<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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132話 【出涸らし】

【深潜水士】クリアント

 

 黒カプセルに赤字。

 それが意味するところは、中身が呪われているということらしい。

 開けた後に言うなというところだが、忠告前にクリアントが開けてしまったものだから仕方ない。

 いくらSランクと書かれていようと、呪いのアイテム。

 むしろ、ランクが高いだけ、呪いも強いように思われる。

 

「妖刀……【出涸らし】」

「あまりカッコいい名前じゃないですねー。先輩にはお似合いかもしれませんけど」

 

 有名なものであれば村正であろう。

 デンドロの世界にも、妖刀と言われる刀は幾つもあるが、そのどれもが如何にもといった名が付けられている。

 

「【出涸らし】も、聞いて良いイメージではないだろ。その意味じゃ、妖刀らしいのかもな」

 

 出涸らし。

 何度も使ったことで味や色味が薄れたもの。

 コーヒーや紅茶の搾りかすのような意味合いだろうか。

 

 そのように銘を打たれた刀。

 そのように呪われた刀。

 

「……妖刀」

 

 【出涸らし】を排出したガチャの持ち主である凡蔵は絶句していた。

 自身が幸運バフをかけた上で出てしまった呪われた刀。

 持ち主に不幸をもたらすアイテムは、凡蔵の思想としては真反対の品であったのだろう。

 

「どんな効果なのでしょう?」

「呪われているとはいえ、Sランクのカプセルだもんな。切れ味が凄まじいとか?」

 

 フィリップがいれば《鑑定》で調べてくれるのだが、今はいない。

 クリアントはその辺りの見る目は無いし、クャントルスカも対人専門だ。

 

 

 【出涸らし】

 ・装備スキル

 《欠勝板》

 《???》 ※未開放スキル

 

 

 スキル名は見えても、その詳細は分からなかった。

 ウィンドウをタップしても、《鑑定》レベルの不足、あるいは未使用であるため不明と書いてある。

 

「……斬った相手は死ぬまで【出血】し続ける効果があるみたいだね。それに、【出血】ダメージが増えるみたい」

 

 と、吐き捨てるように凡蔵は言った。

 その顔は、クリアントがガチャを引く前と比べ、明らかに沈んでいた。

 

「ガチャの持ち主は僕だからね。当然、アイテムを見る機会は増える。君みたいに高ランクのアイテムが出たはいいものの詳細が分からないなんてことが無いように、《鑑定》のレベルは上げている」

 

 トーンを落としながら凡蔵は説明する。

 申し訳ないというよりも残念という顔だ。

 言葉通り、クリアントの幸運を見たかっただけなのかもしれない。

 

「……僕に見えるのはその刀の良いところだけだ。呪われている力までは見ることが出来ない……体感するまで刀は呪いを隠そうとしている。使わない方がいいよ。お金は僕が出す。だから、もう一度ガチャを――」

「なるほど。使えばいいのか」

「――え?」

 

 凡蔵の取り出した10万リル。

 それを無視してクリアントは妖刀を振るうべき相手を探し始める。

 

 確かに再度ガチャを引けば、今度こそ特典武具が出てくるのかもしれない。

 だが、クリアントは直感的にこの妖刀は特典武具に引けを取らない性能であると理解していた。

 

「クリアント君。あっちに【ハイ・サンド・ゴブリン】がいるよ」

 

 クャントルスカの指す先には、森を歩くゴブリンの姿があった。

 先の戦いにおいて王からはぐれたゴブリンの1匹だろうか。

 武器こそ持っているが、足取りはおぼつかない。

 指揮から外れ、数日食料すらない中でうろついていたせいであろう。

 疲労があるからなのか、こちらに気づく様子も無い。

 妖刀を試す相手としては十分。

 

「先輩、それでも格上の相手です。先輩のステータスだとまともに攻撃喰らったら死にますからね!」

「ああ。それでも捨て身で当てなきゃ試し切りは出来ないけどな」

 

 【出涸らし】を装備し、握りしめる。

 心なしか、身体が熱くなっている気がした。

 

 【深潜水士】のスキルを用い、息を潜めながらゴブリンへと接近していく。

 気づかれて反撃されては妖刀の試し切り気も出来ない。

 慎重に、葉音を立てぬように歩みを進める。

 

 幸というべきか。

 ゴブリンは果実を見つけたようで、木々の高い場所にある枝に手を伸ばしていた。

 足元への注意は無く、ようやくありつけた食料に夢中である。

 

「……なんか、あんなに嬉しそうな表情だと不意打ちするのが躊躇われますねぇ」

「……何でそんなこと言うんだよ」

 

 少しばかり罪悪感が沸くが、もし果実でなく人間を見つけていてもゴブリンは食料として襲っていたことを思えば、ここで倒さなくてはと気持ちが奮い立つ。

 腰の鞘に帯刀された【出涸らし】の柄に触れながら、クリアントは静かに接近していく。

 

 

 

 

「……ッ!」

 

 ようやく果実をもぎ取り、ゴブリンはそれを口に運ぶ。 

 酸味が強いが、数日ぶりの食料としては申し分ない。

 まだまだ頭上にはいくつも実っている果実全てを平らげれば腹も満たされるであろう。

 群れからはぐれたゴブリンは【ハイ・サンド・ゴブリン】1匹だけではない。

 生まれたばかりの、幼き低レベル帯のゴブリンもいる。

 付近に掘った深い穴に隠し、最も強い【ハイ・サンド・ゴブリン】がこうして食料を探しに来ているのだ。

 

 一口だけ齧った果実を見て、ゴブリンは喉を鳴らす。

 これを全て食べてしまえば自身は満たされるだろう。

 だが、自身は他にも養わなければならない弱いゴブリンを抱えている。

 彼らは飢えており、そして自身を待っている。

 いつか復興するであろう。

 その時には自身が群れの長になっているかもしれない。

 

「……」

 

 齧りかけの果実を地面に置く。

 そして、残りの果実全てを木から落とそうと、大樹を揺らし始めた。

 

 ぼとぼとと、果実が地面に落ちていく。

 中にはその衝撃で割れてしまうものもあったが、手の届かない高度にあった果実もおおよそ取ることが出来た。

 ゴブリンは喜々として両手に果実を抱きかかえ、はぐれゴブリン達の待つ洞穴へと戻ろうとし――その背に鋭い衝撃が走った。

 

「――ッ!?」

 

 衝撃と共に咄嗟に身を捻ったおかげか。

 ゴブリンの傷は浅い。

 背筋をいくらか斬られたが、骨へと達してはおらず、見かけの出血程は深い傷では無かった。

 

「……?」

 

 見かけの出血。

 まるで太い血管を幾つも斬られたかのような出血量。

 背中を浅く斬られたはずなのに。

 まるで致命的なまでに己から失われていく、地面にぶちまけられた血液を見て、ゴブリンは何かがおかしいと感じた。

 感じた瞬間には意識が消失し、そして二度と目覚めることは無く、そのまま光となり消えていった。

 

「……これが【出涸らし】の能力か」

「【出血】が止まらないだけでなく、ダメージ量も増える、でしたっけ。それにしては……増えすぎますねぇ」

 

 たとえ細い血管であろうと、太い動脈を傷付けたに匹敵するであろう出血量へと変える能力。

 そして、【出涸らし】で斬った傷は自然治癒を否定する。

 

 何もかもが絞り尽くされるまで。

 何も出なくなるまで。

 命の一滴まで体外に排出する妖刀、それが【出涸らし】である。

 

 妖刀を肩に担いだクリアントは血まみれの顔でその刀身を眺める。

 元々赤みがかっていた刀であるが、まるで血を吸ったかのように赤黒く染まっている。

 

「ともかく切れ味も良好で何よりだ」

「ええ、それに先輩とも相性は良さそうですね。というか、先輩以外には使えない……」

 

 血まみれであったクリアントが倒れる。

 その顔は蒼白であった。

 ステータスを覗けば、その状態異常の欄には【出血】が見えていることだろう。

 

 これこそが妖刀【出涸らし】が持ち主にもたらすデメリット。

 即ち、刀の持ち主にすら【出血】を与える呪いが付与されているのだ。

 斬った対象と全く同じ個所に傷を与え、【出血】によるダメージは斬った対象の倍。

 攻撃時のダメージこそフィードバックされないが、癒せぬ【出血】が与えられては、死を待つしかなくなる。

 過去歴々の【出涸らし】の持ち主達も、振るった瞬間に相打ちとなって死んでいったのであろう。

 

「ああ。実に俺好みで俺に向いた刀だ」

 

 故に、この刀はクリアント以外にはまともに扱える者は少ないだろう。

 新たな肉体で立ち上がったクリアントは『出涸らし』を納刀する。

 

「【出涸らし】で攻撃して、【マッドラップス】で反撃する。刀と鎧。武士みたくなってきたな」

「正々堂々も無いですけどね。塞がらない傷に、触れたら毒の鎧とか、誉も何もありませんよ」

 

 蘇生に近い能力を持つエンブリオの穴埋めをするかのように、装備は攻撃的なもので埋まってきた。

 死んでも勝つ……というよりも死んでもいいから相手も殺すといった考え方のクリアントにとっては最適な武器であろう。

 

「凡蔵には礼を言わないとな」

 

 満足げに頷いてクリアントは戻るのであった。

 




新しいヒロインの出涸らしちゃんです
相手を血だらけにして殺す代わりに、持ち主も血だらけにして殺す刀です。可愛いね
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