<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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改変しました
今自爆使えないんだった


151話 ダウト 14

■【深潜水士】クリアント

 

「神は……神は……」

 

 援軍は――村人はいくら待とうとも来ない。

 先ほどの雷にクリアントは覚えがあった。

 その身で何度も受け、何度も死んだものだ。

 

 間違いなくドラゲイルの雷だろう。

 雷が村中に降り注いだ。

 それが意味するところは、村人たちの殲滅……いやクャントルスカが命じたのであれば無力化であろう。

 

 数人取りこぼしたところで、クャントルスカが健在であるなら彼女がきっとどうにかしてくれるはずだ。

 

 あとはダニアリーのみ。

 彼さえ取り押さえてしまえば、この村における事件は解決したも同然であろう。

 

「終わりだ。これ以上打てる手も無いだろう」

「あっ、その台詞……」

 

 ワンプのやっちゃったなーという声と共にダニアリーは【褥】を逆手に握りしめる。

 

「神は……ここに降臨する! 逸話が崩されたのならば、神話が成り立たないのならば、また新たに形成するまで! 信者の命を食らい、神はここに至る!」

 

 そのまま自身の胸に【褥】を突き立てた。

 

「……がふっ」

「――っ! おい!」

 

 慌ててクリアントが取り上げようとするも、ダニアリーは死の間際とは思えぬ程の力で【褥】の柄から手を離さない。

 

「先輩、さっきから迂闊すぎでは」

「予想していない行動ばかりするんだから仕方ないだろ」

「いやいや、その自殺行動とか先輩の専売特許じゃないですかー」

 

 などと、悠長に話している間にもダニアリーのHPは急速に減少していき、そして一度も止まることなくゼロになった。

 

「は……はは……神よ……え、あれ……」

 

 間際にダニアリーの顔にあったのは驚愕と戸惑いであった。

 そうであろう。

 命を賭した行動に報いることは何一つ無かったのだから。

 

 村人全てを操った妖刀が最後に信者の胸を貫き殺した。

 この程度の逸話程度で神に昇華しようとし、そして失敗した。

 

 ありふれた事象に対し、UBMにされるような認定は降りなかったのだ。

 

 最後に誤った。

 否、最初から誤っていた。

 

 神に憧れ神に従い神に溺れたダニアリーという男は誤り続け、信じようとした相手すら誤ったのだ。

 

 その代償は己の命。

 

 何も残さず、ただの犯罪者の1人として歴史の1ページに記録されるだけだ。

 そこに神という文字が記載されることも無く、やがて記憶からは消されていく。

 

「……終わったな」

「これを見て終わったと言える先輩はやっぱりすごいですねぇ。いえ、勿論皮肉を込めてですよ?」

 

 安堵の溜息を吐くクリアントに対してワンプの言葉は相変わらずだ。

 だが、それすら【褥】の支配下から免れたのだろうと安堵の材料の一つとなる。

 

「後はクーと合流……の前に一応回収しておくか」

「出涸らしさんと比べて触るのすら避けた方が良さそうな刀ですけどね」

 

 さっさとアイテムボックスの肥やしにでもした方が良いだろう。

 クリアントはダニアリーの死体に歩み寄り、【褥】を拾おうとした――その時であった。

 

「ふむ。戯れに置き捨てた妖刀は村一つ滅ぼせませんでしたか。やはり持ち主が無能だと刀も力を発揮できぬということですね」

 

 声がした。

 位置は……ダニアリーの真下から。

 

「あわよくば。ええ、あわよくばの計略でしたが、失敗を目にしてしまうと少しばかり腹が立ちますね。その原因が目の前にあると尚更」

 

 ダニアリーの死体が宙に放り出される。

 真下の地中から何かが飛び出し、その勢いで死体が弾き飛ばされたのだ。

 

「こんばんは。いえ、この時間ならおはようでしょうか。どのみち、貴方の夜明けはこれにて終い。朝日を拝むことはこれきりでしょう」

 

 人間では無かった。

 かといって、亜人であったとかいう話では無く。

 

 白い球体のモンスターであったのだ。

 

「顔をお見せ出来ずに失礼。こちらから貴方は見えていますのでご安心を」

「……何者だ」

 

 クリアントは即座に《看破》を発動する。

 だが、そのモンスターを覆う白い何かが邪魔をしているのかステータスやスキルは見えない。

 ただ、名前だけ。

 【パス・コクーン】という名のモンスターであることだけは分かった。

 

「コクーン……繭か」

 

 白い何か、それは繭で覆われているのだろうかと名前から察する。

 

「こちら、返していただきます」

 

 繭から糸が伸びると【褥】を掴み、そのまま糸を縮ませ手元に手繰り寄せていく。

 

「――ッ! 先輩!」

「ああ! 分かっている」

 

 このままみすみす【褥】を渡すつもりはない。

 何より、相手はモンスターだ。

 妖刀を手にして、平穏平和にこのまま過ごすことなど無いだろう。

 

「マッドラップス、出涸らし、パルペテノン、クレハドール」

 

 《瞬間装備》及び《瞬間装着》によって鎧、妖刀、腹帯、巾着がそれぞれ装備されていく。

 

 クリアントは【出涸らし】を握りしめると、【パス・コクーン】へと走る。

 

「ほう。この私と戦おうと?」

 

 【出涸らし】を振り下ろす。

 生物であれば血は流れる。

 斬ることさえできれば、生き物であれば出血死からは逃れられない。

 

「しかし残念。それは些か力が不足している」

 

 だが、あくまで【出涸らし】が力を発揮するのは対象を斬った時のみだ。

 中身を斬ったならまだしも、外側のみを、繭だけを斬っただけであれば血は流れない。

 ましてや、繭に刃が通らないのであれば猶更だ。

 

「……なっ!?」

「ああ、良い。その表情は幾度見ても心が満たされます」

 

 繭から放射状に糸が発射される。

 一本一本が【オリハルコン】……つまりは伝説級金属並みの硬度を誇る糸は人間の肉体を容易く貫通する。

 

 クリアントは全身を貫かれ、そして死んだ。

 

 光の塵となりゆく死体は、しかしその前に【パス・コクーン】の肉体をも汚染する。

 

「……え」

 

 もしもコクーンが糸を射出する能力でも、切り離している糸であれば別であっただろう。

 だが、糸は繋がっているからこそ自在に操作が出来る。

 自身の肉体に等しい糸を。

 ――等しいのであれば、糸は、肉体は毒に染まる。

 

 いくら頑強な繭で包まれていようとも。

 それが肉体に変わりが無いのだから。 

 クリアントの肉体を刺し貫いた糸を通し、クリアントの肉体を毒へと置換していた物質は【パス・コクーン】へと伝わっていく。

 

「あ、あああああああああ」

 

 叫び声が聞こえる。

 

「……ふう」

 

 新たな肉体で立ち上がるクリアントは【パス・コクーン】の声を聞きながら、モンスターの出てきた穴を見る。

 どうやら他のモンスターはいないようだ。

 【パス・コクーン】のみのようだが、会話できる程の知性を持つモンスターが何故1匹でこの地にやって来たのか。

 村を滅ぼすなどと言っていたが、その目的は何か。

 いつからこの村に目を付けていたのか。

 

 考えるべきことは幾つもあったが、それに思考を裂く時間は無かった。

 

「ああああああああ……ありがとうございます!」

 

 何故ならば、【パス・コクーン】は生きていたから。

 マッドラップスの毒により繭を汚染されても尚、コクーンは無事であった。

 

 ぺりぺりと、日焼けした皮を剥ぐかのように。

 彼は繭を脱ぐ。

 尤も、その下も同じく繭であったが。

 異なるのは、一番上の繭を脱ぐ前にあった毒の汚染が綺麗さっぱりと無くなっていたことだろう。

 

 そして、クリアントに礼を言うのだ。

 

「私は何て運が良いのでしょう。寂れた村に来て、失敗に終わった策を胸に抱えたまま帰路に付こうとしていましたが、斯様な土産を持つことが出来るとは!」

 

 まるで感極まったとばかりにコクーンは回転し始める。

 

「13枚ですよ、13枚! これがどういうことか分かりますか!」

「いや、分からないけど……」

「何ということだ! ビートルの奴に頼んでも1日に1枚が限度であったというのに! これで1日縮んだ。計画に私も間に合う!」

「計画……?」

「ビートルと言いましたね。仲間なのでしょうか」

 

 期せずして得られた情報であるが、それはコクーンが何か組織的な行動をしていると分かっただけだ。

 

「さあ、先ほどの毒液はまだ可能ですか! 残り13枚、全て剥いでください!」

「……」

「先輩、明らかに誘っています。乗らないでくださいよ?」

「分かっているさ」

 

 マッドラップスの毒はコクーンにとって有益だったのだろう。

 それを知り続けるようなことはしない。

 即座にマッドラップスを装備解除し、仕舞う。

 

「……フィリップがいたらむしろやれって言ったかもしれないな」

「……言いそうですねぇ」

 

 だが、この場に彼女はいない。

 クリアントは思うままに戦える。

 

「やらないんですか……そうですか」

 

 クリアントの表情と言葉から毒攻撃は再度仕掛けないと相手も察したのだろう。

 コクーンは落胆な様子を見せ、

 

「では帰るとしましょうか……手土産も出来たことですし」

 

 あっさりと飛び出した地の穴へと戻ろうとする。

 

「おい、待て!」

「おっと。追いかけたところで無駄ですよ……でも、そうですねぇ」

 

 コクーンは何か考える素振りをした後に、

 

「折角ですからお教えしましょうか。我らは蟻。地中に潜む蟲の王者。我らを従える王と王女にもしも出会えたのであれば私の名を出してください」

 

 穴に潜り、去り際に一言残していく。

 

「もしあの方々の気が向けば、逃がしてくれるかもしれませんから」

 

 そうして訳が分からないまま。

 人語を介する繭型モンスター【パス・コクーン】は去った。

 ダウト村には興味を失せ、【褥】を回収し、クリアントには興味を抱き。

 何一つ腑に落ちないまま、しかしながらダウト村で起こった事件は解決したのであった。

 

 そこにあるはずのものが無くなっていることを見落としたまま。

 




ダウト村編はひとまず終了です

コクーンの立ち位置的にはあれです、キルゲ・オピー感を出したかった。倒してないけど。何だったらグリムジョーにならないようにしたい
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