<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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15話 セペンテイム神殿

■【呪術師】クリアント

 

「到着したよ」

 

 ノーチラス号が止まる。

 目的地に着いたようだ。

 

「セペンテイム……だったか。まさか本当に海底に街があるとは」

「というよりも、神殿だね。建物はこれ1つきりさ」

「神殿、ですかー。ということは神官職が多かったり? でも、海底に来れるんでしょうか」

 

 ここまで来るにはノーチラス号のような海底への移動が出来る乗り物か、【潜水士】のような水泳が可能になるジョブに就いていなければ困難である。

 

「神官は少ないよ。いたとしても、邪神崇拝者が多いかな。海底に沈む神は多いからね」

「……あまり聞きたくはない情報だな」

 

 地上においても神を自称するモンスターは存在している。

 その多くが強力なUBMであり、強大な能力は民から抗う気力を無くす。

 そして、贄を喰らう。

 神故に贄を求める。

 

 それは神だろうともモンスターだろうとも差異は無い。

 そして、地上にあるなら海にも神は――モンスターはいる。

 むしろ未知という部分に関しては地上よりも濃く、神という存在は未知が濃ければ濃い程に神性が増す。

 

「まあ海は広いってことさ。それに、少ないうちの多い、さ。この時間のセペンテイムにいるとしても1人か2人ってところだろう」

「そういや王国にはリアル宗教を流行らせているんだったか……それに比べればマシか」

 

 そもそも、神の名を冠するエンブリオが多々あるデンドロにおいて、信者たちは何を思うのだろう。

 

「それよりも、君たちが気を付けるべきは崇拝者たちではない。彼らは関わらなければ無害だ。他に害ある存在こそ、君たちが気を払うべきなのさ」

「他……?」

「ああ。海に生きる人間は潜水士や崇拝者だけでない。航海士もだけどね。それよりも、積極的に人間を殺そうとする人間がいるだろう?」

「PKか」

「ああ、そうさ。海賊系統……その中でもPKに秀でた力を持つ〈マスター〉がこの近辺にはいる。エンブリオ、もしくはジョブ補正によって彼らは海中でも地上と同様に戦える者が多い」

 

 モンスターだけでなく、人間すらも敵の可能性がある。

 それは神殿の外だけでなく中であっても、だ。

 どこであろうとも死ぬ危険が残されている。

 リアルに近いといえば近いのだろう。

 

「だから、長居はあまりしたくはないかな。一応、この神殿の持ち主というか、居城にしている〈マスター〉がいれば咎めてはくれるんだけど」

「領主みたいなものか」

「そうだね。彼はこの神殿を復活させた〈マスター〉。彼がいなければこの神殿も機能しないから……出来ないから誰も彼には逆らわないんだ」

「へえ……それじゃあ、この神殿で一番強いんですね」

 

 フィリップがノーチラス号の扉を開ける。

 いくつもの分厚い扉が開かれていき、ついには外の様子が見える。

 それは、神殿以外の言葉が見つからない景色であった――ただ一点を除いて。

 神殿を取り囲む4本の柱。それら全てが機械で出来ていたのだ。

 

「いいや、逆さ」

 

 フィリップが先に艦から降り、ワンプへ手を差し出す。

 ワンプは首を振って、クリアントの背中を押す。

 振られたフィリップはやれやれと頭をかきながら一歩下がり、クリアントの下船を見送る。

 そうして、船から降り立ったクリアントは後ろを向いて、ワンプへと手を向ける。

 笑顔で降りてきたワンプを受け止めると、ゆっくりと下ろした。

 

「彼はこの神殿で……いや海で一番弱い。君を含めてね」

 

 全員がノーチラス号から降りたところでフィリップは神殿の主が弱いと断言した。

 誰も逆うことのできない主を。

 

「俺は生存特化型に近いのだが、それでもか?」

「今の君にはあの鎧があるからね。最終的には君が勝てるだろう?」

「まあ……な」

「【アトランティス】はオートモードか。ならば不在のようだね」

 

 神殿に取り付けられた、機械の柱を見てフィリップは呟く。

 海底のロマンや神性を台無しにするような機械音が鳴っている。

 ある意味で、ロストテクノロジーのような未知らしさはあるのだが、それを感じるクリアントでは無かった。

 

「さて、やることを終えてさっさと出ていこう。主がいない今、ここは不法地帯だ。誰が絡んで来るか分からない」

「あ、ああ」

「きゃー怖い。先輩、しっかり守ってくださいね?」

「だったら……なんでもない」

 

 ワンプが腕に抱き着いてくる。

 ならばテリトリーの状態になれば、と言おうとしたところで凄い形相で睨まれたため言葉を飲み込む。

 この状況を楽しんでいるのか、それともフィリップとクリアントが傍目から2人きりに見えることが嫌だったのだろうか。

 

 ノーチラス号を紋章に仕舞い、3人は進みだした。

 神殿内に入ると、思っていたよりも明るく、歩く分には困らなかった。

 いくつかの小部屋では店を開いている者もいるようで、賑やかな一画もある。

 

「……おい、あれ」

「ああ……フィリップの奴だ。誰か連れているぞ」

 

 ひそひそと、周囲の人間が話しているのが聞こえる。

 その声には恐れがあった。

 

「……俺が守るまでも無かったな」

 

 よく考えてみればフィリップはエンブリオを第六形態まで進化させた熟練者だ。

 相応の強さは知れ渡っているのだろう。

 

「まあ私は強さよりも環境適応に秀でているんだけどね」

 

 フィリップは苦笑する。

 

「えー、つまらなーい」

 

 多少は絡まれることを期待していたのかワンプがぶーぶーと文句を言っている。

 が、それはクリアントのせいではないし、むしろ良かったと胸をなでおろすことだ。

 

「だったら俺達が楽しくしてやろうか?」

「ひひひ。フィリップだぁ? 知らねえなぁそんな奴」

「女だ。女がいる」

 

 彼らは安っぽいジャケットとバンダナを色違いで揃えた集団であった。

 5人程度の集団であった。

 いずれも上級職、上級エンブリオにまで進化した玄人集団。

 そもそもで、本来はこれほどまでに強くなれないと進めないのが海底というステージである。

 

「俺と遊ぼうぜぃ」

「遊んでやるって、まだガキじゃねえかよ」

「お前ロリコンかよ」

「このくらいのが良いんじゃねえか。それに生意気そうだ。可愛がりがある」

 

 その会話にはワンプも笑顔を潜め、表情を硬くする。

 彼らはワンプがエンブリオであることに気づいていてわざと続けているのか、それとも〈マスター〉やNPCと思っているのか。空気を読まずに会話を続ける。

 

「お嬢ちゃーん? 良ければ俺達がこの中を案内してやろうかー?」

「危ない奴らから俺が守ってやるよぉ」

「お前の方が危なそうだけどな。ビジュアル的に」

 

 彼らの1人がワンプの肩に手をかけようとする。

 

「やめろ」

 

 その手をクリアントが振り払おうとし――ステータス差で止めるまでしか出来なかった。

 

「なんだよお前」

「お。頑張っちゃう? イキっちゃったか?」

 

 彼らは上級職。

 いずれも海戦を得意とする海賊系統上級職【大海賊】あるいはその派生職で固められたPKクラン。

 強奪、略奪、簒奪、収奪……。

 奪う、奪う、奪う、奪う。

 奪って奪って奪って奪って……そして何も残さない。

 否、そこに残るのは被害者のみ。

 加害者と被害者という関係でしか他者と関われない。

 PKクラン改め海賊クラン〈海蛇楽園〉。

 

 弱者を丸呑みにする狡猾な蛇の集団。

 その牙が今、クリアントに向けられていた。

 

 

 

 

■???

 

 海の底でソレは腕を動かす。

 獲物を見つける。腕を動かす。

 移動を開始する。腕を動かす。

 移動を終了する。腕を動かす。

 獲物を餌に変える。腕を動かす。

 餌を食べる。腕を動かす。

 光が眩しい。腕を動かす。

 暗闇が恋しい。腕を動かす。

 眠くなってきた。腕を動かす。

 

 腕を動かせば何でも出来た。

 腕を動かさなければ何も出来なかった。

 

 ソレはかつて祈祷の対象であった。

 ソレはかつて神と呼ばれる存在であった。

 神殿は神を祀る。

 だが、神を祀ることと、そこに神が収まることは別である。

 だが、神を祀ることと、神が祈祷師や信者に対して味方であることは別である。

 だが、神を祀ることと、祀られたソレが神であることは別である。

 

 ソレこそは古代伝説級UBM。

 【千貶万花 グラスゴード】。

 かつて海底神殿が祀ろうとし、そして沈められた原因となるモンスターである。

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