<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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FGO2部6,5章やってたら時間が、ね
どの鯖も退去時は悲しいものだ
英雄だからって覚悟決めすぎよ


133話 幸福を運ぶ男

【深潜水士】クリアント

 

「じゃあ、僕は行くよ」

 

 丸顔の男――凡蔵は7人の小人が乗る宝船へと乗り込むと、クリアント達に別れの言葉を告げる。

 

「何はともあれ、君が幸福になれたのなら良かった。僕が君に幸福をもたらせたのならば、それは何よりの幸せだ。僕にとってもね」

「俺は新しい武器を手に入れられた。10万リルでは手に入らない、至上の妖刀だ。だが、お前にはメリットがあったのか?」

 

 失ったものはクリアントの10万リル。

 得たものはクリアントの【出涸らし】。

 

 凡蔵は何も失っていないし、何も得ていない。

 ただ、クリアントにバフスキルを使用しただけだ。

 ただ、クリアントの幸福を見ていただけだ。

 

「ああ。充分さ。満たされるほどに君の幸福を見させてもらった。誰かを幸せにする。これ以上の幸福を僕は知らない」

「……金銭を要求しないのか?」

「あり得ない話だね。それでは君の幸福が薄れてしまう。本当なら、君がガチャに入れた10万リルだって僕が肩代わりしたいくらいなんだけどね。悲しいことに、それだと僕の手持ちが足りなくなってしまう。幸福は平等に。君1人だけに10万リルを渡すわけにはいかないんだ」

 

 頑として、クリアントの幸福だけを求めていたと凡蔵は言う。

 ただ、それはクリアントだけに限った話では無いようだ。

 クリアント以外にも、その他大勢の人間を幸福にしたいと凡蔵は言う。

 

「そっちの君は本当に良かったの? 見たところ、君なら10万リルくらい持っていそうだけど」

 

 と、最後にクャントルスカへと尋ねた。

 だが、彼も分かっていたようだ。

 彼女が首を横に振ることは。

 

「ううん。幸福は誰かと分け合いたいから。だから、私はこのままでいいの」

「……そう。うん、君はガチャを引かなくても既に幸せみたいだ」

「ちなみに、何故ガチャなんだ?」

 

 幸せ、幸福の形は様々だ。

 凡蔵が他者のそれを見たいというのなら、ガチャ以外の手段もあっただろう。

 10万リルとまではいかないが、誰もが臆する大金を支払ってまでガチャという賭けに出ようとする者は少ないはず。

 

 美食、居住、衣服、娯楽……幸せと感じる瞬間は人によっても違う。

 クャントルスカのような誰かを愛することこそが幸せだと言う者もいるだろう。

 

「一番手っ取り早いからね。欲しいものが手に入る。それを幸福を感じる者はいても絶望を味わう者はいないだろう。都合よく、僕のエンブリオもガチャを運ぶのに適していたからね」

「エンブリオ……その宝船の方だったのか」

 

 てっきり7人の小人がレギオンのエンブリオかと思っていた。

 だが、宝船であるならば、チャリオッツ系統なのだろうか。

 

「彼らは……まあ雰囲気づくりの一環かな? 宝船には7人乗っていた方が良いだろう? 七福神みたいでさ」

 

 凡蔵は小人のうちの1体を呼ぶと、その頭部を取り外した。

 機械仕掛けの中身。

 機械人形だ。

 

「遺跡で手に入れた古代兵器の一つさ。とはいえ、そこまで大したことは出来ない。僕の用心棒兼小間使いくらいの機能が搭載されている」

「LUK特化型のジョブって言っていたな」

 

 直接的な戦闘力を凡蔵自身は持ち合わせていないため、それを小人たちが補っているのだろうか。

 

「そんなところ。……さて、今度こそ行くよ。この先にも貧困に喘いでいる村があるらしい。全く、レジェンダリアは働き甲斐のある土地だね。少数部族……つまりは幸福に至っていない人間の集まりがたくさんある。モンスターに襲われる心配も、食料の危機も、纏めて解決してあげなきゃ」

 

 宝船は動き出す。

 凡蔵と7人の小人を乗せて。

 

 既に幸福となっている2人を背にして、新たな幸福を作りに向かう。

 

「またどこかで。君たちは珍しく、そう言える人間みたいだ。……ああ、〈マスター〉なら当たり前か」

 

 最後にそう小さく呟き、凡蔵の姿は森の中へと消えていった。

 

「なんだか、変な人でしたねぇ」

「まあな」

「ちなみに先輩がガチャと幸運を上げるスキル持っていたらどうします?」

「自分に使って強い武器を引きまくるだろうな」

「……多分そんなこと言う人には一生その機会は訪れないんでしょうねー」

 

 妖刀【出涸らし】。

 まず間違いなく強力な武器だ。

 故に、《瞬間装備》に登録し、アイテムボックスへと仕舞う。

 《瞬間装着》に登録されたマッドラップス共々、装備者にとっても危険すぎて普段から持ち歩くことは出来ない。

 

「……デメリットの無い武器も欲しいところだな」

「とりあえず折れた大剣の代わりを探しに行きましょうか」

 

 フィリップを待つ間、レジェンダリアの原住民である部族にでも会いに行こうという話であった。

 それを変更して大きな街へ行ってもいいのかもしれない。

 然程強力でなくとも、普段使いできるそこそこ良質な武器。

 使い捨てる予定であった初期装備ばかりアイテムボックスに収まっているクリアントにとって、早急に欲しいものがそれであった。

 

 

 

 

■レジェンダリア とある部族が住む村の1つ

 

 レジェンダリアには数多の部族が暮らしている。

 中にはモンスターに生活を脅かされる者達もいるが、部族という力を形成出来てしまえば、対抗できることもある。

 そして、力があれば、それを増すこととて出来るのだ。

 

 此処はその一つ。

 平々凡々な、ジョブ適正の偏りも無い、特徴の無い者達で形成される部族が住む村。

 彼らは端的に言えば、幸福であった――少なくとも彼が来てから数時間の間は。

 

 

 

 

 飢えていた。

 死にかけていた。

 脅かされていた。

 

 食料難であり、獣害があり、寒さを凌ぐ居住地さえ失いかけていた。

 

 その理由は、突如現れた巨大なモンスター――【パルペテノン】による被害故だ。

 村を覆う森のどの巨木よりも背が高く、森を走るどのモンスターよりも速く、森を動くどの生物よりも重く、そして森に生息するどの生物よりも愚鈍であった。

 

 【パルペテノン】にはおよそ知能と呼べるものが無かった。

 あるのは貪欲なまでの食欲。

 短い四肢と巨大な口。

 その他は異常なまでに膨れ上がった腹部。

 構成されている身体的特徴はそれくらいの醜い獣であった。

 

 食べる。

 【パルペテノン】の行動原理はそれだけだ。

 目は食料を見つけるために。

 耳は食料を聞き取るために。

 鼻は食料を嗅ぎ分けるために。

 

 モンスターであれ、人間であれ、植物であれ、鉱物であれ。

 森そのものさえ食らい尽くそうとする【パルペテノン】に食せない物質など無かった。

 

 そのため、部族の食べるものが食べられた。

 そのため、部族の住む場所が食べられた。

 そのため、部族の民が食べられた。

 

 幸というべきか。

 【パルペテノン】はグルメでは無かった。

 彼のモンスターはただ飢えを満たしたいだけの害獣であったのだ。

 

 だから【パルペテノン】は人の味を覚えない。

 木々もモンスターも人も鉱石も、その味の違いが分からない。

 頑丈な消化器官は、食べたものは何であれ消化してしまう。

 【パルペテノン】は食べるだけ。

 食べて、飢えを満たすだけ。

 

 そのために今日も森を駆ける。

 そのために今日も森を食べる。

 

 

 

 

 原住民としてはたまったものではない。

 そも、平和な森であったのだ。

 モンスターと呼べるモンスターも、大人しい部類であり共存していた。

 森から果実を、時折肉として大型のモンスターを少々、頂いて生活基盤を築いていた。

 それだけで十分だった。

 それだけで満たされ、幸せであった。

 

 それが突如瓦解した。

 森の外からやってきた【パルペテノン】というモンスターによって。

 

 恐らくは他の森を幾つも滅ぼしてきたのだろう。

 そうやって、この森に辿り着き、そしてこの森さえ食らい尽くして他の森――食料の下へと向かうのだ。

 

 逸話級UBM【侮蔑腹 パルペテノン】は彼らを幸福から絶望へと叩き落した。

 

「やあ。ここもだいぶ幸福に乏しいみたいだね」

 

 幸福をもたらす者が村を訪れた。

 

 そしてその翌日には、村はレジェンダリアの地図から消えていた。

 




掘り下げようとしたけど、余りにも無関係過ぎたので3話にして退場となりました
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