<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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141話 ダウト 4

■【魔法☆少女】クャントルスカ

 

「それじゃあ、私達はこっちを掃除しよう!」

「随分と張り切っているわね」

 

 小さな村とはいえ、4人が1日をかけて清掃できる範囲などたかが知れている。

 更には、ワンプとモーはエンブリオであるため主からあまり離れることも出来ない。

 有事に備えるためにも、クリアントとワンプ、クャントルスカとモーは2人一組になるしかない。村の異質さを感じているならば尚更であろう。

 

 そのため、村を凡そに左右に分けてそれぞれをクリアント、クャントルスカ達で担当を分けることになった。

 祠がある村の中央は村人たちが熱心に綺麗にしている。

 故に、中心よりも村の外に向かった場所を重点的に清掃していけば、均等に村は綺麗になるであろうというのがダニアリーの案であった。

 

 現在クャントルスカ達は村の左半分を歩いていた。

 祠から歩いて目に入るゴミや生活するに邪魔になるであろう岩や木の枝などを拾っていく。

 

「困っている人のために働くのも魔法少女の役目だからね!」

「ええ、そうね。クャントルスカは誰かのために動く時はとっても輝いているわ」

 

 大人数人でも持ち上げられないであろう岩を拳一つで粉砕し、細かくなった砂礫をアイテムボックスへと仕舞う。

 

「若いのに凄いわねぇ」

「そいつは俺達もどうしようも出来ねえから困っていたんだよ」

 

 通りがかった村人たちは口々にクャントルスカに礼を言う。

 

「ううん! 他に困っていることがあったら言ってね!」

「あー、じゃあそこらの枝葉も頼むわ」

「うちの子の面倒見ておいてくれる? くれぐれも怪我はさせないでね。今後のお祈りに差し支えるから」

「鳥の糞で壁が汚れているんだよ。暇そうなら綺麗にしておいてくれ」

 

 【魔法☆少女】の高いステータスであれば大抵の力仕事は可能だ。

 それにクャントルスカは性格上、困っている人間を放っておくことは出来ない。

 見離せないどころか、自分から首を突っ込んでしまう。

 

 そのため、村人たちから頼まれた仕事を次々にこなすことになった。

 

 それは村の清掃だけに留まらず、子供の遊び相手、荷物運びなど、本来は1日で終わらない量である。

 だが、クャントルスカは嫌な顔をせず、それどころか笑顔で頷くと瞬く間に片付けていった。流石に子供の遊び相手は時間がかかったが、子供の体力の方が先に尽きたため終了となった。

 

「あら、もう日が暮れそうね」

「たくさん働いたね」

 

 だからといって、清掃が全く進まなかったわけではない。

 ゴミの回収などアイテムボックスに仕舞えばそれで済むし、邪魔なものは破壊してしまう。

 建造物の外壁の汚れは【魔法少女α】の浄化系スキルでも落ちる。

 そのため、日が暮れる頃にはクャントルスカが任されていた範囲に目立ったゴミは無くなっていた。

 

「後は細かいところかしら?」

「そうだね。それに、明日もみんなから頼まれていることもあるし、まだまだ忙しいよ」

「嬉しそうね。これなら、村の皆のことも好きになったのかしら?」

 

 モーは舌で唇を舐めながら問う。

 答えは既に得ている。

 好感を持つ対象は常に同じなのだから。

 

「うん。とっても祠を大事にしている人たち。1つのことに一生懸命な人って素敵だよね」

 

 たとえ欠点や悪意があろうとも、それが突出したものであればクャントルスカは美点と捉える。

 美点であれば好きになれる。

 

「クャントルスカちゃん。今日は泊る所は決まっているのかしら?」

「ぜひうちで飯でも食べていってくれ」

「お姉ちゃん! また遊ぼうね!」

「朝になったら採れたての野菜をやるぞ」

 

 村人たちと接してみて分かったことがある。

 彼らの最も大切なものは祠への信仰心だ。

 それが第一優先である。

 

 だが、彼らにそれしかないわけではない。

 信仰心以外を切り捨てたわけでは無さそうだ。

 

 親切にされれば情も沸く。

 始めはクャントルスカに対して余所者として見ていた目も、いつしか村の一員として受け入れているかのような声の掛け方へとなっていた。

 

「これからどうするのかしら。もう一仕事するには暗くなり始めているけれど、村人たちの行為に甘えておく?」

「それもいいけどねー」

 

 村人の誰かと食卓を囲み、親密度を高める。

 それも良いだろう。

 半日の活動で村人たちの実情も凡そ掴めた。

 

 だが、まだ掴めていない者もいる。

 

「……ねえ。少し聞いてもいいかな?」

「何だい? おばちゃんで答えられることなら何だって聞きな」

「ありがとう。この村の神様に捧げものを作っている人がいるでしょ? その人ってどこに住んでいるのかな」

 

 見返りを期待して働いていたわけではない。

 困っている人がいたから。

 助けを求められたから。

 だから魔法少女は動いた。

 

 だが、クャントルスカは無策で、考えなしで動いていたわけではない。

 仲良くなることは、互いに好きになる事は会話の量が増えることも知っている。

 会話の量……即ち、情報量が増す。

 

「ああ。クレイルさんのことかい。それならあの坂が見えるだろう? 上がってすぐのところだよ」

 

 同様に村人たちに聞き込んだ結果、クレイル――村の入り口にあった骨の調度品の作者のことが分かってきた。

 

 ダニアリーはクレイルの家族は事故により死んだと言っていた。

 だがそれは、村の内情を隠すために嘘であったようだ。

 余所者に余計なことを言いたくない。

 ダニアリーとしては村への心証を下げたくなかったのだろう。

 

 クレイルの妻による一家心中。

 それがクレイル以外の家族の死因らしい。

 

 神への供物として自身とその家族を捧げる。

 良くある話だ。

 聞いたことのある話だ。

 実際に身近であるかどうかは別として。

 

 だが、それは行われた。

 クレイルは生き残ったようだが、彼を残して妻と子供は毒入りの夕食を食べたために、クレイルの目の前で死んだらしい。

 

 それからだ。

 クレイルが家から出なくなったのだ。

 それからだ。

 クレイルが奇怪な作品ばかり作るようになったのは。

 

「あれはあれで神様への捧げものだから良いのよね。頼めば普通の家具も作ってくれるわよ」

 

 村人が言うには、クレイルは【彫金師】と【彫刻家】のジョブに就いているらしく、村の家具のほとんどを作り上げているらしい。

 そのため、彼の言動がおかしくなっているのは村人たちも困っているらしい。

 

「クレイルさんも家族がとっても好きだったんだね」

「ええ。愛は失われた時、大きさに比例して悲しくなるものね」

 

 クレイル宅への坂を上りながらクャントルスカとモーは彼の悲壮を想像する。

 情愛が常のクャントルスカだが、彼女もちゃんと家族へ向ける愛情を理解している。

 それを失った時の悲しさもだ。

 

「どうやったら慰められるかな」

「優しいのね」

「魔法少女だからね。悲しんでいる人を救うのも魔法少女の役目だもの」

「それなら新しい愛を見つけるのはどうかしら。愛が哀しみを上回れば、忘れることは出来ずとも、包み隠すことは出来るでしょう?」

「それだね!」

 

 村人たちから教えてもらったクレイル宅へと到着する。

 家の周囲には彼の作品と思わしき調度品が多々置かれている。

 人間の骨こそ使われていなかったが、作品の特徴はダニアリーの家で見たものと類似している。

 使い道のない家具。

 意味のない創作物。

 まるで心の置き所を失っているかのように錯覚させられる。

 

「こんばんはー。クレイルさんいますかー?」

「ふふ。クャントルスカ、まずは自己紹介しないと、警戒されてしまうわ」

「あ、そうか。私はクャントルスカ! 魔法少女だよ! ここを開けて!」

 

 クャントルスカはクレイルの家の戸を叩く。

 困っている人間を助けるため。

 悲しんでいる人間を助けるため。

 

 いくら歪んでいようと。

 いくら私感が入り混じっていようと。

 

 助けたいと思うから。

 困っていると思うから。

 

 クャントルスカは動いてしまう。

 たとえ相手がそれを望まずとも。

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