<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■とある信仰者について
■■になりたかった。
■■を目指していた。
■■に憧れていた。
だが、現実は非情だ。
■■を目指す資格が無かった。
■■に至る道理が無かった。
■■と関係性が無かった。
どうしてだ。
こんなにも、こんなにも■しているのに。
愛しているわけではない。
語りたいわけではない。
見ていたいわけではない。
ただ、■ていたいのだ。
■■を■したかったわけではない。
■■を■らえさせたかったわけではない。
■■に■りたかったわけではない。
天地に向かった。
火の中を歩いた。
水の中で息を堪えた。
風の中で切り刻まれた。
大地に埋もれた。
だが、それら全てが無駄であった。
いくら修行を積み重ねようとも。
自身は■ではない。
それだけで、幾年……十年以上の修行は苦行として終わる。
だが、ある時真実を知った。
不憫に思ったのか。
それとも悦に浸っていたのか。
見せびらかせるように、■■は自身の■■を隣に置いて真実を語る。
「馬鹿ねぇ。そんなに■■を■したいのなら、自身で作り上げればいいじゃない」
「……?」
「知っているかしら。■■は自然に発生するだけじゃないのよ。人工的に作られたものだって、逸話さえあれば成り立つの」
「……!?」
諦めかけていた心に灯がともるようであった。
暗闇の中に一筋の灯りが……いや、光の中に差した影だったのかもしれない。
ともあれ、■■の言葉に気が付いたのだ。
修行も苦行も意味が無かった。
それらはただ待つためのものだ。
■■を選ぶ、あるいは選ばれるために行うためだけのもの。
だが、自身は違う。
■するためには■■を自身で作り上げる他無い。
そうすることこそが自身の■を証明するのだ。
探そう。
どこにあるか分からない。
否、どこにあるかではない。
そこにあるものでいいのだ。
逸話は自身で生み出す。
歴史は作り上げる。
苦行の果てに手に入れた、強さもある。
だから――
この手で信じるべき神を作り上げるのだ。
信仰するために。
■【深潜水士】クリアント
「いーやーでーす!」
「おい。ふざけている場合じゃ……」
メイデン体では使うことのできないスワンプマンとしての肉体創造スキル。
クリアントはワンプをルール型にすることでようやく死んでも復活が可能となる。
だが、ワンプは頑なに首を横に振る。
子供のような我儘を――見た目相応かもしれないが――言い、ルール型にならない。
「今日という今日は言わせてもらいますよ! 先輩は私の力を何だと思っているんですか!」
「何だとって、死んでもいい力だろ」
「そう何度もポンポンと死んでほしくないんですよ!」
「死ななかったら何も出来ないだろ」
「いいじゃないですか! 何も出来なくたって! 平穏に2人で洞窟にでも住みましょうよ」
「洞窟って……」
そうこうするうちに迫っていた人の気配は近くまで来ていた。
月明かりに照らされた顔は、昼間見た村人と一致していた。
手には鍬やツルハシ、斧といった村にあってもおかしくない農具など。
「……」
「……」
村人たちはクリアントを見る。
その目は昼間の理性的な目とは違い、疑心に満ちたような目であった。
「異教徒め」
「我らが信仰心を疑っているな」
「殺さねば。殺さねば」
手に持った凶器を振り上げ、クリアントへと迫る村人。
「……おい、いい加減にしろ!」
クリアントは思わずワンプを怒鳴る。
このような事態でいつまでもふざけている場合ではない。
だが、それでもワンプは態度を崩さない。
「いい加減にするのは先輩です! ワンプちゃんがいるのに、何ですか! フィリップさんやクャントルスカさんにモーさんを次々に仲間に引き入れて!」
「お前がいるのとは別だろ」
「それにマッドラップスさんやクレハドールさん、最近は出涸らしさんとパルペテノンさんまで同時に侍らせちゃって!」
「それはおかしいだろ」
何故装備品の名まで並べるのかは理解不能であったが。
ともかく、ワンプが怒っていることは分かった。
怒っていることは分かったが、理由は分からない。
「……いや」
理由……つまりは、何故この状況でそれを言い出すのか。
スワンプマンの力を使わせたくない。
クリアントのこれまでの冒険や得た仲間と装備の否定。
分からない。
理由は不明である……が、原因は分かった。
「これだ……俺とワンプの状態異常欄に加えられている」
クリアントは〈マスター〉故にプレイヤー保護機能が働き、大した効果が無かったのだろう。
精神系状態異常【猜疑】。
それこそがワンプの言動の正体だ。
「名から察するに疑り深くなるということか。……いや、ゲームの状態異常だ。他者を否定したくなるという効果であってもおかしくはないか」
疑惑に満ちて、猜疑に溢れて、そして他者を信じられずに否定する。
【猜疑】という精神系状態異常はそういった効果を及ぼす。
「仕方ない……」
村人たちが凶器を振り上げる。
どの程度の強さかは分からない。
上級職のレベルを上げているため、そこいらの〈ティアン〉には劣らないだろうと最近は自負している。
だが、万が一もある。
このまま黙って死ぬ可能性だって否定しきれない。
「ワンプ……すまないが〈マスター〉として強制権を発動させてもらう」
普段は滅多に行わない。
クリアント側から行うワンプのルール型への移行。
「は? そんなことが許されると――」
「ああ。許さなくても良い。だけど今だけは大人しく従ってくれ」
ワンプの言葉を遮るように、クリアントは実行に移した。
ワンプの姿が消え、クリアントに肉体創造スキルが発動可能になったとスキル欄が教えてくれる。
「死ね」
「余所者は判別される」
「我らと共に生きるか、我らの糧になるために死ぬか」
「選ばれず」
「貴様は神に選ばれない」
「この声が聞こえぬか」
「聞こえぬようだ」
「故に貴様は否定された」
「神に否定されたのだ」
「その信仰心は醜いと」
「死ね」
「殺す」
「腸をぶちまけて死体を朝日に曝せ」
村人たちは鍬を、ツルハシを、斧をクリアント目掛け振り下ろす。
「――ッ!」
その威力は一撃にしてクリアントのHPを1割以上消し飛ばす程。
クリアントは曲がりなりにも、サブジョブに【魔法少女ω】を付けてあるため耐久方のステータス構成である。
それを各々1割……合計にして3割以上もダメージを与えるなど。
一介の村人には出せないものだ。
「リミッターを外しているというわけか……」
手には凶器、目には狂気。
常軌を逸し、血走った眼はクリアントを睨みつけている。
農具を持つ手は余程強く握りしめているのか、血が滴っている。
他者への配慮など、自身の体への負担など微塵も考えない。
それが村人の現状だろう。
「装備は……マッドラップスは不味いか」
殺傷力が高すぎる。
同様に【出涸らし】も装備せずにおく。
クレハドールもこの状況では向かない。
今必要なのは攻撃力では無いだろう。
訳も分からず村人に襲われている状況。
必要なのは制圧力。
だが、悲しいかな。
クリアントにその力は無い。
必殺スキルも、村人を殺してしまう可能性がある。
故に選んだ力は耐久性。
「……食事はとらない方が良かったな」
少しだけ後悔しながらクリアントは装備する。
白く渦巻くような模様を持つ腹帯を。
「こいつらを取り押さえるだけの間、俺を生かし続けてくれ」
【愚弄腹帯 パルペテノン】。
持ち主の生きざまを愚弄する腹帯をクリアントは撫でる。
これもまた、装備者のENDを引き上げることの無い防具だ。
だが、それでもパルペテノンはクリアントを生かす。
まるで生きていた頃のような傍若無人な力で以て。