<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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蛇足に蛇足が重なり全然進まねえ……どうしてこうなった

とりあえず【自殺王】に就いて、クランを立ち上げたいですな


140話 ダウト 3

■【深潜水士】クリアント

 

 【司祭】。

 回復を行える後衛の魔法職のはずだ。

 後衛というからには打たれ弱い代わりにMPや魔法の威力に特化しているのだろう。

 

 だが、これはゲームプレイヤーが【司祭】に抱く印象だ。

 デンドロの住人――〈ティアン〉であれば他の意味を持つ。

 即ち、神に仕える者だ。

 僧侶や神父、坊主などの神仏に関わりのありそうな職業の名は思いつくが、果たしてこの世界においてジョブとして表れているかは分からない。

 少なくとも、目の前のダニアリーと名乗った【司祭】は〈ティアン〉だ。

 ならば、ジョブの補正による打算だけでなく、それ以外にも神を信奉する何かがあると思っていいはずだろう。

 

 ダウトにおける神仏とは、村人の誰もが口を揃えて示す祠。

 祠そのものなのか、その中身なのかは兎も角として、信仰対象がいるのであれば、ダニアリーとの結びつきは深いはず。

 つまり、ダニアリーはこの村における重要人物、更には中心人物であると思って会話をしなければならないのだ。

 

 

 

 

 祠から場所を移動し、クリアント達はダニアリーの自宅へと招かれていた。

 村人たちの奇異の視線の中では落ち着かないだろうという彼の提案であった。

 

「驚かれたでしょう? あの捧げものの数には、私も少しばかり手を焼いているのですよ」

 

 ダニアリーは眼鏡を直しつつ苦笑する。

 弱気な笑い方にクリアント達も虚を突かれたようになる。

 

 祠と、そこに捧げられた数々の供物を管理しているのであれば、もう少し仰々しい人物であると思っていた。

 だが、ダニアリーはクリアント達を客人として認識し、かしこまった態度を崩すことは無かった。

 

「はー。【司祭】さんだから、てっきり供物を横領しているのかと思っていましたが。質素なおうちですねぇ」

 

 だが、それでもダニアリーは村の中ではそれなりの立ち位置にいるはずだ。

 万が一でも失礼な態度を取り、彼の機嫌を損ねてしまえば村から追い出される可能性だってあり得るのだ。

 

 クリアントはすらすらと失言を重ねるワンプの頭に手刀を落とし、ダニアリーへ謝った。

 

「すまない。こういうやつなんだ」

「はは……まあ、間違いでは無いのですけどね。確かに一部は私の生活の足しにさせて頂いております」

「ほら、間違いじゃないんですって!」

「ですが……食料はとてもではないですが食べきれる量ではありませんし、それ以外に関しても……」

 

 申し訳程度に置かれた部屋の調度品。

 それはいずれも本来は供物として捧げられた一部であったのだろう。

 

「こちらは私個人へと贈られた品々ですが……まあ飾り物以上の価値が……」

 

 実用性の無い家具の数々。

 座面が極端に狭い椅子や、斜めになったテーブル、開けることのできない引き出し。

 それらがそう広くもないダニアリーの部屋の一部を支配していた。

 

 贈り物であったから容易に破棄できず、こうして置かれているのだろう。

 

「……要ります?」

「いや、いらないな」

「邪魔ですよねー」

「うーん……これは可愛くないね」

「クャントルスカが愛せないものは私も愛せないわ」

「……ですよねぇ」

 

 ダニアリーは息を吐きながら、調度品に目をやる。

 

「……まあ、いいです。あと少しの辛抱なので」

「……? あと少し?」

「いえ……こちらの話です。私の任期とかですね。ほら、私も派遣【司祭】なので」

 

 【司祭】も持ち回りで村々を回っているのか、とクリアントは目の前の男に同情する。

 このような村で【司祭】をやらなくてはいけないとは。

 

「知っていますか? この村、数年前までは全く違うものを神と崇めていたそうですよ」

「……そうなのか?」

 

 あれだけの供物を集めて捧げるだけの信仰心。

 生半可な教義では無いだろうと思っていただけに驚きを隠せない。

 

「はい。いわゆる、ブームというやつなんですかね。今この村で流行っているのが、あの祠なのですよ」

「つまり恋だね!」

「恋では無いだろ」

「恋では無いでしょう」

「あら? それに対して好きという感情があるのなら、恋では無いのかしら?」

 

 モーがクャントルスカに賛同し、ダニアリーへ尋ねる。

 

「……私の立場からは何も言えませんよ」

 

 彼は苦笑し、言葉に詰まる。

 【司祭】としては信仰イコール恋と断定は出来ないようだ。

 とはいえ、完全に否定も出来ないらしい。

 

「……村の入り口にあった骨で作られたアレもかつて信仰されていた神に纏わるものなのか?」

 

 そういえば、と部屋に置かれた品々を見てクリアントは思い出し問う。

 どことなくであるが、アレと部屋の調度品は作成者の癖のようなものが同じであると感じていた。

 似ているところなど一つもない。

 だが、異質さ……不気味さだろうか。

 役に立たないくせに存在感だけはやけにある調度品が全くの無関係であるとは思えなかったのだ。

 

「ああ……そうですね。実は作者は同一人物です。他の村人たちは彼からこれらを買い取って、祠に捧げているのですよ」

「この村にいるのか」

「ええ。それがどうかしましたか?」

 

 ただ、気になっていただけだ。

 アレを作ることのできる人物の精神状態というものがどのようなものなのかを。

 

「良ければ紹介しますが……」

「いや。別にそこまでじゃない」

「何で骨を使っているのか気になっているだけですよね、小心者の先輩は」

 

 ここへはクエストを探しに来ただけだ。

 故にアレの作成者の優先度は低い。

 そのためクリアントはスルーするという選択肢を選ぼうとしたが、その意図とは反対に動こうとするのが彼のエンブリオだ。

 素直にワンプはダニアリーへと尋ねていた。

 

「赤ちゃんを使うなんて絶対おかしな人間ですよねって話していたんですよ」

「……間違いではないが」

「そうですか。実は……アレは作成者――彼の家族の遺骨を使っているようでして。村の中で起きた事故で彼以外の家族は全て亡くなってしまいまして、その後からですね……彼がおかしな家具ばかり作るようになったのは」

 

 なるほど。

 精神的なショックを受けたために歪んだ作品しか作れなくなってしまったのだろう。

 危惧していた骨の持ち主も、作成者の家族であるならば納得も出来る。

 

「愛する人が死ぬのって悲しいことよね」

「その人なりの愛の表現ってことだね。……うん、分かるよ」

 

 愛した者を喰らうモー・ショボーとその主が頷いている。

 クリアントはそれについて言いたいこともあったが、黙ることにして、

 

「ところで、俺達はこの村に何か依頼が無いか聞きに来たんだが」

「え、この流れでそれ聞きます!?」

 

 話を流して別の話題に変えてみた。

 隣でワンプが驚いているが無視して、ダニアリーへ尋ねる。

 

「1日程度で終わりそうなものでいいのだが」

「依頼ですか……」

 

 ダニアリーとしても先ほどの話を深堀する理由が無かったのだろう。

 そのまま話の流れに乗ってくれる。

 

「それでしたら村の清掃を頼めないでしょうか? 祠の周囲だけは常に清潔にしているのですがそれ以外は村人の皆さん、無頓着なようでして」

「掃除か。4人だけで大丈夫か?」

「しかも私とモーさん、はそれぞれ先輩とクャントルスカさんとは離れることも出来ませんし。先輩とは一心同体ですもんね!」

 

 ワンプはこれ見よがしに抱き着いてくる。

 モーもそれを見て何か言いたげであったが、クャントルスカが抑えた。

 

「多分だけど、この村の大きさだとゴミ拾いくらいで終わっちゃうよ? それでもいいのかな?」

「はい。それでも十分助かります。必要不必要の判断は村の誰かに聞けば答えてもらえると思いますので。報酬は……あまり多くは出せませんが」

 

 提示された額はクリアントの想定以上には多かった。

 とりあえず出来る範囲だけ、報酬の上乗せは無しという形に収まった。

 

「期限は明日の昼頃まで。お願いします」

 

 こうして、フィリップとの合流までのつかの間をクエストを受けることで埋めることになった。

 ダウト村での清掃活動。

 内容は、村に落ちている不必要な物品の回収と破棄。

 面積は広大であり、4人で成し遂げるのは困難である。

 だが、依頼主からは出来る限りの範囲でいいという条件であるため、手を付けずとも依頼は達成されることになる。

 つまりは、この依頼は既に達成されているようなもの。

 

 だが……その難易度は六を示していたのであった。

 

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