<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
152 長く待ちわびた世界
■【深潜水士】クリアント
レンガにも似た建築材で作られた住居並ぶ街並み。
活気に溢れており、どこからでも人の声が聞こえてくる。
時期的にも、時間的にも、稼ぎ時であるのだろう。
大通りに並べられた屋台からは肉を焼く音や匂い、見栄えの良い色彩豊かな果実類が覗ける。
また、それ以外にも〈マスター〉らしき者らは通りの一画にござを敷き、そこに自作らしきアイテム類を並べていた。
「随分と大きな街ですねー。アルテア以来でしょうか?」
「セペンテイムも街というよりも一つの神殿だったし、レジェンダリアに来てからは村とか森ばっかり歩いていたからな」
「今までのどこよりも人がいますね。ワンプちゃんは心配ですよ。人見知りの先輩が目を伏せて歩いたあげくに怖い人にぶつからないか」
「その時は潔く死のうか」
街の名はペルソティ。
山々の麓に置かれた環境でありながら、貿易が活発に行われており、レジェンダリア中から様々な品が取り寄せられている。
ダウト村での一件はダニアリー死亡という形で終わり、洗脳の解けた村人たちが混乱する中で出発したクリアント達はこのペルソティに辿り着いた。
……混乱の中で出発というと逃げてきたような言い方となるが、一応村人たちからは感謝の言葉が伝えられている。
だが、村長よりも主導で動いていたダニアリーを失い、ダウト村が指導者に困っていただけだ。
流石にそこまで口出しは出来ず、フィリップとの合流も迫っていたため出発となった。
村長からの言葉があったためか、村の清掃というクエスト自体は達成扱いになったのだが、報酬は事前に提示された額よりも少量。
ダニアリーの口約束に近いものであったため、仕方なく、また、クャントルスカがあまり受け取りたがらなかったためでもある。
クリアントも受け取りづらい金であったことに加え、元々暇潰し程度の依頼であったために金額自体に拘りはしなかった。
ともあれ、予定としては然程遅れることなく出発したクリアント達は時間通りに【自殺王】の就職クエストを受けることのできるクリスタルが置かれている近くの街へと来たのだ。
フィリップとはこの街で合流予定であり、合流後に【自殺王】へのクエストに挑戦するつもりだ。
「随分と楽しそうな雰囲気ね」
「〈ティアン〉も〈マスター〉もみんな笑っているね」
レジェンダリアという国の街にしては珍しくか、あるいは憲兵が頼もしいのか。
常識外れな行動を起こす〈マスター〉は少なく、活気があるとは言っても、あくまで買い物や街の散策、日常を過ごす者で溢れかえっているだけだ。
「こういうのが平和な街なんだろうな」
「……最初の街以外は物騒でしたからねぇ」
「そんなことは無いぞ。観光で終わった場所もあったはずだ」
「一か所ごとに一回は死んでいましたけど?」
「一回しか死んでないが?」
何はともあれ、せっかく新たな街を訪れたのだ。
ただ歩くだけでは勿体ないということで、買い物を楽しむことにした。
幸いにも金はある。
先の依頼は報酬が少なかったが、その前のパルペテノン討伐やノクトル村でのゴブリンの群れを撃退した際に得た資金がかなり残っていた。
「さて、どれを混ぜるか吟味しなくては」
「……もはや新鮮さとか感じないよな」
焼いた肉と生魚や生野菜を一緒にフードプロセッサーにかけてしまえば、風味も新鮮さも何も無いだろう。
本人としては美味しいらしいのだが。
「その凍らせた果物くださーい」
「けっこう大きいのね」
「うん。これならモーちゃんと半分こ出来るでしょ?」
氷魔法によるものか、凍った柑橘系の果実が串に刺さり置かれていた。
クャントルスカはそれを購入すると、モーと分け合って食べている。
「いいですね! 先輩、私もあれしましょうよ」
「……そのままとミキサーしたのとどっちでだ?」
後者であればお断りだが。
前者であれば一考の余地はある。
「アンタ達、見かけない顔だね。街の外から来たのかい?」
「うん、そうだよ。よく分かったね」
「ああ。そりゃ、目立つ人間は分かるよ。その服装もこの国でならそう珍しくも無いが、この街だとあまり見かけないからね」
クャントルスカの服装を見て判断したらしい。
屋台の女主人が笑いながら話しかけてきた。
確かに魔法少女の衣装を着る者はそう多くないだろう。
「あまり見かけない、ということは少しはいるのか……?」
「超級職の儀式は終わっても魔法少女シリーズのジョブは残っていますからね。まだジョブに就いている物好きはいるのでしょう」
下級職にしてはステータス補正が高く、また自爆スキルが便利であるためサブジョブに残している物好きの主に向かってワンプは答える。
「ここ数日は見かけるようになったね。多分、近々アレが行われるからだろうさ」
「アレ……?」
「おや。知らなかったのかい。知らずにこの街に来たのなら、むしろ運が良かったね」
運が良いという言葉で【福ノ神】が頭をよぎるが、振り払う。
流石に無関係だろう。
「明後日、この街では祭りが行われるのさ。その名も『甘味祭』」
「甘味……というのは甘いという意味の?」
「ああ。ほら、この近くに山が多くあるだろう? あの山の木全てが樹液をたんまり蓄える性質を持っていてね。不思議なことに、その樹液は水に溶けやすいのさ」
「雨とか降ったら全て流れるってこと?」
「そう、流れちまうんだよ。川や山の土中にね。そんで、そいつが流れに流れて山の麓に集まるんだ。まあ、地属性の魔法が使える連中が行うから自然にじゃないんだけどね」
「はー。山全てに魔法をかけるだなんて、凄い人もいるものですね」
「一度に多くは出来ないさ。じっくりと時間をかけて行うんだ。山一つで10年くらいかね」
「10年!?」
気が遠くなる話だ。
樹液をたんまりということだったが、それでも土中に流れてしまったものを集めるのは大変な作業らしい。
それに、土中に混じってしまえば殺菌も大変だろう。
「山は5つあるが、代替わりを重ねながら行うのさ。まあ作業をしていても樹液は次々に生まれるから、キリが無いんだけど」
「……ということは、明後日行われる祭りは10年に一度のものなのか?」
10年ぶりの祭りならば、確かに運が良かっただろう。
「いんや?」
と、女主人はにやりと笑う。
「50年さ。3代前の領主がどうせならどでかい祭りにしたいって言いだしてね。街の奴らもみんな頷いた。そんで、樹液で作った蜜の塊を50年間作り続けて、今日に至ったのさ」
女主人が言うには、集めた樹液は一か所で煮詰められ、蜜を作っているらしい。
領主お抱えの魔法スキル持ちの者達が行っており、その場所は禁則中の禁則。
「でもその我慢も明後日まで。ようやくお披露目だ。アタシも初めてだから楽しみにしているのさ」
最後に蜜を解禁したのは50年前。
その蜜は街中に配られたが、たいそう美味であったらしい。
味を知る者が徐々に減っているため、口伝でしか知らない者が街の大半を占めてきている。
中には、知らずに無念のまま死んでいった者もいるため、死ぬ間際に一口くらい寄越せと領主の下へ直接嘆願しに行った者もいるらしい。
だが、それを跳ね除け、50年は絶対に蜜の在り処は知らされなかった。
「今この街はここ50年の中で最も輝いている。人も品も溢れているだろう? 蜜を一口味わいに来た者もいるし、これを儲けるチャンスと集まった者もいる。蜜を盗む者がいないか憲兵連中も張り切っているから治安も良くなっているし、良いことづくめだよ」
街に奇人が少なかったのはそういった事情もあったらしい。
HENTAI行為をした者から憲兵に連れて行かれたのだ。
「安心しな。50年間集めた蜜は熟成してとんでもなく美味くなっているらしいし、その量も膨大だ。観光客に配る量はあるって領主様も言っているから、この街にいればアンタ達も貰えるよ」
「でも憲兵さん達だけだと不安じゃないですか? 盗賊クランとかいますし」
「そうだね。アンタ達の手前言いづらいけど、〈マスター〉が全て良い奴等とは言えないからね。それに、アタシら普通の人間よりも格段に強い」
だから、と女主人は続ける。
「勿論、腕利きの護衛を雇っているって話だよ。観光客に紛れて、名のある〈マスター〉がこの街に来ているのさ。誰がそうなのかは知らないけど、そいつらが何かあった時にすぐに動いてくれるらしいさね」
〈マスター〉には〈マスター〉を。
この街の領主は柔軟に、そして慎重に動いているようだ。
その後も他の屋台を巡ったが、それ以上の『甘味祭』の情報は無かった。
最初の女主人が最も情報通だったようで、人によっては〈マスター〉の護衛がいることを知らない者や、蜜が50年も熟成されていることを知って驚いている者もいた。
「セーブポイントも確保出来ね」
「ああ。フィリップとの合流までゆっくりと過ごすか」
初代領主を模した石像前にてセーブポイントを登録したクリアント達は祭りとフィリップとの合流まで何をしようかと考える。
だが、その結論は出なかった。
否、出る前にクリアント達を見て声を出した者がいたのだ。
「あら」
「あ」
「……?」
「――ッ!?」
「誰っすか?」
その反応は三者三様……どころか、十人十色……以上。
何せ、その彼女らは、10を優に超す集団であったから。
ある者は奇遇ねと、ある者は無反応、ある者は警戒心剥き出しに。
「……!」
そして、クリアントも思わずワンプを思わずルール型にしようとしてしまう。
相手がそれほどまでに敵対的であったのではない。
その脅威を知っていたからだ。
「先輩、落ち着いてください。この人は違いますよ」
「……ああ」
クリアントを制したのはワンプの言葉。
彼女が言うなら間違いは無い。
それに、既に倒されていることが確定しているのだ。
彼女が彼で無いことは知っているのだから、戦う理由もない。
「どうしたの?」
「……何でもない」
相手が顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
その挙動が一々あざとく、わざとらしい。
どうすれば可愛らしく他者の目に映るか計算され尽くしている。
「あ、やっぱり敵かもしれません」
「……いや、違うだろ」
クリアントは手を出す。
握手をするために。
初対面の者に挨拶のために名乗る。
「初めましてだな。俺はクリアント。あの儀式のときには出会わなかったと思うが、【魔法少女ω】だ」
「初めましてお兄ちゃん。私は妹妹。私も魔法少女なんだ。よろしくね?」
【魔法少女μ】妹妹を始めとした魔法少女の集団。
偶然にもペルソティを訪れていたらしい彼女らと再会したのであった。
魔法少女達が誰なのかは次回
尚、ラスボスではありません