<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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165 魔法少女防衛碌 4

■【魔法少女χ】イテカ

 

 戦いの士気において最も重要なことは、終わりが見えているということだ。

 狂人は別として、誰しも勝利なり敗北という終わりがあるからこそ戦い続けることが出来る。

 敵であるモンスター達は街の宝を奪った後は撤退戦となっている。

 だが、こちら側の現状は防衛戦だ。

 だが、敵のボスが逃げ出した後にいくらでも湧いて出る【パラポーラ】を始めとしたネームドモンスター達が街を攻めるおかげで、攻勢に出ることが出来ない。

 防衛戦は敵の攻撃が止まるまで終わらない。

 敵の数の終わりが見えない。

 つまりは、この戦いの行く末が全く分からないのだ。

 

「報告致します! 【問王】及び【動物王】は戦死。両名が敵に与えたダメージは微々たるものということです」

 

 そして、敵の数は測れないくせに、こちらの数の限りは見えている。

 戦力として数えられる者は限られる。

 魔法少女は含めてもいいだろう。

 そして、街で見かけた上級以上の〈マスター〉達も。

 敵の主力がネームド個体であるというのなら、こちらの主力は準〈超級〉。

 ペルソティが雇った5人の〈マスター〉だ。

 それぞれがネームド個体を仕留めるしかない……そう思っていたのだが、

 

「あちゃー。……微々たるってどのくらいっスか?」

 

 予想以上に劣勢であった。

 

「……居合わせた者によれば、【問王】は『言葉が通じない』と言い残し、【動物王】は『運がぁぁぁぁ!! 運がぁぁぁぁ!!』と言い残し死亡したとのことです。えー、【パラポーラ】を1体も倒せていません」

「意味不明スね」

 

 意味不明ながらも、どうやら条件付けの準〈超級〉であったことが理解出来た。

 まあ、実力が未知数な時点で手数に入れられるか不透明なところもあった。

 

 さて、こちらがどう出るべきか。

 それを決めるのは当然ながら私ではない。

 

「領主さん。どうします?」

 

 私にとって幸運であった点は早々にこの街のトップに再会できたことであろう。

 プシュケーさんが飛び出していった時はどうなるかと思ったけども、あの人はやはり誰よりも魔法少女らしい。

 

「……まずは情報を集めるべきだろう」

 

 重々しい口調で領主が答える。

 そこに重圧を感じることは無い。

 ただ単純に彼自身がこの状況にプレッシャーを感じているだけだ。

 それが表情と口に出てしまっているだけ。

 

「えーと、後戦力になりそうなのはマキシアプリさんと“桃太郎”ッスか」

 

 過剰戦力を投入していると思っていたが、しかし今はその半分近くにまで準〈超級〉の数は減っている。

 私もこの街中では力の半分も出せないし、故にこうしてワルキューレさん達を伴った領主さんを護衛する立場となった。

 

「ほ、報告します!」

 

 新しく街の衛兵が私達のいる仮設テントに飛び込んできた。

 その表情は良い報告半分、悪い報告半分といったところか。

 

「【傷姫】と【武具王】が死亡しました……」

「そ、そんな……」

 

 領主の顔が絶望に染まる。

 【傷姫】はマキシアプリさんだったはずだから、【武具王】が件の“桃太郎”なのだろう。

 ……これで残った準〈超級〉は私1人。

 無理でしょ、これ。

 

 確認してみると、今回のクエストの難易度は9のまま変わらず。

 いや、神話級が敵にいるのならこの難易度の高さは分からなくもないけど、ここからの逆転劇があるのならば教えて欲しい。

 戦力の士気も、私のやる気もだだ下がりである。

 

「で、ですが」

「……何だ」

「お二人の決死の奮戦により【パラポーラ】の壊滅が確認されました!」

「おお……!」

「加えて、数体のネームド個体の撤退も!」

 

 それは嬉しい知らせだ。

 2人の準〈超級〉の命がけの攻撃が敵に大きなダメージを与えたというわけだ。

 ……これで少なくとも街が壊滅するという危機は免れた。

 

「ん? 数体ってことはまだ何体か街に残っているんスか?」

「は、はい。【パス・マンティス】という切断に特化したモンスターと、【パス・コクーン】という防御特化のモンスターが残っています」

 

 これまで上がってきた情報によれば、このパスと名に冠したモンスターが敵の主力らしい。

 それぞれが純竜級のステータスと、何かしらの特殊な能力を持ち合わせている。

 対応するのであれば準〈超級〉クラスを当てたいと考えていたが……しかしこちらは私だけ。

 

「……いや、プシュケーさん達がいるスね」

 

 正直、居合わせてしまっただけの〈マスター〉にこれ以上頼りたくない気持ちもあるが、仕方ないだろう。

 それに、話に聞いた限りではこれで追い払ったからお終いというものではない。

 むしろ、追い払った後が本番だ。

 

「私と似たような服装の〈マスター〉は見かけなかったスか?」

「儂を助けてくれた者のことか!」

「そうッス。この街にはあの人や私と同じ、魔法少女と呼ばれるシリーズのジョブに就いている〈マスター〉が何人か来ているはずッス。彼女達ならそれなりに頼りになるッスよ」

「そうか。お前達探せ! 見つけたら出来る限りの支援をするんだ!」

 

 領主は目を輝かせて衛兵たちに命じる。

 先ほどまであった絶望は晴れている。

 敵の数が減っていることがそれだけ希望を持たせているのだろう。

 

「……少し風に当たってくるッス」

 

 これ以上は有益な情報を得られないだろう。

 それに私はあくまで警備警護の人間。

 司令塔もご意見番もなる気は無い。

 

「……悲鳴も聞こえなくなったッスね」

 

 それが、良いことなのか悪いことなのか分からない。

 もはや悲鳴を上げることすらできなくなっていることの現れなのかもしれない。

 

「助けを求める者がいるなら駆け付けるべき……とは思うんスけど」

 

 だが、背後の仮設テントや、その更に後ろの避難所を見捨てて街中を走るわけにはいかない。

 ワルキューレ数名や、非戦闘の〈マスター〉だけに任せてはおけられない。

 

「……そこにいるんスか?」

 

 悲鳴も無い静かな街。

 だが、その景色の1つに違和感を覚えた。

 

 手に取ったノズルの先をそこへ向ける。

 ノズルはホース伝てに背のタンクに繋がっており、その中身である液体を撒き散らす。

 液体は瞬時に着火し、景色を燃やし尽くす。

 

「ギャァァァァァァァァ!?!?」

 

 高熱によって景色が揺らぎ、そして1つの悲鳴が聞こえる。

 透明化の能力だろうか。

 危うく見逃すところであった。

 

「……チッ。覚えていろよ」

 

 どうやら仕留めきれなかったようだ。

 悲鳴はすぐに消え、舌打ちと共に気配も消える。

 

「敵もなかなか頑丈スね」

 

 敵の顔は見えなかったが、こちらは覚えられてしまっただろう。

 だが、見えない敵はあのまま無視していたら領主や、戦えない者を狙われていただろう。

 

「ど、どうされましたか!?」

 

 テントの中から衛兵が飛び出してくる。

 衛兵は燃えている建造物に驚き、尋ねる。

 

「んー。敵がいたッス。逃げられちゃいましたけど」

「こんなところまで……」

「ああ、他の衛兵さんは怒らないで。見えない敵みたいでしたから」

 

 さて、厄介も厄介だ。

 恐らくはネームド個体であったのだろうけど、敵の能力は多様にあるみたいだ。

 透明化……それに名前すら見えなったことから高度の隠蔽能力か。

 願わくば、透明化に能力を振り切って、戦闘力は低いものであって欲しい。

 

「ど、どうされますか?」

「どうされるって?」

「……追いかけて倒すのですか?」

 

 それもいいだろう。

 今なら少なからずの火傷を負っているから、その痕跡を辿って追いかけて倒すことも可能かもしれない。

 

 だが、

 

「私がッスか?」

「……残念ながら私共の力では【パラポーラ】1匹ですら苦戦します」

 

 それもそうだろう。

 だからネームド個体は尚更私達〈マスター〉に相手して欲しい。

 

「別にいいスけどね……でも今追いかけると、下手すると街が燃え尽きてしまうスから」

「……へ?」

「大丈夫。どうせ攻めるタイミングがあるッス。その時に改めて仕留めるッスよ」

 

 街中ではだめだ。

 私の実力は半分も出せない。

 

 『人間武器庫』。

 魔法少女の中で特典武具最多獲得者。

 それがこの私、【魔法少女χ】イテカである。

 

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