<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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135話 ガチャを求める村 2

■【侮蔑腹 パルペテノン】について

 

 この世の全ての物質を食べるとさえ謳われる怪物がいた。

 大した強さは無く。

 大した硬さは無く。

 大した速さは無く。

 大した技術は無く。

 

 しかして、食欲だけはあった。

 食欲しか無かった。

 

 カルディナの中央。

 食物無き地で生まれたパルペテノンは、誕生と共に深い絶望を味わった。

 他に味わうものが無かったのだから仕方ない。

 岩と砂、後は水分を失った枯れ木しか見当たらない。

 時折、小さな虫型のモンスターが通りかかるが、彼らは小さくてすばしこいため視界に入った瞬間には逃げてしまう。

 

 過酷な環境下でも、パルペテノンにとって幸運であったのは、頑丈な消化器官を持っていたことだ。

 そして、如何なる物質からでも栄養……つまりはリソースを得られるスキルを取得していたことである。

 

 砂でも岩でも、胃に入ってさえしまえば食欲を満たせる。

 そうするしか無かった。

 それしかパルペテノンに生きる術は無かった。

 そうして、パルペテノンは生き延びたのだ。

 

 備わったスキルは《美なり醜なり我が食道》。

 食べた物質から得たリソースを自在に操作するスキルである。

 ステータス強化であれ、回復であれ、時には攻撃として活用することも出来る。

 

 UBMとして生きれば〈マスター〉から狙われることも多い。

 パルペテノンはこのスキルをひたすら生き延びることに使用した。

 脚を速くし、回復に長けるようにリソースを使っていたのだ。

 

 それを繰り返せば、食欲は永久に満たされない。

 食べた先からステータス強化や回復のリソースに使われるため、食べても食べても満たされない毎日を送っていた。

 

 パルペテノンは嘆く。

 何故斯様に腹が減るのだろう。

 何故執拗に命を狙われるのだろう。

 何故生き続けることも死ぬことも許されず、ただ苦しいのだろう。

 

 そうして迷い込んだ森の中。

 パルペテノンは食べ続ける。

 砂も岩も木もモンスターも人も。

 食べられるのであれば食べ続ける。

 毒であろうと関係ない。

 胃の中に入ってさえしまえば、毒さえ栄養にしてしまえる。

 栄養になる前に多少HPが減ろうと、栄養となった瞬間に回復用リソースとして消化してしまえばいい。

 再び腹は減ってしまうだろうが問題は無い。

 また食べればいいのだ。

 食べ物は満たされるほどたくさんある。

 なのに、何故この腹は満たされないのか。

 

 低い知能で考える。

 腹が減る。

 食べればいい。

 だけどまた減る。

 食べ続けるしかない。

 

 不思議だ。

 不可思議だ。

 考えるだけ無駄なのか。

 

 食べることしか出来ない。

 永遠に満たされぬ腹を満たすために食べるしかパルペテノンには出来ないのだ。

 

 味の違いさえ分からぬけれど。

 栄養の違いは辛うじて分かる。

 〈ティアン〉は美味い。これ以上ないリソースを得ることが出来る。

 狙うわけではない。

 だが、運良く口の中に飛び込んできた時は。

 これ以上なく満腹に近くなる。

 

 

 

 

■レジェンダリア とある部族が住む村の1つ

 

「足りないのは武器。力。食料だね」

「はい!」

「全てです! 何もかもが足りていません!」

「お、俺達に幸運を! 早くそのガチャを引かせてくれ!」

 

 凡蔵は村人たちに次々にバフスキルをかけていく。

 要望通りに食運、健康、アイテム……中には金運を引き上げて欲しいという村人もいた。

 村人たちのLUK値はいずれも低い。

 まともに戦闘を行いレベルを上げていたのは村の戦士数人。

 他は森の平和さにかまけて過ごしていたため碌なステータスでは無かった。

 

「《オーバーラックドライブ》」

 

 全ての村人にバフをかけ終わった頃、村は光に満ちていた。

 全員が強運、豪運。

 ガチャを引けばSRが当たり前。

 尤も、ガチャに入れる金額が低いため大したアイテムは出なかったが。

 

 それでも100倍の価値。

 100リルとて一万リル相当のアイテムが出る。

 

 無限に食料が出る皿や、ワインが絶えず飲めるグラス、刃こぼれしない剣、切断力に長けた斧、追尾効果のある弓矢など、そこそこレアなアイテムが次々と村人は引いていく。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「おいどけ! 次は俺だ!」

「これでこの森の支配者は俺達だ……!」

 

 ステータスアップのアイテムを引いて変化していく肉体やステータスに喚起する者。

 食べきれない程の食料を抱えて、配る者。

 足取りがおぼつかなくなるまでワインをたらふく飲む者。

 

 幸福であった。

 村の民は全て幸福へと至っていた。

 

「……これだけあれば!」

「ああ! あの憎き怪物も討伐出来るぞ!」

「流れの〈マスター〉もパルペテノン討伐に動いてくれているのよね!」

「いざとなれば、私のコレで仕留めてみせましょう」

 

 村の代表――年老いた男だけが10万リルを使い特典武具を手に入れていた。

 【飢蛾筒 ウェロスト】。

 細長いストローのようなアイテムである。

 

 それはパルペテノンにとっては天敵のような特典武具だ。

 刺した相手を絶えず飢餓状態に陥らせ、栄養失調により殺すという能力を持っている。

 

 大食らいには似合いの結末だ。

 村の誰もが笑った。

 

「あの怪物もUBMだ。この中の誰かが特典武具を手に入れられるんじゃないか?」

 

 そのことに気づいた男が呟いた。

 村の誰もがそれを喜んだ。

 年老いた男に続いて特典武具所持者が増える。

 喜ばしいことだ。

 それも自分らを苦しめていた相手の力を利用できるとあれば尚更である。

 

「良かったね。うんうん、僕も嬉しいよ」

 

 凡蔵は村人たちの幸福を祝福していた。

 彼らは今、幸福の最中にいる。

 誰であろう、凡蔵はそれを作り出したのだ。

 

「……ん? ああ、まだいらしたのですね」

 

 それに対し、村人たちの返答は冷めていた。

 

「貴方様のおかげで私達は十分に潤いました」

「もう結構です。そのガチャを引くお金を今度こそ持ち合わせていませんし」

「ああ、そうだ。このアイテムを買い取ってくださいよ。それでまたガチャを引けばいい。必要のないアイテムなんか邪魔なだけだし」

「というか、このままここにいさせたら、パルペテノンを討伐した時にMVPになる可能性出ちゃうんじゃない? 早く出て行ってもらいましょうよ」

 

 次第に村人たちは凡蔵を除け者にし始めていた。

 特定の誰が、ではない。

 全員が、凡蔵を既に用済みの人間として扱う空気を作り出していた。

 

「……」

 

 凡蔵は目を細める。

 余ったアイテムは買い取らない。

 これ以上彼らに使うことのできるスキルも無い。

 

 それを伝えると、彼らは手のひらを返したかのように凡蔵を村から追い出そうとした。

 

「こっちには強い武器も防具も揃ってるんだ!」

「そうだ! 俺達でパルペテノンを倒せる! このまま森を俺達のものにしよう!」

 

 平和な森に生きる民。

 彼らに問題があったとしたら、平和過ぎたのだ。

 パルペテノンという暴力が襲来するまで、森の支配者は存在しなかった。

 共存という形で森に生きる全ての命は何かしらで助け合っていたのだ。

 

 それをパルペテノンは破壊した。

 森の支配者という概念を作り出してしまった。

 

 パルペテノンを倒せばどうなるか。

 森は元通りにはならない。

 一度生まれた支配者という概念を捨て去ることは出来ない。

 

 誰が支配者になるか。

 パルペテノンを倒した自分たち以外に他ならない。

 

 支配者という存在。

 これまで見たことも無いような武器防具の数々。

 食料を手にしたことで生まれた余裕。

 

 彼らは高揚していた。

 ガチャを村へ持ってきたのも、彼らにレアアイテムを引かせたのも凡蔵であるが、その出たアイテムの所持者は村人たちだ。

 故に彼らは身に余る力を手にしてしまったことで見誤った。

 

 平和的解決よりも暴力的解決が手っ取り早いと結論付けてしまった。

 

「そうかい……なら僕は去るさ」

 

 それもまた、村人たちにとっては幸福だ。

 そう悟った凡蔵は村から消える。

 

 凡蔵が消えたことを知ってか知らずか、村人たちの話は進む。

 

「問題は……爺さんの特典武具をどうやってアイツに当てるか、だ」

 

 ウェロストの性能はパルペテノンに通用するだろうが、その所持者である年老いた男はパルペテノンにまともにぶつかれば即死であろう。

 

「なに、俺が抑える」

 

 手を挙げたのはガチャによってステータスアップのアイテムを手に入れていた男だ。

 

「ならば私が引き付けよう」

 

 食料を配り歩いていた男が賛同する。

 

 俺も、私も……と村人たちが一丸となってパルペテノン討伐の案を出していく。

 反対する者はいない。

 

 一丸となって――1つに集まったところにパルペテノンが来襲した。

 

「ブモォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 くぐもった鳴き声をあげながら、短い四肢を動かしパルペテノンは村の柵を破壊し村の中へと入ってくる。

 

「き、来たぞ!?」

「慌てるな! 食料はこっちに集まっている!」

 

 こうしてパルペテノンと村人たちとの戦いは開始した。

 しかし結果は既に決まっている。

 凡蔵がこの村に辿り着いた時には……否、凡蔵が来ても来なくとも、決まっていたようなものだ。

 過程において彼らが幸福であったかどうかだけ。

 それだけが差異であり、些細な違いである。

 

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