<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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14話 協力

■【呪術師】クリアント

 

「……死ぬかと思った」

「思っただけでじゃなくて、本当に死んでるんですけどねー」

 

 海中でただ延々と復活を続けていても、絶えず水圧によるダメージが降りかかり死んでしまう。

 継戦能力としては素晴らしいスキルであるが、環境ダメージがある場所では、〈異身伝心 儀ノ三〉は使用が難しいらしい。

 では、打つ手がないかと言われれば、逃げるだけならば……死に逃げという手であれば〈異身伝心 儀ノ一〉がある。

 登録したセーブポイントでの復活をするスキル……つまりは、死ぬことで移動が出来るスキルとも言える。

 継戦ではなく、逃亡用。

 耐えられない環境から逃げるために儀ノ一を使い、クリアントは海中からノーチラス号へと帰還したのであった。

 

「しかし……水中移動に関しての課題が大きいな」

「戦うどころじゃないですもんね」

「水圧の耐性ってのはバフ以外に何かないのか……」

 

 クリアントは出来上がった料理を食べ、ワンプはミキサーにかけられた泥状の元料理を飲んでいる。

 せっかくの魚料理も、海藻サラダも、ジュースすらも全て混在して粉砕されているため味の違いが分かるのだろうかとクリアントは疑問に思う。

 

「課題が見つかったのならば、解決法を考えるとしようか」

 

 共に席に座るフィリップは紅茶の入ったカップを傾ける。

 彼女の前には料理よりも甘味が多く取り分けられている。

 カップを傾ける手を止め、時折菓子を口に運ぶ。

 

「解決法、か。しかしバフスキルが続かないとなると……かけ続けるとかか?」

「それもいいが、そうすると私も海中に出なければならなくなるね。生憎と私は単体の戦闘よりもエンブリオ込み……このノーチラスでの戦闘の方が得手としていてね」

 

 それはまあ、そうであろう。

 せっかくの潜水艦型エンブリオに乗らずに戦闘は、相応に他に戦闘スタイルを持たなければならない。だが、【潜水士】は海中の探索を得意とするが、戦闘はどうだろうか。

 

「そういえば、【呪術師】のレベルはもう上限に達していたのだったかな?」

「ああ。数は少ないが上位のモンスターを倒したからな」

 

 マッドラップスを倒した恩恵が大きい。

 レベルカンストしたその経験値の割合のほとんどはそちらの戦闘からである。

 

「ということは、ジョブを変更する時期ということだ。【呪術師】の上級職、【高位呪術師】を目指すのかい?」

「いや……これはマッドラップスを倒すためにひとまず成ったジョブだからな。カンストしたからリセットするのは勿体ないが」

「【呪術師】系統に拘りはないと?」

「まあそうだな」

 

 マッドラップスとの相性が良かっただけで、【呪術師】のスキルもほとんど使いこなせているか分からない。そもそもでどこまでエンブリオとのシナジーが出来ているだろうか。

 

「ともあれ、それなら都合が良い。君に今後相応しいであろうジョブはあるのだが、それよりも海中探索ということならば、【潜水士】になってみるのはどうだい?」

「……なるほど。転職条件はあるのか?」

「一定の深度の海に潜ればクリアだ。君はすでにその資格を得ているよ」

 

 先の海中探索で転職条件を満たしたということか。

 ならば、後はクリスタルに触れれば良いだけ。

 

「どうかな? 君さえ良ければ近場のクリスタルまで案内しよう」

 

 どうしようかとクリアントは悩む。

 【潜水士】は確かに海中を移動するには最適だろう。

 だが、そもそもで海中を移動する理由が無い。

 これ以上、フィリップと行動を共にする理由が無い。

 

「……その前に聞かせてほしい」

「何をかな」

「フィリップさんが先輩に好意を抱いているかどうか、です!」

「違う」

 

 手を上げたワンプの頭に手刀を落とす。

 

「あいたっ」

「……フィリップ。色々と聞きたいことはあるが、1つを除いて今は置いておこう」

「ふむ。答えよう」

「お前の冒険の先には何がある? 具体的には、俺に何をさせて、お前は何をしたいんだ」

「先輩にナニを……ひゃぅ」

 

 1人の阿保は無視してクリアントはフィリップを真っすぐ見る。

 フィリップはやれやれと苦笑していたが、やがてその笑みすら消す。

 

「……なるほど。聞かなければ動いてくれないみたいだ」

「まあな。アイテムは貰った手前、別に協力するのは良いんだが。このままだと利用されているみたいだからな」

「良いだろう。確かに私は君を利用したいと思っている。そして私の今回の冒険にもちゃんと目的がある」

 

 フィリップが指を鳴らすと、テーブル上の料理が片付けられていく。

 会話に料理は不要ということだろう。

 ワンプが名残惜しそうな顔をする。

 代わりに、3人の手元に紅茶が新しく入れられる。

 

「フィリップさん」

 

 ワンプが至って真面目な顔を作る。

 

「どうしたかな?」

「私、砂糖が欲しいのですが」

「……良いだろう」

 

 ほどなく角砂糖も取り出される。

 ワンプは紅茶に角砂糖を、溶けきれるまで入れ続ける。

 これも泥状に近い飲み物と言えば飲み物なのだろう。

 

「……では話を戻そう」

 

 こほんとフィリップは一拍置き、

 

「私の目指すべきものはとある超級職だ。そのために倒したいUBMがいてね」

「それで俺の力が必要なのか」

「まあ、必須というわけではないのだがね。君個人というよりも、誰か協力者が欲しかった。そのUBMの力を測るためにもね」

「……なるほど」

 

 ならば、ヒット&デスアウェイが出来るクリアントの出番だ。

 回数制限まで死に、相手の能力を探ることが出来る。

 

「どうかな? 完全に私情であり私利私欲だ。君に一切のメリットが無い」

「だが、楽しそうだ」

 

 クリアントは笑う。

 目的の備わった冒険。

 その未知に、興味を抱いた。

 

「分かっているじゃないか」

 

 フィリップも消していた表情を戻す。

 クリアント同様に笑みを浮かべる。

 

「協力しよう。そのUBM退治と超級職への転職に」

「ありがとう」

 

 話が纏まったところで、フィリップはノーチラス号の進路を変更する。

 行き先は、ジョブ変更のためのクリスタルが設置された場所。

 

「海底神殿セペンテイム。ここからなら1時間の距離だ」

「おおー。海底神殿ですか。なんだかロマンがありますね」

「ふふふ。まあ行ってみればのお楽しみさ。本当は滅んだ街だったのだけどね、とある〈マスター〉が復活させたんだ。だから辛うじてクリスタルも機能しているのさ」

「海底神殿かつ古代の街ですか。ますますロマンじみていますね」

「危険なモンスターもいない。このまま直進といこうじゃないか」

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