<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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後にしようかと思っていたけど主人公の強化に必要な話だと気づいたので


134話 ガチャを求める村 1

■レジェンダリア とある部族が住む村の1つ

 

 食料問題も。

 モンスターに命を狙われる危機も。

 モンスターの食料になる危機も。

 

 全てだ。

 全て解決した。

 

 目の前には冬を越せるだけの食料が積み上げられている。

 森からは木々をなぎ倒して走る巨体の足音は聞こえない。

 

 剣、斧、槍、弓……果てにはこの森に似合わぬ旧式の〈マジンギア〉まで。

 性能はともかく……いや、これまで森の部族たちが手にしていたものに比べれば圧倒的なまでに高性能であるが、武器の数は取りそろえることが出来た。

 部族の戦士全てがこの武器を手に取り、命を投げ捨てて挑めば、森を襲う脅威とて払えるだろう。

 

 【パルペテノン】。

 全てを喰らう悪食の怪物。

 たとえ食われながらであろうとも、いや、食われるからこそ体内から逆に殺してやろうと思っていた。

 何もかもが食われるくらいなら、せめて自身で一太刀でも入れられればと。

 

 だが、それももうする必要は無い。

 【パルペテノン】の死亡は確認された。

 もう誰も食われることは無い。

 もう誰も命を脅かされる必要は無い。

 

 もう誰も……これ以上死ぬことは無い。

 

 既に自身以外の村人全てが死んでいることを知っている男は思う。

 

 食料も武器も、そして【パルペテノン】の討伐も。

 

 それを願う者がいないのであれば、どれほどの価値があるのだろう。

 食料はやがて腐り、武器はやがて朽ち、【パルペテノン】は時間と共に忘れられていく。

 森の民にとって脅威であった怪物も、世界から見れば降雨程度の小さな現象に過ぎない。

 

「……ははっ」

 

 最後に一口。

 手を伸ばし、積み上げられた食料を口に運ぼうとする。

 だが、自身の腹部が切断されていることに気が付いた男は、手にした食料を見つめたまま絶望の中で絶命した。

 

 

 

 

 男の死より半日前。

 未だ【パルペテノン】という脅威に晒されていた頃。

 

 名も無き森。

 食べ物に困らない、豊かな森の中に1つの村があった。

 かつては平穏な村であったが、【侮蔑腹 パルペテノン】がやってきてからは、常に命の危機に脅かされていた。

 何も無くても後数日。

 何かあれば今日にでも。

 命運はそれしか残されていない。

 それほどに彼らは追い込まれていた。

 

「随分と不幸そうだね。これは幸福にするし甲斐がある」

 

 その命運を吹き飛ばす存在――宝船に乗った男が村へとやって来た。

 

 不幸を幸福に。

 絶望を希望に。

 

 【幸福ノ神】凡蔵非座衛門。

 そう名乗った男は7人の小人と共に宝船から降りる。

 

「事情は察している。食料、そして怪物を倒す力。この2つが欠如し、君たちは不幸なんだね」

 

 村人たちの欲するものを言い当てると凡蔵は宝船から四角い機械を下ろす。

 

「これは希望が詰まった箱だ。代価として最大で10万リル。だけど中からはそれ以上の価値の……君たちの欲するものが出てくるだろう」

「……ッ!?」

 

 村人たちは言葉を失う。

 無理も無いだろう。

 詐欺師の如く、窮地につけこみに来たのだろうと誰もが思った。

 滅びゆく村から金を搾り取りに来たのだろう、と。

 

「……ここに金などありません。どうぞお引き取りを」

 

 村で最も年長の男が凡蔵に頭を下げる。

 穏便に。

 もうこれ以上は関わらないでくれと。

 

「そうか……君たちはそれほどまでに不幸なんだね。金を……人を信じられなくなるくらいに」

「私らはもう限界なのです。金も、村民も、全て失いかけております。……これ以上出せるものなど」

 

 そうか、と凡蔵は頷く。

 ガチャは金がかかる。

 だからしり込みするのは当然だ。

 

 ならばまずは金銭の必要のない幸運から始めるとしよう。

 そう思い、スキルを発動した。

 

「《エンカウンター・ラック》。このスキルは良縁のスキルだよ。君たちが欲する人材がこれで出会うことが出来るようになる」

 

 村で最も健康そうな男にスキルを使った凡蔵は説明する。

 

「倒す力が無い。倒す武器が無い。ならば託すしかない。ええと、【パルペテノン】だっけ? そいつを倒せる力量を持つ人間に君はこれで出会える……はずさ」

「……」

 

 スキルを使われた男は警戒心露わに凡蔵を睨む。

 そんな甘言に騙されないぞ。

 自分に何をしたんだ、と。

 

「……行きなさい」

 

 年老いた男が静かに呟いた。

 

「そうだ! 行け! どこかへ行っちまえ!」

 

 それにつられて村の民たちも扇動されるように叫ぶ。

 

「怪しいやつめ!」

「俺達に何をする気だ! させる気だ!」

「金なんかないぞ!」

「奴隷商か? 俺達はついていかないぞ!」

 

 次第に声は大きくなっていく。

 そしてそれを制したのは……先ほど呟いた年老いた男であった。

 

「行きなさい……そう命じたのはお前だ」

 

 その相手は凡蔵がスキルを使った相手。

 凡蔵曰く、良縁に恵まれている状態にある男を指して、年老いた男は行けと言ったのだ。

 

「そのくらいであれば信じよう……。私らにはもう何も残されていない。金を出すことは出来ないが……しかし人を信じる気持ちは残したい……」

 

 微かに、呟くように捻りだした言葉は空腹や喉の渇きもあっただろう。

 だが、年老いた男が心の底から紡ぎ出した言葉のようにも聞こえた。

 

「……分かりました」

 

 村で最も健康な男は歩き出す。

 

「どこでもいい。森をうろついてごらん。中でも、外を目指してもいい。最初に出会った人間がきっと助けてくれるだろうさ」

 

 どのみち、【パルペテノン】に食われて終わりだ。

 ならば最後くらいはと、そう信じて村で最も健康な男は凡蔵の言葉を背に森の中を歩き出した。

 

 

 

 

「やりました! きっと俺達はもう大丈夫です!」

 

 数時間後。

 健康な男は息も絶え絶えに、しかし興奮した様子で帰ってきた。

 

「きっと強い〈マスター〉です! 特典武具らしき強い装備を整えているのも見えました! しかも親切にも俺達が困っていることを話したら報酬なんていらないって、引き受けてくれました!」

 

 藁にもすがる思いで頼んだのだろう。

 村の内情など筒抜けに依頼したようだ。

 

「〈マスター〉か! しかも特典武具持ちの……!」

 

 年老いた男は知っていた。

 特典武具を持つ者がどういった強さであるのか。

 そして、〈マスター〉であるならば、死ぬまで戦ってくれるであろうことも。

 

「どうだい? これで僕のことは信用してくれたかな」

 

 今も尚、村の入り口に立たされている凡蔵は村の民たちに尋ねる。

 次の瞬間には、民たちは全てひれ伏していた。

 

「どうか……! どうか、無礼をお許しください!」

「貴方様のおかげでこの村は助かりそうです」

「嫌だな。よしてくれよ。助かるのは君たちの幸運だ。僕は何もしていない」

 

 森を走ったのは健康な男。

 〈マスター〉を見つけたのも健康な男。

 

 凡蔵は何もしていない。

 少しばかり男の幸運を引き上げただけだ。

 

「さて。これで一安心、というところかな?」

 

 一件落着。

 【パルペテノン】はその〈マスター〉が倒してくれるだろう。

 逸話級のUBMであれば、その強さも大したことは無い。

 特典武具持ちの〈マスター〉なら苦戦こそすれ倒せる。

 あるいは、【パルペテノン】をこの森から追い出してくれるだろう。

 

 凡蔵は幸福になるであろう村から出ようと宝船に乗り込もうとする。

 

「お待ちください!」

 

 だが、年老いた男を筆頭に、村の民たちが引き留める。

 

「貴方様の幸運を操作するスキル……何卒、何卒私達にもお使いくだされば」

「うん……? だって君たちはもうすでに十分すぎる程幸福になったんじゃないの?」

 

 【パルペテノン】が消えれば村はすぐに元通り……にならないとしても。

 これ以上の被害が無くなれば、いずれは戻っていくだろう。

 

「そのガチャは、入れた金額に応じたアイテムや武器を出してくれる。そう聞き及んでおります」

「うん。正解だね」

「ならば……貴方様のスキルで私達の幸運を引き上げた末にそのガチャを引けば……!」

「特典武具に等しいアイテムか、食品も出るんじゃないかな!」

「……ッ!」

 

 村中で歓声が上がる。

 そして、民たちは一斉に自身の暮らす住居へと戻っていく。

 

 やがて、それぞれ手にしたのはリルであった。

 10万リルとまではいかないにしろ、それぞれ持っているのは決して少なくない金額である。

 子供たちも小遣い程度の額は手にしている。

 

「我々の全財産にございます! これで全員の幸運を引き上げ……全員にそのガチャを使わせて頂けないでしょうか!」

「お願いします!」

「お願いします!」

 

 民たちは一斉に頭を下げる。

 

 金など無いと。

 先ほどまで言っていた口で願う。

 

 それに対して凡蔵は目を細めると、

 

「いいよ」

 

 そう、笑顔で返した。

 

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