似ているが、先ほどよりも強い光が凡蔵から放たれていた。

 

「これで君は正真正銘、生涯で最高の幸運を得た」

「……お前は本当に何がしたいんだ?」

「それは何度も言っているじゃないか。誰かの幸運を見たいんだ。その人の人生のうちで最も幸運な瞬間をね」

 

 《真偽判定》で嘘はない。

 凡蔵の目も淀みは無く、信用に値するとクリアントは判断した。

 

「まあ……金は入れた後だものな」

 

 思い切ってレバーを回す。

 凡蔵はクリアントの隣に立ち、その結果を見守る。

 その結果は……

 

「おお! Sだ」

 

 黒いカプセルに赤字でSと書かれていた。

 Sランク……10万リルの100倍以上ということは1000万程の価値あるアイテム。

 特典武具の可能性があり、期待は高い。

 

「……!?」

 

 だが、凡蔵は目を見開いていた。

 丸顔を歪めたその表情は驚きに満ちている。

 

「え、なんで……?」

 

 まさか本当に出るとは思っていなかったのだろうか。

 スキルは名ばかりで、クリアントをからかうためにガチャを引かせたのだろうか。

 

「その色は……」

「? 良く分からないが、開けるぞ」

「どうしたの?」

 

 凡蔵の表情を見て、首を傾げながらクャントルスカがクリアントの手元を覗き込む。

 クリアントはカプセルを見せながら、開けた。

 

「え、待って。それは――」

 

 カプセルを開けると、そこからは一振りの刀が出てきた。

 赤が僅かに混じった刀身。

 反射する光は亀裂が入っているかのようにも見える。

 

 『出涸らし』。

 そう名付けられた刀であった。

 妖刀と、一般に定義づけされた刀であった。

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