<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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159 当日

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

 『甘味祭』当日。

 街はここ数日の中で最も賑わっていた。

 道行く人々も〈マスター〉、〈ティアン〉問わず多数おり、各々が祭りを楽しんでいた。

 とはいえ、蜜を配るまでは時間がある。

だが、『甘味祭』に合わせて売られている限定商品や企画を見て回ることは出来るため、楽しみは多い。

 

 目に映るもの全てが珍しく、慣れ親しんだレジェンダリアであるにも関わらず、遠い異国の地を歩いている気分になる。

 魔法少女としてはこの祭りを害しようとする者が現れた時の為に警備を自ら買って出るべきであろうが、それは幼い少女達に強いるのは酷な話だ。

 キラキラと目を輝かせた3人+1人の魔法少女は近い年代ということもあり、友達同士で祭りに遊びに来たような気分なのだろう。

 

「え、いいんですか!?」

 

 であれば、ここは年長者としてそれなりの矜持を示す時であろう。

 4人に小遣いを渡し、祭りを楽しんでくるよう伝える。

 

「ええ。これだけの人数で移動していても目立つばかりですもの。それに、これも任務の一つですわ。そうね……潜入調査と致しましょうか。この祭りを楽しみつつ、もし悪漢が何か行動を起こした時に備えるために遊んでおきなさい」

「それならプシュケーさん達も別で遊んだほうがいいのでは?」

「ふふっ。この美しさでは私はどのみち目立ってしまいますからね。ですからここは役割分担ですわ。私達はあえて目立つことで貴女達を隠します。その間に全力で楽しんできなさい」

 

 これにはプシュケーの本音が隠されていた。

 もしも敵……と呼べるような存在がこの街を襲撃した際に、プシュケー達のような自ら警備をしている者も狙われるだろう。

 その際にプシュケーが戦いに巻き込まれるのはまだいい。

 プシュケー達は常に戦いに身を置いてきた魔法少女だ。

 だが、それでも少女に違いはない。

 決して戦場に身を置き続ける戦士では無いのだ。

 まだまだ遊びたい盛りの少女であるのだ。

 

 同時に、彼女たちが心から祭りを楽しめるならば、それは敵にとっても戦力の外として捉えてくれるはずだ。

 その時に彼女たちがどれだけ動けるかは……彼女たち次第であろう。

 

 ともあれ、ここは自分が気を引き締めねばとプシュケーは気合を入れる。

 好敵手であるクャントルスカは恐らく全力で楽しむタイプであろうし、その仲間であるクリアントも警戒が得意なタイプでは無さそうであった。

 

「っつーか、何で私こっちなんスか?」

 

 そのため、こうしてプシュケーはワルキューレ達、そしてイテカを伴い街の警戒を続けていた。

 

「え? だって貴女、あの子達よりも私とのほうが年齢が近いではありませんの」

「私だって遊びたいんスけどー」

 

 両手をあげて抗議するイテカであったが、プシュケーは知っていた。

 それが単なるポーズであると。

 

「では……貴女、このままあの子たちと共に行って遊んでいられると?」

「……」

 

 分かる。

 胸騒ぎがするのだ。

 このゲームを長時間プレイしていた経験、そして魔法少女として潜ってきた数々の修羅場の記憶が、この祭りが平穏平和で終わらぬことを物語っていた。

 

「……ま、プシュケーさんと久しぶりに遊ぶのもいいんスけどね」

 

 いつの間にか手に握られていたアクセサリーをくるくると弄びながらイテカはプシュケーの隣に寄る。

 

「……私に寄り添うのは良いですけれど、こっそり暗殺を企もうものなら容赦はしませんわよ?」

「しないッスよ。はは」

 

 ……イテカの目は笑っていなかった。

 

 

 

 

「マスター。あちらに不審者が」

「マスター。イケメンがいます」

「マスター。女児誘拐の容疑者が」

「マスター。良い匂いがします」

 

 プシュケーがワルキューレ達を率いる際に最も難儀だと思う所以は、彼女たちの個性が一つでは無いという点であろう。

 その忠義心に疑いは無いが、真面目不真面目、融通の利きづらさ、集中力の程度などまるで違う。

 自主的に街の警戒を行っているプシュケーに付き合い、ワルキューレ達も街を見回っているのだが、僅かでも不信な点のある者がいればすぐにプシュケーに報告してくる。

 かと思えば、美味しそうな屋台のほうへふらふらと惹きつけられていくワルキューレもいるため、そちらを引き戻しつつプシュケーは報告のあった不審者へ目をやる必要がある。

 

「どれ……本当に不審者ではありませんの。レジェンダリア出身の〈マスター〉ですわね」

 

 外見から出身国を察してしまうのは良くないことであろうが、この場合は仕方ない。

 何せ、王子と見紛うような爽やかなイケメンがスクール水着を着た3人の少女を引き連れて歩いているのだから。

 ご丁寧に首輪までつけさせている。鎖で繋がれていないのは幸いか。

 

 すれ違う者達も彼女らに奇異な視線を向けるが、関わり合いになりたくはないのかすぐに目を逸らしている。

 

「〈YLNT倶楽部〉が見たら目から血を流しそうな光景ですけど……まあ彼らがどこから血を出そうがどうでも良いことですわね」

「捕まえますか?」

「いえ……それは少しばかり焦燥……でしょうか?」

 

 ワルキューレの1人が述べたような少女と誘拐犯のような雰囲気は無い。

 険悪さや不和は無く、むしろ少女達が王子のような男にべたべたとくっついているような……

 

「ん? というかあのお方……女性ではありませんこと?」

 

 スク水少女が抱き着いていたから分かりづらかったが、よくよく見てみれば体型は男では無く女の丸みがあった。

 少し長めのポニーテールが後頭部で揺れているが、それも女性がただ長い髪を纏めているだけに過ぎなかったようだ。

 

 と、こちらの視線に気が付いたのか、王子姿の女性〈マスター〉はくっついていたスク水少女達をそっと地面に下ろすと、スク水少女の乱れていた髪を撫でながら直す。

 額をくっつけ合いながら何かを言い、その場で大人しくさせる姿も、いちいちキザったらしいとプシュケーは思う。

 スク水少女達は顔を赤くし、その場で呆けていた。

 

「少し宜しくて?」

 

 他者の色恋沙汰に首を突っ込むのはどうかと思うが、しかし目立っていることに違いはない。

 こうもあからさまに怪しい者が何かを企んでいるとは思えないが、一応話だけは聞こうと声をかけた。

 

「……へぇっ!?」

 

 だが、端正な顔立ちから飛び出た声は少しばかり間抜けなものであった。

 驚いたような顔はこれまでの爽やかさが失せており、どう見ても戸惑っている。

 

「そこの少女達……貴女とどういった関係性かしら?」

 

 首輪を付けられたスク水の少女を連れて歩く男装〈マスター〉。

 明らかに異常な性癖の持ち主であろう。

 

「あ、いや、その」

 

 しどろもどろに答えようとするが上手く答えられないようで、あたふたとしながら後ずさる王子。

 先ほどまで少女達と接していた時との余りにも違いすぎる様子にどういうことだろうとプシュケーは訝しむ。

 

「わわ私は怪しくなくて、えと、普通の観光客だから、じゃなくて……」

 

 自身を怪しくないという者に限って怪しいと相場は決まっているが、ここまでくると本当に怪しい者か分からなくなる。

 不審者に違いはないだろうが、何かを企てているのかは大いに疑問だ。

 いや、小心者であるから声を駆けられて企てていたことが露呈しそうになっている可能性もある。

 

「ちょっと、マキ君に話しかけないで!」

 

 と、ここで呆けていたスク水少女の1人が声を荒げながら王子を庇う。

 続いて他の2人のスク水少女達も牙を剥くように鋭い視線をプシュケーへと向けた。

 

「マキちゃん大丈夫? あの女に何かされていない?」

「ねえ王子。何で言ってくれないの? 私達は王子の彼女だよね? ねえ、そう言ってよ」

 

 ……なるほど。

 問題があったのは王子では無く、少女達であったかと納得する。

 確かに、首輪とスク水を着て王子に纏わりついている時点で、その少女達を疑うべきであった。

 

「う、うん……ごめんね。でもほら、落ち着いて。あちらのお姉さんも驚いているから……」

 

 3人の少女を宥める王子の後ろ姿は少しばかり哀愁漂っている。

 

「えと、ごめんなさい。私口下手で……。あ、マキシアプリって言います……。この子たちは私のエンブリオです……」

「彼女よ」

「彼女よ」

「彼女よ」

 

 ここまではっきりとエンブリオ側が主導権を握っているというのも珍しい。

 となると、男装も少女達に強要されているかもしれない。

 

「マキシアプリですわね。私はプシュケー・アーチですわ。そして美しき彼女たちが私のエンブリオですわ」

「あ、自分はイテカっす」

 

 ついでのように自己紹介を隣でするイテカであるが、彼女はマキシアプリの顔をじっと見ていた。

 

「――っ!? 気を付けてマキ君! その女、マキ君を狙っているわ!」

「そこのメス猫! マキちゃんを見ないでよ!」

「王子には私達がいればいいんだから!」

 

 これは酷いと、プシュケーは内心で溜息をつく。

 彼女たちがいると話が進まない。

 会話するたびに、マキシアプリを見るたびに叫ぶのであれば、これまで随分と苦労してきたのだろう。

 ……いや、彼女たちを生み出すパーソナリティがマキシアプリにあるのだから、同情も出来ないか。

 

 しかしながら爆弾のような3人だ。

 容易に起爆し、他者を傷づけて……

 

「爆弾……? もしかして“三雷”ですの?」

 

 3人の少女。

 それもスク水を着た攻撃的な者であれば、プシュケーには心当たりがあった。

 

「知っているッスか?」

「ええ。水中においてはかの【潜水王】よりも高火力をぶつけてくるとか」

「うわお」

「それに、水中でしか実力を発揮できない【潜水王】と比べて彼女は陸地でも戦えると聞きますわ……」

 

 “三雷”……爆弾使いの〈マスター〉。

 広範囲における攻撃において爆弾を凌ぐ兵器も、爆発からの防御手段も少ないだろう。

 無差別広範囲高威力の攻撃な可能である爆弾使い。

 街で戦うことは望ましくない。

 敵においても味方においても。。

 

「あう……恥ずかしい……」

 

 たとえ、プシュケーの語る噂話を聞いて顔を真っ赤にしていたとしても、油断は出来ない。

 

「キャー! 可愛いわマキちゃん!」

「ええ。恥ずかしがっている王子も素敵よ」

「マキ君、カメラ撮るからこっち向いて!」

 

 スク水少女達がマキシアプリを囲んでいる間にプシュケーはイテカに耳打ちする。

 

「……どうします?」

「そうッスねぇ……。まあ、大丈夫じゃないッスか?」

 

 慎重になるプシュケーと比べてイテカはあっけらかんと笑っていた。

 

「マキシアプリさん。これ、私も持っているんスよ」

 

 イテカが手を開くと、そこには蟻を模した小さなアクセサリーが握られていた。

 

「そのブレスレット、可愛いッスね」

 

 マキシアプリの手首にも蟻を模したアクセサリーが付けられていた。

 全く同じもののようだ。

 

「あ……ということは貴女達も?」

「私だけッスけど、こっちの人も志は同じッス」

 

 何を、とプシュケーは尋ねようとし気づく。

 蟻……つまりはこの街に関わりのある昆虫。

 それを持つ意味は……

 

「イテカ、貴女……黙っていましたのね」

「本当はずっと黙っているつもりだったんスけどね。でもまあ、プシュケーさんもこのお祭りの成功を祈ってるみたいなんで、明かしちまうッス」

 

 ……まあ、他者に漏らさないようにと動いていたのはプシュケーも同じだ。

 プシュケー自身がそうでは無くとも、むしろそうであるか無いかを悟らせないように動いていたのをイテカもまた見習ったのだろう。

 

「私とこの人、街の方から警護を任されているんスよね」

 




■マキシアプリ
 ジョブとエンブリオは今後出していきますが、クリアント以外の主人公候補でした
 エンブリオは似ても似つきませんが、ジョブと戦い方の方向性が少し似ています
 スク水三人娘はそれぞれ『ばくちゃん』『きぃちゃん』『ぎょーちゃん』と名前があります
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