<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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157 紙芝居 3

■『甘味祭』について

 

 『分かったような気になった』者は、『何も分かっていない』者よりも質が悪い。

 前者は勝手に失敗し、後者は何も出来ないという違いがあるが、どちらが他者により迷惑をかけるかといえば、後始末の問題を含めて圧倒的に前者であろう。

 知らないのであれば教えを乞うのだが、知っていると思い込んでしまえば自分勝手に動き回る。

 先輩同輩後輩含め全ての人間から疎まれることであろう。

 そして、管理者の目線からしても、現場をよく見れば空回っている者にしか映らないはずだ。

 

「――以上が、この村における村人の役割です。貴女には滞在中、餌やりと放牧及び招集をお願いします」

「はい。仕方はどなたに乞えば?」

「それぞれ担当がおりますので。現場担当の手伝いをするつもりでいれば問題ありません」

「なるほど。ではそのお方の指示通りに動けば良いのですね」

 

 その点、このルーという女の吸収は早かった。

 そして、知らないことに関しては勝手に動くことも無かった。

 やや世間に疎いのか、一般常識が間違っていることもあったのだが、そこも修正は容易であり、同じ間違いはしなかった。

 また、手が空けば、自ら現場担当に他の仕事が無いか、あるいは覚えるべきことが無いかを確認していった。

 

「(モンスターの育成に興味があるのでしょうか……?)」

 

 そして、ルーはことモンスターの生態についてはリバー並みの知識を持っていた。

 リバーが独自に研究、開発した餌の配合や分量、時間、育成法については彼が一枚上であった。

だが、味の好みや発情時期、感情の起伏についてはルーが上手であったのだ。

 

まるでモンスターの言葉が分かるかのように。

彼女はモンスターを理解していた。

 

「(ふむ……まさかの拾い物でしたか)」

 

 ルーが村に滞在してから3週ほどして。

 村の経済は一月前よりも潤沢になっていた。

 村人の人数こそ以前と変わり無いが、一つの街が生み出すかのような売り上げがリバーの耳に届いたのだ。

 その全てがリバーの手柄……の訳が無い。

 村人であればともかく、ルーが絡んでいるのだ。

 彼女の仕事に関してはリバーでは無く純粋に彼女自身の力によるものだ。

 

「(期日まであと8日程……ですが、よもやこちらが手放すのが惜しいと思うとは)」

 

 ルーへ課した村への滞在期間は一月。

 その期日が迫ろうとする中で、課した当人が彼女を惜しい人材であると後悔していた。

 

「(それに彼女は若い……任せるのであれば適任などではないだろうか……)」」

 

 リバーの年齢は40になろうとしていた。

 いずれは肉体にも知能にもガタが来るであろう。

 何より、若い者に発想という点で劣る。

 管理者において、誤った指令を出す愚者にはなりたくない。

 なるくらいであれば、辞任する。

 

 だが、リバーには後継者と呼べる者がいなかった。

 優秀過ぎたが故に、彼の跡を付いてくる者はいるが彼の隣や前を歩こうとする者がいなかったのだ。

 自ら前に立てるものがいないだろうか。

 リバーには無いものがあり、そしていずれは村の管理者という権限、そして【飼育王】というジョブが継げる者を……と。

 

 

 

 

「リバー様。こちらの餌の配合なのですが、宜しければ確認して頂けませんか?」

「……ふむ?」

 

 ある時、ルーが独自の配合で制作した餌を持ってきた。

 それはリバーがこれまでに考えたことも無い材料を使っており、作り方も少々癖はあるが、決してルーにしか出来ないというものでも無かった。

 何より、リバーが作っていたものに比べ効果が高そうであった。

 

「滋養強壮を少しばかり強めてみました。発情時期にこちらを食べさせてみれば、早い段階での交配が終わるかと」

「そうすればモンスター達の負担も減らせますか……なるほど。私には無い発想です。早速手配を」

 

 更には体力回復、成長促進など、リバーがこれまで薬草や木の実の知識が不足していたが故に着手出来なかった餌がルーの手によって作られていった。

 

「(惜しい……やはり惜しい……!)」

 

 残りの日数が減るごとにリバーはルーにこの村に残るよう説得するか悩む。

 例外を作るべきか。

 それとも、リバーの優秀な手ごまとするべきか。

 

 決して無理強いは出来ない。

 だが、後継者とするならば、例外としてこの村に置かなければならない。

 

「……いえ、私の感情などこの際二の次でしょう。考えるべきは、最も大切にすべきはこの村にとっての利益。管理者として、【飼育王】として村を大きくするにはやはり彼女をどうにかしてこの村に留めるよう話すことです」

 

 そう決心し、リバーは期日最終日にルーへこの村に残らないかと勧誘した。

 村の一員として、いずれは【飼育王】という管理者としてこの村の指導者にならないかと。

 

 身寄りのない女だ。

 不思議と品があるが、それでもこの村の長という立場は一村人としては喉から手が出る程に価値がある。

 そうリバーは断言できる程には己の村の自負があった。

 

「いいえ。お断りいたします」

 

 だが、彼女の返事はリバーの期待を外れたものであった。

 

「……なんと?」

「ええ。ですからお断りいたします。私、モンスターの育成は好きなのですが、人間の飼育には何の興味も無いので」

 

 その言葉を聞き、リバーは驚く――どころか、納得していた。

 

 ああ、やはり知っていたかと。

 

「興味、ありませんか。結構楽しいものなのですけどね」

「そうですか? 面倒そうですけど」

「難易度が高いからこそ、ですよ。モンスターと違い、なまじ知能が高いが故に予想外の行動を起こすことがあります。それが吉と出れば良し。ですが凶と出ることもある」

「やはり気が乗りませんね。凶が出ると分かっていて人間を飼育する気にはなりませんよ」

 

 ルーの気は変わらないようだ。

 彼女はモンスターを理解していても、村の管理者としての器には当てはまらない。

 彼女自身がそう断言する。

 

「では、【飼育王】のジョブすらも継げるのであれば?」

 

 超級職の引継ぎ。

 就職条件は面倒であるが、条件を満たすだけの才覚と経験は彼女にはあるはずだろうと見越しての発言である。

 何より、【飼育王】があれば村の管理程度容易になる。

 

「なるほど。やはり納得しました。リバー様、貴方は村を一つの遊技場とお考えなのですね。モンスターの育成、人間の飼育、村の内外で行われる取引による村という環境を大きくしていく遊戯。それを以て楽しんでいる」

「……ほう。何故それをお考えに?」

「だって、人間の飼育という私の言葉を一切否定していなかったでしょう?」

 

 そこまで見抜いていたかとリバーは感心する。

 彼は黙ったまま次の言葉を待つ。

 

「【飼育王】。モンスターを育成し、その育成において様々なバフをかけて強化を図っていく。それだけ聞けば、さぞかし人間にとっては都合の良いジョブでしょう」

 

 そう、それだけなら【飼育王】は村の管理者足りえない。

 村人に留まり、モンスターの管理者としか成り得ない。

 

「ですが、違うのでしょう? 【飼育王】が飼育できる対象はモンスターを限定としていない。人間すらも……村人すらもリバー様が飼育しているのでは?」

 

 そこまで分かっていて、何故ルーは次代の【飼育王】の座を辞退するのか不思議でならない。

 村という枠にこだわらなければいずれは国すら支配できるようなジョブだ。

 人間を飼育するとは、つまりは人間を支配するということ。

 

「人間もモンスターも飼いならし、村を拡大していく。それの何が悪いのでしょう? 何がおかしいのでしょう? 【飼育王】という超級職が無くてもどこの村でも、国でもやっていることでは?」

「そうですね。ですから私はお断りするのです」

「……理由は?」

「最初に述べた通りです。人間を育成することについて何の興味も無いので」

 

 彼女は微笑みながら強い口調で答える。

 それに対しリバーは、

 

「(ああ。やはり惜しい……)」

 

 と思うのであった。

 

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