<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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156 紙芝居 2

■『甘味祭』について

 

 【飼育王】リバーは村人全ての名と性格、能力を把握している。

 一括りに出来るモンスターと違い、人間には感情があり、そこから計り知れない力や、行動を起こすことも理解している。

 

 故に、食用モンスターのうち1匹のみの餌が不足している事態について、心当たりのある人物が思い浮かぶかどうかと問われれば、頷くことが出来る。

 

「……とはいえ、理由は不明ですが」

 

 感情は計算に表せない。

 だが、感情はコントロールが効く。

 とりわけ大人になればなるほど、学習すればするほど。

 この村がリバーに支えられていることを知っている大人であれば、リバーの意向に背くことなど決してしない。

 逆らえばどうなるか、リバーの恐ろしさを知らない大人などいない。

 

 だが、子供であればどうだろう。

 子供は感情で動く。

 思考を放棄し、本能の赴くままに行動する。

 やりたいことがあればやり、やりたくないことはやらない。

 大人が傍についているからこそ子供は正しく成長することが出来るのだ。

 

「ここ最近の餌当番はリリーでしたね」

 

 餌の分量を量るのは大人の役割だ。

 だが、運ぶことは―舵手食用モンスターの目の前に持っていくことは子供でも出来る。

 件のモンスターに餌を与える当番である少女の居場所へと足を速める。

 

「村の外ですか……」

 

 現在地は村の外れ。

 防衛のために作られた柵を超えた先にいるようだ。

 

 村を離れればリバーの管理外のモンスターがいる。

 そのようなものに襲われれば、ろくに戦闘経験も無い子供は即座に殺されるだろう。

 

 次第にリバーは駆け始め、すぐに少女を見つけた。

 

「リリー。そこで何をしているのです」

 

 こちらに背を向け、しゃがんでいる少女。

 髪を後ろ手に結っている特徴的な髪形からすぐに判別した――隣に立つ女がリリーで無いことも含めて。

 

「リバー様!」

 

 振り返ったリリーはぱぁっと顔を綻ばせてリバーへと手を振る。

 微塵も愚考を侵した自覚など無い。

 村を無断で離れることも、食用モンスターへの餌を減らすことも、大人であれば許されざることであると知っているが、リリーは未だ誰にも教えてもらっていないようだ。

 

 リバーは内心苦笑しながらリリーに隣に立つ女について尋ねる。

 知らない顔だ。

 どこか近くの村から迷い込んだのだろうか。

 その割には小奇麗な身なりをしている。

 

「そちらは……?」

「この子はね、ルーちゃんだよ! さっき会ったの」

 

 リリーはもう10歳になるはずだが、幼い言動が目立つ。

 そういえば両親は働かせすぎているかと思い至る節があり、リバーは反省する。

 仕事量を減らし、娘の勉学の時間を増やさなければならないだろう。

 

「そうですか。近くの村から?」

「ううん? 分からない!」

「そうですか。ルー殿、でしたか。貴方はどちらの出身でしょうか」

 

 既に成婚していてもおかしくない年齢だ。

 あるいは、破綻し村から飛び出したのだろうか。

 

「ふふ。そうね……近くといえば近くでしょうか」

「……? 近くの村といえばサハーテですが、そこでは無いと?」

「ええ。もう少し下」

 

 どうやら出身地を明かす気はないらしい。

 この分では名以外の身分は明かさないだろう。

 

「……帰りますよリリー。貴女には聞きたいこともある」

「ええ!? もう少しいいでしょー」

 

 良い訳が無い。

 リバーが不在であるために村での作業効率は落ちている。

 加えて、距離が離れてしまうことでリバーのスキルの効果範囲から外れてしまう育成バフが無くなった従魔も少なからずいるのだ。

 

「……ここで何をしているのですか」

 

 だが、強制的に手を引っ張って村へ戻すことは愚人が行うことだ。

 堪えて、リリーの話を聞くことにした。

 

「そう! リバー様、これ見て!」

 

 リリーがその場から立ち上がり、横にずれると、彼女の身体で隠されていたものが露わになる。

 それは小さなモンスターであった。

 虫型のモンスター。

 

 【飼育王】のスキルである《動物図鑑》によれば【メメント・アント】の派生モンスターであるらしい。

 名は【メモリアル・アント】。

 ステータスはほぼ最低値。

 派生形ということで珍しいようだが、特殊な能力も無く、生態系ピラミッドでは最下層に位置するモンスターだ。

 

「で?」

「小さくてね、可愛いでしょ?」

「確かに小さいモンスターですが、それをどうしようと?」

「うんとね、この子とっても弱くて餌も全然取れていなかったみたいなの」

 

 《動物図鑑》が表示する餌はこのモンスターよりも強いモンスターばかりだ。

 群れで行動する習性を持っているようだが、同じモンスターが周辺におらず、1人ではろくに食料を調達できずに飢える直前であったのだろう。

 

「それでね、困っていたらルーちゃんが教えてくれたの! 私がカウちゃんたちに餌をあげているでしょ?」

 

 カウちゃんいうのは食用モンスターを指しているのだろう。

 【カウ・ボウイ】という肉も乳も取れる優秀な食用モンスターだ。

 

「そこから少しだけ貰えばいいって。あの子たちはたくさん餌を貰っているから少しくらい貰っても問題ないって教えてくれたんだ!」

 

 問題無い……訳が無い。

 あの餌は個体に合わせて成長具材が同じになるように調整されたものだ。

 故に、少しでも餌の量が変われば体重に差が出る。

 数日でもリバーには目で見て分かるくらいに痩せ始めていた。

 直に誰の目にも明らかになるだろう。

 

「そうですか……」

 

 さて、どうするかとリバーは思案する。

 このままリリーを叱りつけて二度とこのような愚考を侵さないと反省させるのが一番だ。

 彼女の両親にもきつく言い聞かせておけば同じ間違いは起きまい。

 だが、それでは彼女の今後の育成に影響を及ぼしてしまうだろう。

 

「……分かりました。その育成を続けなさい」

 

 そして、出した結論は肯定の言葉であった。

 

「ただし、今後は食用モンスターの餌を勝手にとってはいけません。私が餌を作る係に言っていきます。そちらのモンスターの分も用意するようにと」

「リバー様!」

「あと、自分に与えられた仕事をさぼってもいけません。自分の仕事を終えてからそちらのモンスターの面倒を見ること。そして、これは最も重要なことですが、村を勝手に離れることは禁止です。必ず両親に言ってからくることです」

「分かりました!」

 

 恐らくは誰か大人のやることを見て真似てみたのだろう。

 小さな手で敬礼を作っている。

 その顔は大人の見せる緊張など微塵も無かったが。

 

「……さて、そちらのルー殿に関してですが」

「はい?」

「貴女の行く当てはあるのでしょうか?」

「それが少しばかり困っていまして。自分の食い扶持には困らなかったのでしばらく野宿をと思っていました」

「では、私の村に来ると良いでしょう。雨よけくらいにはなります」

「まあ。それはありがたいお言葉です」

 

 リリーはルーに懐いているようだ。

 引き離すよりも効率的だ。

 子供慣れしているようだし、忙しく働く両親のいない時間に面倒を見てもらうのも良いだろう。

 

 不安材料も無いわけではない。

 だが、それは仕方の無いことだ。

 

「ただし期限は一月。その間に村に永住するか、離れるかを選んでください」

「随分と極端ですね」

 

 無理も無いだろう。

 リバーの言葉は、一度村に残ると決めたのなら他の村への移住するという選択肢が無くなるという意味なのだから。

 

「それが私、【飼育王】の管理する村に在住するという意味なのです」

「【飼育王】……なるほど」

 

 その言葉を聞き、ルーは納得したかのように頷き、そして

 

「分かりました。一月ですね。その間だけお邪魔させて頂きます」

 

 あっさりと一月後に出ていくことを決断した。

 

「ではまずは村の紹介を。とはいえ、一月でも村の仕事の一部は担って頂きますよ」

「ええ。楽しみです」

 

 こうして【飼育王】リバーは己の管理する村にルーという女を引き入れたのであった。

 




おかしい……全然話が進んでいない
そしてヤバい奴と言ってしまった【飼育王】がまともに見える……
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