<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【深潜水士】クリアント
その村は地図上ではダウトという名で記されていた。
レジェンダリアの片隅、目を凝らせば一つの点のみで記された極小さな集落。
規模も歴史も浅い、人口も未管理の村にクリアント達は訪れていた。
「こんな小さな村に都合よく依頼なんてあるものなのか?」
「諦めたらそこで終了だって、どこかのおじさんだって言っていましたよ! まずは当たって砕けるところからです!」
「当たるまでは良いが……砕けるのは必須じゃないだろ」
と、ワンプと話しながら村の入り口にまで来たのだが、この時点で村が異様な雰囲気を纏っていることは危機管理に欠けるクリアントでも分かった。
隣を見れば、クャントルスカもまた険しい表情をしている。
そのエンブリオであるモーは分からないが、主であるクャントルスカの表情が良くない時点で、彼女が少なからず喜々として無いことは明らかであろう。
「……片付けが苦手な連中がいることに1票」
「それならお掃除を手伝えばいいだけなんだけどね」
まだそれなら救いがあると、クリアントは絞り出すような声を出す。
目の前の惨状を見て、そう言えるのは彼がこの村に入るのに躊躇する材料をこれ以上作りたく無かったから。
「先輩……諦めましょう」
「ええ。現実は受け入れた方がいいわ。そして私も受け入れた方が良いわよ?」
「んなっ!? 何を言っているんですか! 先輩は毎日私を受け入れているんです! 貴方の入る余地はありませんよ」
ゴミがあった。
廃棄物……腐った生ゴミや木屑、動物の骨など。
人間が生活するうえで必ず出てくるであろう廃棄物が村の入り口に捨てるように置かれていた。
まだ、それだけであれば良かっただろう。
それだけであれば、村の入り口をゴミ捨て場にしているという考えが成り立つ。
それはそれで、問題であるとしても。
少しばかり衛生的におかしな人間の集まりであると納得出来た。
だが、それだけでは無かった。
村の入り口には、普通に生活していればまず出ないであろう廃棄物も捨て置かれていたのだ。
いや、本当に廃棄物なのだろうか。
村の景観にそぐわないが、インテリアの1つであると置いているのかもしれない。
たとえそれが悪趣味であるとしても。
たとえそれが、人間の赤子の骨を無理やりつなぎ合わせて作成された調度品であったとしても。
「……生後間もなくの赤ちゃんで作ったみたい?」
「分かるのか」
「回復特化の魔法少女だから何となくだけどね……。それに、赤ちゃんに詳しい魔法少女のお友達がいたから、少しだけ赤ちゃんの骨格を聞いたことがあるの」
赤子に詳しい魔法少女とはどのような魔法少女なのだろうかと思いながらも、クリアントは目を逸らしたい気持ちを抑えて調度品を見る。
使われているのは赤子だけではない。
骨の太さから成人した人間の骨も使われていそうだ。
頭蓋は赤子。
それを支える枠組みである長骨は大人のもの。
時に眼窩から指が飛び出し、歯に当たる部分を削って骨盤を当てはめている。
凝り性なのか、あるいはよほど執念深いのか。骨に肉片や皮は一片たりとも張り付いておらず、使われているのは骨のみ。
不純物すら許さぬという思いが伝わってくる。
もしかすると精巧な作りであるだけで、イミテーションであるかもしれないという一縷の望みはすぐに絶たれる。
《鑑定》のスキルは否応なしにそれが本物であることを示しているうえに、使われた子供の年齢と、人間の数を教えてくれたのだ。
作成者はどのような感情でこれを作り出したのか。
あるいは、感情を持ち合わせていないから作れたのだろうか。
「……これを入り口に置いてあるくらいだ。無視して先に進みたいところだが」
「これがまかり通っている村ってことは、誰かが犠牲になっているかもしれない。魔法少女として見過ごせないよ!」
赤子を材料にして調度品を作り上げる。
つまりは、赤子を殺せる誰かがいる。
それが当たり前になっている村だとすれば、それを見逃せるような性格ではない。
それは愛ではない。
先ほどまでの険しい表情から一転、勇ましい顔でクャントルスカは村唯一の出入り口を目指し進んで行く。
「誰かいませんか!」
「仕方ないわね。付いていくしかないみたいよ?」
「べ、別に気になっているわけじゃないんですからね!」
「その使い方は絶対に間違っているぞ」
人間の骨で作られた悪趣味な芸術作品。
まずは村の出迎えで威勢を挫かれ、そして奮い立たされた。
宗教村ダウト。
まだその真価の序の口である。
ダウトという村に一歩足を踏み入れてみれば、更に異質さは反転する。
反転……つまりは一周回って普通になったというところだろうか。
「ああ。旅人さんか」
「特に何もない村だけど、歓迎するよ」
「まずは私達の神に挨拶を、ね」
まず村以外の人間が立ち入るような場所にあるわけではない。
故に、旅人など珍しいはずだ。
だが、村人たちは何の気後れも無く、むしろ親し気にクリアント達を歓待した。
「……神?」
「そうさ。我らが神。その祠に祀られているのがそうなのさ」
村の中央に鎮座する人間大程の祠。
何もない……良く言えばのどかな村には似つかわしくない煌びやかな装飾が施された祠の周囲には肉や酒、装飾品が置かれていた。
「まずは神に挨拶を。それがこの村のしきたりだ」
「捧げものは持っているかい?」
村人たちに背を押され、クリアント達は祠の前へと出される。
祠は当然ながら無言だ。
だが、有無を言わさない圧迫感を感じる。
「……捧げものか」
食料は捧げられない。
だが、他にアイテムボックスに仕舞われているのは、低レア武器が各種くらいだ。
「これでいいか……」
パルペテノンの遺したアイテムの一つ。
巨大な骨だ。
入り口に置かれていた骨の置物が頭の隅に引っかかっていたからかもしれない。
クリアントはパルペテノンの骨を祠の前へと置く。
「……おお、これは」
「何と重々しい……素晴らしき一品だ」
「これは神も喜ばれるに違いない」
後ろでは村人たちがどよめいている。
ワンプの分として別のドロップアイテムを取り出し渡すと、彼女も祠の前へ置き、むむっと何かを念じていた。
どうやら祈願をするための祠と勘違いしているのかもしれない。
いや、村人たちが神と信じて祀っているのなら祈願も間違いでは無いだろうが。初めて出くわした祠に1分ほど祈願出来るワンプの神経も太いものである。
隣でクャントルスカも同様にモンスターから得たドロップアイテムを祠の前へ置いていた。
ノクトル村でモンスターを倒した時に得たアイテムらしい。
クリアント達には大して価値の無いアイテムであったが、流石に高レベル帯のモンスターのアイテム。
村人たちからは賞賛の声、そして羨望と嫉妬の混じったような視線が送られていた。
「……この後はどうする?」
「……うーん。敵対心は無さそうだし、あの骨のこと聞く?」
「……敵対心は無いか……それにしては何だか視線が好意的では無いような」
「……まずは村で一番偉い人を探すのがいいんじゃないかしら?」
村人たちに聞こえないほどの声で指針を相談する。
「……そうするか。元々は依頼が何か無いか聞きに来ただけだからな」
「……どのみち村長さんに尋ねるのが良さそうだよね」
ワンプの祈願も終わったところで、クリアント達は村人へと振り返る。
そして、村の中を案内してもらおうと話を切り出そうとした時、村人の中から1人の男が出てきた。
中肉中背。
眼鏡をしていること以外は特に目立った外見的特徴のない30代後半ほどの男であった。
「ようこそ、ダウトへ」
唯一、その男が他の村人と変わっていることと言えば服装くらいだろう。
その男は農作業や狩りの出来る格好では無かった。
「私はこの村で祠の管理を任されています。【司祭】のダニアリーと申します」
黒を基調とした司祭服に身を包んだ男はそう名乗った。