<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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148話 ダウト 11

■【深潜水士】クリアント

 

「〈マスター〉は不死者……決して死ぬことは無い。殺しても最低でも3日という期間があれば生き返る」

 

 ダニアリーは身を震わせながら小さく呟く。

 自問自答をしているかのように、その目は誰をも見ていなかった。

 

「だが、昨日の今日だぞ! ほんの数時間前の話だ! ……何故、何故生きているんですか!」

 

 最後の言葉だけは我に返ったかのように、クリアントに尋ねるものであった。

 その形相は人でなく、鬼のよう。

 人を殺す鬼の相貌であった。

 

「……俺を殺したのはお前。そういうことでいいんだな?」

「犯人はダニアリーさん! 私の推理は的中ですね!」

「殺した……ええ、そのつもりでした。全く、やはり〈マスター〉は常識の外の連中だ」

 

 ダニアリーの手には刀が握られている。

 それの指す意味とは、昨夜クリアントの首を撥ねたのは彼である可能性がこれでほぼ確定したということ。

 【司祭】であると彼は言っていたが、ただの後方系支援職に魔法少女をサブジョブに入れているクリアントを殺すことは出来ない。

 何かしらの戦闘系ジョブを持っていると考えた方が良いだろう。

 

 そして、クリアントを殺すだけの理由が彼にはあるのだろうが、そちらは皆目見当もつかなかった。

 

「さあ、先輩! 推理ですよ推理! 名推理でダニアリーさんの犯行動機を暴いてください!」

「いや、探偵役はワンプじゃなかったのかよ……まあいいや。ダニアリー、お前が俺を殺す目的だが……いくら考えても思いつかない。俺に恨みでもあるのならば、依頼を受けさせるのは理にかなわない。俺が村で何か失礼なことをしたのかとも思ったが、最後に村人に言われた言葉は感謝を示すものだった」

 

 ダニアリーからも、村人からも殺されるような動機は見当たらない。

 だが、彼や村人はクリアントの命を狙った。

 村人が【猜疑】という精神系状態異常で操られているのであれば、それを操っている人物がいる。

 その元凶は、目の前で理性を保っているであろうダニアリーしかあり得ない。

 

「神を崇めるためです」

 

 あっけなくというべきか、あるいはあっさりと薄情するようにダニアリーは答える。

 

「神……? その祠の中身のことか? だが、そんなものはいない。その祠の中に神なんてものはいないぞ」

 

 背後からダニアリーに攻撃される直前。

 祠に手をかけていたクリアントは回避しつつ、戸を開いていた。

 

 立ち上がり、戸が開き切った今であれば中身が覗ける。

 とはいっても、祠の中身なんてものはない。

 人間大程の高さの空洞が広がっているだけだ。

 

「そこは神域。神の住まう祠。何も無いのは当たり前ですよ。神は留守にされているのですから。私の手にこうして、神が顕現している」

「何を言って――」

「妖刀【褥】。此れこそが神の器。神の原石! 村一つを洗脳し、強大な力を持つ〈マスター〉を殺したという実績さえあれば【褥】は神へと至るのです!」

 

 ダニアリーは刀――【褥】を振り上げる。

 その刃は妖しく光る。

 それこそ、神や悪魔が嗤うが如く。

 

 

 

 

■ダニアリーについて

 

 彼を評するのであれば敬虔な信徒が最も良く似合う言葉であった。

 早朝には教会へ足を運び祈りを捧げる。

 その後は質素な食事をとり、ひたすら剣を振るう。

 剣を振るう理由も信仰心あってのものだ。

 ただ神に仕えたい、神の為に在りたいと願ったが末の【教会騎士】に就いた彼の責任感から成るものであった。

 

 故に彼の生活サイクルは基本的に変化が無い。

 起きて祈り、食べて剣を振るい、そして床につく。

 時折、【教会騎士】というジョブがあるため街周辺のモンスター討伐の依頼が教会から下りることもあったが、彼は卓越したセンスと弛まぬ努力から周囲のモンスター程度は束になったところで蹴散らすことが出来た。

 

 彼の同僚を始めとした教会の人間は口を揃えて彼を称えた。

 ダニアリー以上の信仰心を持つ者はいない。

 次代の【教皇】にもなれる可能性はあるだろうと。

 

 だが、ある時彼は知ってしまったのだ。

 

 地位が高くなれば秘匿された情報も開示されていく。

 彼が【教会騎士】を束ねる立場になった時、彼に1つの情報が知らされた。

 

 それは、【神子】というジョブについて。

 東方系の禁忌とされるジョブの1つ。

 モンスターを神と崇め、そしてよりにもよってUBMという形で神を作りだしてしまう最悪のジョブである。

 

 ダニアリーの上司はこのジョブに就いた者を見たら、すぐさま討伐せよと命じるつもりであった。

 生かす理由はない。

 何もせねば無暗にUBMを増やされかねない。

 たとえUBMを作り上げた後であったとしても、【神子】を殺せば作り上げられたUBMが弱体化することは確認済みだ。

 

 敬虔な信徒であるダニアリーであればその存在は許さない。

 神を真に崇めているのであれば、UBMを神とするのは異教徒以上の禁忌であろう。

 そう、上司は思っていた。

 

 だが、それはダニアリーという狂信者を見なかったが故に思い違えていた。

 

「ああ……なるほど。神を崇めるにはそうすればよかったのですね。そうすれば、神は応えてくれる」

 

 敬虔であればあるほど。

 盲信すればするほど。

 

 神に言葉を投げかけ、返ってくることを望む。

 

 ダニアリーは信じ続けていた神を見失っていた。

 

 そも、神とは何なのか。

 自分が神と思っているものに対しての心象が浮かばない。

 彼の中で【神子】は輝いていた。

 彼女らこそが真の意味で信者であり、そして敬虔な信徒であるのだと。

 

 だからこそ、彼は絶望することとなった。

 

 【神子】は【巫女】の派生職。

 【司祭】系統とは全く系統の異なるジョブである。

 故に思い至らなかった。

 女性以外が就くことのできないなどという可能性に。

 

 いくら信仰心が強くとも。

 いくら肉体を鍛え上げようとも。

 いくら人生を賭けようとも。

 

 男に【神子】は務まらない。

 男に資格は与えられないし、挑む権利すら無かった。

 

「私は……信者になれない……?」

 

 もはや彼の中ではUBMこそが神であった。

 教会で認められた神など、システム上で設定された架空の存在に過ぎず、居ないも同然であった。

 実際に、教会の神への信仰心を失っても【教会騎士】であり続けられたことがその証明だ。

 信仰心無くとも【教会騎士】としての強さは全く失われない。

 

 故に彼は冷めていく。

 教会そのものに。

 故に彼は熱を秘めていく。

 UBMという神に。

 

 【神子】は狡い。

 自身だけの特別な神を信仰している。

 

 自身もああなりたい。

 神に全てを捧げたい。

 神にこちらを見てもらいたい。

 

「馬鹿ねぇ。そんなに神を信仰したいのなら、神を作りたいのなら、自身で作り上げればいいじゃない」

 

 【教会騎士】としての任務の途中。

 彼は【神子】の1人と出会った。

 彼女の有するUBMは強大であり、ダニアリー1人では手に余るものであった。

 応援を呼ぶべきか悩む彼に、【神子】は自身と近しい何かを感じ取ったのだろう。

 あるいは羨望や嫉妬を感じ取ったのか。

 UBMを制し、彼の内情を打ち明けさせた。

 背信とも呼ぶ言葉の数々に【神子】は耳を傾け、そして告げたのだ。

 

 神を作る方法を。

 【神子】で無くとも、UBMを神として信仰する方法を。

 

「知っているかしら。UBMは自然に発生するだけじゃないのよ。人工的に作られたものだって、逸話さえあれば成り立つの」

「……それは!?」

「人を殺し続けた只のモンスターだってUBMになるし、人と共存したモンスターだってUBMに成り得る。何かを成し遂げた人間が英雄であるように、何かを成し遂げた逸話さえあればモンスターはUBMになれるの」

「しかし私は……」

 

 だが、それでは足りない。

 それではダニアリーとの結びつきが無い。

 彼が欲しているのはただのUBMでは無い。

 ダニアリーが信仰することのできるUBMだ。

 

「そう……なら、モンスター以外をUBMにするのはどうかしら。人の道を外れた人間や、あるいは多大な魔力を帯びたアイテムがUBMになるという報告もあるわ」

 

 それならば可能性はあるだろう。

 何より、UBMを作り上げる途中で素材に殺される可能性が低い。

 

「貴方の場合は……何か神を信仰させる土台を作り上げたらどうかしら。神という基盤でのUBMならば、信仰者という立ち位置も用意されるのではないかしら?」

 

 その言葉で彼は教会を出奔する。

 神、つまりはUBMに成り得る可能性を秘めた何かを探し各地を転々とする。

 そうしてダウトという村で妖刀【褥】に出会ったのだ。

 それを見た瞬間、彼は魅入られたと確信した。 

 魅入られた――神がこちらを見ているのだと。

 

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