<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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164 魔法少女防衛碌 3

■ペルソティ 西部

 

「ほらほら、防がないと斬られますよぉ!」

 

 両手がそれぞれ大鎌と化した蟲が街道を駆ける。

 細長い体躯、逆三角形の特徴的な頭部の形状、6本の脚のうち前肢の発達――その名は【パス・マンティス】。

 カマキリを模した、ステータスだけでも純竜級に匹敵するモンスターである。

 

「ッ! これ以上街を破壊されてたまるか!」

「あの鎌は俺に任せろ!」

 

 両手の鎌で街を破壊しながら進むマンティスの前に2人の〈マスター〉が立ちはだかる。

 彼らの後ろには今も逃げる多数の〈ティアン〉や非戦闘の〈マスター〉がいた。

 逃げ遅れた……否、逃げる場所が分からず街中を右往左往する者達。

 明確な安全地帯も分からないため、他の昆虫たちに襲われてマンティスの目の前に飛び出してしまう〈ティアン〉すらいるという混乱した状況だ。

 

「相棒!」

「応ともさ!」

 

 マンティスの前に立つ〈マスター〉――剣を持つ者と素手の者のうち、後者がまず前に出る。

 

「死になさぁい!」

 

 死神の鎌を思わせるマンティスの右腕が素手の男へと振り下ろされる。

 建造物や石像すらバターのように、一切の抵抗なく刻んだ鎌の切れ味は彼らも視認していた。

 その上で、男は素手のまま前に出る。

 

 素手の〈マスター〉は地面を掴む。

 正確には、街道に敷き詰められたタイルを。

 そしてそれをそのまま力任せに引きはがすと、一枚の盾のように自身とマンティスとの間に置く。

 

「ん? んふふ! それしきのものが私の鎌を阻めるとでも!」

 

 マンティスはその防ごうとした手法そのものに驚きこそしたものの、その防御性については大したことが無いと笑う。

 実際、マンティスがこれまで破壊してきた街の建造物よりも強度は低い。

 一枚のタイルが辛うじて接着性の物質によって張り付けられているだけだ。

 斬る以前に、何かがぶつかった衝撃で崩れかねない。

 

 だが、素手のマスターはタイルの向こう側で笑う。

 それはマンティスと同様に勝利の笑み。

 マンティスが切断できると確信しているのと同じく、男もまた防ぎきれると確信していた。

 タイルはタイルだ。

 その材質は石膏。

 鉄にも劣る。

 

 だが、そのタイルは鎌に触れる直前に光り出す。

 

「《その手に黄金しか掴めずとも(ミダース)》!」

 

 タイルは瞬時に黄金へと変化する。

 しかしその強度は黄金以上。

 古代伝説級金属にも匹敵する強度を一時的に誇る。

 

 触れた物質を別の物質へと変化させる。

 それが《その手に黄金しか掴めずとも(ミダース)》である。

 変化させた物質に応じて重量が変化するため武器として扱いにくくなるという点もあるが、こうして即席の壁を作り出す分なら問題は無い。

 タイル自体の強度も上がり、接着していた部分すらも変化している。

 

 素手の男が《看破》でみたマンティスのステータスは一万前後。

 高いが、それでもこの壁を破壊するのは時間がかかるだろう。

 

 その間に後ろに守る剣を持つ男が力を溜めて一刀両断する……手筈であった。

 

「……なっ!?」

 

 驚愕したままの素手の男の顔が左右に分かたれる。

 

「だから言ったじゃありませんかぁ? その程度で私の鎌が防げるのか、と」

 

 タイルごと隠れていた素手の男が真っ二つになる。

 最後まで何故自身の鉄壁の壁が斬られたのか分からぬまま男は死ぬ。

 タイルは崩れていく。

 操っていた男が死んだことで元の材質へと戻っていくのだろう。

 

「くっそぉぉぉぉぉ!」

 

 その崩れていくタイルを吹き飛ばしながら剣を持つ男が飛び出していく。

 剣を振りかざし、マンティスへと斬りかかる。

 

「来たれ炎の剣よ! 《炉を燃やせ、剣を打て(ヘーパイストス)》」

 

 男の持つ剣が炎に包まれていく。

 

「……火ですか! 厄介ですねぇ!」

 

 マンティスは炎を見て顔を引きつらせつつも尚、鎌を振り下ろす。

 炎の剣と打ち合い、そして同様に炎の剣の刀身半ばから切断した。

 

「炎に包まれているから臆するとでも思いましたか! それくらい、何とも――!?」

「炎は消えず。我が剣は未だ折れていない!」

 

 剣を包み込んでいた火の勢いが強まる。

 同時に、炎が失った刀身を補うかのように形作っていく。

 

「なるほど! その炎こそが刀身というわけですか!」

 

 面白い、とマンティスは口の端を吊り上げながら鎌を横薙ぎに振るう。

 

「ッ!」

 

 剣で防ごうとするも叶わない。

 いくら炎で包まれていようとも、炎で出来ていようともマンティスの鎌は防げない。

 マンティスの鎌は特別製だ。

 幾体も作られたネームド個体である【パス・シリーズ】の中でも切断力に優れた1体。

 彼の持つ能力は己の鎌の切断力よりも下の強度を持つ物質の抵抗力を無くすというもの。

 石であろうと鉄であろうと古代伝説級であろうと。

 傷を付けることさえ出来る強度である――つまりはマンティスの鎌を下回る強度であった瞬間にその強度はゼロとなるのだ。

 

 そして、炎の強度など無いに等しい。

 マンティスの鎌で容易に斬り落とせる。

 

「……ちぃっ!」

 

 鎌と剣が交錯する。

 その後に舌打ちをしたのはマンティスであった。

 

「無駄に火傷を負わされましたね」

 

 炎の剣は揺らめきながらも健在であった。

 マンティスの鎌でいくら切っても剣の柄から新たに炎が噴き出し修復しているのだ。

 

「……なるほど」

 

 感心しながらマンティスはもう片方の鎌で男を狙う。

 咄嗟に男は避けようとするが間に合わない。

 炎の剣で防ごうとし、剣諸共に両断された。

 

「ですがまあ、それだけでしたか」

 

 火傷を前提とするならば。

 そも、彼らのENDもまた1万に匹敵するほどだ。

 いくら生物特有の火に対する本能的な後れがあろうと、覚悟さえ決まっていれば立ち向かうことはできる。

 そして、炎の剣がいくら復活しようとも、マンティスの鎌に切断されるというのならば、決して切り結ぶことは出来ず、マンティスの攻撃に対して防御手段を取り得ないということだ。

 もしも倒そうとするのであれば、多少の負傷を前提にしてでも炎の剣でマンティスを仕留めるべきであった。

 だが、ミダースの〈マスター〉が倒された時点でヘーパイストスの〈マスター〉は自身で攻防を共に努めなければならないと考えてしまった。

 いくら身を守ろうと無駄な相手に対して守ろうとしてしまった時点で敗北は決定していたのだろう。

 

「……貴重な体験でしたねぇ」

 

 マンティスは目を細めながら次の獲物を探す。

 彼は切り刻むことを何よりも好む。

 その感触は彼の能力によって無きに等しいものとなったとしても。

 

「金属に火、それに成体のオスが2匹でしたか。次は……幼体が望ましいですねぇ」

 

 故に、彼は斬った感触よりも斬った対象の断末魔がどのように迎えるかを愉しむ。

 先ほどの〈マスター〉2人は死の間際は驚愕の表情で溢れていた。

 戦闘中、しかも自身の力が及ばなかったのだから驚いていたことであろう。

 

 だが、それはマンティスの望んだものではない。

 

「ああ……幼体であればもう少し怯えが見られますかねぇ」

 

 それならば一思いに両断せず、少しずつ部位をばらけさせた方が良いだろうかと思案する。

 両断は一度に斬る面積が広く、それもまた楽しいのだが、如何せん斬った相手が死んでしまう。

 ならば、殺さず切り刻む方が賢明だろうかとマンティスは考える。

 

「きゃっ!?」

 

 何かが倒れる音がした。

 マンティスが音の方へと目を向けると、そこには少女がいた。

 こちらに背を向けたまま地面に蹲っている。

 どうやら逃げようとして転んだらしい。

 

「良いですねぇ」

 

 それは実にマンティス好みであった。

 衣服に多く付いているフリルが邪魔だが、布もまた刻めば楽しいだろう。

 

 マンティスに備わった《看破》で少女のステータスを見ると、年齢相応の低い数値であった。

 先ほど倒したのと同種の〈マスター〉であるようだが、このステータスであれば抗う術はないだろう。

 恐らくは遊びに来た観光客。

 

 にぃっとマンティスの口の端が吊り上がる。

 この年齢の少女が1人で街に来ているとも思えない。

 仲間がいるはずだ。

 殺さず生かさずなるべく苦しめながら仲間の居場所を吐かせて、あるいは囮にして呼び寄せて、そうして全員を切り刻めばどれだけの快楽を得られるであろうか。

 

「手出しは無用ですよぉ?」

 

 マンティスの下へと集まっていた【パラポーラ】達に邪魔をするなと警告しつつ少女へと近づいていく。

 

「ひっ……!?」

 

 少女はようやくマンティスに気が付いたようで、怯えた表情を見せる。

 その顔を見て満足そうにマンティスは鎌を振り上げるのであった。

 

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