<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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146話 ダウト 9

■【深潜水士】クリアント

 

「ははーん。ワンプちゃんは分かっちゃいましたよ! 容疑者は村人の誰かです!」

 

 クリアントの死亡改め肉体の再創造に伴い、【猜疑】の取れたワンプは開口一番にそう言った。

 容疑者とは、クリアント殺害の犯人であり、誰だろうなとクリアントの呟きにワンプは答えた。

 

「それはそうだろ。ここに来て村の外から他に旅人なりがいたなら俺達の耳にも届くはずだ

「推理小説の名探偵ばりの頭の冴えたワンプちゃんに言わせてもらうと、まだ名前の登場していないモブさん達は除外してもいいと思うんです」

「失礼過ぎる推理だな」

 

 ちなみにクリアントが名を知っている村人は【司祭】であるダニアリーだけであるため、この時点で容疑者は1人に絞られてしまった。

 

「つまり、犯人はダニアリーさんです!」

「名前が出ているからと犯人にされるような推理小説は間違いなく駄作だな。というか、俺達の行動次第でいくらでも容疑者の数変わるだろ」

「まったく。先輩は私の推理にケチばっかり付けて。せっかく先輩の汚名を返上してあげようと思ったのに」

「……まったくはこっちの台詞だが。まあ、戻ったようで何よりだ」

 

 減らず口も憎まれ口もいつも通りだが、先ほどまでの【猜疑】の状態に比べれば可愛げがある。

 どこの誰が――ワンプ曰くダニアリーであるらしいが――このような事態を招いたかは分からないが、村全域を巻き込んでいるのだとしたら、早急な解決が必要であろう。

 未だ目的も分からない。

 もし推理小説であるならば、そもそも殺害動機というものが見当たらないのだ。

 

「俺を殺す理由……あるか?」

「どこで恨みを買っているかなんて自分では分からないものですよー。先輩はこれまでに踏んだ足の数を覚えています?」

「いや、覚えてはいないけど。少なくともこの村に入ってからは踏んでいないぞ」

「たとえ話ですよ……。とにかく、先輩がやったことのどれが恨みを買っているかなんて当事者次第なんですからね」

 

 だが、クリアントがやったことなど、この村では清掃活動くらいだ。

 それも、ワンプの泥でこれ以上汚さないよう極力配慮した上で。

 

「アレじゃないですか? ダニアリーさんから依頼を受けた時に先輩の態度が悪かったとか」

「悪かったつもりは無いし、その程度で一々殺されてると身が持たない……わけでもないが。それと、ダニアリーを犯人と決めつけるな」

 

 ダニアリーとは依頼を受ける時くらいしか話をしていない。

 いや、村人のほとんどは多少の会話をしたくらいで一々エピソードを覚えているような人物はいない。

 

「エピソード……そういえば、村人の中で印象に残る奴がいたな」

「誰です? この村で祠を管理している人?」

「それはダニアリーだ。いや、そうじゃなくて……ほら、村の入り口にある置物を作った奴」

「……ああ! 置物をたくさん家に置いていた!」

「それもダニアリーだ」

「では村長の――」

「それもダニアリー! ……じゃないな。村長は別にいるんだっけ?」

 

 村長もまた村においては重要な人物だ。

 まだ姿を見ていないなとクリアントは思い出す。

 

 だが、それよりもこの村でも奇人と噂される人物。

 家族が死に、それから奇異な言動をするようになった、歪んだ作品ばかり作る製作者こそ、この村で最も怪しい人物なのではないだろうか。

 

「いましたねぇ、そんな人。影が薄くてすっかり忘れていましたよ」

「まあ、直接会ってはいないからな。今のところは家族が死んだ以上の情報は無いし」

 

 ともあれ、奇人であるならば。

 奇異な言動をするならば。

 

 クリアント達には予想もしない理由でクリアントの命を狙った可能性もある。

 

「この時間から……いや、場所も知らないから尋ねることも出来ないか」

「ですねぇ……というか、ここどこです?」

 

 周囲を見渡すも村人の誰もいない。

 人が住むような家屋すら存在せず、あるのは見張り台と小さな小屋だけだ。

 

「村の外れってところですかー」

「ここまで飛ばされるのは初めてだな。危険地帯を避けたってことなのだろうが」

 

 とはいえ、今までは戦場の危険地帯の隙間を縫うように安全地帯を見出していた。

 敵がいくら多くてもその背後を突くように移動をしたこともあったが、今回はそれすらしなかったのだとクリアントは首を傾げる。

 

「あー……そのことですが。先輩は鈍感野郎だから気づかなかったのでしょうけど」

「常々鋭い人間だと思っていたんだけど」

「いいえ。ニブチンですね。それで、とっても敏感肌なワンプちゃんは分かっちゃったんですけど」

「頭が冴えたワンプは何が分かったんだ?」

「さっきの場所一帯が危険地帯なんですよ」

「うん……うん?」

 

 当然といえば当然。

 だからこそ、クリアントは村の外れでの肉体創造となったのだ。

 だが、改めて言われると、それはどういう意味なのだろう。

 

「まず安全地帯の定義ですが、ダメージや状態異常などの攻撃を一切受けない場所ってことになります」

「そうだな。マッドラップスとか俺の装備は別なんだっけ?」

「ええ、そうですね。環境依存と思っていてください。それで、たとえば以前先輩が泳いだ毒沼とか、デメンタリーさんの作り上げた超高水圧の水中とか。そういった環境は全て危険地帯と捉えます」

 

 フィリップに負けず劣らず、クリアント自身も様々な環境を乗り越えてきたなとしみじみと思い返す。

 どれもが良い思い出では無いが。

 

「それでですね……実はあそこ一帯の生物全てが【猜疑】にかかるようになっているのだとワンプちゃんは名推理を繰り広げてみました」

「ほう。根拠は?」

「え、根拠必要なんですか?」

「根拠が無いなら推理じゃなくて予想だ。……だが、その可能性は高いだろうな」

 

 あえて根拠を作るならば、それこそスワンプマンの能力であろう。

 あのまま、あの場所で新たな肉体を創造した直後に【猜疑】にかかるのだとすれば、それは毒沼を泳いでいた時と同様だ。

 

「状態異常解除するアイテムは……持っていないな」

「死んだら解除されますからね。先輩には無用の長物かと思っていましたけど」

「ここに来て、継続して状態異常をかけてくるような奴がいるとはな。けどまあ、効果は大したものじゃないようだけど」

「大したものですよー。ワンプちゃんが洗脳されちゃっているんですよ」

 

 スワンプマンの能力自体は使えるため、あの場で戦うデメリットがあるとすればワンプとの会話が困難になることくらいであろう。

 それ以外は思考を妨げる精神系状態異常であるため精神保護が働き〈マスター〉には無効に近い。

 

「電波、伝染系のスキルを持っているってことか? エンブリオ、特典武具、UBM……考えられそうなのはいくつもあるが」

「先輩とクャントルスカさん以外に〈マスター〉は見かけませんでした。隠れていたら話は別ですけど」

「同じようにUBMも隠れている可能性もあるな……どうするかな、これ」

 

 敵が未だ分からないため方針が定まらない。

 加えて、村人全てが敵になっている可能性も考えると迂闊に動くことも出来ない。

 

「1つ目、さっきの場所に戻る」

「村人が増えていたら今度こそ先輩か村人のどっちかが死んじゃいますよ」

「2つ目、村から逃げる」

「先輩と私だけなら出来るかもしれませんけど……クャントルスカさんは残るでしょうね」

「だろうな……だから3つ目、クーとの合流を急ごう」

「それしかないですよね。ここで別行動をする理由もありませんし。ちなみに居場所の心当たりは?」

「無い。……が、クーが俺を探そうと思うなら連絡が来るはずだ」

「へぇ……?」

 

 そのタイミングでクリアントの耳に声が届く。

 待ちかねていたかのように、待ち望んでいた主の声だ。

 

『もしもし? クリアント君、聞こえているかな』

「ああ。聞こえているぞ」

 

 通話を可能とする特典武具。

 それを所持しているクャントルスカからであった。

 

「俺に使うのは初めてだったな」

『うん。いつか驚かせようと思ってたけど、バレてたかー』

「俺だっていつまでも無知じゃないからな。ちゃんとデンドロに通話機能が無いことを学んでいる。レアアイテムかと思っていたけど、もしかして特典武具か?」

『そうだよ。効果は……うん、いつかまた話すね』

 

 それを話している余裕も無いということだろう。

 取り急ぎ現在地を伝えると、クャントルスカは既に祠へと向かっているとの返答があった。

 クャントルスカの衣装は目立つため、クリアントが隠れながら祠へ向かうことになり、そこで通話は終了したのであった。

 

「祠ですかー。私は最初から怪しいと思っていたんですよ」

「いやもう探偵はいいから。というかそれ、探偵じゃなくてテレビドラマ見ている主婦だから」

 




以前クャントルスカが通話している場面がありましたが、よく考えれば通話機能なんてものは無かったので、特典武具ということにしました
受話器型特典武具です。
せめてメール機能くらいは導入して欲しかったぜ
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