<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

163 / 443
150話 ダウト 13

■【褥】とダニアリーについて

 

 妖刀【褥】。

 その能力はクリアントが推察した通り、妖刀【出涸らし】のような状態異常を与えるものである。

 【出涸らし】と違う点はその状態異常が傷痍系で無く、精神系ということだ。

 斬った対象に【猜疑】を始めとした数々の精神系状態異常を与える。

 そして同時に、持ち主に対しても同様の状態異常を与えるというものだ。

 

 【出血】と精神系状態異常という枠こそ違えど、それ以外はよく似ている2本である。

 とはいえ、クリアントが【出血】に対して何もせず死を迎えるだけに対し、ダニアリーは信心という精神力とMPというステータスで耐性を備えている。

 

 だが、それだけだ。

 この妖刀に備わった能力としては、斬った相手と所有者に対する精神系状態異常を与えるという、妖刀にしては有り触れたデメリット付きの能力に過ぎない。

 

 決して、周囲に呪いを振り撒くような、呪神の如き存在ではない。

 

 では、何がこの惨状を生み出したか。

 村人達を疑心暗鬼とし、互いに狂信者と罵り合い、自身を敬虔な信者と思い込むようになったのか。

 元々の気質もあったかもしれない。

 地盤は既に出来上がっており、ダニアリーが、そして【褥】がこの村に置かれる前からこの村の異質性は浸透していたのだろう。

 

 だが、それとてタガが外れる程では無かった。

 殺し合う程では無かったし。

 旅人を襲う程では無かった。

 

 狂信であろうと狂気に染まってはいなかった。

 殺意があろうと、殺人に手を染めることはなかった。

 

 もし、実際に人を害することがあったのならば、それはその者が加害者足りえる精神性であったせいであろう。

 もしくは、【褥】を手に取ったことで【猜疑】が所有者へのデメリットとして降りかかっただけであろう。

 

 故に、ダニアリーが村を訪れるまでは【褥】は村の中央に鎮座するだけの呪いの妖刀に過ぎなかった。

 神として崇められようと、それを手に取らなければ無害そのものであった。

 否、手に取ったところで、手にした者の精神が崩壊するだけで周囲への被害は無きに等しかった。

 

 

 

 

 【宣教師】。

 それこそがダニアリーのメインジョブである。

 【司祭】や【教会騎士】を経て彼が就いた第三のジョブ。

 神を作り上げようと模索し、しかし諦め半ばで遂に捉えた条件付き派生職。

 後衛向きである【司祭】系統に漏れずMP補正に特化したもの。

 だが、その本質は【司祭】よりも【呪術師】に近しいものがある。

 

 唯一のスキルの名は《鎖された心を拓いて》。

 【宣教師】とは神を伝える職業だ。

 だが、神はこの場に居ない。

 この場に居ない者をどう伝えるか。

 自身の精神を以て伝える他無い。

 

 つまりは、己の精神系に関わるバフデバフ、状態異常を周囲に広めていくスキルである。

 

 本来であれば、バフスキルを自身に次々とかけ、それを仲間全員に伝染させるという使い道であったのだろう。

 だが、ダニアリーはそれを【褥】による状態異常を範囲内の村人全てに伝染させるという敵対者に行う使い方をした。

 

 結果、村はダニアリーの支配下に落ちた。

 ダニアリー自身はMPによる耐性で精神性を保ち、MPが低い村人らは【猜疑】で疑い合う。

 だが、【褥】という神を信じることだけは忘れぬため、【司祭】の立場にあるダニアリーの言葉にも耳を傾けるしかない。

 【猜疑】が浸食しすぎて手に負えなくなれば、【褥】で斬り殺せば良いだけだ。

 消えた村人は異端者扱いになるような村だ。

 今更1人2人消えたところで気にする者もいない。

 

 

 

 

 

 神は成った。

 神は至った。

 

 ここに神は降臨する。

 

 【褥】が効かず。

 【宣教師】が意味を成さず。

 神の降臨を邪魔する異端者がいようと。

 

 まだダニアリーには狂信者という手駒がある。

 

 

 

 

■【深潜水士】クリアント

 

「さあ、来なさい! 敬虔なる狂信者達よ! 村に入り込んだ異端者を殺すのです!」

 

 妖刀【褥】の能力が周囲に拡散していく。

 リミッターすら外し、理性と引き換えに力を得るため、数と力で押さえつけられる可能性を考えれば、クリアントは逃げ出すか、ダニアリーを止めなければならないだろう。

 

 村人全てを相手取れるほどクリアントは強くはなく、たとえパルペテノンを使ったとて、村人全てを【空腹】で抑え込めるまでの時間稼ぎも難しい。

 そして、本気で抗おうとすれば少なからずの死者が出るだろうことは分かっていた。

 殺すか殺されるか。

 その選択肢しかクリアントには無い。

 村人は操られている。

 それを知ってしまえば迂闊には殺せないし、殺さないで欲しいと懇願する仲間がいる。

 

 だからクリアントは逃げないし、ダニアリーを止めることも無い。

 

 何故ならば仲間が――魔法少女がクリアントにこの場を託していったのだ。

 ならば、魔法少女はそれに相応しい動きを見せているだろう。

 

「……何故です!」

 

 予想通り、村人は1人も現れない。

 ただの1人もこの場に到達できない。

 狂信者が神の呼びかけに参上しようとしてもそれを阻む者がいる。

 

「ふっふー。知らないんですか?」

「魔法少女は悪者に操られた一般市民を放っておかないんだぞ」

 

 その直後であった。

 村人の加勢は来なかったが、代わりに村中に雷が落ちたのだ。

 クリアントとダニアリーのいる村の中央を避けるようにして。

 

 

 

 

■【魔法☆少女】クャントルスカ

 

「次!」

 

 強くなればなるほど、得られるものがある代わりに失うものもある。

 その量はほとんど等しいだろう。

 どれだけ手が大きくなろうとも、掬った水は掌から零れていくのと同じように。

 

 だが、それでも救おうと、助けようとする気持ちだけは忘れてはいけない。

 魔法少女は全ての少女の憧れであると同時に、責任だ。

 成ったのであれば、助けなくてはいけない。

 それだけの力を得たのだから。

 

 失うのは自身だけでいい。

 誰かが失ってはいけない。

 

「次の人、来ていいよ!」

 

 きっとこの村の人達は被害者だ。

 祠の中身が何であったのかは確認出来なかったが、それが原因であることは間違いない。

 その原因に操られ、頭をおかしくされて村人たちは自分たちを襲うように仕向けられている。

 

 そんな時、魔法少女であればどうするべきだろうか。

 原因を取り除く?

 操られている人たちを放っておいて?

 そんなことをしていれば被害はどんどん増えていく。

 操られた人たちは操られていない人たちを襲うだろう。

 

 その隙に原因である悪者を倒すことは出来る。

 だけど、加害者となってしまった人たちが正気に戻った時、自身が過ちを犯してしまったことを知ればどうなるのだろう。

 魔法少女は少女の夢だ。

 全てを愛し、全てを傷付けないために在る。

 だから、魔法少女がこの場にいるのなら、これ以上の被害者も加害者も増やしてはいけない。

 

「まだだよ!」

 

 声に集まってきた村人たちは目算で100人以上。

 でも、全然足りない。

 村の人口はその数倍はいるはずだ。

 

 足元に倒れる100人前後を足しても、まだ100人くらいは村のどこかにいる。

 それが操られていない可能性もあるけど、クリアント君のところに向かっている可能性だってある。

 

「あそこはクリアント君に任せたんだ。きっとクリアント君が原因を倒してくれる」

 

 だったら自分はどうするべきか。

 決まっている。

 最初から魔法少女がやるべきことは、助けることだ。

 

 困っている人、即ち操られている人全てを正気に戻す他無い。

 

 村人10人が農具を振るう。

 土塗れのソレは決して凶器足りえないはずだ。

 だが、理性無き眼と一切のためらいの無い攻撃によって、多くを食らってしまえば致命傷足りえると分かる。

 

 故に治す。

 

 助けることは治すことにも通じる。

 触れたと同時に【魔法少女α】及び【魔法☆少女】の治癒系スキルで精神系状態異常を振り払っていく。

 本当は周囲全ての人間を一斉に治したいが、残念ながらそのスキルは存在しない。

 せいぜいが拳に纏い、操られた人を接触により治していくだけだ。

 

 だから間違ってはいけない。

 力加減を。

 誰が敵で、誰が被害者かを。

 

 村人たちは決して加害者では無いのだ。

 それを間違えれば、村人たちは私の力によって被害者になってしまう。

 

 それはいけない。

 魔法少女は被害者を出してはいけない。

 

「……ああ、そっか」

 

 唐突に理解した。

 この村で出会ったクレイルさん。

 あの人は最初から被害者であった。

 

 奥さんと子供を亡くしたと言っていた。

 家から出ない理由は、誰かと会えば自分の頭がおかしくなってしまうからだと。

 奥さんは一家心中を図ったと言っていた。

 

「……間に合わなかったんだね」

 

 きっと奥さんも操られていたのだろう。

 どのような経緯があったのかまでは分からないけれど。

 それでも、クレイルさんは予期していたんだ。

 

「……だよね、クレイルさん」

 

 出会えば頭がおかしくなる。

 それはきっと当たっていて、そして間違っていたのだろう。

 

 だって、でなければここにいるはずがない。

 

「異端者だ。異端者だ」

 

 工具を振り回すクレイルさんの腕を取り、地面に伏させる。

 

「……ガッ!?」

「ごめんね」

 

 操っていた力が解けたためか、気絶したクレイルさんをそのままにし、次の村の人に向き直る。

 

「次!」

 

 それでも助けられるのは村の半分。

 村の中央から左半分だけだ。

 祠を隔てたもう半分にまでは手が回らない。

 

「うぅ……」

 

 救えない、助けられないかもしれないという疑念が頭をよぎる。

 すぐにそれを振り払おうとするも、こびりついたかのように浮き上がってしまう。

 

 せめて、せめてもう1人いれば。

 

『く、かか。魔法少女よ。手が足りぬなら、何故我を呼ばぬ。魔法少女が助けを求める存在。それは我というマスコット置いて他にはあるまいて』

 

 左手の指輪が光る。

 そして、そこから雷光と共に1匹の竜が飛び出した。

 

「ドラゲイル君!?」

『常識外れの魔法少女のマスコットもまた常識から外れた存在よ。我は主と契約した間柄であるが、召喚権は主だけのものではない。かつて自由を謳歌した我らしく、我もまた自在に輪の柵から出られるようだ』

「そ、そうなんだ……」

 

 ドラゲイル君。

 戦力としてはとても頼もしい。

 ……けど、現状では過剰戦力と思い召喚に躊躇していた。

 

「ええと、今の状況だけど……」

『分かっておるわ。主の分身は休眠中。そしてあの男は悪の親玉と交戦中であろう? ふむ……我は村のもう半分の人間を無力化すれば良いのだな』

「……出来るだけ傷付けないで欲しいんだけど、出来る?」

 

 高ステータスの魔法少女達でさえ一撃で葬り去ることのできる出力を持つドラゲイル君の雷。

 特典武具としてその力は弱まっているとはいえ、相手が戦闘職でもない村の人達相手であるなら、やっぱり過剰なまでの力になってしまう。

 

『容易いことよ。どれ、もう既に算出出来た。《天災罰》』

「え、ちょっと――」

 

 そのスキルは対象に必ず致命傷を与えるスキルだったはず。

 だけど私の制止よりも先にドラゲイル君は雷を落としていた。

 

「ドラゲイル君!?」

『安心するが良い。安堵するが良い。我が主よ、ついでだ。主に襲いかかろうとした者にも雷を落としてやったわ。く、かか!』

「笑っている場合じゃ……」

『まあ、落ち着け。《天災罰》は必ず殺せるスキルであり、同時に必ず殺さないスキルでもある』

「……? どういうこと」

『耐性も無い村の人間なら落雷のショックで【気絶】に持ち込める程の威力に留めておいたということだ』

 

 ということは……。

 操られていた村の人全員が【気絶】したってこと?

 

『これも主の奮闘の賜物であろうがな。より好戦的であった戦闘職の村人が既に気を失っていたおかげで残りの村人はステータスの差があまり無くて楽であったわ』

 

 そこまでであった。

 ドラゲイル君の身体が消え始める。

 

『やはり全盛期のようにはいかぬか。く、かか! だが、我の力を必要とするなら遠慮なく呼ぶが良い。我が主よ、マスコットは魔法少女と共に居てこそなのだからな!』

「……うん! ありがとう、ドラゲイル君」

 

 操られていた村人がクリアント君に向かうことは無くなった。

 あくまで【気絶】状態であるだけなので未だ【猜疑】はかかったままだろう。

 

 だけど、きっと原因さえ取り除けば。

 真の敵を倒しさえすればそれも解ける。

 

「後はお願い、クリアント君」




たぶん次話でダウト村終わるはず
ずっと次に出す予定の敵考えてましたわ
あと、味方を誰にするか
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。