<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

176 / 443
162 魔法少女防衛碌 1

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

「グン、ヒルド、ミストは市民の安全確保を。残りは私と共に蟻共の殲滅」

『畏まりました』

 

 プシュケーの指示と共に3人のワルキューレ達が街へ走り出す。

 いずれも盾を持つ守りに長けたワルキューレ達だ。

 彼女らならばプシュケーがいなくとも亜竜級モンスターに後れを取らないと信じ、プシュケーは目の前の大量のモンスター達を睨む。

 

「多勢に無勢……と言えるほど私が弱ければ良かったのでしょうけど。それは無理な話ですわね」

 

 ふふん、と誇らしげにプシュケーは笑みを浮かべる。

 

「私自身は1対1を得意としていますけど、集団戦が苦手というわけではありませんわ」

 

 眼前には優に100を超える数の蟻達。

 いずれも亜竜級に匹敵するステータスを持つ。

それでいて一兵卒の働き、兵士として無感情な殺戮を実行する恐ろしきモンスター【パラポーラ】。

 だが、それを前にしてプシュケーの心に恐れはない。

 手に持つ槍は伸縮自在の【猿猴鉾 スウェーコン】。

 そして、彼女自身の戦闘スタイルは個人戦闘でありながら、エンブリオを含めた時に広域制圧型へと変化する。

 

 街の住人の救助へ向かったワルキューレを除いた6人がそれぞれ得物を手にプシュケーと並び立つ。

 彼女らの武器は全てプシュケーが手ずから選んだ業物ばかり。

 特典武具や名のある武器でこそないが、本来であれば同ステータスの〈マスター〉が持つことも難しい値打ちのものばかりだ。

 

「美しく殲滅を開始しなさい」

『はい!』

 

 ワルキューレ達が剣を、槍を、弓を、斧を振りかざす。

 

『ぎぃ』

 

 その十倍以上の数の蟻達が新たな獲物を見つけ、彼女らを食らい千切ろうと押し寄せる。

 その顎は食らいつくことにのみ特化している。

 人間の肉であれば……否、金属であろうとも容易く食い千切ってしまうだろう。

 

 凶悪な攻撃性の群れ。

 

 だが、それを覆すのもまた強力な攻撃性であった。

 

「せいっ!」

 

 斧が頭蓋を割る。

 

「一射入魂、です」

 

 放たれた矢が眉間を貫通する。

 

「どりゃあっ!!」

 

 剣が胴を両断する。

 

 ほぼ一撃である。

 強力な攻撃性に隠れがちであるが、【パラポーラ】の防御性が低いわけではない。

 蟻に似合わない甲殻もまた亜竜級に相応しい防御力を兼ね備えている。

 

 だが、その程度であればワルキューレ達の前では脅威成り得ない。

 彼女らの武器の前では紙に等しい装甲と化す。

 

 【戦場戦姫 ワルキューレ】。

 TYPE:レギオンである彼女らはただ人数が多いだけのエンブリオではない。

 エンブリオの進化と共に増えていく彼女達の能力特性は部隊であること。

 部隊長であるプシュケーと同じジョブに就くことが可能であるため、ワルキューレ達はエンブリオでありながら【魔法少女β】の恩恵を授かっている。

 そのため、魔法少女のステータス、そしてβの固有能力である武器強化があるワルキューレ達は第四形態のガードナーと同性能でありながら、それ以上の出力を得ているのだ。

 盾でなく攻撃力のある武器持ちを残した意味はこの場の蟻全てを速やかに殲滅すること。

 プシュケー率いるワルキューレ達が100匹以上の【パラポーラ】を倒し切るのに、そう長い時間は必要とならなかった。

 

「さて、厄介といえば厄介ですわね」

 

 だが、倒し切ってみればプシュケーの表情は浮かばないものとなっていた。

 プシュケーとワルキューレ達だけであれば脅威にはならない敵だ。

 とはいえ、その数が100匹程度であり、ここが街中で無かった場合に限るのだが。

 

 だが、【パラポーラ】は街中に放たれており残数も不明。

 とてもでないが、プシュケー達だけで対処できるものではない。

 

 加えて、

 

「……雑魚に紛れてそこそこ強いのがいますわ」

 

 強者故の勘であろうか。

 あるいは、プシュケーの持つ何かしらの索敵スキルに引っかかったのか。

 

 眉を潜めつつプシュケーはスウェーコンを縮める。

 

「マキシアプリの話ではこちらも実力者が多数いるという話でしたけど……仕事は果たされているのでしょうか」

 

 準〈超級〉が街に少なくとも4人……否、イテカを含めて5人であったか。

 それだけの数がいながら、未だに街からは悲鳴が上がり続けている。

 

「予想しなかった強襲に対処が遅れている……いえ、違いますわね」

 

 準〈超級〉に数えられるのだとすれば、それだけ戦闘経験も豊富のはずだ。

 この程度の情勢であればひっくり返せる。

 現に、戦力として数えられていなかったプシュケーが領主を救っているのだから。

 

「敵が思っているよりも強い。この前提で行動した方が良さそうですわね」

 

 準〈超級〉すら下す程の敵が街にいる。

 プシュケーは100匹ほどの亜竜級モンスターを相手するだけであった。

 だが、街にそれ以上の脅威となる敵が潜んでいる。

 

 故に、この街は未だ劣勢なのだろう。

 

「……で、この街を取り仕切る領主として何か情報は無くて?」

 

 と、ようやく周囲に敵がいなくなったことで落ち着きを取り戻した領主に尋ねる。

 街の観光客であり一個人のプシュケーよりはよほど情報を握っているだろうと、領主から離れなかったのだ。

 いや、領主でなくとも守ったのだが、安全地帯を見つけてそこへ送るよりもプシュケーが近くで守り続けたのだ。

 

「……へ?」

「いや、呆けている場合では無くて。あのモンスターのこととか、この街の状況とか何か分かることはありませんの?」

「わ、儂も何がなんだか……。おい、何か聞いていないのか!?」

 

 同じく生き延びていた部下らしき男に領主が尋ねる。

 彼もまた領主同様に状況が分かっていない様子であった。

 

 まあ無理もないだろうと溜息混じりにプシュケーは歩き出す。

 

「お、おい! どこへ行くのだ!」

「……何処って。他の方々を助けにですわ」

「待て! それでは儂はどうなるのだ!」

「ここはしばらく安全ですわ。今のうちに他の方々と合流するのがよろしいのでは?」

 

 守るだけであればどこかでバリケードなりを作っているところもあるだろう。

 部下らしき男たちも護衛程度には戦えると《看破》で見抜いたプシュケーは助かった領主よりも未だ助けを求める街の住人達の下へ向かおうとする。

 

「こいつらだけでは頼りにならぬ! 頼むからお前も一緒にいてくれ!」

 

 情けないことに、それは部下たちも同じようであった。

 中には地面に額を付けて懇願する者もいる。

 

「……はぁ」

 

 プシュケーは呆れつつも考える。

 この場で領主を守ることの利点と欠点を。

 

 だが、魔法少女としては権力があるからといって他の者達を蔑ろにすることは出来なかった。

 1秒たりともそこに憂慮は生まれなかった。

 

「……分かりました。レギンレイブ、フレック。2人はこの者らの護衛に就きなさい」

「はぁい」

「……気が進みませんが」

「必要があれば先に向かった3人に合流しなさい」

 

 2人のワルキューレ達に率いられながら領主達は安全と思わしき場所へと消えていく。

 

「……まああの子達がいればひとまず大丈夫でしょう。こちらの戦力は激減ですが」

 

 ワルキューレは残り4人。

 半数以下である。

 先ほどの規模の【パラポーラ】に来られれば劣勢になる可能性が高くなる。

 

「まずは情報収集といきたいところですけど」

 

 まずはどこに向かおうかと考えているところに、

 

「プシュケーさん!」

 

 聞き慣れた声が耳に届いた。

 

「あら。無事でしたの」

 

 プシュケーに抱き着くように飛び込んできたのは同じく魔法少女。

 狂ヶ咲夢味とキシリー・キシシキであった。

 衣装がボロボロになっているところを見ると、多少の戦闘があったようだ。

 

「無事じゃないよぉ。いきなりモンスターに襲われて大変だったんだ」

「数が多くて私と夢味ちゃんだけだとどうしようもなかったね」

「キシリーちゃんがいて助かったねぇ」

 

 なるほど、ドッペルゲンガーの能力よりはキシリーの巨大化の能力の方が対集団においては向いているようだ。

 だが……と3人を見てプシュケーの表情は険しくなる。

 

「妹妹はどうしましたの」

 

 夢味とキシリー、そして妹妹は共に行動していたはずだ。

 だが、この場に現れたのは2人とドッペルゲンガーのみ。

 

「それが、まいまいちゃん、どこかに行っちゃったんだよ」

「まいまい……ああ、妹妹の愛称でしたわね。そう、ですか。はぐれてしまいましたの」

 

 それを聞いてプシュケーは安堵する。

 少なくとも、彼女らと共にいて死んだわけではないようだ。

 

「街にね、蟻がたくさん這い出てきて。それで街の人たちを助けているうちに、まいまいちゃんどこかにいなくなっちゃったんだ」

「逃げたのかなぁ」

「弱い魔法少女だって自分で言っていたもんねぇ」

 

 夥しいほどの蟻。

 そこに紛れる更に強いであろう敵。

 逃げるのも無理は無いだろう。

 逃げることを恥じることも無いだろう。

 

「あの儀式の時も妹妹ちゃんは怯えてるうちに雷に打たれて死んじゃったんだよねぇ」

「誰も倒すことなく死んじゃったんだぁ」

 

 何がおかしいのか、夢味とドッペルゲンガーは笑いだす。

 彼女らはどこかネジが抜けている。

 時折、こうして空気を読まずに笑い始める。

 

 それを知っているのかキシリーは夢味に構うことなくプシュケーに

 

「さ、探しに行った方がいいのかな」

「それには及びませんわ」

 

 だが、その心配は杞憂であるとプシュケーもまた笑い飛ばす。

 

「ふふ。どこかへいなくなった、ですか。ええ、そうでしょうとも。魔法少女妹妹はそうでなくては」

「プシュケーさん?」

「安心していいですわ。この世に逃げる魔法少女は1人だけ。それに、彼女は弱い魔法少女では決して無くてよ。弱く見せたい魔法少女、それが妹妹という魔法少女なのですわ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。