<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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147話 ダウト 10

■???

 

「――ッ! ――ッ!」

 

 息が切れているのは走ったせいか、あるいは興奮が収まらないのか。

 やってやったという感情が込み上がる。

 遂に。

 場所、時間、そして相手。

 全てが合致した。

 まるで何者かに導かれているかのように……神に誘導されるかのように。

 全てが都合よく進んでいる。

 

 贄を収めた。

 莫大なリソースを保有する〈マスター〉。

 その首を撥ねた。

 

 手の中にある神の鼓動を感じる。

 此れこそが求めていたもの。

 

 神に至る逸材。

 神に昇る素材。

 

 もうじき朝日が昇る。

 神を崇める村人多数。

 リソースをため込んだ神の素材が1つ。

 そして、敬虔なる信徒がここに1人。

 

 これで成り立つ。

 歴史が、逸話が、ここに紡がれる。

 

 条件は達した。

 手に持つソレを改めて見ると、その美しさにため息が漏れ出る。

 傷一つ無い。

 誰かが刻んだ傷も、誰かを傷付けたがために付いた傷も。

 まるでソレこそが絶対であると、確固たる神であることの証であるかのように手の中で存在感を放っている。

 

 ソレに比べれば全てが愚だ。

 群がる信者共も。

 並び立とうとする他の神も。

 これで私は本当の意味で神を崇めることが出来る。

 ■■のように。

 いや、むしろ私はこの信仰心で■■の力無しで神を作り上げた。

 ■■以上の信仰心を持っていると言ってもいいはずだ。

 ■■も愚にしか思えない。

 

「……飲み込まれかけていたか」

 

 ソレは人を嫌う。

 人を嫌うが故にソレ自身に注目を持たせ、そして他を争わせようとする。

 生半可な精神力では抑えることすら不可能。

 村人のように飲み込まれるか、それとも私のように神を崇めるために上手く立ち回れるか。

 どのみちそれも後数時間。

 明けない夜は無い。

 だが、神ある所で昼も夜も関係は無い。

 

「さあ。あと一息だ」

 

 

 

 

■【深潜水士】クリアント

 

「そういえば、犯人の正体は分からずじまいですけど」

「……?」

「武器くらいは実は分かっていますよ」

 

 クャントルスカとの合流に急ぐクリアントにワンプは明かす。

 尤も、彼女の性格からして勿体ぶっていたわけではなく、単に言い忘れていただけのようだが。

 

「首を撥ねたことから刃物……とりわけ長物でしょうかね。長剣……いえ、朧気ながら刃は両刃ではありませんでした」

「刀……といいたいのか?」

「そうです。先輩の持つ【出涸らし】……まさにそれに近い形状をしていたかと」

 

 敵もまた刀を扱う。

 それだけでも収穫といえば収穫だろう。

 

「刀、か。それにこの村全域にかかっている精神状態系の何かしらのスキル。近距離の戦闘と、広域デバフ……厄介な相手だ」

「はい。刃物相手となると基本的に徒手で戦うクャントルスカさんだと不利かもしれませんし、先輩も状態異常には弱いですからね」

「一撃必殺よりも、こういうじわじわと追い詰めてくるのに対抗できる手段が無いからなぁ」

 

 アイテムボックスに仕舞われている【出涸らし】。

 その存在を思い出しつつ、クリアントは装備を改めることは無い。

 未だパルペテノンのみを装備し、村を駆けている。

 

 クリアントの装備の多くは装備しているだけでデメリットを発揮する。

 装備しただけで装備者を毒に置換するマッドラップス然り。

 装備しただけで装備者を【飢餓】に追い込もうとするパルペテノン然り。

 【出涸らし】もその1つ。

 装備しているだけでは問題無いが、刀を振るった時。

 その時こそクリアントに害を為す。

 相手に当たろうが外れようが、【出涸らし】を振るったという行為があれば、クリアントの肉体は【出血】に侵される。

 更に言えば、村人を考えなしに斬りつけて【出血】にしようものなら、後々の処理が厄介となる。

 そのため、とりあえずは制圧用のパルペテノンのみで村人との戦闘はやり過ごそうと考えていた。

 

「犯人をダニアリーさんと仮定するとして」

「ダニアリーから離れろ。仮定するな」

「……犯人をダニアリーさんと断定するとして」

「断定はするな。それをやるんだとしたら無能探偵だ」

「……犯人は何故こんなことをしているでしょうね」

「俺を殺したかって?」

「それもありますけど、村人を操って何をしたいんでしょうか」

「んー……王様気分に? いや、こんな様子じゃ、村人の制御なんて効かないか。無暗に混乱させる……?」

「それだと村に恨みのあるってことになりますね」

「それも違う気がするんだよな」

 

 会話をしているうちに祠近くまで辿り着く。

 先ほどスワンプマンの能力で場所を移動した時と違い、いつ【猜疑】にかかるか分からない。

 ワンプをルール型にさせたままクャントルスカを探すべく周囲を見渡す。

 

「……クリアント君。こっち」

 

 と、声を潜ませながらクャントルスカが深い茂みの傍から声をかけてきた。

 

「ここにいたのか」

「おや? 1人ですか?」

「モーは偵察中か?」

 

 クャントルスカは1人であった。

 いつもの笑顔は冷めており、表情を固くしたまま。

 電話口では明るい声色であったが、まるで正反対の表情であったのだ。

 

「モーちゃんは今休んでいるよ。少し疲れちゃったみたい」

 

 自身の手の甲を撫で、クャントルスカは言う。

 

「……クリアント君達は大丈夫? 特にワンプちゃん。今はクリアント君と合体中みたいだけど、変な状態異常にかからなかった?」

「ああ。【猜疑】か……。俺はともかく、ワンプはおかしくなっていたな。俺が一度死んでからは元に戻ったようだが」

「そっか……クリアント君は肉体が新しくなる度に状態異常も治るんだったね。それにワンプちゃんもそこまで大きな負荷がかからなかったかぁ。クリアント君のおかげかな?」

「何を……?」

「モーちゃんはね、少し気づくのが遅れちゃった。自己の否定っていうのかな。愛を謳うモー・ショボーがその在り方を否定しちゃったの。それで精神的に深く傷ついちゃったみたいでね……休養が必要になっちゃったんだ」

「……」

「でも大丈夫。1日もあればきっと元気になるよ! だから……それまでに全部解決しておかないとね」

「そうだな。安心しろ。ワンプは図太いからか、正気に戻ってからも俺に謝ることすらなかったからな」

「ふふっ。うん。頼りにしているよ」

 

 徐々に日は昇っていく。

 それに合わせてか、村を徘徊する人間は増えていく。

 畑作業などで活動を始める……わけではない。

 目的も無く村の中を歩き回る……文字通り徘徊である。

 

「私達を探しているのかな」

「俺は殺せたと思っているかもしれないな。すぐに他の場所に転移したから。だけどクーがまだ生きていることを奴らは知っている」

「……だったら」

 

 クャントルスカは茂みから飛び出すと叫ぶ。

 

「みんな、こっちだよ!」

 

 村人たちに己の存在を示し注目を引き付ける。

 

「余所者」

「アレは……異端者だ」

「喧噪を呼ぶ異端者」

「殺せ」

「静寂に慎め」

「神を煩わせるな」

 

 村人たちは一斉にクャントルスカ目掛け走り出す。

 その手には農具や狩猟道具が握られているが、用途は本来とは全く違うだろう。

 

「クリアント君。祠を目指して。モーちゃんが言ってた。あそこにこの村の異常事態の鍵があるはず」

「分かった」

 

 クャントルスカは祠とは真反対の場所へと走る。

 村人たちも追いかけていく。

 声を張り上げ、他の村人たちも呼ぶため、クャントルスカの周囲にはどんどん村人が集まっていく。

 

 そして対称的に祠の周囲に人はいなくなった。

 

「先輩、今ですよ」

「ああ」

 

 クャントルスカの下へと向かう村人に気づかれないよう足音を消しながらクリアントは静かに歩く。

 祠の前に辿り着き、それを開けようとすると

 

「いけませんね。神に触れようとするなど。それは私を除けば不敬に値する行為です」

 

 背後から声と殺気。

 そして何かが風を切る音が聞こえた。

 咄嗟に伏せると頭上を何かが通り過ぎていく。

 

「おや。避けられてしまいましたか」

 

 追撃を避けるために地面を転がりながら声の主から距離を取る。

 だが、どうやら追いかけてくることは無いようだ。

 

「しかしまあ、貴方がどのような方であろうと神の力からは逃れられません」

「……ダニアリー」

 

 顔を上げるとそこには司祭服に身を包んだ男――ダニアリーが立っていた。

 手に持つは白刃。

 ワンプの言うように得物は刀であったようだ。

 

「さて。神に逆らう愚人はどなた――は?」

 

 ダニアリーの動きが止まる。

 クリアントの顔を見て、まるで幽霊でも見たような顔をして。

 

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