<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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163 魔法少女防衛碌 2

■【深潜水士】クリアント

 

「ほら、先輩! 少しは見せ場作っておかないとすぐにシーンが切り替わってしまいますよ!」

「……何を言っているか分からないが」

 

 ペルソティ中央から南に下ったあたり。

 『甘味祭』での出店にてワンプでも食べられそうなジュース類を探していたクリアントであったが、突如強襲したモンスター達に囲まれることになった。

 

 周囲には他にも多数の〈マスター〉がいたのだが、低レベル帯の者は〈ティアン〉の避難誘導や安全地帯の確保に向かい、戦闘に長けた高レベルの者はその場に残っていた。

 だが、押し寄せる数の差には勝てず、すぐに瓦解した戦線を立て直すことは出来ず、そのままクリアント以外の〈マスター〉は死亡したのであった。

 クリアントだけは持ち前の技量……は無かったが、継続戦闘及び生存能力に長けていたため、防御に徹してさえいれば何とか生き延びることが出来ていた。

 そして、他の〈マスター〉がいなくなったことでマッドラップスを始めとした周囲を巻き込みかねない特典武具の使用も可能となる。

 

 すぐさまクリアントはマッドラップスを装着し、すぐ傍にいた蟻型モンスター――【パラポーラ】に触れる。

 毒に感染したことを確認すると、すぐに離れた位置にいる【パラポーラ】に触れに行く。

 これを繰り返すことで、クリアントのHPが尽きる寸前には周辺の【パラポーラ】の1割程度はマッドラップスの毒に侵され始めていた。

 

「見せ場というのなら、死に様は華と言うよな」

 

 他の〈マスター〉が戦っている間、クリアントはただ己の身を守っていたわけではない。

 その場に残っていたのだから、戦略はあった。

 ……尤も、己も周囲も巻き込むような自爆特攻の策でしか無かったのだが。

 

 幸運というべきか、反省を生かしたというべきか。

 ペルソティに到着した時点で【ジョブクリスタル】を念頭に置いておいたことだ。

 【深潜水士】をメインにあるせいで、碌にジョブに頼った戦い方が出来なかったが、他の〈マスター〉に守ってもらいながら【魔法少女ω】にジョブを変更することが出来た。

 ジョブも装備もシナジーしているという点においてはやはり【魔法少女ω】の方が向いている。

 

「じゃあ……反撃開始だ」

 

 押し寄せる蟻の大群。

 彼らは己が毒になろうと足を止めることは無い。

 最も近い人間であるクリアントを殺そうと、無感情に進む。

 

 だからこそ。

 恐怖という感情が無く、足を竦めることが無かったからこそ。

 クリアントにとっては好都合であり、【パラポーラ】を大量に仕留めるチャンスであった。

 

 クリアントのHPがゼロに差し掛かる瞬間。

 【パラポーラ】の攻撃がクリアントに届く瞬間。

 クリアントの身体が爆発する。

 

 爆発そのものであったクリアントはもとより、その付近にいた【パラポーラ】全て死亡。

 そして爆発に呑まれこそしなかった【パラポーラ】はクリアントの血肉を浴びて毒に感染した。

 すぐさま安全地帯での新たな肉体構成が行われるクリアントであるが、その顔は決して明るくなかった。

 地上の至る所が【パラポーラ】に侵略されており、爆発地点はクリアントの毒が残っているせいで安全とされなかったのだろう。

 屋根の上に立ったクリアントは街全体を見下ろす。

 

「一網打尽……どころじゃないな」

「うわぁ。まだまだいますよ。先輩あと何回死んだら全滅させられますか?」

 

 だが、今のクリアントの決死の爆発であっても街全体からみれば微々たるものである。

 他の〈マスター〉達も戦っているようだが、誰も彼もクリアントのような火力を持ち合わせているわけでも、死んでも生き返ることのできる生存能力があるわけでもない。

 

「善戦しているところもあるみたいですけど……ほとんど押されていません?」

「一撃で倒されている〈マスター〉が多いな。攻撃力の高さ、数の多さが特徴か」

「何だか【グラスコード】を思い出しますね」

 

 だが、【グラスコード】との戦いはあくまで攻略戦であり、こちらが攻撃側であった。

 それに、水中での広域殲滅を得意とするフィリップがいたおかげでクリアントが囮役くらいしか取れる行動は無かった。

 成長したものだなと感慨深げに思いながら、しかし街のあちこちで聞こえる断末魔で戦場であったことを思い出す。

 

「のんびりしている場合ですか?」

「のんびりじゃなくて時間稼ぎだ。……ほら、さっきの爆発で毒になった奴らが死んだぞ」

 

 先ほどの爆発を免れ、しかしマッドラップスの毒に侵されていた【パラポーラ】達が全身を毒に置換され死んでいく。

 更には屋根に上っているクリアントまで辿り着こうと折り重なっていたのだろうか。

 爆発音を聞きつけて集まっていた【パラポーラ】達も残らず毒となっていた。

 

「直に集まったのも死ぬ……死んだらここを下りるか」

「ストックは残り8回。残っている【パラポーラ】の数を考えれば命大事にでもいいですけど……」

 

 いっそのこと必殺スキルを使おうかとも悩む。

 だが、これだけの数を補足するにも時間がかかる上に、この手の敵は後続がいくらでもいると考えるべきだ。

 余力は残しておくに限るだろう。

 

「……そうだな。後を考えて使っておくか」

 

 無論、必殺スキルのことではない。

 クリアントは妖刀【出涸らし】と特典武具【永遠欠界 クレハドール】を装備する。

 

「何をする気です?」

「ストック1回使って、罠と調査、かな」

 

 街から見下ろした敵の中には【パラポーラ】とは幾分も大きさや形の違う個体がいた。

 最も近かった個体の名が辛うじて読めたが、【パス・ヘラクレス】を記されていた。

 その名は初めてみたが、全く見覚えのない名でもない。

 【パス・コクーン】という繭のモンスターと一度戦っているからだ。

 

「アイツ繋がりだよな……」

 

 今のところ近くにいないようだが、間違いなく爆発音は街に響いている。

 もし街にコクーンがいるのならば様子を見に来るかもしれない。

 いや、他のネームド個体であっても同様の強さを持っているのならばやはり戦いにするだけの罠は必要になるだろう。

 

「さて……」

 

 毒に置換されていた【パラポーラ】は全て死に、新たな【パラポーラ】が集まる。

 数は3匹。

 だが、一撃でも攻撃を喰らえばクリアントは死ぬだろう。

 

 まずは不意を打つ。

 

 屋根から飛び降りながらクリアントは【パラポーラ】の1匹に刀を振り下ろすのであった。

 

 

 

「先輩、先輩」

「どうしたワンプ」

 

 2匹の【パラポーラ】の死体を捨て置いたままクリアントはその場に腰を下ろす。

 妖刀を握りしめたまま、しかし休憩を挟んでいた。

 

「私がさっき言ったこと覚えていますか?」

「命大事にか?」

「いえ。それは今まさにストックを3つも減らしてしまった先輩にはもう言いません。何ですか、ストック1つで罠と調査って。見積り甘すぎですよ。自分の力を過信しないでください」

「……すまん」

「じゃなくて! 見せ場ですよ、見せ場! 映えない戦いは1回で十分なので、早く見せ場作ってくださいよ」

「爆発したじゃないか」

「私は何回も見ました」

「全身から血を流したじゃないか」

「それも何回も見ました」

 

 なら……と腰の巾着を見るが、クレハドールのデメリットというべきあの力は未だ発揮されていない。

 己の身体に異常は無いため、そこは運が良かったのだろう。

 

「ぶっちゃけ、雑魚を何体倒しても後からいくらでも湧いてくるので、ワンプちゃん楽しくないんですよ」

「別に俺も戦いを楽しんでいるわけじゃないけど」

 

 だが、地味な戦いといえば地味なのだろう。

 相手も会話できるものではないうえに、感情を見せない。

 

「見せ場、ねぇ……。なら、かつて戦った強敵とかならどうだ?」

 

 クリアントの探知に引っかかる。

 【パラポーラ】とは明らかに見た目の違う個体。

 

 全身を白い繭で包んだモンスターがこちらに近づいてくるのをクリアントは待ち受けていた。

 

「爆発があったので見に来てみれば……なるほど! どうやら貴方とは素敵な縁で結ばれていたようだ!」

 

 クリアントの姿を確認した【パス・コクーン】は興奮した口調となる。

 

「良いですね先輩。いざ、リベンジ戦です!」

「前回負けたわけじゃないけどな」

 

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